ボクたちが愛した、想い出のレトロパソコン・マイコンたち

ここから始まるNECとEPSONとの新たなる戦い「EPSON PC-286MODEL 0」

PC-98シリーズと同じ直方体の筐体で、5インチドライブを2基内蔵していました。左側に見えるのは鍵穴で、離席の際に鍵を挿し込んで回しておけば、キー操作とリセットを受け付けなくなります。

 想い出に残る、懐かしのマイコン・パソコンを写真とともに振り返る本コーナー。今回は、エプソンがPC-98シリーズ互換機として新発売した、PC-286MODEL 0を取り上げます。

本体正面には、左に鍵の差し込み口があり、その右側に4つのスロットがあります。2つは5インチFDDを内蔵していますが、残り部分にはハードディスクやストリーマを入れることができました。左下にはリセットボタン、その隣にある蓋を開けるとクロック切換スイッチ、ボリュームつまみ、マウス割り込み切換ジャンパ、3連ディップスイッチ、その右にキーボードコネクタと電源スイッチがありました。

 1980年代中盤、アメリカではいわゆるIBM PC互換機がさまざまなメーカーから多数発売されていていましたが、そのうちの1社にセイコーエプソン(以下エプソン)がありました。IBM PC互換機である程度の成功を収めたエプソンは、今度は国内でデファクトスタンダードの位置を確立しつつあったPC-98シリーズの互換機を作れないかと考え、動き始めます。

 当時、IBM PCはオープンアーキテクチャだったのに対してPC-98シリーズはクローズドアーキテクチャでしたが、エプソンはそこを解析してオリジナルのBIOSを作りあげ、1987年1月1日発行の日本経済新聞に“PC-98互換機発売を暗示する広告”を出すのでした。

 そして3月2日、エプソンから報道各社へ「3月9日・98互換機発表会のお知らせ」が届くのですが、一転して7日夕方に延期の通知が電話で入ります。その理由は「著作権問題で日本電気と話し合いがつくまで、発売を自粛することにしたため」ということでしたが、なぜか13日には突然新製品発表を行いました。

 このときの報道機関とのやりとりが月刊誌『マイコン』5月号に掲載されていて、エプソンの相沢専務(当時)が「日本電気に完成品を見せたところBIOSが著作権侵害にあたると言われたため、BIOSを新しいものに差し替えている」と発言したのに対して、その数時間後に会見したNECの水野常務(当時)は「互換機はBIOS部分だけでなくROMなど広範囲に及ぶものでベーシックも含まれ、グレーどころではない」と会見しています。

本体背面は、左にサービスコンセントと電源コネクタが配置されていて、下段にはマウスコネクタ、1MB FDDインタフェース、RS-232Cコネクタ、プリンタポート、その上に拡張I/Oスロットが4つと、右端に映像出力コネクタが並んでいました。

 この時点で、発売予定ラインアップに上がっていたのはPC-286 MODEL1/2/3/4でしたが、4月7日にはNECがそれら4機種に対して同社のプログラム著作権を侵害しているとして、東京地裁にPC-286シリーズの製造・販売中止を求めました。

 その後、14日に行われた第1回公判では、BIOSの類似度はソースコード全体のバイト数から計算したところ1.6%程度だった、とエプソン側の報告により明らかになっています。この件に関しては5月19日に、NEC側が「訴訟の焦点は全体の何%といった割合ではなく、BIOSをつくっている特定ルーチン事態を侵害したかどうかの事実である」という見解を示していました。結局、エプソンはPC-286MODEL1/2/3/4の製造・販売中止を決定して、1987年4月24日に今回取り上げたPC-286MODEL 0を発表し、30日から全国一斉発売とすることになります。

底面には、FPU増設用のコネクタが用意されていて、ネジ2本でアクセスすることができます。しかし、蓋を開けるとFPUだけでなくROMにもアクセス出来るため、訴えられたらROMを交換しましょうという前提で作られていたのかもしれません。
キーボードは、PC-9801シリーズ用のと比べて一回りほど小さく作られています。テンキーの上は空白で、vfキーはありません。CAPSキーとカナキーは、押すとへこむトグル式になっています。

 5インチFDDを2基搭載したPC-286MODEL 0は、先に発表されていたMODEL 1(FDD2基装備)の378,000円よりも安い、357,000円で登場しました。ちなみに、当初のラインアップにあったその他の機種は、MODEL 2(FDD2基搭載+20MB HDD内蔵)が580,000円/MODEL 3(FDD2基搭載+20MB HDD&20MBストリーマ内蔵)が760,000円/MODEL 4(FDD2基搭載+40MB HDD内蔵)が722,000円です。MODEL 0はMODEL 1/2/3/4とは異なるBIOSを搭載していたほか、BASICはオプションとし、“MS-DOS上で作動する豊富なビジネスソフトを即戦力として活用出来ます(広告より)”と謳っていました。

 PC-286MODEL 0の特徴は、言わずもがなPC-9801VM/VXシリーズの互換機として登場したことですが、CPUに80286の10MHz(ノーウェイト)を搭載したことも特筆すべき部分です。PC-9801VX2が採用していたCPUは80286の8MHzだったので、それよりも早く稼働させることが可能でした。CPUクロックは、本体が動作中でも10/8/6MHzの3段階にスイッチ一つで切り換えることができ、その際には電源ランプのLEDも緑→オレンジ→赤と変わり、見て分かるようになっています。

 PC-9801VXには載っていたV30はPC-286MODEL 0には搭載されていませんが、この当時の記事でも“無くても問題は無い”とあり、これに関しては不安要素とはなっていなかった模様です。

当初は、発売予定のMODEL1/2/3/4のみを掲載していましたが、翌月になるとここにあるようにMODEL 0が小さく囲みで載せられ、最終的にはMODEL 0のみの広告になりました。

 メモリは640KBを内蔵していましたが、VXが持っていたグラフィック機能のEGC(エンハンストグラフィックチャージャ)は搭載していません。しかし、互換性を考えてEGCを試用していないソフトが大多数を占めていたため、これも問題にならなかったと書かれていました。

 BASICがオプションだったためBASICは動きませんが、MS-DOS版のソフトはPC-286MODEL 0の発売時点で、150本のタイトルが動作確認されています。その中には、人気ソフトの『一太郎』や『Lotus1-2-3』、ゲームでは『ザナドゥ』『メルヘンヴェールII』『ウィザードリィ』『ウィバーン』などが動くとありました。BASICに関しては、N88-日本語BASIC(86)(MS-DOS版)を使用すれば、BASICを使っている市販ソフトは動かないもののBASICでプログラムを組むことは可能でしたが、そこまでして運用するかと言われれば……

 今回取り上げたPC-286MODEL 0を始まりとして、NECとエプソンによる熱い戦いの火ぶたが切って落とされることとなります。この後、エプソンは更なる攻勢をかけるのですが、それらの機種紹介はまた別の機会に譲ることにします。

月刊『マイコン』1987年7月号には、PC-9801VXとPC-286MODEL 0のROM比較図が掲載されていました。