ボクたちが愛した、想い出のレトロパソコン・マイコンたち

1200bpsの全二重モデムを内蔵、三菱電機のMSX2「ML-TS2」

写真で見ると大きそうな印象を受けるかもしれませんが、実際はかなり小ぶりです。主要なインジケータは、カーソルキー左側に集められていました。

 想い出に残る、懐かしのマイコン・パソコンを写真とともに振り返る本コーナー。今回は、三菱電機から1987年11月21日に発売された、モデム内蔵MSX2となるテレコムステーション「ML-TS2」を取り上げました。

本機を真上から見ると、全体的にエッヂのない丸みを帯びたデザインが採用されているのがわかります。キーボードは2色で色分けされていて、日本語カナは左上から五十音順に並んでいました。

 1985年に、いわゆる通信の自由化が行われたことで、ごくわずかなユーザーしか利用していなかったパソコン通信が、一気に身近なものとして話題に上ることとなります。当時のパソコン、なかでもMSX機種に関しては共通規格のために差別化が難しく、各社とも自社の特徴を出すのに頭を抱えていました。そんなタイミングでの通信の自由化を受けて、いくつかのメーカーがここに活路を見いだすべく、パソコン通信にターゲットを合わせたハードを発売します。以前に紹介したソニーのHB-T7もそうでしたが、今回取り上げた三菱電機のML-TS2も、そのうちの1台です。

 スペックとしてはMSX2規格準拠のMSX2パソコンで、RAM64kbytesとVRAM128kbytes、さらには通信ソフトのデータ記録用として8kbytesのバッテリバックアップRAMを内蔵していました。そんな本機最大の特徴がMSXパソコンとしては初となる、JIS第1水準だけでなく第2水準の漢字ROMも標準で搭載したことでした。特に第2水準の漢字ROMに関しては、当時でも販売店に在庫がないため欲しくても買えない状況だったと雑誌などに書かれていたほどで、それだけでも助かるという人もいたのではないでしょうか。

本体背面
右側面にはジョイスティック接続端子が2つ、左側面には電源スイッチが設置されていました。左右も黒一色で、シンプルなカラーリングです。

 パソコン通信をターゲットにしたハードなので、もちろんモデム機能を内蔵しています。搭載されていたのは300/1200bpsの切り替えが可能な全二重モデムで、このスペックであれば当時開設されていたパソコン通信のホスト局ににはほとんど接続できました。ホストへの接続も簡単に行えるよう、電源をオンにすると自動的に通信ソフトが起動するようになっていて、そこからちょっとした操作だけでアクセスできるような設定になっています。

 さらに、モデム内蔵MSXパソコンとしては標準になりつつあった、MSX-JEに対応していたのも特筆すべき部分でした。オンライン時、SHIFT+SELECTキーを押すことで画面下1行分が変換エリアになり、そこで入力を行うことができます。

本体を起動するか、またはBASIC画面から“CALL TELCOM(または_TELCOM)”と入力すると、通信ソフトが自動的に立ち上がります。ここでは電子電話帳に友人知人の電話番号などを入力したり、ホスト局を登録するといった作業が行えます。CTRL+SPACEキーを押すと区点コードで入力できるモードになり、数値を入力することで漢字が1文字表示、リターンキーで確定となりました。

 電子電話帳への入力時などでは、CTRL+SPACEキーを押すことで区点コードモードになり、区点コードを数字で入力することで1文字ずつ漢字に変換ができました。今時のパソコンであれば、最初からFEP(フロントエンドプロセッサ)やIM(インプットメソッド)と呼ばれるかな漢字変換機能を搭載していますが、当時のパソコンでこのように手軽に入力できるのは便利だったといえます。もちろん、手元に区点コード表がなければ入力は難しいですが……なお、区点コード表は“区点コード表”で検索すると見る事ができますので、試してみたい人はそれらのページを参考に入力してみてください。

広告では“通信という裏ワザがはやりだした。”とのキャッチコピーを用いて、パソコン通信が得意なマシンとの印象を打ち出していました。よく見れば“お父さんの証券ホームトレードに”といった使い方も解説されていて、この広告を見ているユーザーがおねだりしやすい項目も用意されています(笑)。

 本体に内蔵されたカートリッジスロットは1つのみですが、付属しているダブルスロットアダプタを挿すことで2スロットマシンに早変わりします。ここに、ディスクドライブ接続のためのインタフェースカートリッジとMSX-Writeを接続すれば、本格的にパソコン通信を行うに十分なハード構成となりました。

 今回取り上げたのは、ハンドセットのついていないモデルですが、本機と同時にハンドセット付属のML-TS2Hも発売されていました。ハンドセットを除けば、どちらもスペック的には同一モデルとなるだけでなく、別売のML-HSを購入すればML-TS2もML-TS2Hと同じ状態にすることができます。価格は、ML-TS2が65,000円で、ML-TS2Hが75,000円、ハンドセットのML-HSが10,000円だったため、あとからハンドセットを追加しても、同じ値段で済みました。

 ちなみに、別売りのハンドセットにはプッシュタイプのダイヤルボタンが付属していて、プッシュ回線とダイヤル回線の切り替え機能を搭載。リダイヤル機能なども盛り込まれていたので、普通に便利なプッシュホンとして使うことができました。

 余談ですが、本機の型番がML-TS2ということで「ML-TS1はあるの?」という疑問が出るかと思いますが、もちろんML-TS1も存在しました。実機は、1986年の10月に東京・晴海で開催された「エレクトロニクスショー’86」にて展示されています。ただし一般販売はされなかったほか、テレコムステーションとしての使用が中心となるためにMSXのロゴマークすら本体には付いていない、という仕様でした。コンピュータとしての機能はMSX(1)相当だったほか、カラーリングはML-TS2とは違い白を基調としたもので、これであればオフィスに配置されていても自然と溶け込みそうです。

記事によれば、「エレクトロニクスショー’86」ではML-TS1のほかに、ML-TS100というデスクタイプのテレコムステーションも展示されていたそうです(MSXマガジン1986年12月号より)。