ボクたちが愛した、想い出のレトロパソコン・マイコンたち

互換性が向上したエプソンのPC-98互換機第2弾「PC-286V」

PC-286 model0よりも大幅にコンパクトになっただけでなく、対抗機種のPC-9801VXシリーズよりも小さくなっています。縦置きにも対応していましたので、より机上の場所を取らず配置できました。

 想い出に残る、懐かしのマイコン・パソコンを写真とともに振り返る本コーナー。今回取り上げたのは、エプソンが1987年9月11日に発表したPC-286シリーズ第2弾となる機種のうちの一つ、PC-286Vです。

 1987年4月27日、日本初のPC-9801互換パソコンとして出荷が始まったエプソンのPC-286 model0ですが、当初は注目を集めたものの製品としては大ヒットというわけにはいきませんでした。その原因としては、BASIC ROMが搭載されていないことからくる互換性の低さや、設定された販売価格などが挙げられます。値段に関しては、7月に名称をPC-286STDへと変更した際に、実売価格も下げることで対処していました。

本体正面には、左側上部にロック用の鍵穴が用意されています。下段には左から順にリセットボタン、クロック切替スイッチ、ボリュームつまみ、マウス割り込みジャンパ、3連ディップスイッチ、キーボード接続端子、電源スイッチと並んでいました。

 そして迎えた1987年9月11日、千代田区丸の内にあるパレスホテルにて発表されたのが、PC-286シリーズの第2弾となるPC-286VとPC-286U、そして後にPC-286Lと名付けられるラップトップ型パソコンです。今回取り上げたのは、それらのうちでPC-9801VXシリーズ対抗機種として登場した、デスクトップタイプのPC-286Vとなります。このときに用意されたラインアップは2種類で、1つはフロッピーディスクのみ搭載モデルのPC-286STD、もう一つが20MbytesのHDDを内蔵したPC-286V H20でした。

 PC-286Vの特徴は、なんといってもその安価な価格です。対抗馬のPC-9801VX2やPC-9801VX21が定価433,000円だったのに対して、PC-286Vの値段はFDDを2基搭載したPC-286STDが298,000円と、圧倒的な差を誇っていました。しかも、PC-9801VX2やVX21購入金額に1万円上乗せできれば、443,000円で20MbytesのHDDを搭載したH20モデルが手に入ってしまうというのは衝撃的なこと。もちろん市場での実売価格は異なってきますが、それでもPC-286Vシリーズを買う方が安かったことに変わりはなく、これがヒットへと繋がっていきました。

背面は左側上部から、専用HDD用スロット、電源コード、サービスコンセント、その下にマウスコネクタ、白黒モニタ端子、デジタルRGB端子、アナログRGB端子、RS-232Cコネクタ、1MBFDDインタフェース、プリンタポートと並んでいます。右側上部には、PC-9801シリーズ対応のオプションボードが挿せる拡張スロットが4基設けられていました。

 合わせて、注目すべきポイントとしてはROM BASICを搭載したことも挙げられるでしょう。以前のPC-286ではROM BASICがないため、Disk BASICやROM BASIC内のルーチンを呼び出している一部のゲームなどが動作しませんでした。PC-286Vでは、出荷時からBASICを含んだ新しいROMが装備されていることで、互換性がグッと高まっています。

 スペックとしては、CPUに「80286CPU10MHzノーウェイト使用(広告より)」を採用し、メインメモリは640KBytesを搭載。また「用途に応じた処理スピード選択(6MHz/8M/10MHz)が可能」とあるように、動作中でもクロック切替スイッチでクロック速度を変化させられました。さらに、STDモデルにオプションで取り付け可能な3.5インチ20MbytesのHDDが、インタフェースと一体化したカートリッジとなり、手軽に内蔵可能となっています。価格は152,000円だったので、STDモデルを購入して後からの増設ではH20モデルより高くなってしまうため注意が必要でした。くわえて、内部に数値演算プロセッサ80287用ソケットを用意したり、拡張性を配慮した余裕ある電源容量を確保するなど、安いだけではない“こだわり”を随所に見せています。

広告では今回発表された3機種に加えて、以前にリリースされたPC-286STDも合わせて掲載されています。また、この時点での広告に書かれていたのは「98ソフト互換機のPC-286シリーズ」で、PC-98互換機や国民機といった単語は見当たりませんでした。

 本体の専有面積も、PC-9801VX21と比べると1割、HDD内蔵のVX41と比較すれば2割程度も小さくなっていました。配置方法も、標準的な横置きだけでなく縦置きでの動作も保証していて、そのための足が本体横に用意されています。

 本機発表当時、『月刊ASCII』1987年11月号では簡易ベンチマークを行っていますが、それによると『一太郎 Ver.3.0』ではPC-9801VX21と比べて若干早く、BASICを使用した『天文シミュレーションプログラムPart2』はやや遅れ気味だったという結果が掲載されていました。処理速度に関してはほぼPC-9801VX21と替わらずで、価格が安いとあれば人気が出るというものです。

 これにより、エプソンはプリンタメーカーとしてだけでなく、PC-9801互換機メーカーとしても名を挙げていくこととなりました。なお、先に登場していたPC-286STDやH20モデル、H40モデルに関しては、拡張性に優れた“プロスペックPC”として継続販売されることとなり、以降の出荷分については新しいROMを装着して市場へと出回ることとなります。ちなみに、PC-286Vシリーズは“ベタープライスPC”と設定されました。

 なお、同時期に発表されたPC-286UとPC-286Lに関しては、機会を改めて取り上げたいと思います。

こちらは、雑誌『月刊マイコン』1987年11月号に掲載されていた、一部の人にはお馴染みのショップ「アイ・ツー」の広告です。定価433,000円のPC-9801VX21が特価279,000円で、さらに値下げされて販売されていたのがわかります。PC-286Vも、同じように定価からかなり安い実売価格で売られていたものと思われます。