ボクたちが愛した、想い出のレトロパソコン・マイコンたち

CPUを2個搭載したビクターのセパレート型MSX2「HC-90」

オーソドックスな直方体の形を採用した本体に、セパレートタイプのキーボードが付属しています。発売されたのは2モデルですが、FDDの内蔵数以外は基本的に同じ性能でした。長期間にわたって製造・販売され続けたことから、いくつかのバージョンが存在します。

 想い出に残る、懐かしのマイコン・パソコンを写真とともに振り返る本コーナー。今回は、ビクターから1986年3月10日に発売されたセパレート型MSX2パソコン「HC-90」を取り上げました。

 1985年にMSX2規格が発表されると、さまざまなメーカーが工夫を凝らしたハードを市場へと投入しました。そのうちの1社となるビクターは、最初にキーボード一体型のオーソドックスなマシン、HC-80をリリースします。以前に同社が発売していたMSX(1)パソコンはスーパーインポーズ機能などが使用できましたが、HC-80ではそういった機能が削られてシンプルな構成となっていました。

2CPUを搭載してターボモードが使えることとビデオ編集やグラフィックアートが楽しめること、そしてワープロとしても活用できることを広告では謳っていました。

 このあたりを残念がる人もいたようで、ビクターのMSX2機種2代目として誕生したセパレート型のHC-90/95では、再びAV機能を搭載して市場に姿を現します。ラインアップとして用意されたのは、FDD1基搭載のHC-90(168,000円)、そして2基搭載のHC-95(198,000円)でした。FDDの数以外の機能は同じなのですが、後に販売されたモデルは搭載メモリが256KBに増加していたり、ビデオディスプレイプロセッサ(VDP)がMSX2+で使われているものと同じものになるなど、最初に発売されたバージョンとは異なる部分があります。ここで取り上げたのは、2番目のバージョンとなるHC-90(A)です。

 搭載しているメモリ容量などですが、RAMは64kbytes、VRAM128Kbytesとなっています。何よりも大きなトピックが、CPUを2個搭載したという点でしょう。広告ではキャッチコピー「進化は倍速で訪れた」のもと、“2CPU搭載。実践に活きる高速処理能力で、新登場”と謳い、特徴の1番目としてターボモードを掲げていました。これは、「クロック周波数6.14MHzのHD-64180に切換えると、MSX2の最大2.2倍(当社比)の高速演算処理を実現します(広告より)」とあり、ソフトが実質2倍速で動くと宣伝していました。切換は、正面左下に備わっているスイッチを左右に移動するだけですが、必ず電源を落としてから操作しなければなりません。

本体正面には左にカートリッジスロット、その右にFDDが並んでいます。最下段には左からリセットスイッチ、ジョイスティックコネクタ×2、モード切換スイッチ、エンハンサー調整つまみ、オーディオミックスつまみ、TINT調整つまみ、電源スイッチと配置されていました。

 実際にBASICを起動後「FOR I=0 TO 10000:NEXT」の空ループ処理にどれくらいかかるのかを計測してみましたが、NORMALモードが約16秒だったところ、TURBOモードでは約7秒で処理を終えていました。ここから察するに、広告の2.2倍という数値も眉唾物では無いといえます。

 そこで、調子に乗って何本かのゲームソフトでも試してみました。『ハイドライド(カートリッジ版)』は起動して倍速で動き、問題無くプレイ可能(倍速でまともに遊べるかどうかは別ですが)。『グラディウス2』は、倍速になったものの早すぎてゲームにならないだけでなく、あちこちにチラツキが発生して紛らわしい画面に。『悪魔城ドラキュラ』は、画面化けが発生して遊ぶのは厳しい感じでした。『ゼビウス』は、NORMALモードなら問題ありませんでしたが、TURBOモードでは起動せず。さらに、パッケージに「HC-80、HC-90、HC-95では動きません」と書かれている『麻雀刺客』は、NORMALモードでも最初のディスクアクセス後に止まってしまいました。唯一通常に近い動作が確認できたのが『京都龍の寺殺人事件』で、文字表示が速くなったことで快適にプレイ出来るようになりました。試した範囲ですが、倍速モードを利用するとまともに動くソフトが少ないため、目玉の機能ではあったものの当時は話題にならなかったものと思われます。

本体背面は上段が左からACコネクタ、サービスコンセント、ビデオ入出力端子、ステレオ音声入出力端子、空冷ファン、拡張スロットです。下段は左からチャンネル切換スイッチ、RF端子、RGB接続端子、プリンタポート、CMT端子、キーボード接続端子、RS-232Cコネクタとなっていました。

 倍速モード以外にも優れた部分はいくつもあり、そのうちの一つが松下のFS-5500に続いて2番目にフレームグラバー機能を内蔵したことです。これにより、テレビやビデオのアナログ映像をリアルタイムでデジタルに変換、表示することができました。スーパーインポーズも可能なほか、AVパソコンとしてエンハンサーやオーディオミックスつまみも用意されています。

 背面には、MSXとしては珍しいRS-232Cコネクタを装備していたほか、独自の拡張スロットも備えていて、いくつかの対応した拡張カードも発売されました。漢字ROMも第1水準・128Kbytesを搭載していて、同時に発売されたワープロソフト『文名人』などを利用すれば本格的なワープロマシンへと変身させることもできます。

本体よりも幅が広いキーボードは、背面のコネクタに接続して使用します。全体的なカラーリングや打鍵感、一部キーの見た目などが、思った以上にFM77AVに近く感じました。

 ディスクドライブを2基内蔵して198,000円という価格は、同じく2ドライブでセパレート型の三菱電機・ML-G30の208,000円、ナショナル・FS-5500F2の228,000円と比べると若干安く、同時期に購入できる機種としては一番手を出しやすかったといえるかもしれません。

 ちなみにキーボードですが、TABやCTRL、SHIFT、GRAPH、かな、リターン、BSキーを見て、どことなくFM-7またはFM77AVのキーを思い出した人もいるのではないでしょうか。キータッチもほぼ同じなので、FMユーザーであれば本機を1台は確保すべきかもしれません(笑)。