ボクたちが愛した、想い出のレトロパソコン・マイコンたち

メモリ2MBになり活躍の幅が一気に広がった「X68000 EXPERT」シリーズ

これまでと外見はほぼ変わらず、タワー型のいわゆるマンハッタンシェイプと呼ばれるデザインを採用しています。カラーはブラックとグレーが用意されていました。写真はHDD非搭載のCZ-602Cです。

 想い出に残る、懐かしのマイコン・パソコンを写真とともに振り返る本コーナー。今回取り上げたのは、1987年に初代機が発売されたX68000シリーズの中から、標準搭載メモリが初の2MBになったX68000 EXPERTシリーズとなります。

本体正面左側タワーには、FDD0とFDD1が内蔵されています。右タワーの上部には、HD BUSYとTIMER、POWERランプが並び、最下段左からはヘッドフォン端子、ジョイスティック1端子、電源ボタン、ボリュームつまみ、キーボード端子、マウス端子が並んでいました。

 1987年3月にシャープからパーソナルワークステーション「X68000」初代機が発売されると、その尖ったスペックや従来にはなかったデザインが評価され、一躍時の人ならぬ時のマシンになります。その翌年3月には、若干の変更を施した「X68000 ACE」とHDD搭載モデルの「X68000 ACE HD」が登場しました。そして1989年3月10日、前機種のACEから1年後となるタイミングで市場へと現れたのが、今回取り上げる「X68000 EXPERT」シリーズです。X68000の出荷台数も、1989年1月いっぱいで5万台に達したという事がこの時期の雑誌などに書かれていて、そこから考えると順調に売れ行きを伸ばしていた事が想像できるのではないでしょうか。

 X68000 EXPERTシリーズのスペックですが、前年となる1988年3月に発売されたX68000 ACEから大きく変わったのは、標準搭載のメインメモリが従来の1MBから2MBへとアップした点でした。当時のOh!Xを見てみると「この1年ほどはメモリ不足によりRAMの価格も上昇していたとのことで、標準で2MBを搭載するというのはありがたいことだ」と書かれています。

 ラインアップはX68000 ACE/ACE HDと同じく、FDDベースの「X68000 EXPERT(CZ-602C)」(以下、EXPERT)と、40MBのHDDを内蔵した「X68000 EXPERT HD(CZ-612C)」(同EXPERT HD)が用意されていて、価格は前者が356,000円、後者が466,000円でした。EXPERTにもHDDを内蔵するスペースがあらかじめ用意されていて、後から内蔵用HDD「CZ-64H」を120,000円で追加購入すれば、EXPERT HDと同じ構成にすることが可能となっています。

背面左は拡張スロットが2つ並び、その下にアース、立体視端子、TVコントロール端子、カラーイメージユニットCZ-6VT1と接続するためのシースルーカラー端子、アナログRGB端子、イメージ入力端子、右がアースの下にサービスコンセント、主電源スイッチ、拡張FDDコネクタ、ハードディスク接続端子と並んでいます。最下段は左からRS-232Cコネクタ、オーディオ入力・出力端子、ジョイスティック2端子があります。天面を見ると、リセットスイッチとインタラプトスイッチ、そして押すと飛び出す取っ手があります。

 今でこそ、メインメモリの2MBという空間はごくわずかに感じられますが、当時としては非常に広大なエリアに思われたものでした。使い切れないときはRAMディスクとして使用するということもできたので、ユーザーそれぞれに活用できたのが便利なところです。なお、付属するマウスやトラックボールは前機種から変更はないので、使い回すことも可能でした。

 新しくなった部分としては、付属する標準OSのHuman68kがバージョンアップして、Ver 2.0になったことです。Ver 1がベースとしてきたMS-DOS2.1+一部3.1の機能が、Ver 2.0ではMS-DOS3.3プラスアルファとなりました。あわせて、バックグラウンドでのプロセス処理も可能となったので、これを受けてサンプルとなるTIMERコマンドも用意されています。くわえて、ファイルアクセスの速度がVer1.0と比較して、約2倍に高速化されたのも見逃せない部分でしょう。この新しいHuman68k Ver2.0(CZ-244SS)は、初代やACEシリーズのユーザーでもシャープなどから標準価格9,800円で、ユーザーズマニュアルとセットで入手することができました。

上から見ると、お馴染みのキャリングハンドルが中央部分に位置していて、右タワー上部にRESETボタンとINTERRUPTボタンが設置されているのが分かります。

 このほか、ヒストリ機能も大幅に拡張され、ヒストリドライバの採用でエイリアス機能や簡易バッチ機能も実現されました。他にも、ネットワーク環境への対応やMENUコマンドの追加が行われ、さらに標準フロントエンドプロセッサ(FEP)であるASK68kもバージョンが2.0へとアップ。アルゴリズムを改善したことで、従来比で約2倍となる高速化が図られました。X-BASICもVer.2.0が標準装備となり、より使いやすくなっています。

 この時期、人気のあったPC-88シリーズはPC-8801MA2やPC-8801FE、PC-88VA2が販売され、PC-98ではPC-9801RA2やRX2が登場、MSX機種はMSX2+のFS-A1WXやHB-F1XDJなどが市場に流通していました。その中でのX68000 EXPERTシリーズは、アーケードゲームからの移植作品が遊べるというメリットを活かして、上記のライバル機種たちと共に戦っていくこととなります。

広告は1ページ丸ごとEXPERTのバージョンと、同時発売されたPROと一緒に掲載されているバージョンの2種類がありました。

 しかし、忘れてならないのが、ほぼ同時期に現れたFM TOWNSでしょう。FM TOWNSについては日を改めて紹介するのですが、1989年4月号のOh!XにはX68000 EXPERTとPROの解説記事の最後に、「ようこそFM TOWNS!!」と題したコラムが掲載されています。そこでは冒頭に「(前略)すでに、あちこちでTOWNS情報が氾濫しているが、なにかと比べられるX68000ユーザーの私としては、悪意を持って紹介せざるを得ない(後略)」との書き出しの元、FM TOWNSのさまざまな特徴について前半は好意的に、後半は少々の皮肉交じりで、最後は「ところで、386のプロテクトモードのプログラムが書ける人って日本に何人ぐらいいるんだろう。おっと、これは禁句か」とのオチ付きで書かれていました。Oh!Xらしい内容ではありますが、このコラムタイトルはどうやら、アメリカのPC市場にIBMが参入したとき、Appleがウォール・ストリート・ジャーナルに出した広告の出だし「ようこそIBM」に引っかけていると思われます。

こちらは、この時期に掲載されていたショップの広告です。パソコンの本体価格を見ると、今時であればかなりハイスペックなゲーミングPCが購入できそうなお値段。ハードディスクは、40MBで10万円から15万円、80MBであれば20万円前後が相場だったようです。この時期はFDの価格が大幅に下がっていて、ノーブランドの5インチ2Dが10枚で490円、2HDでも10枚790円と、今から考えても驚くべき安さでした。