ボクたちが愛した、想い出のレトロパソコン・マイコンたち

日立最後のMSXシリーズ「MB-H70」

斜めに配置されたFDDが、本体正面デザインと合わせてスタイリッシュさを醸し出しています。全体的な色は黒ですが、赤いラインが入ることで引き締まった印象を与えます。

 想い出に残る、懐かしのマイコン・パソコンを写真とともに振り返る本コーナー。今回取り上げたのは、日立最後のMSXシリーズ機種となったセパレートタイプのMSX2「MB-H70」です。

 1985年にMSX2規格が発表されると、ディスクドライブを搭載したキーボードセパレートタイプ機種がいくつも登場します。早めに発売されたモデルは、フロッピーディスクを2ドライブ搭載して価格が約20万円前後という値付けになっていましたが、その価格も時間と共に徐々に手頃になっていきます。

 そうして迎えた1986年の11月中旬に、MSX2を本格的なビジネスに活かそうという人向けにデビューしたのが、今回取り上げた日立のMB-H70です。メーカーは“パーソナル実務に気軽に使えるマシン”と謳っていました。注目点の一つは価格で、FDD2基を内蔵して138,000円と、セパレートタイプの中ではそれなりに手を出しやすい設定なのが魅力です。

広告では「ますます面白くなるね、夢中基地(ルビ:ステーション)というキャッチコピーの元、何度か雑誌に掲載していました。

 見た目のデザインなどは、1年前に三菱から発売されたセパレートタイプのMSX2、ML-G30とほぼ同じで、キーボードも同一のものが使えました。基本的なスペックとしてはMSX2準拠で、メインメモリは128Kbytes、VRAM128Kbytesを搭載していたほか、第1水準の漢字ROMも内蔵しています。

 FDDは標準で2基内蔵しているので、例えば『ザナドゥ』のように一部のゲームでは、本機を使用することで快適なプレイが可能となりました。ドライブの動作音も思ったより静かなだけでなく、ダイレクトドライブなので耐久性という面でも多少は安心できるでしょう。そのFDDですが、側面から見るとわかるように若干斜め上を向いて設置されていました。このわずかな角度があるため、フロッピーディスクの出し入れが幾分スムーズに行えるようになっています。

内部を開けると、FDDが斜めを向いて設置されているのが分かります。思ったよりも抜き差ししやすいので、他の機種でも採用して欲しかった、などと考えてしまいます。

 カートリッジスロットもFDDの隣に同じく斜めを向いて取り付けられているので、こちらも思ったよりも抜き差しがしやすく感じられました。本体上部にテレビやモニタを設置していれば、カートリッジを抜くときに適当に引っ張っても本体が動くことがないので便利なのですが、そのおかげで当時は少々雑に扱ってしまったかも……と今更ながら思うことも。

 画面出力に関しては、アナログRGBだけでなくビデオ出力、RF出力が可能となっているので、環境に合わせた出力方法が選べました。なお、MB-H70が搭載しているRGB出力端子は、一般的なMSX向けRGBケーブルとはピン配置が違っています。そのため、正しく画面を表示するには本体に付属しているRGBケーブルを使用するか、またはインターネット上で情報を集めてケーブルを自作する必要がありました。

正面を見ると、左にシルバーの電源スイッチがあるほか、その上部に左からカートリッジスロット、FDD_B、FDD_Aと並んでいました。右下の奥まった部分には、赤色のリセットスイッチがあります。

 正面ですが、右下の奥まった部分には、あまり目立たない位置にリセットボタンが配置されています。分かりづらい場所にある反面、間違えて押してしまう心配もほとんどないのが良い部分と言えるでしょう。この部分には、ページトップの写真にあるようにキーボードの先端がすっぽりと入るようになっているので、このようにキーボードを配置すればリセットボタンの存在を無かったことにすることも出来ました(笑)。

本体背面は左からRGB接続端子、RF接続端子、ビデオ&オーディオ接続端子、CMT端子、プリンタポートと並んでいます。プリンタポート上部には、拡張バススロット、その右にはサービスコンセントが設置されていました。

 背面は、思った以上にスッキリとしています。左側に映像出力に関するインタフェースが集まっていて、反対側にはプリンタポートが見えているのみでした。電源部分にはサービスコンセントが付いているので、テレビやモニタの電源を挿すのに重宝するでしょう。

本体右側面には、左からジョイスティックポート×2とキーボードコネクタが並んでいます。

 キーボードは広告によると「使い心地の良いシリンドリカル・ステップスカラプチャー採用(原文ママ)」と書かれていて、そのタッチの良さをウリとしていました。

 実際に触ってみると全体的なキータッチは軽めで、少々ふかふかした感じになっています。長時間タイピングしても疲れないですが、カーソルキーは上下が横長配置になっているので、ゲームプレイ時に中指で上・親指で下を押す人にとってはプレイしづらいかもしれません。

キーボードは周囲が黒、フルキーのメイン部分とテンキーの数字部分が白、それ以外が灰色になっていました。キータッチは柔らかめですが、この時期としては打ちやすい方だったと思われます。

 逆に、中指で上下両方を操作するのであれば、かなりやりやすいと感じました。キーボードはML-G30と同一なので、そちらを持っている人は流用が可能です。コネクタ部分ももろくはないので、強度的にもそれほど心配せずに抜き差しできるのは嬉しいところでした。

 カートリッジスロットは1つですが、本機発売後に増えてきたフロッピーディスク版のゲームをメインとしてプレイするのであれば、それほど困らないかと思います。2スロットを使用して遊びの幅を広げるカートリッジソフトや、FM-PACのようなソフトを活用するのは難しいところではありますが、そこは割り切りポイントではないでしょうか。

こちらは本連載記事では非常に珍しい、1997年夏の雑誌に掲載された日立の広告です。この頃はテレビCMも盛んに流していたほか、スポンサーとなった番組でFLORAが使われていることもありました。右上に見えるのは、当時イメージキャラクターを務めていた長嶋茂雄氏です。

 MSX(1)からMSXハードを発売し続けてきた日立ですが、本機を最後にMSXから撤退しただけでなく、1978年から続いていた同社の個人向けパソコンも、一度ここで途切れることとなります。

 次に復活するのは、Windows95がブームになるタイミングで登場したパソコン“FLORA”でした。このときは、当時読売ジャイアンツの監督だった長嶋茂雄氏をイメージキャラクターとして起用してテレビCMなども流していたので、覚えている人もいるかもしれません。しかし、最終的には2007年に一般家庭向けパソコン事業からの撤退を表明して、日立は個人向けパソコンを終了としています。