石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

NVIDIAはアンチチートも突破する。Armベースの「RTX Spark」をゲーミングPCにする戦略

「RTX Spark」の公式サイト

 先週、台湾で開催された「COMPUTEX TAIPEI 2026」にて、NVIDIAのWindows PC向けSoC「RTX Spark」が発表された。GeForce RTX 5070相当のGPUに、最大128GBのユニファイドメモリを組み合わせた、強力なAI PCになる。

 NVIDIAはRTX Sparkについて、AIだけでなく、クリエイティブ作業やゲームにも驚異的な体験を実現するとしている。しかし、CPUはArmベースであり、x86/64向けに作られたソフトとの互換性を心配する方も多いだろう。その辺りも含め、ゲーマーの視点から現状を整理してみよう。

GeForce RTX 5070相当のGPUだが、ゲーミング性能は劣る

RTX Sparkの主なスペック

 まずRTX Sparkのフルスペック版をゲーミングPCとして見た場合にどうかを考える。GPUはGeForce RTX 5070相当だが、メモリはメインメモリとVRAMを共有するユニファイドメモリだ。

 PCゲームにおいて実質的に100GB超のVRAMが使えることは、あまりメリットにはならない。またメモリ帯域はDGX Spark(273GB/s)と同程度と見られ、GeForce RTX 5070に搭載されるGDDR7 VRAMの帯域(672GB/s)よりかなり劣る。ゲームのグラフィックス性能は、GeForce RTX 5070を搭載するPCより劣ると考えていい。

 ただし、RTX Sparkを搭載するノートPCはいずれもかなりの薄型で、ディスクリートGPUを搭載するゲーミングノートPCより小型・薄型にできそうなのはメリットだ。サイズ的なことだけで言えば、ポータブルゲーミングPCに搭載できる可能性もある(消費電力や排熱が大変そうではあるが)。

 搭載メモリの128GBは最大値なので、今後はメモリを減らした製品も出てくると思われる。32GBあたりの製品が出てくれば、ゲーミングに適したバランスになってきそうだ。

PCメーカー各社のRTX Spark搭載機。どれもゲーミングPCには見えない薄型

ネックだったアンチチートに素早く対応

 では互換性はどうなのか。まずはゲームが動作するかどうかだ。Arm版Windowsには、Prismと呼ばれる高性能なエミュレーターが搭載されており、ゲームを含むほとんどのx86/64ソフトは既に動作する状態だ。

 ただし、カーネルモードで動作するものはエミュレートできない。ゲームにおいては、x64向けに開発されたアンチチートプログラムが動作せず、起動できないソフトも多かった。現在は「EAC(Easy Anti-Cheat)」のArm版の提供が始まっており、徐々に対応が進められている。

 NVIDIAは「EAC」だけでなく、「BattlEye」やNetEaseのアンチチート、Riot Gamesの「Vanguard」など、大手のアンチチートプログラムもRTX Sparkに対応するとしている。これはArm版Windowsにおいては、極めて大きな話だ。

 筆者は過去にArm版Windowsでゲームがどれだけ動作するかを調べてきたが、動作しない原因はアンチチートか、あるいはパフォーマンス不足かのいずれかという印象だ。RTX Sparkはその両方をカバーすることになる。多数のゲームメーカーにアンチチートプログラムの対応を促すのは、PCゲームを長く支えてきたNVIDIAだからこそできるアプローチであり、RTX SparkをゲーミングPCにする施策の肝となる。

 またRTX Sparkはデスクトップ版(ワークステーション)の提供も予定されている。拡張スロットさえあれば、ディスクリートGPUを別途搭載することも可能なはずだ。そうなればArm版Windowsでのゲーミング環境はさらに自由度が高まる。

開発・配信環境は、いつどこまで整うか不透明

 開発環境においても、Arm対応は進んでいる。「Unity」、「Unreal Engine」、「Godot」といったゲームエンジンでは、進度に差はあるものの、ARM64対応が進んでいる。Arm版Windows向けのゲーム開発環境はかなり整ってきてはいる。

 MicrosoftもArm版Windowsへの対応を進めており、今年4月には、Microsoft Game Development Kit(GDK)に付属するバイナリ用のARM64ネイティブビルドライブラリのプレビューが追加された。これにより、完全なARM64ネイティブゲームビルドが初めて公式に作成可能となった。

 現時点ではプレビューなので、開発者が試すだけのもの。プレビューが外れて正式版となるまでは準備の段階だが、具体的な動きがあることは確かだ。

 ただ、先行きが不透明なところもある。世界最大のPCゲーム配信ストアである「Steam」は、未だにArm版Windows向けのクライアントすら存在せず、x64版とARM64版のゲームをユーザーのプラットフォームに合わせて配信する仕組みも存在しない。クライアントはPrismのエミュレーション動作で何も問題はないが、Arm版Windowsにフレンドリーな様子には見えない。

 Microsoft Storeは当然ながら対応を進めており、PC向けの「Xbox」アプリにも既にArm版が用意されている。PCゲームでは配信ストアによって、同じゲームでもアップデートの提供状態が異なることが時々発生するが、今後はARM64版のゲームはMicrosoft Storeでだけ配信、なんてことが起きかねない。ちなみに逆パターンは既に起きている

Arm版WindowsがゲーミングPCになる日は近い

多数のAIツールに混じって、ゲームタイトルもピックアップされている。ゲームへの取り組みも本気だ

 MicrosoftがArm版Windowsのゲーム対応を進めたい気持ちは、2年前にQualcommから「Snapdragon X」が登場した時からあったに違いない。しかし「Snapodragon Xを買ってゲームをやろうと言う人がどれだけいる?」という懐疑的な声が圧倒的に多かった。実際にはSnapdragon XのGPUにも、なかなかのパフォーマンスがあるのだが……。

 しかしRTX Sparkは、PCゲームをやるならGeForceが必須と言われたNVIDIAの製品だ。ただGPUを売るだけでなく、ゲーム開発者とも綿密に連携し、最大のパフォーマンスを出せるよう手を尽くしてきた、ゲーマーフレンドリーな企業である。

 そのNVIDIAが新しいWindows PCを出す、しかも高性能なGPUを積んでいるとなれば、ゲーム業界全体が動き出すのもわかる。もちろんNVIDIA側からの強い働きかけもあるだろうが、競技性の高いゲームのアンチチートプログラムが一斉にARM64対応を始めるのは、一気に時代が変わるような印象を受ける。

 NVIDIAはRTX Sparkを1代限りの製品にはせず、今後も長く提供を続けると語っている。NVIDIAのSoCを搭載したPCが増えれば、ゲーム開発側もArm対応を進めるメリットが大きくなる。ゲーム開発にもAIがさかんに使われる今の時代、RTX Sparkは開発環境を大きく変える商品でもあり、開発者には2重のメリットがあるとも言える。

 これまでのSnapdragon Xの努力が下地にあってこその話だが、QualcommにとってもWindows環境においてArm対応が進むことは歓迎すべきことだろう。この先、1年、2年と経った時、PCゲーム環境はどのくらいArm版Windowsに置き換わっているのか。NVIDIAの力で、これまでよりも格段に変化が進むことは間違いなさそうだ。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜で連載『石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』』(AKIBA PC Hotline!に移動)、『使ってわかるCopilot+ PC』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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