石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

高価と非難される「Steam Machine」、目指すはPCゲーム機のデファクトスタンダード

 発売時期の発表が遅れていた「Steam Machine」が、6月23日に突如発売された。当初は2026年初頭に発売するとしていたが、その後も発売日の発表がないまま、いきなり発売された形だ。

 PCゲーム業界における最大のゲーム配信ストアである「Steam」の、言わば純正ハードだけあって、PCゲームファンからの注目度は高かった。しかし発売されてみると、価格の高さを批判する声が相次いだ。この辺りの事情を話しつつ、「Steam Machine」が目指す戦略を分析していく。

「Steam Machine」はなぜこんなに高い?

 「Steam Machine」は、日本では代理店のKOMODOから発売された。価格は512GB SSD搭載モデルで189,980円、2TBモデルで249,980円。また「Steam Controller」を同梱したものは、それぞれプラス15,000円となっている。

KOMODOの「Steam Machine」販売ページ。初日に完売し、6月30日時点でも売り切れとなっている

 約19万円という価格が非難を受けたのは2つの理由があるとみられる。1つは、スペックに対して価格が高過ぎるという声だ。本機は独立GPUを備えており、AMD RDNA3 28CU(コンピュートユニット)、VRAMは8GB GDDR6とされている。Radeon RX 7600から4CU減らしたような形だ。

 Radeon RX 7600は4万円前後で購入できる上、既に1世代前の製品。VRAMが8GBというのも昨今のゲーミングPCでは物足りなさを感じさせる。メインメモリも16GBと控えめだ。それゆえ、自作PCユーザーを中心に、『これなら自作した方が安上がりだ』、『同じ値段でもっといいPCを組める』という声が上がった。

 もう1つは、「Steam」の純正ゲーム機と見た時の価格の印象だ。家庭用ゲーム機を「Steam」プラットフォームで侵食するかのようなイメージを持っていると、約19万円というのは今まで見たこともないような価格になる。PlayStation 5やXbox Series Xを押しのけて、リビングのゲーム機になり得るかというと、さすがにちょっと高すぎると感じられる。

 なぜこんなに高価なのか。1つはご存じのとおり、メモリの価格高騰にある。メインメモリに使われるDRAM、SSDに使われるNANDフラッシュメモリは、どちらもAI需要のあおりを受けて大幅に高騰したままだ。先行きは不透明だが、価格が下がるのは早くても2027~2028年という見方が多い。AI需要がこの先も高まれば、さらに価格は高騰し、長期化する。

 そもそも「Steam Machine」は、製造価格を下回る価格で本体を販売するという、いわゆる逆ざやでの販売をする気はないようだ。SteamOSを搭載するゲーム機ではあるが、ハードウェア的にはWindowsのインストールも可能な普通のPCなので、逆ざやでの販売はまず無理だろう。

 またPS5やXbox Series Xを生産する大手メーカーは、早くから部材を確保して安定生産に努めている(それもかなり無理が出てきている状態だ)が、新製品の「Steam Machine」にはそれが難しい。ましてや生産台数も現時点では桁違いに少ない。少数生産の分、メモリ価格高騰のあおりを強く受けてしまう。

 152mmの立方体という筐体サイズはハードウェア的にもなかなか優秀で、現行の家庭用ゲーム機と比較しても決して大きくはない。このスペックで、このサイズのPCを自作するのはかなり困難だ。その価値も考慮すると、このくらいの価格になっても仕方ないとも言える。

 あとは商売としては、この価格で仕方ないと思って買ってくれる方が居ればいいわけだ。実際、KOMODOでの販売は数時間で売り切れてしまった。元々の数が少なかったのではないかと思われるが、それでも誰も買わないと言うほどの大失敗ではなかったのは事実だ。

「Steam Machine」は今売れなくても構わない

 では初回分が完売したから「Steam Machine」は大成功かというと、そういう話ではない。そもそも本機は、初速で売れたかどうかで評価すべき製品ではないからだ。極論すれば、現時点でユーザーに売れる必要はない。もっと長期的戦略を見据えた製品と言える。

 筆者の周りでは、PCゲーマーは本機に興味を示しつつも、購入を迷っているうちに品切れになったという印象だ。ただ、ゲーム開発関係者は早々に手に入れたという方がちらほらいて、温度差が感じられる。

 これを紐解く点は、本機が発表された時にValveが示した、1つのメッセージにある。

製品ページにさらっと書かれた一文が重要

 “Steam Deckの6倍以上の性能を誇るSteam Machineは、皆さんのお気に入りのAAAタイトルを含むSteamライブラリの全ゲームをプレイするパワーを備えています”

 この内容は表面的には、『本機は「Steam」の全ゲームをプレイできるパワフルなマシンだ』と読み取れる。ここもユーザーの反発を招きやすい表現で、『Radeon RX 7600で満足に動かせないゲームは既にいくつもあるだろう』と言われかねない。

 だが、ゲーム開発者の目線で見ると、全く違う意味で読み取れる。『今後「Steam」で配信するなら、どんなにヘビーなAAAタイトルでも、本機で遊べる設定を用意しておいて』。Valveは、新たに作られるゲームは本機で動作すべきである、という強烈なメッセージを発していることになる。

 これが何でもないPCメーカーのメッセージなら、開発者もユーザーが感じたとおりの否定的な反応になる。しかし「Steam」を持っているValveが言うなら別だ。「Steam」はPCゲーム販売において支配的な存在であり、そのメッセージは簡単には無視できない。

 だから開発者はいち早く検証機が必要で、突然発売された本機を購入している方が見受けられたのだろう。

 これは開発者にとっては悪いことでもない。「Steam Machine」で動作検証しておけば、一定の動作テストを担保できる。無数の組み合わせと相性があるPCに対する検証より、はるかに低コストでできる。特に小規模な開発者ほど、本機はありがたい基準となるはずだ。

 「Windowsなら100%動作するのに、わざわざSteamOSで互換性を下げるのは無意味だ」という声もある。これに関しても、開発者の目線では、「Valveがお墨付きを与えたハードで動かすことが大切」という意識の方が強まり、SteamOSでの検証が増えるので、今後は互換性問題が起きにくくなる。

 『マインクラフト』や『Roblox』、『Fortnite』など、「Steam」プラットフォームに依存しないタイトルもいくつかあるが、それらにとっても「Steam Machine」の動きはプレッシャーになるだろう。「Steam Machine」が市場を支配するほど、「Steam」での配信を求める声が増えていくからだ。

「Project Helix」に先んじてデファクトスタンダードとなる

 Valveは「Steam」という支配的なPCゲームプラットフォームを今後も維持するため、その圧でもって「Steam Machine」をPCゲーム業界のデファクトスタンダードとしたい。そういう戦略を抱いているのではないかと思う。

 もちろんそれを表向きに言う必要はない。むしろ「気づいたらそうなっていた」というくらい自然な流れに見えた方がいい。今のところはWindowsを持つMicrosoftも敵ではないし、共存していく道はあった方がいい。しかしSteamOSは、Windowsを必要とせずWindowsゲームを動かすためのOSであることは紛れもない事実だ。

 Microsoftの次世代Xboxと言われる「Project Helix」は、PCゲームが動作することを明言している。おそらくこの先のXboxプラットフォームは、Windowsをベースにしたゲーム機となり、実質的にはPCゲームを動かすハードになる。家庭用ゲーム機とPCゲームの垣根を取り払うハードだ。

 「Project Helix」でPCゲームが動くと言った時点で、開発者としてはその性能をターゲットにして開発する必要性を感じるだろう。つまりはPCゲームのデファクトスタンダードを目指すことになる。

 PCゲームを家庭用ゲーム機のエリアへ広げていく「Steam Machine」と、家庭用ゲーム機をPCゲームのエリアへ広げていく「Project Helix」は、スタート地点は反対でも、目標地点は重なっている。

 「Project Helix」で「Steam」が動くのかどうかもまだわからない。「Steam Machine」の側も、「Big Picture」と呼ばれるゲーム用UIから他社ストアを利用するのは難しく、可能なものも「Steam」よりは手間がかかる。

 Valveが最初からそう想定していたかどうかは定かではないが、現状では「Steam Machine」は「Project Helix」に対する戦略的なハードになっている。Microsoftに先んじて発売し、デファクトスタンダードの地位を得ておくことが重要で、2026年の今出さないと間に合わないというタイミングでもある。

 しかし当初発売を予定していた2026年初頭は、メモリの高騰により部材価格が一気に上がってしまった。Valveにとっては想定外の、不幸なタイミングに当たってしまった……というのが、「Steam Machine」が高いと感じられる真相と言える。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜で連載『石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』』(AKIBA PC Hotline!に移動)、『使ってわかるCopilot+ PC』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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