石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
“ゲームのサ終”の是非を問う「Stop Killing Games」運動とは? PS5のディスク生産終了で起こりうる新たな問題
2026年7月16日 09:05
オンラインゲームのサービスが終了して、遊べなくなったという経験はおありだろうか。筆者は50対50の対戦アクション『ファンタジーアース ゼロ』という作品が大好きで、職権乱用して何度もインタビューさせていただいたほどなのだが、残念ながら2022年にサービスが終了してしまった。軽く10万円以上はお金をかけたキャラクターも電子の藻屑と消えた。
このようなゲームのサービス終了、通称「サ終」に対して、「Stop Killing Games(ゲームを殺すな)」という運動が世界的に広がっている。簡単に言うと、「オンラインゲームがサービス終了すると遊べなくなるのはおかしい、何か対策しろ」という主張だ。
10年前のゲームが遊べなくなることへの反発
この運動のきっかけになったのは、Ubisoftの『The Crew』というレースゲームだと言われている。本作はオンライン専用の作品で、発売から10年近く経った2024年にサービス終了となった。
これに一部のユーザーが反発。「サブスクリプションではない買い切り製品を購入したつもりだったのに、メーカーの都合で遊べなくなるのはおかしい」という主張を展開した。ユーザーは永久に遊べる、つまりゲームの所有権を得たと思っているのに、メーカーのさじ加減1つで遊べなくなるのはおかしい、と言う。
そもそもエンドユーザーライセンス契約(EULA)には、ゲームがライセンス供与であり、販売ではないと明記されている。ユーザーはそれに同意して購入、つまりライセンス供与を受けているのだから、規約としては落ち度はない。
ただ、ゲームソフトを購入する際にEULAを読んでいる人はどれくらいいるだろうか。特に『The Crew』はディスク版も販売されていたので、店頭で手に取って購入する前にEULAを読む人はほぼいないだろうと想像できる。また『The Crew』は1人プレイの内容も含んでいるが、オンライン認証が必要になるため、それらも一切遊べなくなることがユーザーの反感を買いやすいという一面もある。
また「Stop Killing Games」の主張も、サーバーを永遠に動かし続けろとは言っておらず、何らかの形でサービス終了後もゲームを遊べる状態にすることを求めている。サーバーを維持し続けることが無理なら、オンライン認証なしで起動できるようにし、オフラインで遊べるようにして欲しい……といった方向性になる。
サービス終了する際には何らかの対応を義務付ける法案
この内容がより具体的になったのが、2026年に米国カリフォルニア州で出された法案「Protect Our Games Act」だ。日本では「ゲーム保護法案」と伝えられており、法案の内容もWebで確認できる。
この内容をまとめると、まずゲーム事業者はサービス終了の60日前までに、サービス終了日と停止されるサービス内容についての情報を明かす。そしてサービス停止日から、下記のいずれかをユーザーに提供しなければならない。
・スタンドアローンで動作可能にした新たなバージョンの提供
・スタンドアローンで動作可能にするアップデートの提供
・サービス終了から12カ月以内の最高販売価格に相当する額の返金
・ユーザーが独自にコミュニティサーバーを運営するためのドキュメントの公開
・サーバーソフトウェアの公開
つまり、オンラインサービスを終了するなら、スタンドアローンで動くようにするか、ユーザーが有志でサーバーを動かせるようにするか、あるいは返金するか、いずれかを選べ、ということになる。
これが実現すれば、ユーザーは大好きなゲームを何かしらの形で手元に残すか、あるいは支払いをなかったことにできる。今まではサービス終了で全て諦めなければならなかったところが、大きな救済措置が得られることになる。
ユーザーにとっての幸せは、メーカーには極めて重い
「Protect Our Games Act」の内容が実現できれば、ほぼすべてのユーザーが歓迎するに違いない。しかし、実際にはユーザーにも不利益をもたらすことが想像できる。サービス終了の際にユーザーに提供せよという内容が、あまりにも厳しいからだ。
スタンドアローン版の提供については、ゲーム内容によっては大幅な改修が必要になる。対戦相手をBOTに置き換えるなどの対応が必要になることもあるだろう。それが面白いかどうかはともかく、大規模な開発作業が必要になることは間違いない。
サーバー公開も簡単ではない。プレイしていた環境でそのままホストが動かせるようなP2P型のゲームならともかく(それもマッチングサーバーはどうするのかという問題はあるが)、MMO(多人数同時参加)型のゲームだとサーバーの規模も大きく、一般人では対処が難しい。
実は法案では、一般人が入手可能なハードウェアであることも必要と書かれている。大規模なサーバーが必要なシステムのソフトウェアを公開しても、「そんなものは一般人には扱えないから、それで義務を果たしたとは言わせない」という条項が含まれている。
そうなるとMMO型のゲームでは、個人で運用可能なほど小規模で動かせるサーバーソフトウェアの再開発をするか、スタンドアローンで動作可能なゲーム内容にアレンジするかを選ぶ必要があるが、どちらもあまり現実的ではないだろう。仮に公開できたとしても、セキュリティ的な問題に対して継続的に対応できるわけでもない。
それらが無理なら返金対応ということになるが、これも無理がある。そもそもサービスを終了しようというゲームは、売上が落ちるなどサービス継続が困難になっていることが多い。サービスを止めるためにも大きな支払いが課されるとなったら、オンラインゲームの開発・運営のハードルは一気に高くなり、新作の提供は激減するだろう。
もしカリフォルニア州でこの法案が可決された場合、オンラインゲーム会社は「カリフォルニア州ではサービスを提供しない」と言う可能性もある。またこの運動が広がりを見せ、各地で同様の法律が制定されたりしたら、ゲームビジネスそのものが難しくなってしまう。これらはゲームファンにとっても不幸な結果だ。
PS5のディスク廃止でライセンスの理解が必要に
「Stop Killing Games」の思想は、「デジタル時代の消費者保護法を改めるべきではないか」というものだった。現状の法律ではメーカー側が明らかに有利な立場で、ユーザーはメーカーの決定を粛々と受け入れるしかない。その現状を打破したいという動きだ。
しかし「Protect Our Games Act」の内容はあまりに過激と言わざるを得ない。さすがに返金対応の部分は、当初の法案に書かれていたサービス開始からの全額ではなく、サービス停止の12カ月前までにメーカーが設定したゲームの最高価格を払い戻すと修正されている。
発売当初は5千円だったものが、サービス終了1年前には2千円に値下げしていたなら、払い戻しは2千円で良いことになる。ただセールで一時的に値引き販売をした場合、支払額より返金額の方が大きくなるわけで、これはこれで実状に即していないようにも思うが。
カリフォルニア州のこの法案は、下院で可決されたが、上院での委員会では僅差で否決された。ただし再審議は認められており、完全に廃案になったわけではない。また欧州を含む各国でも議論がなされており、消費者保護を手厚くする方向性で話がまとまる地域も出てくる可能性はある。
この話はPCゲームに限ったことではない。7月1日、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)はPlayStation向けのディスク版の生産を2028年1月に終了すると発表した。「店でゲームを買えなくなる」、「中古ゲームの概念が消える」など、大いに話題になった。
PlayStationプラットフォームでは、2028年1月以降に発売される新作ゲームはダウンロード版のみの提供となる。つまりゲームの所有権ではなく、ライセンスが提供される。これは「お客様が所有するために販売されるものではありません」と規約に明確に書かれている。
つまりSIEがPS5のネットワーク機能の提供を終了すれば、PS5のゲームの再ダウンロードはできないし、たとえダウンロード済みのゲームでも正常に動くとは保証されない。過去のゲーム機では、新たなゲームの販売は終了し、購入済みのゲームのダウンロードだけが可能なものがいくつかあるが、それも永続する保証はどこにもない。
ダウンロード済みのゲームは遊び続けられるとしても、そのハードウェアが故障したらもう二度と遊べない。再ダウンロードができない状況はこの法律で許されるのかどうかは、現状では明確にされていない。もし返金が必要となったら、過去のデジタルゲーム資産全てが返金対象になり得る。これはPS5をSteamに置き換えてもそのまま成立する話で、ゲーム以外のデジタルコンテンツも同様に抱える問題だ。
なお法案の最新版では、支払期間が設定されているサブスクリプションサービス(Xbox Game Passなど)や、プレイ料金が無料のゲームは、この対象外とされている。つまり月額課金などで継続的に支払いが発生するものについては対象外となる。ただ月額料金を取らないものは確実に対象になるし、月額料金以外に最初のパッケージ費用がかかるものは返金が必要とも読める。
DRMフリーのゲームは対象外ともされているが、逆に言えば、DRMがかかっているほとんどのプラットフォームのダウンロードゲームは対象になる可能性が高い。オンラインのランキングや実績の機能まで残す必要はないとはされているが、少なくともスタンドアローンで動作可能にする必要はある。
まだ議論は続いているようで、内容もそのたびに修正されている。必ずしも「Protect Our Games Act」の主張を受け入れようというわけではなく、ゲーム業界団体の意見も聞いて法案を修正し、現実的な落としどころを探っているのは確かだ。
現在は一部地域の話でしかないが、1つ成立すると他の参考になり得る。しかも、カリフォルニア州の人口は米国最大の約4,000万人で、Electronic ArtsやActivision Blizzard、Riot Gamesなど多くのゲーム会社が本社を構えている。ちなみにSIEのグローバル本社もここにある。ゲーム業界への影響が極めて大きい地域だけに、動向を注視する必要がある。
「Stop Killing Games」の問題提起が「Protect Our Games Act」で具体性を持った結果、消費者保護を重視するあまり、ゲーム開発や運営の実態に合わない制度設計がなされれば、ゲーム市場に大きな縛りが課されることになる。ゲーム業界団体も反対の声を上げており、一方的な内容にはならないと思われるが、議論を重ねて法案をとことん練り上げて、真にユーザーの利益になるものにして欲しい。

1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜で連載『石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』』(AKIBA PC Hotline!に移動)、『使ってわかるCopilot+ PC』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題をコラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。





