用途とカラーで選ぶHDD再入門

「黒と金」のプレミアムHDDを検証、WD BlackとGoldは「エンタープライズ向け技術を使った高信頼モデル」

長期保証に7,200rpm……text by 石川ひさよし

 Western Digitalの「カラーHDD」を用途別に紹介する当連載の最終回は、7,200rpmの高速モデル「WD Gold」と「WD Black」を取り上げたい。

 この2つは、どちらも「エンタープライズ向けの技術を使ったプレミアム製品」(Western Digital)であり、WD Blackは「デスクトップ向けの高速HDD」(≒WD Blueの上位)、WD Goldは「データセンター向けHDD」というコンセプトとなっている。WD Goldはもろにエンタープライズ用途だが、自作PC市場でも流通しており「特に高い信頼性と速度の両立」という観点で気になる人もいるだろう。

 そこで、今回は、両製品のお話をWestern Digitalにおうかがいするとともに、サンプルを取り寄せて検証を行った。

7,200rpmの2つのカラー。スペックは似ていても用途とチューニングは異なる

 まず、それぞれの製品の特徴をスペックから確認していこう。

 WD Blackは、「WD Blueの上位」という点で、自作PC用の基本HDDとも言える。Western Digitalでは、「SSDと組み合わせ、データドライブとして使うにも適している」と説明しており、例えばビデオ編集のデータエリアや大容量ゲームのインストール先などにも適しているという。

 スペック的には、回転数の違い、すなわちWD Blueが基本的に5,400rpm(一部7,200rpm製品有り)なのに対し、WD Blackは全モデル7,200rpmであり、また4TB以上のモデルではキャッシュメモリ容量が同容量のWD Blueの2倍(128MB)になっている。性能を重視してWD Blackを選ぶなら、キャッシュメモリが大きい4TB以上のモデルを選びたい。また、自作PCユーザー視点から気になる保証期間は、WD Blueが2年間、WD Blackは5年間と、2倍以上の長期保証が受けられる。

 WD Goldは、7,200rpmモデルであるとともに、4TB未満の小容量モデルであってもキャッシュの容量が128MBと多く、この点でWD Blackよりもさらにハイスペックと言える。保証期間は5年間で、これはWD Blackと同じだが、決定的に違うのは、WD BlackはデスクトップPC用途のため「24時間365日の連続稼働」といった条件が想定されていないのに対し、WD Goldはデータセンターのような、24時間365日稼働が想定されている。

 なお、動作時の環境温度は、WD Blackが5~55℃程度(モデルにより多少異なる)、WD Goldが5~60℃。WD Blackを自作PCに搭載する場合は、スペックどおりのパフォーマンスと耐久性を引き出すためにも、しっかりとした冷却を行いたい。WD Goldの「60℃」という数字は、エンタープライズ向けとして、しっかりしたきょう体を使い、冷却を熟知したユーザーが使用することを考えると問題ないレベル。

 このほか、WD Blackでは制御用CPUとしてデュアルコアプロセッサを採用。WD Blueなどのシングルコアプロセッサ採用HDDでは、1つのコアが行っていた複数の作業を、コア間で分業することで、HDDのパフォーマンスを最大化しているのも特徴だ。

WD Goldは「過酷な条件下でも長期の安定動作を目指したHDD」

 さて、スペック的には上記のとおりだが「WD Goldの強み」というのは、これだけではなかなかわかりにくい。

 そこで、WD Goldについては、同社の技術者に詳細を語っていただいた。表面的にはよく分からない、「他モデルに対するWD Goldの利点」についてお聞きした内容を紹介しよう。

 まず、WD Goldは「データセンター向けHDD」ということで、「購入してHDD交換を行い、すぐに使えること」が重視されているという。

 これはデータセンターで用いられる機器が対象で、例えばデータセンターで使われるストレージシステム、SATAコントローラ、ホストハブアダプタなどでの検証は徹底的に行われているといいう。さらに24時間365日の専用電話サポートまで付帯されており、「確実に使えること」を意識した製品設計がサポート面も含めて作られているという。

 HDD自体の設計としては、やはり「データセンター向け」として、複数ユーザーからの同時アクセスを想定したパフォーマンス・チューニングが行われているという。基本的な考え方はWD Redに近く、例えば「システムに悪影響を及ぼさないよう、タイムアウトを短くする」といった工夫はWD Redと共通とされるが、7,200rpmモデルであることもあり、WD Redよりも速度を重視したチューニングになっているという。また、放熱をより重視したきょう体設計、耐久性の高い部品の採用など、HDD全体として耐久性を重視した設計になっている」(同社)など様々な工夫を重ねることで、通常モデルより余裕をもった設計とし、その余裕によって高耐久が実現されているのだという。

 また、パフォーマンスの点では、「DUAL ACTUATORテクノロジー」が採用されている。データを読み書きするヘッドを動かすのがアクチュエータで、一般的なHDDではこれを1つだけ搭載している。しかしWD Goldでは2つのアクチュエータを組み合わせており、1つ目のアクチュエータが大まかな位置決めを、2つ目のアクチュエータが精度の高い位置決めを行うことで、速度などの点でメリットが生まれているという。

 ちなみに、耐久性については、「年間550TB」というワークロード値が示されている。これは単純計算で1日あたり1.5TBの読み書きが可能という数値。個人向け用途で1TB超のデータを書き込むとすると、HDD同士のバックアップぐらいだろうが、これを毎日繰り返すようなことはまずないだろう。一方、企業内において、数百人規模のサーバとなればこうしたデータ量も現実的にありえる数値である。そして、さらなる大規模には、RAID構成によって1台あたりの読み書き量を抑え、ワークロードを分散させることで対応できるとの内容だった。

 つまり、こうした過酷な条件下でも長期の安定動作を目指したHDDがWD Gold、ということになるようだ。

ハイエンドの「黒と金」を検証してみた

 この2色、とくにWD Blackはデスクトップ向けのパフォーマンス志向モデルとあって、注目度が高いだろう。

 そこでまず、デスクトップPCに接続した際のパフォーマンスを検証してみた。

 比較のために用意したのはWD Blackの6TBモデル「WD6001FZWX」、WD Goldの8TBモデル「WD8002FRYZ」、WD Blue 6TBモデル「WD60EZRZ」。

 WD BlackとWD Blueは現時点での最大容量品。WD Goldは機材の準備の都合上、8TBを用意した(10TBモデルは別に検証している)。完全に同容量の検証ではないので、その点は注意してみていただきたい。

 さて、結果はCrystalDiskMarkのグラフを見れば一目瞭然。

 7,200rpmモデルのWD Black「WD6001FZWX」とWD Gold「WD8002FRYZ」は、5,400rpmのWD Blueよりも明確に高いパフォーマンスが出ている。

 さらにWD Black「WD6001FZWX」とWD Gold「WD8002FRYZ」の比較では、シーケンシャルの数値でWD Black「WD6001FZWX」>WD Gold「WD8002FRYZ」という結果になっているが、容量の違いもあり、これを持って「WD BlackはWD Goldより速い」と言い切ることはできないので要注意。

 実際、容量6TB以上のWD Gold/Blackの速度を公称値ベースで比較すると、WD Gold 10TB(249MB/s) > WD Gold 6TB(226MB/s) > WD Black 6TB(218MB/s) > WD Gold 8TB(205MB/s)といった順に並んでいる。これについては、10TBのWD Goldの速度も検証したので、後ほど紹介してみたい。

 このグラフで興味深いのは、シーケンシャルでWD Black>WD Goldになっているような状況でも、4Kリード/ライトのパフォーマンスでは、WD Goldに軍配があがること。容量の違いもあるため、厳密な比較はできないが、「データセンター向け」のチューニングのひとつ、という可能性は高そうだ。

CrystalDiskMark 5.1.2 x64(1GiB) - PC接続時
CrystalDiskMark 5.1.2 x64(32GiB) - PC接続時

 もう1点、アクセスタイムについても確認してみた。

 HD Tune Proで計測した結果を見ると、WD Blueは17.4~17.7msなのに対し、WD Black「WD6001FZWX」は9.1~12.3msと速く、さらにWD Gold「WD8002FRYZ」はライト時2.2ms、リード時13.3msと極端に速い。

 表中に含めていないが、WD Goldの10TBモデル「WD101KRYZ」はさらに速い0.2828msという結果だったので、WD Gold特有の結果であるようだ。7,200rpm HDDの場合、理論上の平均回転待ち時間が4.16ms必要だが、これを下回る数字が出ているのは、書き込みに特殊な技術が使われているか、あるいはHD Tune Proの計測方法との相性的なもので、数字が小さく出ている可能性がある。HDDのキャッシュ容量は128MBと小さいこともあり、少なくとも、単に「キャッシュに入った」といったことではないだろう。

HD Tune Proから計測したアクセスタイム
WD Gold 10TBの速度も測定してみた

 さて、WD Goldでは8TBモデルのWD Gold「WD8002FRYZ」に加え、10TBモデルのWD Gold「WD101KRYZ」も入手したので比較してみた。

 両製品はともにヘリウム充填技術を用いたHDDだが、先ほど説明したとおり、公称速度は10TBモデルの方が50MB/s近く速く、キャッシュメモリも8TBモデルの2倍ある。その点を見ていきたい。

 結果を見ると、そのまま公称値が出た格好。WD Gold「WD101KRYZ」はスペックどおりシーケンシャルリード/ライトで250MB/s程度を示しており、頭一つ抜き出た結果。とくに4Kライトは2つのテストで6MB/s台の数値を出しており、WD Gold「WD8002FRYZ」やWD Black「WD6001FZWX」を大きくリードしている。

 単純な価格では「安い」とは言えない10TBのWD Gold(実売価格8万円台)だが、こうした速度面でのメリットをみると「さすが最高峰のHDD」と言えそうだ。

CrystalDiskMark 5.1.2 x64(1GiB) - PC接続時

一つ上のパフォーマンスを求めるならまずWD Black至高を求めるならWD Gold

 さて、ここまで見てきた結論をまとめたい。

 まず、WD Blackは、回転数の高さやキャッシュ容量で、WD Blueよりも明確に優位といえる。弊誌の読者であれば「PCのシステムドライブはSSD」と考える人は多いと思うが、「512GB~1TB程度のSSDでは容量が足りない」という人も多いはず。大容量化するゲームや写真データの格納用として「高速なデータドライブ」が欲しい人には最適な製品と言えるだろう。保証期間も長くほかの製品と比べて長い5年間が与えられている。

 一方、WD Goldは「速度だけ」でなく、その耐久性がポイントになりそうだ。24時間365日の動作想定やそれを実現するための技術、5年間の保証など、全てを考えて選択するHDDと言えるだろう。また、最大容量品である10TBモデルについては、まさにフラグシップと呼べるスペックで、現ラインナップの中でも「至高」と呼べる特別な製品と言えそうだ。

[制作協力:Western Digital]