パワレポ連動企画

場外乱闘!ゲーミングノートと自作PCがガチンコ対決!

DOS/V POWER REPORT 2022年夏号の記事を丸ごと掲載!

 昨今、ハイエンド自作PCの対抗馬として存在感が増しているゲーミングノートPC。土俵が異なることは理解した上で、異種格闘技戦に持ち込んでみよう。

自作PCとゲーミングノートPC、どっちが優秀?

 今回、この対決をしてみようとなったきっかけは、ときどき見かけるゲーミングノートPCのお買い得セール情報だ。期末や決算時期のセールなど、思いもよらぬ掘り出し物が出ることがある。Core i7に高性能GPUを搭載して○○万円!……といった具合だ。

 10年ほど前は高嶺の花だったゲーミングノートPCだったが、ここ数年で値下がりが進み、一気に市民権を得てきている。ビデオカードの品薄が続き価格が発売時の2倍にも届こうかという高騰っぷりを見せていた自作PCとは対照的だ。ノートPC向けGPUがマイニング向きではなかったこともあるだろう。とくにミドルレンジ以下のGPUを搭載するゲーミングノートPCなら10万円台前半から販売されており、お買い得感が際立っている。

コスパの高さが目立つゲーミングノートPC
ショッピングサイトのセールや直販サイトの限定価格など、スペックのわりに驚くほど安いゲーミングノートPCにめぐり会えることもある

 ここで疑問に思うのは自作PCとゲーミングノートPC、同じ予算であったならどちらがよりよい選択だろうかということだ。一言に同じ予算と言っても自作PCとゲーミングノートPCでは土俵が異なる。ノートPCはディスプレイもキーボードも一体型でWindowsも最初から込みの価格。自作PCはこれらを別途追加予算で購入する必要がある。

 また、同じようなCPU名、GPU名でもノートPC用と自作PC用では性能差がある。単純にモデル名だけ見ればゲーミングノートPCのほうが同予算で高グレードに見えるが、実際のところはどうなのだろう。そして大きく異なるのが使い勝手。静音性や動作音はもちろん、自作PCでしか実現できないこと、ゲーミングノートPCだからできることがあるだろう。複数ラウンドにわたる異種格闘技戦の勝者はどちらになるだろうか。もちろん使用目的しだいという側面はあるが、双方の優れている面を明確にすることで今後のPC選びの参考になれば幸いだ。

GPU性能に極ぶり! 決戦用ゲーミング自作PC

Core i5-12400F+GeForce RTX 3060 Ti搭載 ゲーミング自作PC with フルHD&165Hz ゲーミング液晶

 ノートPC側の価格に合わせ、ディスプレイ、OS込みで18万円という枠にこだわってパーツを選択した結果、ビデオカードに4割近くの予算を投入してGeForce RTX 3060 Ti搭載カードを選択。CPUはコスパ重視のCore i5-12400F。6コアなら昨今のAAAタイトルが求める4コア以上という要件を満たして余りある。マザーボードやメモリ、ケース、CPUクーラーなども低価格かつコスパに優れたものを選んで18万を気持ちオーバーした程度。こうしてできあがったPCは、予算を抑えたわりにゲーミングPCらしさは十分だ。

 なお、ビデオカードについては、直近で値下がりが続いた結果、数千円予算を追加すればGeForce RTX 3070搭載モデルにまで手が届くようになっている。今回は比較対象になるゲーミングノートPCの価格を超過し過ぎしまうので採用しなかったが、より上を目指したいなら十分検討する価値がある。

microATXプラットフォームを採用してコストパフォーマンスを追求

カテゴリー製品名実売価格
CPUIntel Core i5-12400F(6コア12スレッド)23,000円前後
マザーボードASRock B660M Phantom Gaming 4(Intel B660)14,000円前後
メモリMicron Crucial CT2K8G4DFRA32A(PC4-25600 DDR4 SDRAM 8GB×2)7,500円前後
SSDCFD販売 PG3NF2 CSSD-M2B1TPG3NF2[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB]14,000円前後
ビデオカードPalit Microsystems GeForce RTX 3060 Ti Dual OC(GeForce RTX 3060 Ti)67,000円前後
電源FSP Group Hydro GSM Lite PRO 650W HGS-650M(650W、80PLUS Gold)10,000円前後
PCケースZALMAN Z1 Iceberg(microATX)6,000円前後
CPUクーラーDeepCool Industries AK4004,000円前後
OSWindows 11 Home(DSP版)14,000円前後
ディスプレイLG UltraGear 24GQ50F-B(23.8型、フルHD、165Hz)21,000円前後
合計 180,500円前後

すべてが揃うオールインワンゲーミング環境

HP OMEN 16 価格.com限定 Core i7/1TB SSD/16GBメモリ/QHD/165Hz/RTX 3070搭載モデル

 相対するゲーミングノートPCはHPの「OMEN 16」。16.1型という一般的な15.6型よりも大きなディスプレイはWQHD(2,560×1,440ドット)と高解像度で、ゲームプレイでも一つ上の快適さを得られる。ノートPC用Alder Lakeは発売が遅かったこともあり、まだ同シリーズには第12世代Core搭載モデルが出ておらず、本製品は第11世代の上位モデル、Core i7-11800Hを搭載する。GPUにも上位のGeForce RTX 3070 Laptop、メモリは16GB、SSDは1TBというハイエンド構成でこの価格だった。スペックからするとそうとう破格と言えるだろう。

 デザインも一般的に思い浮かべがちなギラギラした印象のものではなく、かなりスリムでスタイリッシュだ。WQHDの高解像度・16.1型大画面のディスプレイはリフレッシュレートも165Hzのゲーミングスペック。キーボードのLEDイルミネーションがゲーミングノートPCらしさを出している。有線LANはもちろん、Thunderbolt 4まで搭載したのはうれしい誤算。ほかにパーツを買い足さずとも1台のPCとして十分な機能を備えている。

端子数は少ないが、映像出力や1GbE LAN、USBなど必要十分に備える。Thunderbolt 4も搭載しているのはハイエンドモデルならでは
半分近くが吸気用のメッシュ部。隙間から2基のファンやヒートパイプの一部が見えるように、本体に対してクーラーの占める面積が大きい。それだけ冷却の重要度が高いことを意味している
もちろんディスプレイもゲーミングスペック。リフレッシュレートは165Hzと高い。駆動方式はIPSで色みがよく視野角も広い。16.1型というやや大きなサイズにWQHD解像度という仕様だ

ゲーミングノートPCの構成パーツを詳しく見ていこう

8コアのCore i7-11800Hを搭載する。第11世代と言ってもRocket Lakeベースではなく、ノートPC向けのTiger Lakeなので電力効率は優秀だ。熱設計は45WでノートPC向けとしては高い値だが、デスクトップ向けと比べると半分以下。ブーストクロックは4.6GHzと高いが、定格は低く抑えられている
本製品に搭載されるSSDはPCIExpress 4.0 x4接続の超高速クラス。シーケンシャルリードで約7GB/sを記録した。今回検証したものには「Samsung MZVL21T0HCLR-00BH1」が搭載されていた
GeForce RTX 3070 Laptopは、デスクトップ版GeForce RTX3070と比べてCUDAコアがやや少なく、クロックも低く設定されているなどスペックが異なる。メモリバス幅256bit、ビデオメモリ8GBとなっている点はデスクトップ版と同じだ
カテゴリー製品名
CPUIntel Core i7-11800H(8コア16スレッド)
チップセットIntel HM570
メモリPC4-25600 DDR4 SDRAM 8GB×2
SSDSamsung MZVL21T0HCLR-00BH1[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB]
GPUGeForce RTX 3070 Laptop
電源ACアダプタ(230W)
OSWindows 11 Home
ディスプレイ16.1型、2,560×1,440ドット、165Hz
インターフェースThunderbolt 4×1、USB 3.0×3、Mini DisplayPort×1、HDMI 2.1×1、ヘッドホン/マイク×1、SDメモリーカードスロット×1、1000BASE-T×1、Wi-Fi 6、Bluetooth 5.0
サイズ(W×D×H)369.2×248×23mm
重量約2.31kg
直販価格 179,000円

ゲーミングPCのキモ、パフォーマンスを比較

 今回の検証は自作PC側の環境に合わせ、フルHD解像度で行なっている。

 3DMarkはCPUテストもあるが基本的にはGPUベンチマークだ。スコアで比較をすると、自作PCのほうが約1.37倍高かった。CUDAコア数で言えばGeForce RTX 3070 Laptopのほうが多いが、実測GPUクロックは1.485GHz対1.67GHz(今回用いた製品は1.695GHz)でGeForce RTX 3060 Tiのほうが高い。また、メモリバス帯域幅もGeForce RTX 3060 Tiのほうが広帯域だ。こうしたスペックの違いが結果に結び付いており、ゲームベンチマークも自作PCのほうが高フレームレートだった。デスクトップ版GPUのほうが性能が高いということは事前に理解していたものの、想像以上に性能差が現われる結果となった。

GPUだけでなくCPUも自作PCが勝利

 CPUもGPUもコア数や実行ユニット数だけでなく、実際にどれくらいのクロックで動作しているのかが重要だ。CINEBENCH R23によるCPU性能も、Core i7のゲーミングノートPCよりもCore i5の自作PCのほうが高かった。新世代CoreのIPC向上もあるが、最近のCPUの仕様から考えると、ノートPCの冷却まわりの足かせが大きかった可能性がある。つまり動作クロックの伸び悩みだ。これについては後述する。

 ストレージは、ゲーミングにより特化した3DMarkのStorageベンチマークを用いた。ここはゲーミングノートPCが僅差で勝利している。今回の製品はシーケンシャルリードで7GB/sクラスの超高速SSDを搭載していたということにつきる。たとえば下位グレードのゲーミングノートPCでは、PCI Express 3.0世代のSSDを搭載するものも多い。Webブラウズなどの軽作業ではM.2 SSDであればそれほど体感差も大きくないと思われるが、大容量を読み込む重量級ゲームでは違いが出てくるだろう。交換が容易ではないゲーミングノートPCにおいては、製品選びのポイントになる。

【検証環境】電力設定:最適なパフォーマンス、そのほか:ゲーミングノートPCは使用GPUを高パフォーマンスNVIDIAプロセッサに指定

冷却性能と静音性、消費電力を比較

 冷却性能はとくにノートPCにハンデがある部分だろう。ノートPCは小さく、薄く、それでいて高性能であることが求められる。自作PCは構成しだいだが、今回のようなミニタワーなら12/14cm角のケースファンが利用でき、CPUクーラーも大型のものが搭載できる。

 CPU温度は自作PCのCore i5-12400Fが最大60℃と余裕があった一方、ゲーミングノートPCは3DMark Time Spy実行時に93℃という高い値を記録した。今回グラフにはしなかったが、FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク時にはサーマルスロットリングが2回発生していた。前ページで想像以上にベンチ結果に大きな差が出たのも、冷却性能が上限に達して動作クロックが伸びなかったと思われる。ただ、GPU温度に関しては自作PCのほうがやや高いものの僅差だ。こちらはゲーミングノートPCでもサーマルスロットリングは発生しなかった。

 動作音に関しては数字上は同じような値だった。ただし、実際のところ高負荷時のゲーミングノートPCはシロッコファンが高回転で回るため、キーンという高音を発し、やや耳に付く。この辺りの音質の違いも指摘しておきたい。自作PCのアイドル時の値が高いのは、ファンがケース前面にもあるためだ。

 自作PCの場合は冷却性能、静音性は組み合わせるCPUクーラーやケースファンで変えることもできる。買ったら手放すまで同じノートPCとは異なる点だ。

今回使用したケースは標準で3基のファンを搭載。さらにCPU、ビデオカードにもそれぞれクーラーを搭載するため大風量で冷却できる
中央にあるCPU&GPUからヒートパイプで熱を輸送。左右には薄型シロッコファンとその中にヒートシンクがある。小径の分高回転だ

 消費電力は、多くの方が想像するとおりゲーミングノートPCのほうが圧倒的に低かった。自作PCはゲーミングノートPCの2倍近く消費電力が大きいことに加え、アイドル時の差はさらに大きい。

今回は650Wモデルだが、デスクトップ用電源は1,000W超モデルもある。そのPCの構成に合わせて必要な出力を選べばよい
ディスクリートGPUを搭載するだけあって大きなACアダプタが付属する。この構成で出力230Wなので自作PCと比べて低消費電力なことが分かる

冷却を強化しやすい構造が自作PCのパフォーマンスの高さを支えている

やはり冷却の面では自作PC側に大きな有利があり、この冷却性能の高さがパフォーマンスに直接結び付いていると言える

【検証環境】室温:約24℃、暗騒音:31.7dB、アイドル時:OS起動10分後の値、CPU温度:HWiNFOのCPU Packageの値、そのほかの温度:HWiNFOの値、動作音測定距離:自作PCはケース前面から20cm、ゲーミングノートPCはパームレスト先端から20cm、電源設定:バランス、そのほか:ゲーミングノートは使用GPUを自動選択に指定

拡張性や使い勝手などを比較

 やはり拡張性は自作PCの勝利だ。今回の構成でも拡張スロット、メモリ、ストレージすべてに空きがある。一方、ゲーミングノートPCにもメモリスロットが2基(使用済み)、M.2スロットが2基(1基空き)あり、Mini-ITX PCなどと比べればそこまで拡張性は低くない。なお、本機を含めノートPCはユーザーによる換装・拡張を制限(保証の対象外になる)しているものが多いので要注意だ。

拡張性の自作PC、使い勝手のノートPC

 スロット数や内部スペースに余裕のある自作PCは多数のパーツを増設できる。一方のノートPCはさまざまな状況で使える柔軟性の高さがメリットといえる。

さまざまなパーツを増設可能な自作PC
十分な数の空きスロットがあり、追加搭載可能。交換することでアップグレードでき、余ったら別のPCで使い回しができるという利点もある
保証はなくなるもののM.2 SSDやSO-DIMMの交換は可能。機能追加はUSBなどに頼るしかない。CPUやGPUは交換不可だ

 PCの使い勝手というのは人によって捉え方が大きく違うものではあるが、筆者の基準からすると、これはゲーミングノートPCの圧倒的勝利だ。外でゲームをやるかどうかは別として、高性能PCを持ち運びできればPCの活用機会が広がり、映像編集やレタッチなどをどこでも行なえる。この柔軟性と高性能の両立がゲーミングノートPC最大の利点だ。

どこででも使えるゲーミングノートPC
当たり前の話ではあるが、デスクトップPCである以上、電源ケーブル必須なので利用はコンセントの近くに制限される
最近は重量も軽くなっており、本製品も2.3kgと持ち歩きが可能。出先で使える上に、バッテリ駆動が可能なのはノートPCの大きな利点だ

性能差を踏まえた上で、メリットで選ぶ

 ある程度予想はしていたが、やはり性能では自作PCに大きな優位がある。デスクトップ向けのCPUとGPUは、電力消費を増やしつつ高いパフォーマンスを発揮させる方向に進化していることからも、この差が縮まることは考えにくい。だからと言って性能がすべてとは限らない。検証のとおりゲーミングノートPCは多くのゲームで快適に遊べる性能を備えている。その上で可搬性がプレイスタイルを広げ、利用する場所を選ばないノートPCにはデスクトップとは違う強みがある。

ゲーミングノートPCはセールで安くなる! 10万円台前半のモデルが狙い目

 今回は20万円近いハイエンドゲーミングノートPCを取り上げたが、実のところゲーミングノートP Cは10万円程度からラインナップされており、軽いゲーム/エンタメ用と割り切るのであればこのクラスのコストパフォーマンスは絶大だ。CPU/GPUの発熱もそれなりなのでハイエンドモデルと比べれば冷却設計的にもムリがない。プライベートとビジネスを1台に任せたい方にはよいバランスではないだろうか。

 10万円クラスのゲーミングノートPCにはGeForce GTX 1650搭載モデルが多いが、大きなセールとなればGeForce RTX 3060搭載モデルが10万円台前半で買える場合もある。大手量販店のセールなどを定期的にチェックしてみるのもよいだろう。

[TEXT:石川ひさよし]

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