パワレポ連動企画

Power Supply Unit 診断室「ADATA Technology XPG CYBERCORE 1000 PLATINUM」編

DOS/V POWER REPORT 2022年夏号の記事を丸ごと掲載!

 ADATA Technologyの名はメモリやSSDでご存じだろう。最近はゲーミング向けパーツにも力を入れており、「XPG」ブランドとしてメモリ関連製品はもちろんキーボードやマウスのようなゲーミングデバイス、さらにはケースやケースファン、CPUクーラーまで広範囲に手掛けている。

 今回紹介するのは「XPG CYBERCORE 1000 PLATINUM」。同社の電源としては3製品目。初めて手掛けたハイエンドモデルだ。基本的な仕様としては、80PLUS Platinum認証の定格出力1,000Wを実現しつつ、750Wクラスと変わらぬ奥行き16cmのコンパクトさも兼ね備えた製品で、また上位機種として、日本のコンセント規格のギリギリを攻める1,300Wモデルも用意している。

 これらXPG CYBERCORE PLATINUMシリーズは、主にゲーミングPCやレンダリングなどを行なうハイスペックPC用の電源と言えるだろう。

ADATA Technology XPG CYBERCORE 1000 PLATINUM(実売価格:32,000円前後)
規格:ATX、定格出力:1,000W、ファン:12cm角(底面)、80PLUS認証:Platinum、ケーブル:フルプラグイン、サイズ(W×D×H):150×160×86mm
電源コネクタ:ATX20/24ピン×1、ATX/EPS12V×2、Serial ATA×12、ペリフェラル×4、PCI Express 6+2ピン×6、FDD×1(ペリフェラル→FDD変換ケーブル)
Lineup
製品名出力奥行き80PLUS認証実売価格
XPG CYBERCORE 1300 PLATINUM1,300W16cmPlatinum38,000円前後
XPG CYBERCORE 1000 PLATINUM1,000W16cmPlatinum32,000円前後

安定した出力とNidec協業ファン ADATA初のハイエンドクラス電源

 1,000Wという大出力なのに、上部に電源を配置するケースでもフロントの光学ドライブをジャマしないコンパクトさが魅力だ。

 また全世界のHDD用スピンドルモーターのシェア80%を持つ日本電産(Nidec)とコラボレーションした独自ファンを採用。羽根のひねりや形状、細かな性能にこだわった静音ファンは、フル回転させてもエアコンの運転音に消えてしまうほどの静かさだ。ファンが回転し始めるしきい値もかなり高めの設定。高負荷でもベンチマーク程度の短時間の負荷では回転することがなかった。

Nidecコラボファンがバチクソ凄げぇ!
この電源の顔がNidecとのコラボファン。一般的なファンブレードに比べ「ひねり」が大きく大風量。
注目すべきは根元にある切り込み。音もなく静かに飛ぶフクロウの羽根を模したもので、風切り音が驚くほど静かだ

 実際に触って気になった点としては、若干だがコネクタの挿さり具合が悪かった。電源のコネクタは「電力を供給するための最重要部品」なので品質が気になるところだ。少しキツくても奥までしっかり挿し込むよう心掛けたい。

 電源ケーブル長はCPU系が75cm、ストレージ系が第1コネクタまで60cmと長く、大型ケースにも対応している点がうれしい。

CPU関連のケーブルはメッシュスリーブで長さ75cm。PCI Expressも同様に第1コネクタまで75cmと余裕の長さ。ストレージ系はフラットケーブルで第1コネクタまで60cm、以降15cm間隔で4コネクタ
+3.3/5Vはそれぞれ最大22Aで合わせて120W以内と控えめ。+12Vは83.33A 1,000Wとなっている。+3.3/5VはDC−DCコンバータ経由で供給するので+12Vは実質900W程度だろう

 本製品に限らないが、注意したいのはコンセント問題。定格出力1,000Wの本製品だが最大消費電力は1,300W(13A)、1,300Wモデルは最大1,500W(15A)なので、実質的に壁コンセント(規格上限1,500W)1個をふさいでしまうことに注意したい。

比較対象のLEADEX VはGold。Platinum認証の本製品のほうがアイドル時、高負荷時とも省エネだ。とくにアイドル時は本製品のほうが10W差を付けて低かったところに注目だ
高負荷をかけてもファン停止状態が続くためメーカーに確認したところ、負荷率が30%以上でかつ内部温度が50℃以上になるまで回転を始めないとのことだった
【検証環境】
CPUAMD Ryzen 9 3900XT(12コア24スレッド)
マザーボードASUSTeK ROG Crosshair Ⅷ Hero (WI-FI)(AMD X570)
メモリKingston HyperX Savage DDR4 HX430C15SBK2/16(PC4-24000 DDR4 SDRAM 8GB×2)
ビデオカードZOTAC GAMING GeForce RTX2080(NVIDIA GeForce RTX 2080)
SSDSolid State Storage Technology Plextor M8Se(G) PX-512M8SeG[M.2(PCI Express 3.0 x4)、240GB]
OSWindows 11 Pro
室温17℃
暗騒音33.9dB
アイドル時ベンチマーク終了10分後の値
高負荷時3DMarkを実行中の最大値
動作音測定距離ファンから約15cm
電力計Electronic Educational Devices Watts Up? PRO

出力の安定性はピカイチだが細部にはさらなる改善の余地も

 電解&固体コンデンサともに日本メーカー製のものを多用していてハイエンド感たっぷり。しかし奥行き16cmに収めるためか、随所で熱源とコンデンサがかなり接近している。またフィルムで銅版をパウチしたシートが内部4カ所に用いられていた。

【藤山の注目ポイント】
ノイズ防止のシールドのようだが、ノイズの原因をトライアンドエラーで「ココじゃね?」と探っているような意図を感じる。一方でACインレット裏がむき出しになっており、まだ設計のこなれていなさを感じる部分が散見される。
1次側ノイズリダクション・整流回路。1,000Wの大出力なので1次側コンデンサは耐熱105℃品かつ560μF+680μFと大容量。ただし、熱源となるパワートランジスタに近いことが少々気になる。ニチコンとルビコンの製品を採用
2次側平滑回路。2次側はアルミ固体コンデンサがFPCAP製と日本ケミコン製のMIX。電解コンデンサは日本ケミコンのKZEシリーズ(105℃品)3,300μF×4本を使っているがここも熱源との距離が気になる
バイパスコンデンサ。プラグインコネクタ裏にもFPCAPと日本ケミコンのアルミ固体コンデンサを多数実装。最終段のバイバスコンデンサとなっている

よい面もあるが、気になる部分も…

 同社電源初のハイエンドモデルとしてリリースされた「XPG CYBERCORE 1000 PLATINUM」。+12Vの安定性やコンパクトなサイズ感などよい面もあるが、初のハイエンド製品だけあってリプルノイズのような気になる部分もある。

 リプルノイズについて。平滑回路自体は日本メーカー製の電解+固体コンデンサでしっかりしているし容量不足とも思えない。そこから推測すると、トランスから平滑回路の間に挟まっている2次側整流回路の最後のツメが甘く、交流成分を吸収できないのではないだろうか。製品では周囲からのノイズという判断でトランス周辺にシールドを入れているが、これが見誤りである可能性もあるかもしれない。また、小型化を目指したのはよいが、全体的にコンデンサの熱対策が二の次になっている印象だ。

オーディオなどのアナログ信号を扱う場合、このノイズ波形はかなり気になるだろう。ゲーミングには問題ないとしても、AV用PCにはちょっと避けたいノイズの大きさだ。フィルムシールドはこの対策!?
短周期グラフで見られたノコギリ刃のような波形がそのまま連続して出てしまっている。これはノイズと言うより2次側の整流回路の影響に思えるが……

 一方で、驚くべきはEPS12Vの安定性だ。振れ幅は0.1V未満。ATX24ピンやPCI Expressも0.3〜0.4V以内の降下で下げ止まり感がある。ゲーミングPC用電源に求められるのは、CPU/GPUを安定動作させつつ性能を引き出せること。ゲーミングブランドのXPGシリーズの電源としては、これを目指し、実現できていると言えるだろう。

やたらと安定性のよいEPS12V 基準電圧12.0Vに製品への自信を感じる
EPS12VとPCI Expressの基準電圧はほぼ12.0Vという設定。ATX24ピンは11.9Vとやや低めだ。驚くのはEPS12Vの安定性。高負荷でも0.1V以内の降下しかないのは昨今のCPUと組み合わせる上で頼もしい安定感だ。PCI Expressは0.3V程度の降下、ATX24ピンは基準電圧の低さもあって11.6〜11.5Vまで下がるが、相対的には0.3〜0.4V程度の降下にとどまる
【検証環境】
電圧計測方法三和電気計器 PC-20を3台使用し、各コネクタの電圧を計測
リプル計測方法Pico Technology PicoScope2204を使用しアイドル時に計測

診断票:高い安定性がゲーミング向き ADATA電源の船出はまずまずか

 ゲーミング電源の本質である高い安定性という面では老舗の製品にも負けていない。12.0Vの基準電圧には心意気も感じる。しかしそのほかの面ではまだこなれていない部分も。電源メーカーとして見れば、ADATAはまだ生まれたばかり。今後経験を積み、技術を蓄積していければゲーミングに限定されない良質な電源を作れるようになるのではないだろうか。

[TEXT:藤山哲人、検証協力:長畑利博(アイティースリー)]

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