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水冷特化の最新Mini-ITX vs 大型空冷対応のMini-ITX!PCケース対決

DOS/V POWER REPORT 2022年夏号の記事を丸ごと掲載!

水冷特化の最新Mini-ITX vs 大型空冷対応のMini-ITX

 最近は、簡易水冷型CPUクーラーを利用することを前提として設計されたMini-ITXケースが増えてきた。拡張性重視で空冷CPUクーラーの選択肢が多いモデルとはどこがどう違うのか。組みやすさや冷却性能など、さまざまなポイントを比較した。

 水冷特化型Mini-ITXケースの特徴は、コンパクトながらも24 ~ 28cmクラスの大型水冷ラジエータを組み込めることだ。長さ30cm以上の強力なビデオカードにも対応するため、強力なゲームPCも作れる。

 こうした最新型のMini-ITXケースとは別に、ミニタワークラスの筐体を採用して大型パーツやケースファンを組み込めるようにした大型のMini-ITXケースも存在する。ここではこうしたトレンドを反映する2台のMini-ITXケースを取り上げ、その特徴やメリット、デメリットを検証する。

水冷特化型Mini-ITXの特徴

  • 24 ~ 28cmクラスの水冷ラジエータに対応
  • メッシュ構造を多用した風通しのよい筐体
  • 30cm以上のビデオカードを組み込める
Lian Li Industrial Q58W4 実売価格:21,000円前後
上下に分割されたユニークな側板を採用し、メンテナンスしやすい小型PCケースだ。コンパクトなキューブタイプケースながら、大型のラジエータやビデオカードに対応し、拡張性に優れる。
28cmクラスの大型ラジエータを備える簡易水冷型CPUクーラーに対応し、発熱の大きなCPUも安心
カラーホワイト
ベイ3.5/2.5インチシャドー×1、2.5インチシャドー×3(SFX対応電源利用時)
標準搭載ファンなし
搭載可能ビデオカードの長さ320mm
搭載可能CPUクーラーの高さ67mm
搭載可能ラジエータの長さ28cmクラスまで(天板)
本体サイズ(W×D×H)170×342×250mm
重量4kg

大型空冷対応Mini-ITXの特徴

  • 高さ16cm以上のCPUクーラーに対応
  • 大型のケースファンを搭載可能
  • 30cm以上のビデオカードを利用できる
Fractal Design Torrent Nano 実売価格:19,000円前後
空気の流れを阻害しない前面パネルと、18cm角という大型のケースファンにより、組み込んだパーツをしっかり冷やせる小型ケースだ。手で引っ張るだけで簡単に着脱できる前面パネルや側板も便利。
前面には超大型18cm角ファンを備える。左下の12cm角ファンと比べると、その巨大さが伝わってくる
カラーブラック/ダークガラス
ベイ3.5/2.5インチシャドー×1、2.5インチシャドー×2
標準搭載ファン18cm角×1(前面)
搭載可能ビデオカードの長さ335mm
搭載可能CPUクーラーの高さ165mm
搭載可能ラジエータの長さ28cmクラスまで(底面)
本体サイズ(W×D×H)222×417×374mm
重量6kg

幅、奥行き、高さを比較してみる

右側面を向けて2台のPCケースを並べた。サイズが小さいのは左のQ58W4で、Torrent Nanoと比べると奥行きは7.5cm、高さは12.4cmも小さい
前面パネルを正面に向けて並べた。Torrent Nanoは22.2cm、Q58W4は17cmなので約5cmも小さい

 まずは両者のサイズを比較してみよう。Q58W4は水冷特化型Mini-ITXの典型的なモデルで、サイズ的には一般的なキューブタイプケースとほとんど変わらない。机の上に置いて利用するとしても、ジャマには感じないだろう。

 一方でTorrent Nanoは、大型の空冷CPUクーラー対応Mini-ITXケースの典型的デザインや構造を採用する。奥行きは40cmを超え、高さも40cmに近いことを考えると、ミニタワーに近いサイズ感だ。取り回しや設置場所の自由度を考えると、Q58W4のほうが優れている。

Q58W4はかなり小さい

Q58W4は一般的なキューブタイプケースよりもやや小さめであるのに対し、Torrent Nanoはほぼミニタワーに近いサイズ感だ

搭載可能ケースファンを比較する

 Q58W4では、ケースファンを標準装備しない。必要に応じて、自分の好きなファンを追加するというスタイルだ。ただ、コンパクトなので大型ファンをさまざまな場所に取り付けてエアフローを強化するというわけにもいかない。とくに14/12cm角ファンを2基搭載できる天板は、水冷ラジエータを組み込む場所でもある。基本的に天板に組み込んだラジエータ用ファンが、ケースファンとしても機能するという構造だ。

 Torrent Nanoでは、標準で18cm角という巨大なファンを搭載する。厚みも38mmなので羽根は大きく、回転数が低い状態でも風量は大きい。前面はオープングリル、背面もパンチ穴が無数にあいた状況で風通しもよく、大型ファンによる冷却性能を最大限に発揮できる。背面に12cm角を1基、底面にも14/12cm角ファンを2基まで追加でき、エアフローでは圧倒的に有利だ。

天板に14cm角×2のファンマウンタを装備する。ただここは簡易水冷型CPUクーラーの組み込み場所でもある
前面だけでなく、背面や底面にも大型ファンを組み込めるため、エアフローを強化しやすい

ファンの拡張性ではTorrent Nano

ファンの搭載可能数では、やはり大型で内部に余裕があるTorrent Nanoの圧勝という結果に

各パーツの組み込み状況、組み込みやすさを比較

Q58W4
内部スペースは二つのエリアに分割されており、右側面には電源ユニットやマザーボードを組み込む
左側面はビデオカードを組み込むスペースだ。マザーボードの拡張スロットをライザーケーブルで左側面下部に延長している

 Q58W4はコンパクトなケースではあるが、外装のパネルや底面のケーブルが集中する場所、電源ユニット用スペースなど、各部が着脱可能な構造になっている。さまざまな場所から手を入れて組み込み作業ができるほか、内部が二つの領域に分かれており、大きめなパーツがジャマをして作業しにくくなる場所がない。小型のMini-ITXケースの中では、比較的組み込みやすかった。

簡易水冷型CPUクーラーへの対応は?
ラジエータとファンは天板に固定している。Q58W4の天板は着脱が可能な構造なので、P Cケースの外で組み込み作業ができる

 とはいえ、作業が簡単というわけでもない。とくに今回組み込んだFractal Designの簡易水冷型CPUクーラー「Lumen S28」のラジエータは、Q58W4にとっては限界に近いサイズで、付けるにも外すにも苦労する。また右側面の写真を見れば分かるとおり、ラジエータや電源ユニット、マザーボードの隙間はほとんどない。組み込んだパーツにムリにテンションがかかったり、ファンのケーブルが干渉しないように慎重に作業しよう。

電源ユニットや組み込みやすさへの配慮は?
・天板を付属の部品(手前)と交換することで、ATX対応電源ユニットも組み込める。ただしその場合は組み込めるファンやラジエータのサイズが小さくなる
・底面に装備するパネルを外すと、電源ユニット下の空きスペースにアクセスできる。ここで各種電源ケーブルなどを整理しよう

 今回はSFX対応電源ユニットを利用しているが、Q58W4でもATX対応電源ユニットが利用できる。ただその場合、28/24cmクラスのラジエータが利用できなくなり、12cmクラスだけとなるので、SFX対応電源ユニットがベストの選択肢だ。

Torrent Nano
左側面からマザーボードやビデオカードなどのメインパーツを組み込む、スタンダードな構造を採用。大型のサイドフローCPUクーラーが利用できる

 一方のTorrent Nanoは、左側板を外すと内部にアクセスできる。パーツを組み込む部分の構造はATX/microATX対応PCケースとほぼ同じであり、本体が大きいので作業エリアも広い。作業の難易度は低く、PC自作の初心者でも問題なく組み込めるだろう。大型のCPUクーラーやビデオカードを組み込んだ状態でも内部はかなりの余裕があり、組み込んだ後のメンテナンスも楽だ。

簡易水冷型CPUクーラーへの対応は?
Torrent Nanoの場合、前面に装備する18cm角ファンとの組み換えになる。しかもラジエータは24cmクラスまでの対応なので、ちょっともったいない

 電源ユニットは天板に設置する。今回は奥行き16cmの一般的なATX対応電源ユニットを利用しているが、サイズ的にはまったく問題ない。マザーボードベース裏面にはケーブルを整理するための広いスペースや面ファスナーも備えており、組み込みをラクにしてくれるギミックは豊富だ。

電源ユニットや組み込みやすさへの配慮は?
奥行きが16cmのATX対応電源ユニットも問題なく組み込めた。余ったケーブルをまとめるスペースもある
右側面には各種ケーブルを整理するスペースを用意。面ファスナーやスリットを利用し、各ケーブルを美しく整理できる

 ただ、簡易水冷型CPUクーラーを利用するのは難しい。冷媒用パイプの長さを考えると、ラジエータは前面に付けることになるだろう。しかしその場合、18cm角ファンと交換しなければならない。底面に設置する場合には、大型で厚みのあるビデオカードを利用できなくなる。Torrent Nanoは、空冷環境に適したモデルと考えたほうがよさそうだ。

組み込みに関するギミックが充実

Torrent Nanoは大きいがその分内部が広く、作業しやすい。また組み込みに関するギミックも豊富で組み込み作業は容易だった

ファンの向きも変更してCPU温度やGPU温度を比較

 実際にQ58W4とTorrent Nanoに同じCPUやビデオカードを組み込み、各部の温度を比較した。それぞれの特性に合わせ、Q58W4には簡易水冷型CPUクーラーを、Torrent Nanoには空冷CPUクーラーを組み込んだ。またQ58W4では、ラジエータに付けるファンの向きも変更して検証を行なった。

Q58W4では、ラジエータに取り付けるファンの向きも変更して温度を計測した。吸気ならCPUの冷却に有利で、排気ならビデオカードの冷却に有利

 CPU温度が低かったのはTorrent Nanoと、吸気方向のQ58W4だ。排気方向のQ58W4は、エアフローの経路的にビデオカードが発する熱を一部ラジエータにも取り込んでしまうため、やや高めの温度となる。GPU温度がもっとも低いのはTorrent Nano。高負荷時の温度を吸気方向のQ58W4と比べると、何と8℃も低い。18cm角ファンが取り込んだ外気を利用し、空冷でもしっかり冷やせるTorrent Nanoの強さが光る。

空冷CPUクーラーの性能を引き出す
Torrent Nanoのように強力なエアフローを持つPCケースなら、空冷CPUクーラーでも十分に冷えることが分かる

 Q58W4では、ファンの向きによってCPU温度やGPU温度が大きく変わることも分かった。両方の温度が80℃を超えない排気方向が個人的には最適と感じるが、組み込むCPUやビデオカードのグレード、どちらの冷却を重視するかでも最適解は変わるだろう。組み込むパーツに合わせて選択したい。

エアフローしだいで空冷でも十分冷える

 簡易水冷型と空冷という違いがあるのだから、Q58W4のほうが冷える場面もあるだろうと考えていたのだが、結果はTorrent Nanoの圧勝。内部が狭い上に熱源が近い場所にあるのは、各パーツの冷却にはあまりよくないことではあるのだろう。ただしQ58W4も、一般的なATX対応PCケース並みの冷却性能は確保できている。小型のゲームPCを作りたいというユーザーには、Q58W4が強力な選択肢になるのは間違いない。

サイズを考慮しないのであれば、やはり大型のファンと冷却重視の構造を採用するTorrentNanoが強い
【検証環境】
CPUAMD Ryzen 9 5900X(12コア24スレッド)
マザーボードASUSTeK ROG STRIX B550-I GAMING(AMD B550)
メモリCFD販売 W4U3200CM-8G(PC4-25600 DDR4 SDRAM 8GB×2)
ビデオカードGIGA-BYTE GeForce RTX 3070 EAGLE OC 8G(NVIDIA GeForce RTX 3070)
SSDMicron Crucial P1 CT1000P1SSD8JP[M.2(PCI Express 3.0 x4)、1TB]
電源Cooler Master V750 SFX GOLD(750W、80PLUS Gold、SFX)、Cooler Master GX GOLD 750(750W、80PLUS Gold)
CPUクーラーFractal Design Lumen S28(簡易水冷型、28cmクラス)、サイズ MUGEN5 Rev.B(サイドフロー、12cm角)
OSWindows 11 Pro
室温23.4℃
アイドル時OS起動から10分後の値
3DMark時3DMarkのStressTest(Time Spy)を実行したときの最大値
高負荷時OCCT 11.0.5の「Power Supply」を10分間実行したときの最大値
各部の温度使用したソフトはHWMonitor 1.46でCPUはTemperaturesのPackage、GPUはTemperaturesのGPUの値

※撮影の都合により掲載している作例写真と検証環境の構成は一部異なります

[TEXT:竹内亮介]

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