COMPUTEX AKIBA出張所

ゲーミングの強みを生かしてクリエイティブに切り込むMSI、PC本体もパーツも攻めの姿勢で挑む

text by 鈴木雅暢

 今年のCOMPUTEX TAIPEIで話題の一つが「クリエイター向け」。日本では漫画家やイラストレーターなど特定の専門職をイメージする傾向が強いが、海外では、YouTuberやインスタグラマー、プロもアマチュアも、写真や映像、コンテンツ製作を楽しむすべての人がクリエイターと認知されており、製品展開もさまざまだ。そして今回、多数のクリエイター向け製品を展示していたのがMSIだ。

 総合PCメーカーである同社はこの流れと今後の展開どう考えているのか、キーマンたちに目指すところをうかがった。

クリエイターにMSIのハイエンドゲーミングの性能を

エムエスアイコンピュータージャパン株式会社 代表取締役社長 江 富盛氏

――:近年クリエイター向けのモデルも強化している印象を受けています

[江 富盛氏]:2、3年前からノートPCでクリエイター向けの「Prestige」ブランドを展開していますが、本格的に注力しだしたのは昨年からです。弊社はハイエンドのPCパーツやノートPCが得意分野ではあるのですが、こうした製品はゲームだけではなく、クリエイター用途にも高いパフォーマンスを発揮します。「Prestige」シリーズのノートPCがユーザーから好評だったこともあり、現在では、PCパーツはもちろん、液晶ディスプレイや完成品のデスクトップPCなど、幅広いジャンルの高性能製品を展開しています。

 ハイエンドモデルを求めるクリエイターは多く、世界で1億ユーザーいると言われています。MSIはクリエイターが求める性能を満せる製品を多数ラインナップしており、ゲーミングで培った性能をクリエイターに提供していきたいと考えています。MSIはゲーミングの分野では世界NO.1のリーディングブランドとして評価されていますが、クリエイターの分野でも同じくNO.1ブランドを目指し、ハイエンドと言えばMSIと言われるよう積極的に製品を展開していきます。

【ノートPC】SNSユーザーも3DCG制作者もカバー

エムエスアイコンピュータージャパン株式会営業部ノートPC営業課マネージャー Felix Hung氏
ProductManager NB Product Planning Dept.-III Winni Wang氏

――:昨年もクリエイター向けのノートPCを展示されていました

[MSI]:当社のクリエイター向けノートPCラインナップとしては、大枠としてPRESTIGEブランドがあり、Pシリーズ(P65 Creatorなど)とPSシリーズ(PS42 Modernなど)があります。実はPRESTIGEブランド自体は数年前からあるのですが、とくに力を入れて展開したのは2018年の下半期に発売した「PS42」からです。

――:クリエイター向けを明確に打ち出した経緯やきっかけは?

[MSI]:クリエイティブな客層が増えてきたことが大きいですね。YouTubeでの動画配信をされる方が増えていますし、Instagramの写真、Tiktokの動画にしても、撮ったままでなくちょっと加工してよいものを載せたいという方が増え、「コンテンツを製作するためのPC」というもののニーズが増加していることを感じていました。

――:確かに気軽にクリエイティブな作品を投稿して楽しめるようになってきていますね

[MSI]:ノートPCを購入された方にアンケートを実施していますが、クリエイター向け製品を発売する前から、クリエイティブは主な用途としてそれなりのシェアがありました。クリエイター向けPCを発売してからはさらに増えました。

――:差し支えなければ具体的な比率を教えていただけませんか?

[MSI]:2018年の段階で一般を1とすると、クリエイティブが2、ゲーミングが7。クリエイター向けPCを発売後の最新の調査では、クリエイティブが増えて「1:3.5:5.5」くらいです。

――:PシリーズとPSシリーズの違いは?

「PS42 Modern」は、第8世代CoreプロセッサーのUシリーズとGeForce GTX 1050 with Max-Q Designを搭載可能。15.9mm厚、1.19kgとスタイリッシュな超薄型ボディが印象的だ

[MSI]:PSシリーズはクリエイターのためにゼロから新規設計したモデルです。SNS向けの写真や動画の編集向けを意識していまして、IntelのUプロセッサ、NVIDIAのメインストリームクラスのGPUを採用し、薄型軽量で持ち運びも楽にできます。Pシリーズは3DCG製作などよりハイパワーを求める方向けで、CPUはHプロセッサ、GPUもNVIDIAの高性能なものを採用しています。どちらも提供できるのはわれわれの強みの一つですね。

――:ボディカラーにシルバーを採用した理由は?

[MSI]:ゲーミングノートPCは黒が多いですので、違う色、おシャレなイメージということでシルバーを採用しました。女性の購買層も意識しました。2018年の東京ゲームショウ(TGS)では当社のノートPCを多数展示し、来場された方にご意見をうかがっていたのですが、クリエイターの方、女性の方にはシルバーやホワイトが人気でした。

――:デザインやカラー以外で意識したところは?

[MSI]:われわれが得意とする冷却についてもゲーミングノートPCとは違いがあります。ゲーミングノートPCはGPUを最優先に冷却しますが、クリエイティブでは基本的にCPUを最優先にして、メモリ、GPUの順で優先して可能な限りパフォーマンスを引き出します。

15.6型の液晶ディスプレイを搭載したハイパフォーマンスモデルの「P65 Creator」。CPUは第9世代Core i9、GPUがGeForce RTX 2070 with Max-Q Designとかなりのハイスペックを重量1.9kgの可搬性の高いボディに収めている
17.3型の大画面液晶ディスプレイを搭載した「P75 Creator」

――:冷却の優先順位が違うのですね

Creator Centerの画面。パフォーマンスをクリエイティブツールに最適化できる

[MSI]:クリエイティブアプリケーションでも、それぞれ影響力のあるハードウェアが異なります。Creator Centerでは、それぞれのクリエイティブアプリケーション向けのプロファイルを持っており、簡単に各種アプリケーションに最適なパフォーマンスが引き出せます。また、詳しい知識がある方向けに、ご自身でカスタマイズすることも可能にしています。

――:今後の展開について教えてください

[MSI]:クリエイター向けシリーズはこれからも力を入れて行きます。現在、新しいPSシリーズを開発中で、TGSの頃には発表できるのではないかと思っています。

【デスクトップPC】独自のセパレート構造でハイスペックと省スペース、静音性を両立

Administrator Product Marketing Sect. System Sales Dept. Jerry Tsai氏
Sales Manager Chia Yi Yeh氏

――:今回のCOMPUTEX TAIPEI 2019で、クリエイター向けにPrestigeシリーズの最新デスクトップPC「P100」を展示されていました。こちらの開発コンセプトを教えてください

[MSI]:クリエイティブに適したハイパフォーマンスを持ちながら省スペースで、かつ静音性に優れる製品を目指しました。また、スタイリッシュでエレガント、インテリアに溶け込むようなデザインを心掛けました。

――:展示されていたモデルを見ますと、CPUがCore i9-9900K、GPUがGeForce RTX 2080 Tiとかなりのハイスペックです

[MSI]:このハイスペックを搭載するために、ボディは完全な新規設計としました。主要な熱源であるCPU、GPU、電源を分離したセパレート構造を採用してエアフローを最適化し、約10リットルの省スペースボディに安定したハイパフォーマンスと静音性の両立を実現しています。もっとも、このスペックは技術力をアピールするためのものでもあります。日本で発売する際にはもう少し控えめなスペックになるかと思います。

――:Prestigeシリーズ初の液晶ディスプレイ「Prestige PS341WU」も同時に展示されていました。こちらはどんな製品でしょう?

[MSI]:こちらもクリエイター向けに新規に開発したものです。大きな特徴の一つが、21:9のアスペクト比で、解像度は5,120×2,160ドットです。作業領域が横に広いために、複数のクリエイティブツールを起動して並行して作業したり、ツールパレットなどを脇に置くスペースにしたりと、クリエイターが使いやすい仕様です。DCI-P3 98%、AdobeRGB 90%に対応する広色域も特徴で、VESAのDisplayHDR 600の要件も満たします。

――:ということは、AdobeRGBよりもDCI-P3のほうに重きを置いているということでしょうか?

[MSI]:どちらかと言われれば、そういうことになります。映像業界の標準であり、YouTubeなども含め、これからのデジタルコンテンツ製作の標準として使われていくと思っています。

――:今後の展開について教えてください

[MSI]:PrestigeシリーズではメインストリームデスクトップPCとして「PE130」も投入しています。こちらは搭載できるビデオカードがLow Profileのものとなり、2Dコンテンツの製作を行なうYoutuberやインスタグラマーなどをターゲットにしたものです。今後も、市場の反応を見ながら適切な製品を投入していきたいと考えています。

Prestige P100。独自のセパレート構造により、容積約10リットルのスリムなボディにCore i9-9900K、GeForce RTX 2080 Tiなどハイスペックを搭載可能
Prestigeシリーズ初の液晶ディスプレイ「Prestige PS341WU」。34型で表示解像度は5,120×2,160ドット(アスペクト比21:9)に対応。DCI-P3比98%の広色域、DisplayHDR 600の要件も満たす

【マザーボード部門】「Creation」はヘビークリエイター向け

Section Manager PM Dept.-I DPS R&D Div.-I Bobby Yuan氏

――:マザーボードとして、2018年後半からクリエイター向けの「Creation」シリーズを展開されています。こちらをきっかけはどういうものだったのでしょうか?

[MSI]:ヘビークリエイターのニーズに応えたものです。以前よりゲーミングマザーボードのユーザーから「クリエイティブ向けの高耐久マザーボードが欲しい」という要望は寄せられていました。

――:どんな特徴がありますか? GODLIKEとはどの辺りが違いますか?

[MSI]:高い耐久性、安定性を備えるとともに、多数のIOポートを使えるのが特徴です。また、ゲーミングの特徴である黒とRGB LEDで光るビジュアルから、クリエイターを意識して少し落ち着きのあるカラーリングを採用しています。

MEG X399 Creationは、19フェーズの超高耐久電源部を備えており、32コア64スレッドのRyzen Threadripperも安心して高負荷運用できる

――:今後Creationのラインナップを拡大する予定はありますか?

[MSI]:Creationはクリエイティブ向けのフラグシップと考えていますので、Creationでミドルレンジのモデルなどは予定にありません。世代の最上位のみで展開します。

――:なるほど。現在Creationは、X399、X299のモデルがあり、今回はX570の製品も展示されていました。Z390の予定はないのでしょうか?

[MSI]:Z390は予定にありません。なぜならば、現行のCoffee Lakeは8コアでしかないからです。Creationはヘビークリエイター向けであり、ヘビークリエイターにとってはCPUパフォーマンス、とくにマルチスレッド性能が重要です。超メニーコア仕様のCPUを持つプラットフォームのみにフォーカスしています。

AMD最新のX570チップセットを搭載した「MEG X570 Creation」。バックパネル部だけで12ポートのUSB 3.1(10Gbps)ポートを備える(うち1基はType-C)

――:今後、何コアくらいのCPUがあれば、Creationの開発対象になりますか?

[MSI]:最低でも10コア以上と考えています。AMDのRyzen 3000シリーズでは最大で12コア24スレッド(※)あります。プライスもリーズナブルで、最新のMEG X570 Creationと合わせてぜひ使っていただきたいですね。

――:クリエイティブでもそこまでヘビーユースではない用途、Youtuberやインスタグラマーなど向けのラインナップを用意する予定は?

[MSI]:今のところは考えていません。ゲーミングモデル以外でしたらPRO-Aシリーズがありますので、そちらをお勧めします。YouTube配信用など短い動画の編集や写真編集などの用途向けでしたら、PRO-Aでも十分な信頼性、耐久性を備えていると考えています。


(※)インタビュー時16コア32スレッドのRyzen 9 3950Xは未発表

【ビデオカード部門】ゲーミングとクリエイティブは近しい存在

エムエスアイコンピュータージャパン株式会社 FAE DPS営業部 新宅洪一氏
Product Manager GNP Dept.II Jay Wang氏

――:GeForce Creator Ready Driverが登場するなど、コンシューマ向けGPUのクリエイティブ活用が盛り上がりつつあります

[MSI]:ビデオカード製品については、ゲーミングとクリエイティブ、技術的な要求については非常に近しいところがあります。どちらも高性能が求められる分野であり、高負荷を長時間かけるという点は共通しています。ですので、当社がゲーミングモデルで培ってきた冷却、耐久性、静音性に対する技術はクリエイティブにも活かすことができます。

――:NVIDIAのGeForce Creator Ready Driverについてはどう見ていますか?

[MSI]:現時点では、とくにクリエイティブでの性能が大きく伸びるとは確認できていません。ただ、ドライバの開発段階でNVIDIAさん自身でクリエイティブのワークフローをトレースした動作検証が行なわれています。クリエイティブアプリでの互換性、安定性が高く、安心して使っていただけるという面が一番のメリットだと思います。

――:ビデオカードでクリエイター向けの製品をリリースする予定などがありますか?

[MSI]:大々的にクリエイター向けとうたっているわけではないのですが、クリエイターを強く意識した製品として新たに「VENTUS」シリーズを展開しています。GAMINGシリーズで培った技術を、扱いやすいフォームファクターに落とし込んでいます。

――:GAMINGと比べるとシンプルなデザインですね

[MSI]:はい。GAMINGではハイエンドGPUを搭載したモデルは大きな3連ファンのGPUクーラー(TRI-FROZR)を採用しており、搭載できるPCケースも限られますし、デザインもRGB LEDを活用したハデなものを採用しています。VENTUSでは、それとは別の選択肢として、クリエイターのイメージを意識して、合わせやすいニュートラルなデザインを採用し、カード全長も226mmと扱いやすいサイズに抑えています。その上、ゲーミングモデルで培った冷却技術、高耐久設計を随所に導入しています。

 たとえば、GeForce RTX 2070 VENTUS 8Gでは、ヒートパイプの底部もなめらかに加工した「スムースヒートパイプ」、ブレード形状を工夫してエアフロー効率を高めた「トルクスファン 2.0」を導入しているほか、冷却効率化に加えて、部品保護や基板の反りや歪みの防止に効果があるバックプレートも装着しています。

――:なるほど。シンプルな中にもMSIクオリティが詰まっているということですね

[MSI]:そういうことです。当社の強みである冷却性能、静音性、耐久性といったところはしっかり活かされていますので、高負荷で運用する場合も安心して使っていただけます。

クリエイターを強く意識して開発したと言う、VENTUSシリーズのGeForce RTX 2070モデル「GeForce RTX 2070 VENTUS 8G」。GAMINGシリーズで培った技術を活かし、全長226mmのコンパクトなサイズで高負荷運用に耐えるクオリティを備えている

――:RTX 2070のサイズ(226mm)ならかなり小さいケースにも入りますね

[MSI]:このサイズなら古いシステムにも入れやすいので、アップグレード用途も想定していて、UEFI非対応のシステムにも対応できるVBIOSを搭載しています。

 余談ですが、RTX 2080のVENTUSですと2070に比べると少しサイズは大きくなります(268mm)が、VirtualLink対応のType-Cコネクタを搭載しています。VirtualLinkはVR向けの規格ではありますが、通常のUSB 3.1 Type-Cコネクタとしても使えますので、外付けSSDなどを高速に接続できるインターフェースが一つ増やせます。マザーボードがUSB 3.1に対応していないシステムにとっては一石二鳥と言えるかもしれません。

――:ところで、ゲーミングモデルをクリエイティブユースに使うことに問題はないのでしょうか?

「GeForce RTX 2080 Ti Lightning-Z」はゲーミング向けのフラグシップだが、クリエイティブでも最強と言える存在。サイドにあるOLED「ダイナミックダッシュボード」にはGPU温度やファンの速度などシステム状態が表示可能で、ヘビーなクリエイティブとは相性がよい

[MSI]:もちろんです。純粋に性能を追求するのであれば、大型のクーラーや高耐久電源設計を導入したLightningやGAMING TRIOに優位があります。これらのゲーミングモデルでもCreator Ready Driverが導入できますので、クリエイティブでも安心して使っていただけます。LightningのサイドにあるOLED「ダイナミックダッシュボード」にはGPU温度やファンの速度などシステム状態が表示できるので、クリエイティブの中でもGPUレンダリングをさせるような高負荷運用には向いていると言えます。Creator Centerも使えますので、クリエイティブアプリへの最適化も行なえます。

――:今後について教えてください

[MSI]:今後もより冷えて、より耐久性が高く、より安定性のよいビデオカードを出していきたいですね。そのために研究開発には投資し続けていますし、サークルタイプのヒートパイプなどの新技術の研究も進めています。

[製作協力:MSI]