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低予算ゲーミングPCにはゲーミング向けLinux「Bazzite」を使え!【2】設定編

Bazzite生活のクオリティを高めるための設定ガイド text by “KTU”加藤 勝明

 メモリ価格推移がとんでもないトレンドを示している今、ゲーミングPCを可能な限り低予算で構築したいと考えたとき、Windows 11(17,000〜23,000円)の出費も少しでも圧縮したいものだ。そこで注目したいのが、ゲーミングPC向けLinuxディストリビューション「Bazzite」だ。

 無料で利用でき、かつ初心者にとってハードルの高いGPUドライバの導入が不要(OSイメージに導入済)、さらにWindows向けのゲームを実行する環境が整っている、などなどの特徴を備えているのがBazziteだ。UbuntuやMintといった知名度の高いLinuxでもWindows用ゲーム実行環境を準備するのは可能だが、そこに到達する時間的・手間的なコストはBazziteのほうが圧倒的に低い。本誌では短期集中連載として、そのメリットや運用などについて解説していく。今回はその第2回だ。

 前回はBazziteの概要と基本的なインストール手順について解説した。前回までの内容を押さえておけば、Steamクライアント(Bazziteと同時に入る)を利用してゲームをダウンロードし遊び始めることができる。

 だが、ここにもう少々手を加えることでQOLがさらに向上する。今回は、Bazziteを導入したら済ませておきたい設定やノウハウなどを紹介するとしよう。なお、本稿ではBazziteのデスクトップ環境はBazzite公式が推奨する「KDE」、インストール時の言語環境は日本語であることを想定している。

KDE版Bazziteのデスクトップ。Steamクライアントは最初から導入されているため、ゲームをインストールする準備はすでにほぼできている

インストール後にやるべき設定

 まずは確認あるいは変更しておきたい設定について解説しよう。項目ごとに筆者視点での重要度も示しておいた(星が多いほど重要)。

サウンド出力の確認【重要度:★★★★】

 Bazziteのサウンド出力先はオンボードのアナログ出力がデフォルトとなっている。HDMIなどでディスプレイのスピーカーに出力することを想定している場合、これでは音が出ないため手動で設定を変えておこう。Windowsのようにタスクトレイのスピーカーアイコンで出現するメニューで設定する。ただ、出力デバイスがWindows環境ほど分かりやすい名前になっていない。3つ以上の選択肢がある場合は総当たりで試せばよいだろう。

Bazziteのオーディオ設定はタスクトレイのスピーカーアイコンで行う。図ではOutput Devicesには2種類認識されているが、上がGPU側(テスト環境で使用しているRX 9060 XTを示している)のHDMIやDisplayPort経由の出力を、下がオンボードのHD Audio経由のアナログオーディオ出力を示している。名前の左にある丸いボタンで選択したら、対応するボリュームを変更して音が出るか確認しよう

「GE-Proton」の導入【重要度:★★★★★】

 LinuxでWindowsのゲームを動かすためのカギとなるのが「Proton」と呼ばれる互換レイヤー(Compatibility Layer)である。ProtonはSteamクライアントと一緒に標準で組み込まれるが、ゲームによっては本家Protonから分岐した「GE-Proton」を利用したほうがよい場合がある。たとえば筆者の場合、Steam版「Marvel Rivals」は標準のProton環境だと起動すらできなかったが、「GE-Proton10-25」(本稿執筆時の最新バージョン)を導入することで起動可能になった。また、GE-Protonは特にRX 9000シリーズ以降でのみ利用できるFSR 4を有効化する際にも役立つ(後述)。

 GE-Protonの導入は、Bazziteのストアアプリである「Bazaar」から、互換レイヤーの導入ツール「ProtonUp-Qt」をまず導入し、そこから利用したいバージョンのGE-Protonをダウンロードして導入する、という流れ。一連の作業は全自動なので特に悩む部分はない。ちなみに、Gnome版のBazziteを使用している場合は、ProtonUp-Qtではなく「ProtonPlus」を利用する点に注意したい。

BazaarでProtonUp-Qtをインストール。インストールが終了したら起動しておこう
ProtonUp-Qtのメインウィンドウ(左)が出現したら「Install for」でSteamが選択されていることを確認。その後「Add version」へ進むと右のウィンドウが表示される。上から「GE-Proton」、「GE-Proton10-25」を選択することでGE-Proton10-25が導入できる(もしくは導入時点での最新のGE-Protonを選択・導入)。最後に「Install」をクリックすれば、あとは全自動でやってくれる
作業が終わると中段の一覧にGE-Proton10-25が追加される。これでSteamにGE-Protonのバージョン10-25が組み込まれたわけだ。ここでSteamクライアントを一旦終了し、再び起動しておこう
SteamではGE-Protonを利用したいゲームの「プロパティ」→「互換性」と進み、「特定のSteam Play互換ツールの使用を強制する」にチェックを入れる。先ほど指定したGE-Proton10-25を指定すると、そのゲームはGE-Proton10-25を利用して動作するようになる
ゲームごとに設定するのがめんどうならSteamの設定→「互換性」と進み、デフォルトの互換性ツールから指定するという手もある。この場合Steamゲームすべてに変更を加えることができる

日本語入力環境の整備【重要度:★★★★】

 現状のBazziteは日本語環境でセットアップしてもすぐ日本語が入力できるようにはなっていない。ただ、本稿での“日本語入力”とは、Bazzite上で動作する各種アプリ(Webブラウザーやテキストエディターなど)での入力を指しており、ゲーム内チャットでの日本語入力ではない。

まず「KDEシステム設定」を開き、「キーボード」→「仮想キーボード」と進む。ここで「Fcitx 5 Waylandランチャー」を選択する

 続いては「fcitx5-autostart」の導入だ。これでBazziteが起動するとインプットメソッドも同時に起動するようになる。Bazziteに標準搭載されている「ターミナル」を起動し、以下のコマンドを入力して導入しよう。

rpm-ostree install fcitx5-autostart
ターミナルからfcitx5-autostartをインストールする。終了したら普通にスタートメニューから再起動しよう。再起動すると画面上に警告メッセージが出るが、無視してよい

 これでブラウザーへの日本語入力やテキストエディタ「Kate」などでの日本語入力が可能になる。インプットメソッド(KDEの設定画面上での表記は入力メソッド。Windowsなどで言うところのIME)は、JIS配列なら「全角/半角」で、ANSI配列なら「Ctrl+スペース」でON/OFFができる。このON/OFFするホットキーもカスタマイズ可能だ。

インプットメソッドをON/OFFするホットキーを変更する場合はKDEシステム設定の「入力メソッド」→「グローバルオプション」を見よう。「一時的に第1入力メソッドに切り換える」とは、日本語入力中に押すことで英数入力に切り換え、もう一度押すことで日本語入力に戻るという機能である
Steamクライアントで日本語入力を試している様子

Steam産ゲームのインストール先を変更する【重要度:★★】

 Steamで配信されているゲームをそのままインストールすると、不可視フォルダーの中(/var/home/ユーザー名/.local/Steam以下)にインストールされる。別にこの状態でも問題はないが、ゲームのModを導入する、特に実行ファイルと同じ階層にDLLファイルなどをコピーするタイプのModの場合不可視フォルダーではない所に置いておくほうがなにかと楽である。このタイプのModの例としては画質をカスタマイズする「OptiScaler」が挙げられる。

 筆者がオススメする方法は、自分のホームディレクトリーの直下に「Games」フォルダーを作り、さらにその中に「01」、「02」、「03」といったフォルダーを作るというものだ。まずは01フォルダーをSteamで配信されるゲームのデフォルトのインストール先にしておく。02以降は将来Steamライブラリ用に追加するストレージのための予約枠だ。Gamesフォルダーは後述するLutrisでも利用するため、Games→01という階層は最低限用意しておくことをオススメする。

Dolphin(Windowsで言うところのエクスプローラー)でホームを開き、ここに新規フォルダーを作成する
フォルダー名は「Games」としよう。このフォルダーはLutrisで導入するゲームの標準インストール先でもあるため、作っておいて損はない
さらにその中に「01」や「02」といったフォルダーを作成しておく。これらのフォルダーにSteamライブラリを割り当てるというわけだ。02以降は今すぐ必要にはならないため、後で作成しても問題はない
Steamクライアントの設定から「ストレージ」を開いたら、図のように「ドライブの追加」を選択
先ほど作成しておいたGames内の01フォルダーを指定しよう。フォルダーリストが長くて面食らうが、homeにある自分のユーザー名のフォルダーを探せばよい
先ほどドライブを追加したメニューを開き、先頭のアイコンがSDメモリーカード風のものを選択しよう。するとすぐ下に先ほど指定したフォルダーのパスが表示されるはずだ(図では/var/home/bazzite/Games/01)。最後に三点リーダーアイコンからメニューを開き「デフォルトに設定」すればよい。以降SteamがインストールするゲームはすべてGames/01フォルダー内に格納される

 このやり方は筆者の好みであるため、これが絶対というわけではない。自分なりの管理スタイルに合うやり方があるなら、そちらを使って問題ない。

MangoHUDの導入【重要度:★★★】

 Windowsなら「Afterburner」、あるいは「CapFrameX」+「RTSS」を利用してゲーム画面上にフレームレートやCPU/ GPUの負荷をオーバーレイ表示することができる。Bazziteで同じことをしたい場合は「MangoHUD」の出番だ。BazziteならBazaar経由でMangoHUDの設定ツール「Mangojuice」を導入することでMangoHUDも導入される。

 ただ、MangoHUDを使う場合はゲームごとに設定する必要がある点に注意したい。Steamのゲームでは、起動オプションに特定の引数を付けることで、MangoHUDがそのゲームで利用できるようになる。

Mangojuiceの画面。MangoHUDでオーバーレイ表示させたい項目をONにするだけ。右上にある「Test」ボタンでプレビュー可能だ
フレームレートも平均値だけでなく下位1パーセンタイル点なども表示可能
Testボタンで実際のオーバーレイ表示をプレビューしているところ
Steamで配信されているゲームでMangoHUDのオーバーレイを有効化したい場合は、ゲームの起動オプションに「mangohud %command%」と記入する
実際のゲーム画面ではこんな感じになる。「VKD3D」の欄に表示される値がリアルタイムのフレームレートとなる

LutrisでSteamにないゲームを導入する

 BazziteにはSteamクライアントが最初から導入されているため、Steamで配信されているゲームの導入は非常に楽だ。しかしSteam以外で配信されているゲームを遊ぶにはどうすればよいか? DRMのないゲームならSteamクライアント上で「非Steamゲームをマイライブラリに追加」すれば遊ぶことができる。この手順に関してはWindowsと同じだ。

 だが、専用ランチャーから起動するタイプのゲームはそうはいかない。その場合に活躍するのが、Bazziteにプリインストール済みの「Lutris」である。ここでは「Zenless Zone Zero」を導入する手順について解説しよう。

Webブラウザー(標準はFirefoxだが、好きなブラウザーをBazaarで入手するとよい)でLutris公式サイトへアクセスし、検索からZenless Zone Zeroの情報ページへ移動。ページ下方にあるInstallボタンのうち、「Wine」と分類されているほうのボタンを押す
ここで「xdg-openを開く」を選択すると、LutrisでZenless Zone Zeroをインストールする処理が始まる
するとLutrisのUIが起動するので、右上の「Install」ボタンを押す。まずはランチャーであるHoyoPlayのインストールからだ
インストール先の指定。前述のGamesフォルダーがここで輝くのだ(たいしたことではないが……)
デフォルトではHoyoPlayのインストーラーをネットで落とす設定。すでに手元にあるなら右のSourceを変更しローカルにあるファイルを直接指定することも可能
やがてHoyoPlayが起動する。後の手順はWindows環境とまったく同じだ。裏のログ画面に「radv is not a conformant Vulkan implementation」という不穏なメッセージが出るが、特に害はない(radv=Radeon用のオープンソースVulkanドライバ)
最後にゲーム本体のダウンロードを行う。この画面に初めて到達した状態だとLutris視点ではセットアップが完了していないため、初回はこのランチャーを右上の×ボタンで終了するとよい。するとログ画面も消えインストール処理が完了する
LutrisにZenless Zone Zeroが登録された。下のPlayボタンで起動する
LutrisでMangoHUDを使いたい場合は、Playの横にある▲から「Configure」を選択
「System Options」から「FPS counter (MangoHUD)」をONに設定。右上の「Save」ボタンも忘れずに
MangoHUDを利用し、CPUやフレームレートの情報をオーバーレイ表示させながら、Zenless Zone Zeroをプレイすることができた

 BazziteでEpic Games産ゲームをプレイする方法は大きく2つある。まずはLutrisで「Epic Games Store」を導入し、その上でゲームをインストールするという方法だ。先のZenless Zone ZeroのHoyoPlayがEpic Gamesに変わっただけだ。また、Bazaarで入手できる「Heroic Game Launcher」を利用するという手がある。Heroic Game Launcherのほうがインストール先の管理方法としてエレガントだが、MangoHUDとの連携にはまた一手間必要だ(詳細については本稿ではひとまず割愛する)。

LutrisでEpic Games Storeを導入し、その上でEpic Gamesで配信されているゲームを導入する。MangoHUDとの連携に手間も不要なのでよいが、ゲームのインストール先がファイル階層の奥に入ってしまいやすいため、そこだけが難点である
Heroic Game Launcherはこのランチャー上でEpic GamesやGOGのアカウントと連携し、そこで実行できる。中身はLutrisと同じWineで動いているのだが、Epic Games産のゲームが多ければこちらのほうがスマートかもしれない

FSR 4を利用する(RX 9000シリーズ)

 Radeon RX 9000シリーズでは、AIを利用したアップスケーラー「FSR 4」が利用できる。Windows環境の場合AMD Softwareを利用して有効化すればよいが、BazziteにはAMD SoftwareがないためFSR 4の有効化はできない。

 だが、前述のGE-Proton環境を導入することにより、FSR 4がゲーム単位で有効化できるようになる。原稿執筆時点ではGE-Proton10-25の導入によってFSR 4の有効化を確認できた。

 GE-Protonの導入は済んでおり、ゲームもしくはグローバルでGE-Proton10-25の指定も済んでいるという前提で話を進める。

Marvel Rivalsにおける記述例。FSR 4を利用したいゲームのプロパティを開き、「PROTON_FSR4_UPGRADE=1」を追加する。画面はMangoHUDと同居させる場合の記述になっているが、MangoHUDを使わないのであれば、PROTON_FSR4_UPGRADE=1より後ろの文字列は不要だ
PROTON_FSR4_UPGRADE=1を追加したので、ゲーム内のアップスケーラー設定でFSR 4が選択可能になった

 Marvel Rivalsではゲーム内の設定にFSR 4が出現するが、FSR 4を有効化してもFSR 3としか表示されない設計のゲームもある。「Stellar Blade」がその好例だが、FSR 4の動作は画質から確認できるだろう。

「Stellar Blade」にPROTON_FSR4_UPGRADE=1を指定しFSR 4を有効化した場合(上)と指定せずFSR 3で起動した場合(下)の画質比較。FSR 3では前髪のような細かい部分のディテールが激しく劣化するが、FSR 4でAIによるアップスケール処理をすることで画質が大幅に向上する。図は解像度フルHD、画質「とても高い」設定でキャプチャーしたもの(アニメーションで確認/41MB)

Linux特有の制約や学習コストはあるが、実用に値するOS

 Bazzite短期連載2回目はこれで終了だ。まだ解説しきれない部分はあるが、ここまで押さえておけばよいだろう。前回も述べたとおり、 ゲームをする上ではWindows 11が現在最も性能を引き出せる 選択肢であり、BazziteはOSの費用を浮かすための選択肢に過ぎない。

 約2万円が節約できたとしても、Bazziteでは動かせないゲームは存在するし、Bazziteの操作を覚える学習コストもある。ただ、Bazziteは実によくできており、日本語入力設定などLinuxを使うハードルを許容できるのであれば、OSにかかるコストを圧縮できるという点では“よい選択肢”と考えられることは間違いない。

 次回は実際に組んでみた低予算PCで、Bazziteがどの程度のパフォーマンスを出せるのか検証していきたい。お楽しみに。

動画によるKTUのBazzite紹介はこちら

【無料のゲーム用OS「Bazzite」(バザイト)が低予算ゲーミングPCに効く!どんなゲームが動く?パフォーマンスは?】