プロダクトレビュー・ショーケース
低予算ゲーミングPCにはゲーミング向けLinux「Bazzite」を使え! 【1】インストール編
Bazziteでできることの整理と超初心者向け導入手順を解説 text by “KTU”加藤 勝明
2025年12月5日 09:00
可能な限り低予算でゲーミングPCを組もうとする場合、「Windows 11」のコストに頭を痛めた経験はないだろうか? Windows 11のHome版なら現在1万7000円程度、Pro版なら2万3000円程度で売られているが、低予算であればあるほどこの2万円の出費は大きい。とはいえ、Windows 11はハードとソフト両面の資産が膨大、かつノウハウも見付けやすい。この安心感を得るための2万円は決してムダではない。
しかしメモリ価格は今夏の3倍以上に膨れ上がり、ドル円レートも不利な方向に振れるなど不安材料も多い。Windows 11の約2万円を浮かすことができれば、CPUやGPUをもう1ランク上にできるかもしれないし、よりよいモニターやゲーミングデバイスを追加することも可能になる。だがOSなくしてPCは動作しない。このジレンマをどう解決すべきか……?
こんなときだからこそ“Linux”という選択肢に向き合ってみる
そこで注目したいのがLinuxディストリビューションのひとつ「Bazzite(バザイト)」である。これはValveのポータブルゲーミングデバイス「Steam Deck」に搭載されている「SteamOS」にインスパイアされ誕生した、ゲーミング向けのディストリビューションである。
Linuxと言えば「Ubuntu」や「Linux Mint」などの知名度の高いディストリビューションが思い浮かぶが、このBazziteは「ChromeOS」のメンテナンスフリーなスタンスを採り入れ、アップデートに手を煩わせないことにフォーカスしている。そしてBazziteは無料で使用できる。運用がシンプルでしかも無料、ということであれば使わない手はない。
最初に言っておくが、Bazziteとて万能ではない。PCゲームにおいてWindows 11に勝る環境はないのだ。BazziteはOSのコストを削ってでも予算を圧縮したい人、最近のWindowsのトラブルに嫌気がさした人に使っていただきたいOSである。主にソロプレイのゲーム向けPCと割り切って使う人であれば、積極的に試していただきたい。
そこでBazziteを使ってみたいが、具体的な解説が欲しい人のために短期連載的にまとめてみる。第1回目はBazziteをPCにインストールする手順を解説する。
数あるLinuxからBazziteを選ぶ理由は何か?
Linuxには多数のディストリビューションがある中、なぜBazziteを選ぶのか? まずはその理由を列挙してみよう。
1.Steamなどゲームを遊ぶための環境が導入済み
Bazziteのセットアップが終了すれば、すぐSteamクライアントを起動できる状態でセットアップされる。Ubuntuのような“一般向けの”Linuxディストリビューションでは後から自分で導入する必要があるが、実はこれが意外と曲者なことがある。Steamクライアントの導入ルートはディストリビューションにより違う上に、導入しても素直にSteamが起動してくれるとは限らない。たとえばUbuntu 25.04のプレーンな状態では、Steamクライアントは起動してもウィンドウが出ず、そこから設定が必要になる。
BazziteならばOSセットアップ後すみやかにゲームのセットアップに進むことができる。ゲームを遊ぶためのOSなのだから、この割り切りと気楽さは最高である。
Steam以外のゲームもプレイしたい人向けには、標準でセットアップ済みの「Lutris」、あるいはストアアプリ「Bazaar」から入手できる「Heroic Game Launcher」を利用するとよい。Epic Gamesで配布されている「原神」や「ゼンレスゾーンゼロ」といったゲームはこれらを通じて導入することになる。これらの使い方に関してはいずれ解説するとしよう。
2.GPUドライバが導入済み、かつ更新頻度も高い
LinuxにおけるGPUドライバ導入は初心者がつまずきやすいポイントだ。ディストリビューションごとにパッケージが異なるため、Windowsのように公式からドライバをダウンロードすればよいという話でもない。ディストリビューションのパッケージ管理システムで配布されるドライバを待つほうがよいケースもままあるのだ。
だがBazziteでは最初からGPUドライバが導入済みの状態でISOイメージが用意されているため、GPUドライバ導入というステップを完全に飛ばすことができる。もっと言えばチップセットやLANのドライバ導入すら飛ばすことができる(例外は多分あるだろう)。
Bazziteでは主要なドライバはパッケージの一部となっており、OSのアップデートでGPUドライバも一緒に更新される。この気楽さがUbuntuやDebianではなくBazziteをお勧めする理由でもある。ちなみにGPUを乗り換える場合は、rebaseと呼ばれる作業を行いOSのコアイメージを入れ換えることになる。この辺はWindowsのほうが気楽と言える。
3.システムを壊しにくい
システムのセットアップであれこれといじっているうちに動作が変になって最初からやり直すのは“Linux初学者のあるある話”だ。だがBazziteではシステムのコア部分は管理者権限でも書き込み禁止となっているため、ユーザーが破壊的な操作をしてしまう可能性が相対的に低い(Immutableと呼ばれる)。OSアップデートで何か不具合があっても、以前動いていた状態にロールバックすることもたやすいのもありがたい。
さらにBazziteではアプリはアプリとライブラリーをパッケージ化して展開する「Flatpak」を用いるのが定石となっているのも、アップデートにまつわる失敗を大きく軽減してくれる。アプリで必要なライブラリーがほかのアプリと競合する可能性を排除し、アプリのアンインストール時にもほかのアプリに影響をおよぼさない。これもシステムの壊れにくさに貢献している。
しかしその一方でFlatpakはアプリをサンドボックス環境で動かすため、アプリ間の連携を取りにくいというデメリットもある。この仕様ゆえにBazziteはシステム開発などにはあまり向かないLinuxという評価もある。だがすべてはPCゲームを気楽に遊ぶことに注力しているがゆえの仕様なのである。
Bazziteを「使うべきではないケース」を回避する
BazziteではWindows向けのゲームをLinux上で遊ぶために現状最高の環境が揃っているが、どうにも突破できない点が1つある。それはゲームによっては「アンチチート機能」が邪魔をしてBazziteはもとよりLinux環境では動作しない場合があるからだ。
ゲームが利用するアンチチート機能の代表例としては「EasyAntiCheat(EAC)」や「BattleEye」、「Vanguard」などがあるが、Windows環境でないと動作しないアンチチートを使っているゲームがある。「フォートナイト」、「PUBG: BATTLEGROUNDS」、「Apex Legends」、「Call of Duty」、「VALORANT」など、eスポーツ性の強いゲームがこれに該当する。「Counter-Strike 2」や「オーバーウォッチ 2」のようにeスポーツ性の強いゲームであってもBazziteで動作するゲームも存在するので絶対NGというわけではないが、例としては少ない。
そこで最初に、Linux(Bazzite)と遊びたいゲームの動作状況確認をすませておきたい。まずは「protondb」をチェックするのが最善手だ。ここにはSteamに登録されているゲームに対し、Steam DeckやChromebookで動作するか否かという互換性情報が大量に蓄積されている。まずはprotondbで遊びたいゲームを参照し、Silver/ Gold/ Platinumと格付けされているか確認しよう。ただSilverに格付けされていても実際にはLinuxで動かないゲームもまれに存在するという落とし穴もある。
Steam以外の配信サービス(Epic GamesやGOGなど)でしか配信されていないゲームの情報を調べたい場合は「Lutris」を参照するのがよい。
protondbやLutrisで自分の遊びたいゲームが遊べるという情報を得たなら、Bazziteに飛び込む準備は半分終わったようなものだ。
Bazziteに向いているハードは何か?
以前は「Linuxは最新ハードが苦手」などと言われていたこともあったが、現状のLinux、とりわけBazziteでは最新ハードでも問題なく利用できる。GeForceのRTX 50シリーズやRadeon RX 9000シリーズといった最新GPUはもちろんのこと、大抵のWi-Fiや有線LANのドライバもビルトインのドライバで動作する。よほど特殊なRAIDやネットワーク系カードを使っているのでなければ、ドライバを用意する必要もない。
ただ注意したいのは、GPU(ゲームで利用するGPU)によってISOイメージが分かれている点だ。その選択さえ間違わない限り、最新のRadeonやGeForceでも問題なく利用できる。特にGeForceのLinuxドライバは、ウィンドウマネージャ「Wayland」との相性が最悪とされてきたが、BazziteのGeForce向けイメージであれば間違いなく動作する(失敗した例は寡聞にして知らない)。
ただし注意点としては、Bazziteに収録されているGPUドライバはコア部分だけであり、Windows環境におけるドライバ付属のアプリは導入されない。Radeonなら「AMD Software」、GeForceなら「NVIDIA App」がこれに該当するが、これらが提供する録画機能や画質の設定機能が使えないことを意味する。特にRadeonの場合ドライバで処理するフレーム生成機能「AFMF」があるが、こうした機能もBazziteでは利用できない。画面録画機能は「OBS Studio」を導入すればカバーできるだろう。
インストール手順は簡単だが、最初の選択が重要
さあようやくBazziteのインストール手順だ。必要なものは8GB以上のUSBメモリとBazziteのISOイメージ、そしてイメージを書き込むツール(筆者は「balenaEtcher」をお勧めする)の3点が必要だ。
インストール用のISOイメージはBazzite公式ページへ行き「Download Bazzite」ボタンから飛ぶ。最初にインストールする対象を質問されるが、普通のデスクトップPCであれば「Desktop」、ノートPCなら「Other Laptop」を選択すればよい。GPUは前述のとおり、ゲームに使用するGPUに適したものを選択する。デスクトップ環境は「GNOME」か「KDE」の2択あり、これは好みでよい。ただBazzite公式のオススメはKDEであるため、本稿はKDE版前提で解説している。
最後に「Steam Game Mode」の有無を尋ねられるが、これはSteam Deckのような操作フィーリングの専用UIをかぶせたバージョンだ。普通のデスクトップモードに随時切り替えられるが、デスクトップPCならばSteam Game Modeは「No」でよい。
インストールをはじめる前に、マザーボードのBIOS設定を開きSecure Bootが有効になっている場合はまず無効化しておこう。後からSecure Bootを有効化することもできるが、今回はSecure Bootなしのままでいくことにする。
これより解説する手順はBazziteをインストールするドライブの領域すべてをBazziteに割り当てる前提で解説している。少しPCのことを知るとデュアルブートに挑戦したくなるが、それは予後の悪い茨の道である。どうしてもWindowsも試したいなら、物理的にドライブを分け、BIOSの起動デバイス選択で切り替えることを強く推奨したい。
OSのアップデートも忘れずにすませておこう。スタートメニューのお気に入りにある「System Update」で行う。
次回はBazzite生活の“質の向上”を目指す
以上でBazziteのセットアップは完了だ。ここまで進めばSteamクライアントを起動し、ゲームをダウンロードして遊び始めることができる。
この状態でもLinuxを利用してWindowsのゲームを遊ぶという目的は達成できたが、QOLを高めるためにはもう少々手を入れたほうがよい。そこで次回は、BazziteライフのQOLを向上させるための設定を解説することにしよう。


























