プロダクトレビュー・ショーケース
毎日使っても長寿命、放置しても膨らまず安心。「準固体電解質モバイルバッテリー」のススメ
従来バッテリー相当の性能で“釘を刺しても燃えない”設計!
2025年12月26日 09:00

スマートフォンを始めとしたモバイル機器の普及で、今や持っているのが当たり前の存在になったモバイルバッテリー。普段から持ち歩いてはおらずとも、家には置いてあるという人も多いだろう。そんな中、リチウムイオンバッテリーの発火や爆発といった事故も発生しており、その危険性も度々話題となっている。
そういった背景から“より安全なバッテリー”を謳う商品も登場しているが、その先駆けとなったのが、2024年末に発売された浜田電気オリジナルブランド、HAMAKEN WORKSのモバイルバッテリー「SSPB」だ。
従来バッテリーと変わらない携帯性
SSPBという商品名は「Solid State Power Bank」の略称で、詳細は後述するが準固体電解質の採用が特徴だ。
今回購入したモデルは容量10,000mAhのブラックモデル(HW-SSPB100BKN)で、ホワイトとピンクゴールドのカラーも用意されており、店頭価格は8,980円だった(2025年12月時点)。
このほか、より薄型軽量な容量5,000mAhモデルも用意されている。



外観はシンプルで、従来のモバイルバッテリーと大きく異なる点はない。主にアルミ合金製の筐体で、放熱性にも優れており、質感もしっかりしている。

10,000mAhの容量ながら片手で持てる大きさで、携帯性も十分だ。

モバイルバッテリーの発火は熱暴走が原因
SSPBの特徴について説明する前に、リチウムバッテリーが発火するメカニズムをおさらいしよう。
リチウムイオンバッテリーは、負極と正極の間に電解質とセパレーター(隔膜)を挟んだ構造となっている。
絶縁体であるセパレーターは、通常プラスチックなどの薄い膜で、強い衝撃を受けたり鋭利なものが刺さるなどして、セパレーターが破損するとショート(短絡)が発生し、発火の原因となる。
空の状態(過放電)で放置してから再充電した際に発生しやすいのが、デンドライト(枝状結晶)と呼ばれる結晶体の発生だ。充電時に電解液中のイオンが不均一に電極の表面に積み上がってデンドライトを形成することがあり、これがセパレーターを破損させる要因となってしまう。
そして従来のリチウムイオンバッテリーで採用されている電解質は液体で、この電解液が熱で可燃性ガスに変質する特性がある。
簡単にまとめると「ショートによって熱が発生→電解質が可燃性ガス化→熱で電極の金属酸化物が崩壊し酸素を放出→ショートによる火種+可燃性ガス+酸素が揃うことで連鎖反応により爆発・燃焼」というのがメカニズムとなる。
ちなみに、電解液は高熱だけでなく、満充電で放置した場合にも分解が進みガスに変質してしまう。放置したバッテリーが膨張する主な要因だ。
釘を刺しても火が出ない、物理的に発火要因を抑え込む準固体電解質

では、「準固体電解質」を採用するSSPBは従来バッテリーと何が異なるのだろうか。
前項で説明した通り、従来のリチウムイオンバッテリーは、電解質に液体を採用するが、SSPBでは、液体含量を3%に抑えたというゲル状の準固体電解質を採用する。
この準固体電解質の採用で、落下や強い衝撃を与えても安全であるとしており、同社では「釘を刺しても発火しない」という安全性を謳っている。同社試験では、釘を刺しても発火しない様子も公開されている。

電解質がゲル状のため、デンドライトが成長するのを物理的に抑制できるほか、電解質の分解によるガス発生も抑えられている。
一般的なリチウムイオン電池の使用温度範囲は0~35℃、ニッケル水素電池で-20〜50℃の場合が多い(車載用などではもっとレンジの広い場合もある)のに対し、SSPBでは使用・保管可能な温度範囲を-20~80℃としており、幅広い温度帯で使えるのもポイントだ。
寿命やエネルギー密度も向上。「安全かつ軽い」を実現する準固体電解質
準固体電解質の採用は、安全性の面だけでなく、長寿命化にも寄与している。
SSPBは2,000回の充放電サイクル後も容量80%を謳っており、液体電解質の従来バッテリーに対して4倍以上のサイクル寿命があるとアピールされている。

リン酸鉄バッテリーも液体電解質に比べて高い安全性やサイクル寿命の長さがメリットとして挙げられるが、液体電解質に比べてエネルギー密度が低く、重くかさばりやすいという欠点がある。
一方で、準固体電解質はエネルギー密度が280Wh/kgと高く、リン酸鉄バッテリー(110Wh/kg程度)や従来液体電解質バッテリー(250Wh/kg程度)と比べ高密度のため、同容量でも軽量に作れるのが特徴だ。

シンプルに使えるUSB PD対応モバイルバッテリー
本体ポートはUSB-CとUSB-Aの2ポートで、いずれも最大22.5Wまでの出力に対応する。


対応出力プロトコルはPPS/PD3.0/PD2.0/QC3.0/QC2.0/AFC/FCP/SCP/PE2.0/PE1.1/SFCPで、アナライザーでも対応を確認できた。
なお対応急速充電プロトコルはPD3.0/PD2.0/AFC/FCP/SCP/SFCPで、最大18Wとなっている。


内部抵抗が低いという準固体電解質の特性から、発熱も抑えられており、最大出力に近い放電中でもわずかに温く感じる程度だったのも評価したいポイントだ。

実測本体サイズは112.6×68.55×16.9mmで、ほぼ公称サイズ(112×68×17mm)通り。



気になる重量も実測199.6gと公称値(195±10g)通りで、持ち運びにも苦にならない重さだ。
軽さをウリにしている既存の10,000mAhモバイルバッテリーでも重量200g弱程度の商品が多く、ほぼ遜色ない携帯性を実現していると言えるだろう。

普段使わずに放置しがちな人にもオススメな準固体電解質バッテリー
冒頭でも述べたように、モバイルバッテリーは今や「一人一台は持っていて当たり前」というレベルで普及しているが、「毎日は持ち歩かないが、旅行や仕事などでたまに必要なので家にしまっている」という人も多いのではないだろうか?
筆者自身、そういった“たまに使う”タイプのため、長期間放置でも安定性の高い準固体電解質は「ついつい放置しがち」なユーザーには大きな利点となる。
防災目的で万が一に備えた備蓄にモバイルバッテリーを用意しようと思うと、従来バッテリーを非常用の持ち出し袋に入れっぱなしにした場合、いざ持ち出したら膨らんでいて使えないなど、発火リスクが避けられない。その点、準固体電池は自己放電も少なく安定しているため、そういった用途もカバーできるだろう。
もちろん、毎日モバイルバッテリーを酷使している人にとっても、準固体電解質のサイクル寿命の多さはシンプルに耐用年数の長さとなるため、長く使える商品としてオススメできる。
モバイルバッテリーを常用する人も稀にしか使わないという人も、買い替え候補として検討に値する商品と言えるだろう。

なお、残量表示画面の搭載やMagSafe互換のQi無線給電に対応した「マグネット付きワイヤレス充電対応SSPB」も、12月下旬より発売予定とのこと。無線充電を多用する人にはそちらも注目だ。


