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【特別編】RTX Sparkは「AIもゲームも1台で」を狙う新世代Windows SoC。NVIDIAが示したエージェントPCの全貌

RTX Spark Editor's Day & RTX Spark搭載機の最新情報をレポート text by 芹澤 正芳

RTX Spark Editor's Dayでは、プラットフォームの仕組みからローカルAI、クリエイティブ、ゲームまで幅広い説明が行われた

 NVIDIAはアメリカのサンフランシスコでプレス向けイベント「RTX Spark Editor's Day」を開催し、Windows PC向けの新プラットフォーム「NVIDIA RTX Spark」の詳細を公開した。RTX Sparkは、Blackwell世代のRTX GPUとArmベースのGrace CPU、最大128GBのユニファイドメモリを1つのパッケージに統合したSoCだ。

 NVIDIAは2026年5月のGTC Taipeiで概要を発表していたが、今回は内部構造やWindows側の最適化、ローカルAIエージェント、クリエイティブ、ゲームへの対応が、より具体的に説明された。

 イベントでは講演だけでなく、RTX Spark搭載PCを使ったハンズオンや各種デモも実施された。本稿では、Editor's Dayで明らかになった情報と、ASUSの16型ノートPC「ProArt P16」を使ったベンチマークから、RTX Sparkが従来のPCと何を変えようとしているのかを見ていく。

Grace CPUとBlackwell GPUを1パッケージに統合

 今回登場する「RTX Spark N1X」には2つの構成があり、上位版はMediaTekと共同設計した20コアのGrace CPUと、6,144基のCUDAコアを備えるBlackwell RTX GPUを組み合わせる。CPUはCortex-X925を10基、Cortex-A725を10基搭載。GPUは48基のSM、第5世代Tensor Core、第4世代RT Coreを備え、NVFP4で最大1PFLOPSのAI性能を発揮するという。

MediaTekと共同設計したCPU/I/O/メモリ側のタイル。20コアのGrace CPUとメモリインターフェイスを備え、Blackwell RTX GPUタイルとはNVLink-C2Cで接続する

 CPUとGPUは双方向600GB/sの「NVLink-C2C」で接続される。両者が同じメモリ空間を共有し、キャッシュコヒーレンシも保たれるため、CPU側とGPU側でデータをコピーする手間を減らせるのが特徴だ。

 CPU/GPUと統合されたメモリ(ユニファイドメモリ)は256bit接続のLPDDR5Xで、最大データレートは9,400Mbps、帯域は300GB/s。搭載容量は製品によって24GBから128GBまで用意される。ここが一般的なCPU+ディスクリートGPU構成との大きな違いだ。

 GeForce搭載PCではシステムメモリとGPUメモリが分かれており、GPUが直接利用できる容量はビデオメモリに制約される。一方、RTX SparkはCPUとGPUが大容量メモリを共有するため、従来のノートPC向けGPUでは搭載が難しかった大規模言語モデル、生成AIモデル、大規模3Dシーンなどを扱いやすい。

 ただし、ユニファイドメモリはCPUとGPUが同じ容量を共有する。例えば64GB搭載機でGPUが常に64GBすべてを利用できるわけではなく、Windowsや実行中のアプリが使う分を差し引く必要がある点には注意したい。

NVIDIAはRTX Sparkを、AIエージェント時代に向けた新しいWindows PCプラットフォームと位置付ける

45~80Wで動くことがRTX Sparkの強み

 N1Xで設定可能なSoC TDPは45~80W。CPUとGPUを合わせた値なので、単体GPUのTGPと単純には比較できないが、薄型ノートPCや小型デスクトップへ搭載できる電力枠に収めている。NVIDIAは、NVLink-C2CによるCPU~GPU間のデータ転送はPCI Express接続より電力効率が高く、RTX Sparkは低い消費電力域でディスクリートGPU構成より高い性能を引き出せると説明する。バッテリ駆動時もAC接続時との差を1%程度に抑えられるというデータも示した。ただし、実際の性能や動作時間はPCメーカーのTDP設定、冷却機構、バッテリ容量などに左右される。

NVIDIAが示した電力効率の比較。薄型ノートPCで高負荷処理を続けることを重視した設計だ

 RTX Spark搭載機はノートPCだけではない。各社から小型デスクトップも投入され、メモリ容量や筐体サイズの異なる製品が展開される。

ASUS、Dell、HP、Lenovo、Microsoft、MSIなどがRTX Spark搭載ノートPCを用意する

Arm版WindowsにもGeForceの資産を持ち込む

 Grace CPUはArmベースなので、RTX Spark搭載機が実行するのはArm版Windowsだ。対応アプリはArm64ネイティブで動作し、既存のx64アプリはWindowsのエミュレーター「Prism」を介して実行する。

 ここで重要なのは、Prismが変換するのはCPUコードで、GPUのシェーダーやCUDA処理までエミュレーションするわけではないことだ。GPU負荷が中心のゲームやレンダリングでは変換の影響を抑えやすい一方、CPU依存度の高い処理では影響が大きくなる可能性がある。アプリが起動するかだけでなく、Arm64ネイティブかx64変換動作かを含めて見極める必要がある。

 NVIDIA AppもArm64版が用意され、ドライバ更新、ゲーム設定の最適化、録画、DLSSの上書き設定などに対応する。DLSS、Reflex、G-SYNC、NVIDIA Broadcast、RTX VideoといったGeForce/RTXで培ったソフトウェア資産をArm版Windowsへ持ち込む点が、一般的なArm PCに対するRTX Sparkの強みだ。

AIエージェントから利用するツール、スキル、MCP(Model Context Protocol)に対応したアプリのエコシステム。制作、開発、日常作業など幅広い分野をカバーする

最大128GBメモリでローカルAIエージェントを動かす

 NVIDIAがRTX Sparkで特に重視しているのが、PC上で動作するローカルAIエージェントだ。大規模言語モデルに加え、ツールやスキル、MCPサーバーなどを同じPC上で動かし、ファイル検索、アプリ操作、コーディング、コンテンツ制作といった複数の作業を進めることを想定する。

ローカルAIエージェントがRTX Spark上でPCの情報やユーザーのデータを参照し、作業を支援する

 モデルと必要なツールをローカルで完結させれば、入力データをクラウドへ送らず、推論ごとのクラウドAPI料金をかけずに利用できる。モデルとソフトウェアの導入後は、ネットワークに依存しない処理も可能だ(ただし、Web検索やクラウドモデル、外部サービスを使う場合は、この限りではない)。NVIDIAはHermes、OpenClaw、Perplexity、WorkBuddyなどをRTX Spark向けに最適化するとしている。

 Editor's Dayでは、Hermes AgentがNVIDIA AppからPCの情報を読み取り、ユーザーの指示に合わせて機能を追加するデモや、過去の作業内容を「セカンドブレイン」として蓄積し、次に必要な作業を提案するデモが行なわれた。

 一方、エージェントにファイルやアプリを操作させるほど、誤操作や情報漏洩への対策が重要になる。Microsoftはエージェント用IDや隔離環境、アクセス制御をWindowsへ導入し、NVIDIAのAIエージェント専用セキュリティランタイム「OpenShell」と組み合わせる。高性能なAIをローカルで動かせるだけではなく、どのファイルやネットワークにアクセスできるかをOS側で制限するところまでがRTX Sparkのプラットフォーム構想だ。

Windowsのセキュリティ機能「Microsoft Execution Containers(MXC)」とNVIDIA OpenShellを組み合わせ、エージェントを隔離環境で動かす

 日常のWindowsアプリと同じPC上でAIを使える点は、同じGrace Blackwell系のSoCを採用する「DGX Spark」との大きな違いでもある。DGX SparkはNVIDIA DGX OSとAIソフトウェアスタックをプリインストールし、モデルの開発、検証、ファインチューニング、常時稼働するエージェントなどを主眼に置く小型デスクトップだ。AI開発者や研究者には強力だが、一般的なPCとは役割が分かれていた。

 これに対してRTX Spark搭載PCは、普段使うWindowsマシンの中にローカルAIを持ち込む。Microsoft Execution Containers(MXC)による隔離環境とOpenShellのポリシー制御を利用し、対応エージェントをWindowsアプリやローカルファイルと安全に連携させる構想だ。従来は開発環境、モデル、実行基盤、アクセス権を個別に整える必要があったAIエージェントを、対応アプリから導入して使える形へ近づける。

 DGX Sparkが「AIを開発するための専用機」に近いのに対し、RTX Sparkは「AIに普段のPC作業を任せるためのWindows PC」を目指している、と整理すると分かりやすい。ただし、誰でもあらゆるエージェントを即座に安全運用できるという意味ではなく、対応アプリの整備やポリシー設定は今後の普及を左右する要素になる。

生成AIとクリエイティブアプリを1台で完結

 クリエイティブ用途では、Premiere Pro、DaVinci Resolve、Blender、Unreal Engine、ComfyUIなどが紹介された。RTX SparkはBlackwell GPUによるCUDA、Tensor Core、RT Coreの高速化に加え、大容量ユニファイドメモリを使える。NVIDIAは90GB級の3Dシーン、12K 4:2:2動画編集、4K AI動画生成などを想定例として挙げている。

Adobe Premiere Proなど、RTXで高速化されるクリエイティブアプリのデモも披露された

 イベントでは、生成AIで画像を加工する処理や、Premiere Pro/Photoshopをまたいだ制作フローなどを披露。展示会場でも複数のRTX Spark搭載実機が並び、画像・動画生成、編集、AIエージェントを組み合わせたデモが行なわれていた。

展示会場ではRTX Spark搭載機を使い、AIエージェントとクリエイティブアプリを連携させるデモなどが行なわれた

ゲーム性能はGeForceの単純な置き換えではない

 RTX SparkはAI専用ではなく、ゲームにも対応する。Blackwell RTX GPUなので、レイトレーシング、DLSS、Frame Generation、Reflexといった機能を利用できる。NVIDIAは1440pでのゲームプレイを主なターゲットとして示しており、イベントでは複数のAAAタイトルを使ったデモが行なわれた。

NVIDIAは発売時点で数百タイトルへの対応を掲げる。スライドでは対応予定作を含むゲームラインアップも紹介された

 ただし、6,144 CUDAコアという数字だけで既存のGeForceと性能を比較するのは難しい。RTX SparkはCPU、GPUを含むSoC全体を45~80Wで動かす設計であり、デスクトップ向けGeForceとは電力枠もメモリ構成も異なる。さらにArm版Windowsであるため、ゲーム本体だけでなく、ランチャー、アンチチート、周辺ツールの互換性も確認が必要だ。

 NVIDIAは、GPU負荷の高いゲームではPrismによるCPUコード変換の影響は小さいとしている。対応タイトルが増えれば、薄型ノートPCでゲーム、制作、ローカルAIを同居させる独自の選択肢になりそうだ。

展示会場ではArmネイティブで動作する「マーベル・ライバルズ」のデモが行われていた

ProArt P16でRTX Sparkの性能をチェック

 実際に、RTX Spark搭載機のパフォーマンスはどんなものなのだろうか。今回は、検証機としてASUS「ProArt P16(H7607)」を使用した。20コアCPU/6,144 CUDAコアの上位N1X、64GBユニファイドメモリ、1TB SSD、3K OLEDディスプレイを搭載する構成だ。

ASUS「ProArt P16(H7607)」

 なお、ユニファイドメモリの搭載容量をそのままGPUが利用できる容量と考えることはできない。Windowsや実行中のアプリが使用する分に加え、NVIDIA Appで設定するGPUメモリ割り当ても考慮する必要がある。大規模モデルを動かす際は、モデルの必要容量に合わせて設定を確認したい。

 まずは、最新世代のGPU負荷を見るため、3DMarkのSteel NomadとSpeed Wayを実行した。テストはACアダプタ接続、Windowsの電源モードを「最適なパフォーマンス」、ProArt Creator Hubを「Performance mode」に設定しており、いずれもWindows on Armの「Prism」を介して動作する。NVIDIA AppのGPUメモリ割り当てはデフォルトの30.5GBだ。

3DMark Steel Nomadの結果
3DMark Speed Wayの結果

 今回の3DMarkの結果ではGeForce RTX 5060に近い水準。ノート向けのSoC内蔵GPUでこの水準に達している点は評価できる。

 実ゲームでは「サイバーパンク2077」の内蔵ベンチマークを使用した。ゲーム自体はx64版だが、こちらもPrismでの動作となる。解像度はWQHD(2,560×1,440ドット)、画質のプリセットは「レイトレーシング:低」、DLSS Super Resolutionは「バランス」、DLSS Multi Frame Generationは「3X」に設定した。

サイバーパンク2077の結果

 ちなみに、FrameViewによる平均PC Latencyは約64.2msだった。PC Latencyは操作応答を見る指標で、フレーム生成込みのfpsとは別に評価する必要がある。表示は滑らかでも、操作応答まで100fps以上の実レンダリングと同等になるわけではない。とはいえ、Prismによる変換を挟みながら、ベンチマークの最小値でも100fpsを超えた点は印象的だ。

 ローカルLLM性能は「UL Procyon AI Text Generation Benchmark」で確認した。

UL Procyon AI Text Generation Benchmarkの結果

 4モデルとも最初のトークンが出るまで1秒を切り、特にPhi 3.5は0.26秒、74.53tokens/sと軽快だ。このテストに含まれる比較的小規模なモデルでは64GBという容量そのものの優位性までは見えにくいものの、日常的な文章生成や要約をローカルで処理する速度の目安にはなる。

 画像生成はComfyUIでFLUX.2 Klein 4B BaseのNVFP4モデルを使用した。条件は1,024×1,024ドット、20ステップ、CFG 5、SamplerはEuler、バッチサイズは1。テキストエンコーダにはQwen3 4Bのmixed FP4モデル、VAEには標準のFLUX.2 VAEを使用している。NVFP4はBlackwellのTensor Coreに最適化された低精度形式で、モデル容量とメモリ使用量を抑えながら高速化できる。

ComfyUIでFLUX.2 Klein 4B BaseのNVFP4モデルを使用し、画像生成を行った結果

 起動後の初回生成は18.94秒、2回目は14.20秒だった。2回目は1分当たり約4.23枚に相当する。初回にはモデル読み込みや初期化などの影響が含まれた可能性があり、継続利用時の速度の目安としては2回目の値を参照したい。14.20秒という生成時間はリアルタイムと呼べる速度ではないが、プロンプトやシードを変えながら結果を確認する用途なら、待ち時間が作業を大きく分断しにくい水準だ。

50万円から100万円超、それでも大容量メモリに価値はあるのか

 RTX Spark搭載機の購入を考えるうえで、避けて通れないのが価格だ。Microsoftの直販サイトに掲載されたSurface Laptop Ultraは、18コアCPU/5,120 CUDAコア、24GBメモリ、512GB SSDの最小構成でも51万3,480円。20コアCPU/6,144 CUDAコア、128GBメモリ、1TB SSDの構成は109万4,280円に達し、予約段階ですでに「在庫なし」と表示されていた。

 128GB版が注目される理由は、ローカルAIではメモリ容量が単なる快適性ではなく、「そのモデルを動かせるか」を決める条件になるためだ。RTX SparkのメモリはCPUとGPUで共有されるので、従来のノートPCのようにGPUメモリ容量だけでモデルサイズを制限されにくい。

 128GB版では、対応する量子化形式やGPUメモリ割り当てを選ぶことで、NVIDIAが想定する120Bパラメータ級のLLMも視野に入る。機密文書や制作データをクラウドへ送らず、API料金を気にせず繰り返し推論できることも、業務利用では価格差を回収し得る価値になる。処理速度が常にクラウドを上回るわけではないが、クラウドでは得にくいデータの所在、固定費、オフライン動作を買う製品と考えるべきだろう。

 一方、24GB版の評価は難しい。Windowsやアプリの使用量、GPUへの割り当てに加え、モデルの量子化形式やコンテキスト長を慎重に選ぶ必要がある。30B級以上のモデルや長いコンテキストを余裕を持って扱う用途には、制約が大きい。大規模LLMをローカルで動かすことだけが目的なら、51万円超という価格に対する説得力は弱くなってしまう。

 ただし、7B~14B級の量子化モデルを使った文章処理や検索、クラウドAIとローカルAIを使い分けるエージェント、CUDA対応の生成AI、動画編集、3D制作、1440pゲームまでを薄型ノート1台にまとめる価値は残る。つまり24GB版は「安価な大規模LLMマシン」ではなく、AI機能を含む高級モバイルワークステーションとして見る必要がある。RTX Sparkらしさを最も強く味わえるのは大容量メモリ版であり、24GB版は用途を明確に選ぶ構成だ。

RTX SparkはPCの“新しい形”になれるか

 RTX Sparkは最大128GBのユニファイドメモリに対応し、Blackwell RTX GPUとArmベースのGrace CPUを、設定可能TDP45~80WのSuperchipに統合する。薄型ノートPCや小型デスクトップで、大容量メモリを使ったAI処理とRTXの機能を利用できる点が特徴だ。特に、ビデオメモリ容量が壁になりやすいローカルLLM、画像/動画生成、大規模3D制作では、一般的なノートPC向けGPUとは異なる価値を持つ。

 PC市場への影響を考えると、注目点はハードウェア性能だけではない。CUDAやRTXのソフトウェア資産がArm版Windowsへ本格的に広がり、ゲームやクリエイティブアプリのArm対応が進む可能性がある。既存x64アプリの互換性、対応ゲーム、価格、メモリ容量ごとの実用性は今後も検証が必要だが、Windows PCに「ローカルAIエージェントを常用する」という新しい用途を持ち込むための土台は整いつつある。

 RTX Sparkは、AI専用マシンでも、単なる省電力GeForceでもない。ゲーム、制作、AIエージェントを1台で扱い、その性能を持ち運べる“エージェントPC”という新しいカテゴリを狙うプラットフォームだ。実測結果と対応ソフトが、その構想をどこまで現実のものにできるかを決めることになる。