VIDEO CARD LABORATORY

DLSS MFGやSmooth Motionが使える「ZOTAC GAMING GeForce RTX 5080 AMP Extreme INFINITY」をじっくり検証する

【新装第4回】RTX 50世代のオイシイところを探すべくじっくりテスト text by “KTU”加藤 勝明

 NVIDIAの「RTX Blackwell」は同社製GPU進化の大きな節目にあたるアーキテクチャーだ。プロセスルールは前世代(Ada Lovelace)からほぼ変わっていないかわりに、整数演算ユニットの倍増化やAI処理のワークロードを交通整理する「AMP(AI Management Processor)」の実装、TensorコアのFP4対応など、よりAI性能に軸足を移した設計になっている。

 これはグラフィックス描画処理やゲームロジックの中にもっとAIを活用していこうというNVIDIAの戦略にもとづくものであるが、描画処理へのAI処理についてはすでにMicrosoftが協調ベクター(Cooperative Vector)としてDirectXに採り入れることを表明しているなど、業界全体がAI強化の方向に舵を切っていることは疑いようがない。

 このRTX Blackwellを利用した「GeForce RTX 50シリーズ」を搭載したビデオカードは現在PCパーツ市場ではもっとも注目度の高いものである。フラグシップであるRTX 5090は2万基以上のCUDAコアと32GBのVRAM(GDDR7)を要するとんでもないパワーを秘めたGPUだが、消費電力が非常に高く、電源ユニットやケーブルもしっかり吟味する必要があるなど、そうとうな「覚悟」が必要になる。

 その点2番手のRTX 5080はVRAM 16GBというハンデはあるものの、価格的にはRTX 5090の半分程度(20〜30万円)、TGP(Total Graphics Power)もRTX 5090の575Wより格段に低い360Wに設定されているなど、よりマイルドで扱いやすい仕様になっている。

大型ボディに3連ファン、伝統的スタイルのハイエンドカード

 そこで今回はZOTACによるファクトリーOCモデル「ZOTAC GAMING GeForce RTX 5080 AMP Extreme INFINITY(以降ZOTAC Gaming GeForceは省略)」をレビューしてみたい。

ZOTACによるRTX 5080のファクトリーOCモデル「ZOTAC GAMING GeForce RTX 5080 AMP Extreme INFINITY」。実売価格は25万円前後(税込)と決してお手軽と言えない価格設定だが、流通量が少ないためこの価格でも奪い合いになっている

 RTX 5080のFounders Editionは2スロット&デュアルファンデザインで話題を集めたが、RTX 5080 AMP EXTREME INFINITYは由緒正しい(?)3.5スロット&トリプルファン構成となっている。Founders Editionのデザインは誰もが憧れることは確かだが、薄い分ファンが高回転になりやすいため、ある程度静音性も重要と考える人にはこちらのほうが安心感があるだろう。

ZOTACのRTX 50シリーズのデザインは少々スチームパンクに寄せたような独特なテイストだ。全長332mm×高さ137.5mm、重量は2,168g(実測値)と巨大かつ重い
カード背面。最後部のファンの風がカード表から裏に吹き抜けるFlow Throughデザインであるが、このファンガードのデザインが実にスチームパンクだと感じるが、どうだろうか?
カード上部。補助電源コネクターは16ピン。その隣にvBIOS切り換えボタンとLED制御用の「SPECTRA LINK Lighting Sync port」を備える
RTX 50シリーズはGeForce系では初めてDisplayPort2.1bに対応している。出力端子の構成はごく一般的なものだ
安価なカードだと最後部はヒートシンクの断面が露出してしまうところだが、本機ではインフィニティミラーを配置することでどの方向から見てもしっかりデザインされた面しか見えないようになっている

 全体のデザインはグレー+ゴールドの渋めなテイストではあるが、カード上部と後部にRGB LED、さらにカード後部には「インフィニティミラー」(これが製品名の由来)と呼ばれる装飾パーツが仕込まれており、通電時はかなりハデだ。今流行のピラーレスなPCケースに入れても“見せることを意識した面だけが見える”というのは本機を選ぶ一つの理由になるだろう。

通電すると上部と後部のインフィニティミラーに仕込まれたRGB LEDが点灯する。このLEDは後述するvBIOS切り換え機能においても重要な機能を持っている
カード中央付近にあるSPECTRA LINK Lighting Sync port、やや離れた位置にvBIOS切り換えボタンと(見切れているが)12V-2x6コネクターが配置されている

 カード上部には16ピンコネクター(12V-2x6)に加え、vBIOS切り換えボタンとLED制御用のヘッダーピン「SPECTRA LINK Lighting Sync port」が配置されている。

 まずvBIOS切り換えボタンはファンの動作モードを変更するためのものだ。デフォルトの「AMPLIFY」は冷却重視、もう一つの「QUIET」は静音性重視のセッティングだが、クロック設定やPower Limitはまったく同じ設定となるため、劇的は性能/ 静音向上効果は期待しないほうがよいだろう。どちらの設定においてもGPU温度が低いときはファンの回転が停止する仕様だ。

「GPU-Z」を用いAMPLIFYモードで起動した際のGPU情報を拾ったところ。vBIOSバージョンの末尾の表記に注目。PCI ExpressのリンクがGen 4になっている理由は後述
QUIETモードで起動してもクロックの設定値はまったく変わらない。vBIOSのバージョン番号だけが変わっている
AMPLIFYモードにおけるPower Limit(=TGP)の設定値。ファクトリーOCモデルだがPower LimitはRTX 5080の公称値と同じ360Wに設定されている
QUIETモードにおけるPower Limitの設定値もAMPLIFYと同じ360Wである
ZOTAC製ビデオカード専用のOCツール「Firestorm」もカードデザインに合わせた渋いデザインにリニューアル。このウィンドウの右下からもvBIOSを切り換えることができる(要再起動)
SPECTRA LINK Lighting Sync portを使用しない場合は、FireStorm上からLEDの発光色やパターンを制御可能だ
GPUクロックや温度のモニタリングもかなりオシャレになったが、文字と地の色の問題でやや見づらいのが難点

 このvBIOS切り換えボタンは通電時に押すことで“次の起動時に有効化するvBIOSを決める”ことができる。ボタンを押したときに本機のライティングが赤く点滅すれば次の起動時はAMPLIFYが、青く点滅すればQUIETが選択される。ちなみに電源オフからのパワーオン時にも赤/青の点滅が実行されるため、これを利用してどちらのvBIOSで起動されているのか判別できるようになっている。

 このやり方は非常にうまいやり方だとは思うが、このボタンの働きや赤青の見分け方はマニュアルに一言も書いていないというのは20万円オーバーの製品に対してちょっと不親切と言わざるを得ない。早急に改善していただきたいものだ。

 次にSPECTRA LINK Lighting Sync portだが、こことマザーのARGBヘッダー(3ピン)とを同梱のケーブルで連結することで本機のライティングをマザー側から制御することが可能になる。SPECTRA LINK Lighting Sync portのピン数はマザーのARGBヘッダーよりも多いが、ZOTACによれば「空いているピンに機能はアサインされていない」とのこと。何も機能がないならもっと小さなコネクターにしたほうが外見的にもスッキリするのではないだろうか。

SPECTRA LINK Lighting Sync portに同梱のケーブルを接続することで、マザー側から発光色を制御することが可能になる。以前の製品ではカード側が発光制御するためのコネクターが搭載されていたが、今世代からは逆に制御を委ねるという正反対の思想になった点がおもしろい

 最後に16ピンコネクターの接続状況を教えてくれるLEDがカード背面に配置されていることにも触れておきたい。16ピンケーブルが正しく接続されていれば通電時に緑に点灯し、接続されていない場合は赤に点灯するというものだ。ただこの緑点灯の範囲は意外なほど広く、16ピンのケーブルを根元まで完全に押し込むまで1mm程度残していても緑点灯となるため、安全性確保に万全の寄与、とは言い難い。

 16ピンケーブルは完全に奥まで挿し込まないと最悪焼損する可能性がある。そのため、このLEDの発光色だけをもって正しい接続と判断するのは危険である。このLEDはあくまで16ピンケーブルから電力が来ているか否かを判定するだけのものと考えるべきだろう。今後の製品で判定基準を含め改善していただきたい点である。

実際に16ピンケーブルを根元から1mm程度浮かして接続(黄緑色のコネクターが見えている)して電源を投入しても、カード裏のインジケーターLEDは緑色に点灯する。これはユーザーに大いなる誤解を与えてしまう

 この件、ZOTACより追加情報を頂いたので記載しておこう。

 このLEDは“16ピンコネクターのセンスピンが触れているかどうか”のみを判定しているとのこと。写真のように少々浮いていても、センスピンが触れていればグリーン点灯し、逆に内部にゴミなどが混入する、あるいはケーブルにテンションがかかっている、といった状況で正常な接触が検出できない場合は赤に点灯する。

 解説した通り、まずはケーブルをしっかり奥まで差し込むことが大前提で、その上で何かの事情で接続が怪しくなった時に判定するためのLEDだと考えよう。

今回の検証環境

 今回の検証のサブテーマは“GeForce RTX 80番台の進歩”である。RTX 5080はRTX 4080 SUPERに対して描画性能の伸びが小さいことがPCWatchでの三門氏のレビューなどにも示されている。RTX 50シリーズにはRTX 50シリーズでないと動作しない「DLSS MFG(Multi Frame Generation)」を利用することで、従来のDLSS FGの2倍程度のフレームレートを引き出せること、さらにNVIDIA版「AFMF 2」とも言える「Smooth Motion」が利用できるなどメリットもあるのだが、歴代80番台GeForceという切り口で見た場合はどの程度伸びているのか検証してみたい。

 GPUドライバーはGameReady 572.16で統一している。Resiazble BARやSecure Boot、メモリ整合性やHDRなどは一通り有効化、ディスプレイのリフレッシュレートは144Hzに設定している。また、HWBusters「Pownetics v2」を使用して消費電力を計測する必要があるため、PCI Express x16スロットのリンクをPCI Express Gen 5ではなくGen 4に落としている。Gen 4動作でもゲームにおける性能低下は2%あるかないか程度と軽微なため、問題ないと判断している。

【検証環境】
CPUAMD Ryzen 7 9800X3D(8コア16スレッド)
マザーボードASRock X870E Taichi(AMD X870E、BIOS 3.18.AS01)
メモリMicron CP2K16G56C46U5(PC5-44800 DDR5 SDRAM16GB×2)
CPUクーラーEKWB EK-Nucleus AIO CR360 Lux D-RGB(簡易水冷、36cmクラス)
ビデオカードZOTAC GAMING GeForce RTX 5080 AMP Extreme INFINITY、NVIDIA GeForce RTX 4080 Founders Edition、NVIDIA GeForce RTX 3080 Founders Edition、NVIDIA GeForce RTX 2080 Founders Edition
ストレージMicron Crucial T700 CT2000T700SSD3(2TB M.2 SSD、PCI Express 5.0 x4)、Silicon Power SP04KGBP44US7505(4TB M.2 SSD、PCI Express 4.0 x4)
電源ユニットASRock Taichi TC-1300T(1300W、80PLUS TITANIUM)
OSMicrosoft Windows 11 Pro(24H2)

パワー差はAmpere世代から劇的に拡がる

 以降、RTX 5080 AMP Extreme INFINITYのデータは特記なき限りすべてAMPLIFYモードでの値となる。まずは定番「3DMark」から検証をスタートしよう。グラフではRTX 5080 AMP Extreme INFINITYを“RTX 5080”と表記している(以降同様)。

3DMark、ラスタライズ系テストのスコア
3DMark、レイトレーシング系テストのスコア

 RTX 4080に対するRTX 5080 AMP Extreme INFINITYのスコアの伸びに注目すると、一番伸びなかったFire Strikeで9%、もっとも伸びたSteel Nomadで29%。RTX 4080とRTX 4080 SUPERの差が小さかったことを考えると、DLSS MFGやSmooth Motion、あるいはニューラルレンダリングといったAIが絡む要素がなければRTX 4080との差は大きくない。

 歴代RTXシリーズの流れを見ると、Ampere(RTX 30シリーズ)からAda Lovelace(RTX 40シリーズ)への驚異的な伸びが非常に大きかったが、その原資は巨大な2次キャッシュが装備されたことが非常に大きかった。だがBlackwellではキャッシュまわりはそのまま、メモリ帯域を上げる方向で伸ばしていったためかつてのような伸びはない、ということだ。

 ちなみにRTX 2080から見るとRTX 5080 AMP Extreme INFINITYは2〜4倍のパフォーマンスが期待できるだろう。

消費電力とvBIOSの関係

 ここで各カードを使用した消費電力をPownetics v2を用いて検証しよう。ここで言う「システム全体の消費電力」とは、ATXメインパワー、EPS12V×2、PCI Express x16スロット、16ピンまたは8ピン×2のケーブルやスロットを流れる電力を直接計測したものであり、「Total Board Power(以降TBPと略)」とはPCI Express x16スロットと16ピンまたは8ピンケーブル×2に流れる電力にのみ注目したもの。

 グラフ中にある高負荷時とは3DMarkのSteel Nomadを動かした際のデータで、平均と99パーセンタイル点、最高値をそれぞれ記載した。また、アイドル時の消費電力は文字どおりアイドル状態で3分間放置したときの平均値のみを記載している。

システム全体の消費電力
ビデオカード単体の実消費電力(TBP)

 RTX 50シリーズは“消費電力の化物である”というイメージを抱いている人も少なくないが、それはRTX 5090の消費電力がとんでもなく大きいせいでもある。今回のRTX 5080 AMP Extreme INFINITYについては平均値で比較すると456Wであり、RTX 3080よりもやや低い電力で動作していることが分かる。RTX 4080に比べると消費電力が増えた割に性能は伸びていないという結論にしかならないが、RTX 3080と比較するならば大幅にワットパフォーマンスが改善されているため、大きな買い換えメリットが期待できる。

 しかし、ここで消費電力比較で利用したSteel NomadはレイトレーシングもDLSSも利用しない描画を使用しているため、実ゲームではもっと消費電力が増える可能性がある。そこで「サイバーパンク2077」を用い、解像度4K+パストレーシング+DLSS“クオリティ”+MFG 4x+レイ再構成という重い設定で動かした際のTBPを計測した。TBPのサンプリング間隔は1msごと(1秒あたり1,000サンプル)とし、約30万個のデータから、RTX 5080 AMP Extreme INFINITYが実際どの程度の電力を消費しているか見てみよう。

AMPLIFYモードでサイバーパンク2077プレイ中のTBPの頻度分布:横軸はTBPの値だが、「200」とあった場合はその一つ左、すなわち190W以上200W未満であることを示す。縦軸は頻度であり、バーが長くなるほどその範囲に入ったデータが多数観測されたことを示す
QUIETモードでサイバーパンク2077プレイ中のTBPの頻度分布

 どちらのモードを利用してもTBPの傾向に大きな違いはない。GPU-Z上でのPower Limit(TGP)は360W表記だが、どちらのモードを利用しても370W以上380W未満の範囲に着地する頻度がもっとも高い。380W以上440W未満のデータも多数観測されており、どちらのモードにおいても全サンプル中の2割強は380W以上のデータである。

 このグラフで示されているTBPはPCI Express x16スロット経由の電力込みの値だが、スロット経由の電力は最大でも7W台であるため、この数値がほぼそのまま16ピンケーブルに流れると思ってよい。ゆえに電源ユニットは良質なATX 3.1対応のものを使用し根元までキッチリ挿入し、ケーブルを曲げる場合はコネクターから35mm程度遠ざけたポイントで曲げることといった注意が必要だ。品質の担保ができない社外品の(=電源ユニットに付属しない)16ピンケーブルやL字変換アダプターの使用は焼損リスクを上げるだけである。

 ちなみに、上のデータを観測したときのTBPの平均値はAMPLIFYで339W、QUIETで340Wとこちらも差がなかった。さらなるvBIOSの比較については、後ほど改めて検証することにしよう。