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「ハイエンドカードも静音」に、GeForce GTX 1080のチューンモデル「AMP Extreme」のポイントを聞く
ZOTACがこだわる「究極のビデオカード」、ユーザーに最高の体験を text by 鈴木雅暢
2016年9月12日 00:01
ZOTACは、2006年に香港のPC Partnerグループ傘下で設立されたPCパーツブランドだ。
日本市場では、「AMP」シリーズなどのビデオカードをはじめ、小型ベアボーンキット「ZBOX」シリーズを販売するメーカーとして知られている。自作PCに慣れ親しんでいるユーザーには、スーパーオーバークロックモデルのビデオカードを販売するメーカーとしての印象が強いのではないだろうか。
今回、そのZOTACに香港の本社で話を聞く機会を得たので、最新GPUを搭載する「AMP」シリーズの特徴やこだわりについて伺った。ちなみに、「AMP」は「Amplify(拡張、増幅)」からとられており、性能およびユーザーの体験を最大限高めるという意思が込められているという。
インタビューと合わせ、同社製のGeFoece GTX 1080がどれほどの性能を持った製品なのか、最上位からリファレンスモデルまで3ラインナップの比較検証も行ったので、高性能クーラーを搭載したGeForce GTX 1080の購入を検討しているユーザーは参考にしてもらいたい。
なお、ZOTACは今年設立で10周年を迎える。これを記念してイベントなどの実施も検討しているそうだ。
「高パフォーマンスと静音性を両立」、GeForce GTX 1080 AMP Extremeの設計思想
――GeForce GTX 1080とGTX 1070には、AMP ExtremeとAMP Editionと2種類の「AMP」があります。それぞれのコンセプト、想定ターゲットユーザーを教えてください。
[Ming氏]AMP Extremeは、究極のパフォーマンスと安心を求めるユーザーに向けたモデルです。GeForce GTX 1080 AMP Extremeは、GeForce GTX 1080搭載カードとして最速クラスの性能と優れた静音性を両立し、ユーザーに最高の体験を提供ます。
しかし、エンドユーザーの中には、これほどの大きなGPUクーラーの付いたカードを好まない方もいます。最速ではないけれども、高性能と静音性、扱いやすさも兼ね備えたリューションとして、AMP Editionも用意しています。
――AMP Extreme、AMP EditionのGPUクーラー「ICE Strom」のセールスポイントについて教えてください。両者で共通する部分、異なる部分を教えてください。
[Ming氏]共通する特徴としては、我々が「Carbon ExoArmor」と呼ぶファンシールドがあります。ソリッドな金属素材を全面的に利用してガッチリと安定させることでファンの気流を安定させるとともにファンモーターとの共振を抑え、優れた冷却効率、静音性に貢献しています。
「Water Transfer Mark」という特殊なプリンティング技術を使ってカーボン柄をフィーチャーし、見た目に美しく仕上げている点も特徴です。RGB LEDによるインパクトのあるライティングシステム「SPECTRA」も搭載しています。
――両者で異なる点はどこになりますか?
[Ming氏]AMP Extremeは3連の90mmファン構成を採用しています。この90mmmファンを我々は「EKOファン」と名付けていますが、特殊な形状のブレードを採用しており、軸の中心部に近い部分に風を送りやすい効果があります。
我々の検証では、これによりGPUの冷却効果は通常ファンに比べて30%向上しています。一方、AMP Editionは100mmの2連ファン構成です。こちらはEKOファンではないのですが、比較的低速で風量を稼ぐために大きなファンを使っています。また、ヒートシンクの厚みが違いますね。AMP Extremeは2.5スロット、AMP Editionは2スロット仕様となっています。
「環境を選ばずしっかり冷却」がコンセプトの新型クーラー実はPascal世代のGPUは前世代より放熱のハードルが高い?
――AMP ExtremeとAMP Editionの基板は共通ですか?
[Ming氏]はい。GPU負荷に応じて供給電流をリアルタイムに最適化する「Power Boost」に対応した8フェーズの電源回路など、高クロック動作しやすい設計になっています。
――今回、AMP Extremeのみ2.5スロット仕様となった理由はどこにあったのでしょうか?
[Ming氏]最高のGeForce GTX 1080カードをユーザーに届けるにはどうしたらよいか、研究を重ねた結果です。
GPUクーラーの放熱のしくみとしては、GPUに密着するベースユニットからヒートパイプを使って熱を急速に移動させヒートシンクとファンで放熱するわけですが、ヒートシンクは表面積が大きければ大きいほど放熱効率が高まります。そのためにこのような無数のフィンを装備するわけですが、今回はより高い冷却効率、大きな表面積を稼ぐためにフィンの数が増え、結果的に2.5スロットという結論となりました。
――Pascalと先代のMaxwellで放熱のしやすさ、高クロック動作のしやすさは変わったのでしょうか?
[Ming氏]Pascalではプロセスルールが縮小されて電力効率は良くなりましたが、ASICのサイズも小さくなりました。同じ電力でもPascalのほうが発熱は高く、放熱のハードルとしては高くなりました。このため、ICE Stormを構成する部品点数も増え、大型化するかたちになりました。
――AMP ExtremeとAMP Edition、特に前者は大幅にオーバークロックしたスペックとなっています。こうした公称スペックはどのようにして決めているのでしょうか。また、こうした製品を本来性能で使うためには、どのような環境温度(PCケース内の温度)での利用が理想と考えますか?
[Ming氏]公称スペックについてはNVIDIAに厳格な基準があり、それに従って決めています。
環境温度についてですが、AMP Extreme、あるいはAMP Editionは、エンドユーザーが環境温度などを意識することなしにスペックから期待されるとおりのパフォーマンスを得られることを目指し設計ていますし、実際そのような製品になっていると思います。エンドユーザーの方が温度や環境など細かいことを意識しなくてもいいように、ICE Stromには十分に高い冷却能力を持たせていますので、安心して使っていただきたいと思います。
――なるほど。あえて具体的な数字を挙げるならどのくらいでしょうか?
[Ming氏]本来は「何℃以下で使ってほしい」といったような条件をつけたくはないのですが、どうしても具体的な数字がほしいというのであれば、45℃前後を目安として挙げておきます。
より細やかなファンコントロールが可能にユーティリティ「FireStorm」も進化
――ほかにアピールしたい部分はありますか。
[Ming氏]地味かもしれませんが、「FireStorm」ユーティリティで、ファンの挙動をより細かくカスタマイズできるようになっています。また、現在AMP Extremeの3つファンを個別に制御することはできないのですが、いずれできるようにしたいと考えています。このツールは常に改良を続けていますので、今後も期待してください。
――「FireStorm」といえば、LEDエフェクト「SPECTRA」のカラー選択ができますが、このユーティリティ上での設定色は、電源を切った後も適応されたままになりますか?というのも、ユーティリティが立ち上がっている時のみユーザーが設定したカラーが反映される製品が多く、ガード側に設定が記録できる製品は少ないのです。
[Ming氏]我々の場合は基板上にMCU(マイクロコントローラ)を実装しており、設定を記憶させています。そのため、設定下内容はユーティリティが起動していない状態でも反映される仕組みになっています。。システムの電源ケーブルを抜いてしまっても、カードを引き抜いても大丈夫です。
本格水冷用のGeForce GTX 1080も近日投入ユーザーの声を迅速に反映できることが自社製造の強み
――COMPUTEX TAIPEIでは水冷対応モデルも展示されていました。
[Ming氏]GeForce GTX 1080 ArcticStormですね。日本でも9月上旬には投入予定です。第2世代Maxwell世代では空冷ファンも搭載したハイブリッドでしたが、新世代ではユーザーの声を反映して水冷専用とし、薄型でスマートに仕上げました。水冷システムに組み込んで高性能と静音性を両立したい方に最適です。
――こちら公称クロックはAMP Extreme、AMP Editionと比べて控え目ですね。
[Ming氏]標準ではそれほどオーバークロックしていません。ですが、放熱効果の高いマイクロチャネル構造を採用しており、冷却能力のヘッドルームは非常に高いです。オーバークロックをされたい方は、この冷却能力をいかして、ご自身の責任で行っていただくというスタンスです。また、水冷システムのユーザーの方はビジュアル面の要求も強くあるため、派手にライトアップするSPECTRA機能も実装しています。
――ZOTACのビデオカードの強み、他社との差異化ポイントはどこにあるとお考えですか?
[Ming氏]エンドユーザーのニーズに的確に応えられるということではないでしょうか。我々は可能な限り多くのユーザーの要望に応えたいと考えて製品開発を行なっています。
最速を目指したAMP Extremeは、究極のパフォーマンスを安心を同時に手に入れたいというニーズに応えたものですが、よりスマートなAMP Editionや水冷対応のArcticStorm、ブロワーファンデザイン(リファレンス仕様)のモデルなども同時に用意しています。このほかにもショートサイズやロープロファイル、ファンレスモデルなど、さまざまなフォームファクター、さまざまなニーズに応えることができます。
また、こうした強みを支えている要因に、生産体制があります。R&Dチームと製造工場をそれぞれ自社で抱えており、相互に密接にコミュニケーションしながら開発を進めることができます。この生産体制によって高い品質を担保することができ、エンドユーザーのニーズ反映した製品を迅速に投入することや、最高の性能を持った製品を市場に送り出すことができます。今後も皆さんのニーズを満たせる製品を提供していきたいと考えいますので、どうぞ期待してください。
高負荷時でも静音性を維持するAMP Extremeベンチマークでクロックアップ分の性能を確認
Ming氏が絶対の自信を見せる「究極のパフォーマンス求めるユーザー向けのGeForce GTX 1080」カードである「GeForce GTX 1080 AMP Extreme」。
実際の実力はどうなのか、製品を借用することができたので、リファレンスのFounders Edition、およびGeForce GTX 1080 AMP Editionも含めて、実力を検証してみた。それぞれのカードのスペックは以下の表の通りだ。
モデル名 | GeForce GTX 1080 AMP Extreme | GeForce GTX 1080 AMP Edition | GeForce GTX 1080 Founders Edition |
---|---|---|---|
ベースクロック | 1,771MHz | 1,683MHz | 1,607MHz |
ブーストクロック | 1,911MHz | 1,822MHz | 1,733MHz |
メモリ容量 | 8GB(GDDR5X) | 8GB(GDDR5X) | 8GB(GDDR5X) |
メモリクロック | 10.8GHz | 10GHz | 10GHz |
消費電力 | 270W | 230W | 180W |
電源コネクタ | 8ピン×2 | 8ピン×2 | 8ピン×1 |
基板寸法 | 325×148mm (2.5スロット占有) | 300×148mm (2スロット占有) | 266.7×111.15mm (2スロット占有) |
まずは、ベンチマークテストで性能を見てみよう。テストは、FutureMarkの3DMark(Fire Strike Ultra)とFINAL FANTASY XIV:蒼天のイシュガルドベンチマーク(DirectX 11モード、3,840×2,160ドット、最高品質)を行なった。
結果はご覧のとおりだ。3DMark(Fire Strike Ultra)では、リファレンスデザインのFounders Editionに対し、AMP Editionは3.8%、AMP Extremeは9.9%のスコアアップが確認できた。特にFINAL FANTASY XIV:蒼天のイシュガルドベンチマークでは、Founders Editionに対し、AMP Editionは7.2%、AMP Extremeは15.7%もスコアアップしており、スペックどおり高い性能が発揮されているといえる。
また、実際に動作させてみて感じたのは、動作音の低さだ。ブラケット部分から10cmの距離で測定した動作音は以下グラフのとおりだが、特にAMP Extremeの静かさは体感でもレベルが違う。Founders Editionなどはベンチマークテストの後半になると明らかに動作音が一段階上がるのだが、そういう印象もなく、常時静かな印象だった。
・テスト環境
CPU IntelCore i7-6700K
マザーボード Z170搭載マザーボード
メモリ DDR4-2133 8GB×2
SSD 250GB
電源 660W
OS 日本マイクロソフトWindows 10 Pro(64bit)
暗騒音 32.8dB(A)
室温 28℃
AMP Extremeに搭載されたGPUクーラーはかなり優秀ファン回転数を抑えつつもしっかり冷却
前節テストでは、公称値以上となる性能が発揮され、静音性にも優れている点が確認できた。
ここからは、ベンチマーク中の具体的な動作クロックやGPU温度などを細かく見ていきたい。GPUユーティリティのGPU-Zを使い、FINAL FANTASY XIV:蒼天のイシュガルドベンチマーク実行時のGPUクロック、GPU温度、ファン回転速度をモニタしてみた。
まず、動作クロックからだが、AMP Extremeの最大クロックは2,050MHz、ベンチマーク中はほぼ1,987MHzで安定という挙動。ベンチマークが進行してもクロックには大きな変化がなく、冷却能力に余裕を感じさせられる。AMP Editionは最大1,949MHzで、後半はややバラつくが、高負荷時の平均は1847.8MHz。いずれも公称のブーストクロックを上回っている。特にAMP Extremeは大幅に上回っているだけでなく安定感も素晴らしい。
GPU温度もやはりAMP Extremeの優秀差が目立つ。最高でも74℃で、ベンチマーク中は72℃前後で推移。ベンチマーク終了後のアイドル時も含めた10分間の平均温度は68.2℃だった。
リファレンス設計のFounders Editionは最高84℃で10分間の平均は76.5℃であり、AMP Extremeは最高温度で12℃、平均でも8.3℃低いことになる。
AMP Editionは、Founders Editionに近いが、最高83℃、平均75.3℃と、Founders Editionよりも性能が高いにもかかわらず、温度は低いという結果がしっかり出ている。なお、アイドル時の温度の下がり方はAMP Extremeよりも若干だが速かった。
最後にファンの回転数を見てみよう。Founders Editionは10分間の平均2,054rpm、最大2,280rpmに対し、AMP Editionは1,500rpm、最大1,716rpmだ。そして、AMP Extremeはというと、平均957rpm、最高1,324rpmと圧倒的に低い。グラフの形状を見ても、回転が上がりにくく、負荷が収まるとすぐに回転が下がり、ベンチマーク終了後1分程度で停止しかけている。もちろん、きちんと冷却が出来ているのは先程見たGPU温度からも明らかだ。静音性の違いも納得である。
ICE Strom、特に2.5スロットへと厚みを増したヒートシンクと3連EKOファンを装備するAMP ExtremeのICE Stromの冷却効率の高さを裏付ける結果といえる。
静音性と性能を両立させるプレミアムなGeForce GTX 1080カード
今回のインタビューを通して感じたのは、同社は何よりもエンドユーザーのニーズをとても大切にしているということ。“オーバークロックビデオカード”のイメージが強かったために、ゴリゴリと性能にこだわっているのかと思っていたが、高性能は当然のこととして、静音性、デザイン、LED演出といった要素も重要視していることが伝わってきた。
また、「高性能かつゲームユーザーが難しいことを考えずに気兼ねなく安心して使える」点を強くアピールしていたのも印象的。シリーズ名に込められた「ユーザー体験をAmplify(拡張、増幅)させたい」という強い意志を感じることもできた。
後半で行なった検証の結果から、その意志はしっかり製品に反映されているようで、高い性能と静音性の両立に加えて、高負荷な状態が続いてもしっかりと性能が発揮できることも確認できた。これは「温度など動作環境をシビアに気にする必要はない」というMing氏の発言を実証するものだ。
特に同社のフラッグシップモデルであるGeForce GTX 1080 AMP Extremeの実力はかなりレベルが高く、静音性と性能を両方させたプレミアムなGeForce GTX 1080としてお勧めできる仕上がりだ。よりリーズナブルで大きさ的にも手頃なGeForce GTX 1080 AMP Editionと合わせて、GeForce GTX 1080カードの購入を検討しているユーザーには有力な選択肢といえるだろう。
[制作協力:ZOTAC]