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3Dプリンタ対応の光るメモリに、全てが「簡単」なSSD、Micronに新モデルのコンセプトを聞いてきた

BallistixとCrucial、二つのブランドが目指す新たな取り組み text by 石川ひさよし

Crucialは20周年を迎える

 Micron Technologyのコンシューマー向け製品ブランド「Crucial(クルーシャル)」は今年で20周年を迎える。COMPUTEX TAIPEI 2017の開催に合わせ、それを祝うレセプションと新製品の説明会を実施した。

 今回新製品として発売が告知されたのは、ゲーマー向けブランド「Ballistix(バリスティックス)」のRGB LED搭載メモリ「Tactical Tracer DDR4 RGB」と、「Crucial」ブランドの次期ベーシックSSD「BX300」。

 「Tactical Tracer DDR4 RGB」は性能以外の面でも「ゲームを楽しむユーザーに何が提供できるか」を形にしたモデルで、RGB LEDを搭載するだけで無く、外観をカスタムできる要素を取り入れてきた。SSDの「BX300」は買いやすい・使いやすいといった「簡単」という部分を前面に押し出したモデルになっている。

 新モデルがどのようなコンセプトで開発されたのか、同社のJeremy Mortenson氏とJonathan Weech氏に話をうかがった。

「RGB LEDのメモリが欲しい」、日本ユーザーの声が早期製品化に繋がった「Tactical Tracer DDR4 RGB」

RGB LED搭載メモリ「Tactical Tracer DDR4 RGB」
Senior Product ManagerのJeremy Mortenson氏(右)とSSDを担当するMarketing ManagerのJonathan Weech氏(左)

 まずはBallistixの「Tactical Tracer DDR4 RGB」から話をうかがった。

 速度はDDR4-2666からスタートする製品で、モジュールあたりの容量は8GBまたは16GB。発売は2017年7月を予定。注目は同社が「ライトバー」と呼ぶ仕組みで、メモリの上辺に仕込んだRGB LEDのカバーだが、交換用のカバーをユーザーが作成可能なように、3Dデータを公開するというユニークな取り組みを予定している。

――ライトバーの仕組みはユニークですね、このモデルはどのような経緯で企画されたのでしょうか。

[Mortenson氏]2016年9月に、我々はCFD販売と一緒にイベントを行いました。その際、日本のゲーマーからRGB LED搭載メモリのリクエストをもらったことで製品化する運びになり、今回「Tactical Tracer DDR4 RGB」を発表しました。

RGB LED搭載モデルの計画自体はあったものの、製品化は当面先になる予定で、計画当初は2色のLEDを搭載したモデルを検討していました。日本のユーザーからの声がRGB LED搭載モデルの早期リリースの後押しなったことは事実です。もちろん製品には世界のユーザーの声をフィードバックするかたちで開発をおこなっています。

また、3Dデータを公開することで、ユーザーによるカスタマイズが可能というアイデアも盛り込みました。ユーザーは3Dプリンタで好みの形状のライトバーを作成することができます。

ちなみに、発売時に標準で付属するライトバーを透明タイプか半透明タイプにするか悩んでいるのですが、どちらがお好みですか?

――光が拡散するという点では、今装着されている半透明のほうがキレイに発光すると思いますが、透明タイプと半透明タイプの2種類を付属させるというのはムリでしょうか。

[Mortenson氏]ははは、それはコストが上がってしまいますね(笑)。複数の交換パーツを付属させることは難しいので、ユーザーが自分の好みに合わせ、3Dプリンタで好みのライトバーを作ってもらいたいですね。その部分もユーザーに楽しんでもらいたいと考えています。

上部のライトバーはスライド式で着脱可能。ライトバーの3Dデータを公開することで、ユーザーがオリジナルのライトバーを作成できる仕組みを用意するという。
半透明のライトバーは線で光り、ライトバー無しや透明のものを装着すれば点で光る
RGB LEDの発光色は同社のソフトウェア「Ballistix.M.O.D.」や、各社マザーボードメーカーのユーティリティから制御可能と言う
デモにはGIGABYTEのマザーボードが使用されていた。

3Dプリンタでユーザーが外装をカスタム可能、ゲーマー向けDDR4メモリに遊び心をプラス

ライトバーの3Dプリンタ出力サンプル。美しく発光させるためにはクリア系の樹脂を使う必要があるだろう。不透明な樹脂を使用した場合は穴をあけて光を漏らすのも面白そうだ。
Ballistixメモリの新パッケージ。SPORT、Tactical、Eliteの3グレードでグッド、ベター、ベストの順。「Tactical Tracer DDR4 RGB」にはRGBを示すアイコンも付く予定とか。
スタンダードシリーズのDDR4-2666ネイティブチップ搭載モジュール。IntelのX299プラットフォームの登場に合わせ主力となるモデルだ。日本ではCFD販売パッケージの製品が流通する予定。

――3Dデータを公開し、ユーザーが3Dプリンタを使って独自にカスタムできるということですが、今後どのような構想をお持ちでしょうか。

[Mortenson氏]まずウェブサイト上にデザイン用のフォームを設ける予定です。自分でカスタムした3Dデータをアップロードし、他のユーザーがダウンロードして出力できるといったかたちを想定しています。そのうえで、ユーザー同士がフォーラムを通じて交流してもらう仕組みを考えています。

――3Dプリンタと言うと日本ではまだ高価で普及しているとは言いづらいところがありますが、米国ではもうポピュラーなのでしょうか。

[Mortenson氏]個人でというところではまだまだですが、街では出力を請け負うショップが増えてきましたし、学校など公共の場でも利用できる場所は増えています。Thingiverseのようなオリジナルの3Dデータを公開できるサイトなども活発に活動しています。

――続いて、製品スペックについて聞かせてください。レセプションではCrucialがDDR4-2666のネイティブチップを搭載したスタンダードメモリが展示されていました。「Tactical Tracer DDR4 RGB」もDDR4-2666のネイティブチップを採用するのでしょうか。

[Mortenson氏]はい。ただしBallistixはゲーマー向けのブランドですので、スタンダードメモリと比べ、レイテンシなどアクセスタイミングはよりアグレッシブに設定しています。

アグレッシブと言っても、Ballistixのメモリはまず確実な安定性を確保してからパフォーマンスを決めていきます。より高クロックのDDR4-3200やDDR4-3600といったモデルでもそれは同様で、カタログスペックのみを追求せず、製品の安定性も重視している点がBallistixシリーズの特徴になっています。

「簡単」を追求した新型エントリーSSD「BX300」、リーズナブルかつ使いやすいSSDをユーザーに

BX300の概要。まだ詳細は公開されていないが、MX300と同じくMicron製3D NANDを採用している。
BX300のパッケージ。見たところ販売レベルまで完成しているようだった。

続いてCrucialの「BX300」。近々正式な発表が行われる見込みの製品で、今回は詳細なスペックは言及されなかったが、インタビューを通じて判明したところをお伝えしよう。

――BX300はどのようなポジションの製品でしょうか。

[Weech氏]おかげさまを持ちまして、Micronの3D NANDを初めて採用した「MX300」は大成功を収めました。BX300はその3D NANDをさらに幅広いユーザーにご使用していただくための製品になります。よりお得な価格でPCをアップグレードしていただける、といった提案です。

製品にはインストールガイドを付け、そこに記載されたURLにアクセスすると、アップグレード手順をわかりやすく解説したサイトを閲覧できる仕組みになっています。スマートフォンやタブレットでも見やすいように作成しており、より手順をわかりやすくするため、解説動画も掲載しています。これにより、誰もが失敗することなく簡単にSSDの搭載、換装を行える仕組みをご用意しました。もちろんインストールガイドは日本語にローカライズしています。

製品のキーワードは「イージー」です。買いやすく使いやすい、ユーザーが簡単に導入できるモデルになっています。

――解説サイトへの誘導とそこでのビデオ解説という仕組みはほかの製品でも可能なことかと思いますが、既存製品にこうした仕組みを提供するご予定はありますか。

[Weech氏]もちろんあります。MX300にもインストールマニュアルを付ける予定です。そしてWindowsでもMacでも、どちらでも対応できるよう準備いたします。

製品外観はBX200とさほど変わらない。同梱物も同様。
SSDの導入を解説するサイトを用意することで、ユーザーの装着・換装を助ける仕組みになっている。すでにサイトは完成しており、日本語ローカライズもされていた。ざっくり説明すると、まず元のドライブをバックアップ、次にBX300をUSBケーブル(別売)で繋いでクローンソフト(バンドル)でコピー、PCに装着・換装といったステップになっている。

「BX300」は速度はそのままに業務向け機能をOFFにしてコストダウン

現在の主力モデル「MX300」。BX300はコンシューマー向けとしてはMX300のパフォーマンス面もカバーできるモデルだという。
レセプションの会場にはCrucialの製品がどのような環境で使用されているのか、対応製品の例なども紹介されていた。

――MX300ですでに3D NANDを採用し、BX300も同様です。どのような点でMX300とBX300は異なるのでしょうか。

[Weech氏]BX300は、コンシューマー向けとしてはMX300のポジションも補完できる製品と位置づけて開発されています。

具体的には、MX300にはあってBX300にはない機能として暗号化や保護機能が挙げられます。そうした機能を求める方にはMX300を、BX300はコンシューマ向けのベーシックな機能を提供する製品になります。

速度などのパフォーマンス面はMX300に近い仕様となっており、製品の高速性やデザイン性などの優れた部分をコストパフォーマンスに優れた価格で一般ユーザーに提供できるモデルです。

また、MX300には6Gbps SATA接続のM.2型モデルもありますが、BX300には今のところ2.5インチタイプのみのラインナップなっています。

なお、パフォーマンス面の情報は後日予定している正式な製品発表時に詳しい情報をお伝えします。

――BX300からは少し離れますが、昨年予告されていたBallistixブランドのM.2 SSD「TX3」の製品化が実現しなかった理由について少し話していただけますか。

[Weech氏]ご存知のとおり、現在NANDの供給が需要に届かない状況が続いています。そうした中で、我々も製品を絞り込む必要があり、リソースをMX300に集中したというわけです。

また、我々の母体となるMicronとしましては、エンタープライズ向け製品を優先する必要があります。前回のタイミングでエンタープライズ向けでも高速なM.2 SSDのニーズが高い状態であれば製品化され販売されていたはずです。去年にインタビューを受けた時はSATA SSDにニーズが集中している状態でした。なので、高速なモデルがいつ登場するかは、その時の市場のニーズによると言えます。

――容量に関してなのですが、CrucialのSSDは現在の2TBクラスが最大容量となっていますが、さらに大容量のモデルは予定されているのでしょうか。

[Weech氏]技術的にはプロセスルールの世代が進めば大容量のモデルを製造することができます。しかし、コンシューマー向けには販売価格や需要を見てという部分もあるので、さらに大容量のモデルがいつ登場するのか、具体的に話せる内容は今はありません。だだし、Micronが持つエンタープライズ向けの新技術をいかにコンシューマー向けの製品に落とし込むかといった部分は常に研究していますよ。

新しいトレンドを作ろうとする「Ballistix」、SSDをエントリー層にまで浸透させる「Crucial」

 ここ数年のMicronの動きを追うと、BallistixがCrucialブランドから独立し、ゲーミングを追求する形で動いている。

 BallistixはMicron直系ということもあり、高クロックで動作するDRAMチップを入手しやすい立場ではあるが、ラインナップを見ても最高クロックは3,000MHz台の後半といったところで、過度なOCメモリというよりも安心して使える範囲でのOCメモリを提供する姿勢が感じられる。そうしたマジメなところがあるBallistixが、ユーザーによる「カスタム」という新しいトレンドを盛り込んできたところは面白い。

 PCパーツへのLEDの搭載はトレンドになりつつあるが、一方でハデさを嫌うユーザーも多い。しかし、自作ユーザーなら「カスタム」という点にはつい反応してしまうこともあるだろう。3Dプリンタも徐々に価格が下がってきており、しかも水冷やケースMODよりは手軽だ。製品発売後の動向に注目したい。

 一方のCrucialブランドも、製品ラインナップに関しては手堅く慎重な動きといった印象だ。SSDでみると基本的には6Gbps SATA接続モデルのみの展開となっている。

 しかし、今回はインストールマニュアルでSSDの導入・換装を「簡単」にする動きが見られた。すでにSSDが広く普及し、NVMe対応のSSDなども増えているが、それでも主流は6Gbps SATA接続の2.5インチSSD。一般的なPCユーザーのみならず、さらにエントリーの層にもSSDを広めようとしていることがうかがえる。

 自作PCユーザーなら簡単でも、完成品PCやノートPCを購入する層には、SSDが初めてさわる自作PCパーツとなることもあるだろう。そうしたニーズにスポットを当て、インストールガイドが買い換えの不安を払拭する取り組みとなる。なんとなく、Crucialが考える「次」が見えてきたのではないだろうか。

[制作協力:マイクロン ジャパン株式会社]