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MSIが深センで「最強の10リッターゲーミングPC」を実機公開
10リッターPCでCore i9とGeForce RTX 20が全力で動作できる理由を探る text by 長浜和也
2018年10月22日 00:00
MSIは10月15日に、省スペースゲーミングデスクトップPC「Trident X」と屈曲パネル採用ゲーミングディスプレイ「Optix MAG321CQR」の製品概要を公開した。
同日、深センで実施した製品説明会では、Trident Xの詳細解説に加えてインテルの第9世代CPU「Core i9」シリーズ(8コアモデル)にGeForce RTX 2080を組み込んだハイエンド構成の動作機材を公開した。合わせて、MSI台湾本社のプロダクトマネージャーからゲーミングデスクトップPCと屈曲パネル搭載ゲーミングディスプレイ市場の動向とMSI製品の“強み”についても説明があった。
Trident Xは、MSIのゲーミングデスクトップPCで最もコンパクトなラインアップ「Trident」シリーズの最上位構成モデルになる。サイズ129.74(幅)×382.73(高さ)×396.39(奥行き)ミリで容量10.36リットルのコンパクトボディに第9世代CPU「Core i9」シリーズ(8コアモデル)とGeForce RTX 2080またはGeForce RTX 2080 Tiを採用したMSIのグラフィックスカードを搭載する。その他、Trident Xの主な仕様は以下の通りだ。
【Trident X】
CPU:Core i9シリーズ
OS:Windows 10 Home
チップセット:Intel Z370
GPU:GeForce RTX 2080(GDDR6 8GB)またはGeForce RTX 2080 Ti(GDDR6 11GB)
システムメモリ:DDR4 2666MHz Long-DIMM 32GB(メモリスロット×2基)
ストレージ:SSD 512GB(M.2 2280 Serial ATA/PCI Express自動切換え)、HDD 1TB(Serial ATA、2.5インチ×2台)
ネットワーク:無線LAN(Intel Dual Band Wireless-AC 3168)、有線LAN(Intel I1219-V)、Bluetooth v4.2
光学ドライブ:なし
電源ユニット:650W(モジュラーケーブル方式、80Plus Gold Certified PSU)
インタフェース:USB 3.1(Gen1) Type-C、USB 3.1 Type-A、USB 2.0、マイクロフォン、ヘッドフォン出力(以上前面)、PS/2、USB 2.0×2、Display Port、HDMI、USB 3.1(Gen2) Type-A、USB 3.1(Gen1) Type-A×2、USB 3.1(Gen2) Type-C、RJ45、オーディオ出力、光学S/PDIF出力
10リッタークラスのボディで第9世代CPUとRTX対応GPUに耐える冷却とは
MSI台湾本社でSystem Product Business Product Marketingに所属するJerry Tsai氏は、Trident Xのボディイメージコンセプトをラフスケッチ段階から紹介した。フロントパネル下部には直方体の片側を上から下に向かってブレードで切り落としたような断面(Blade Cutting)と三つ又の矛が天を突く造形(Trident image)を設けたほか、ボディ左右のサイドパネルにあるスリット内側には色が変更できるイルミネーションLED(Mystic Light)を組み込んだ。本体左側面のサイドパネルは“耐熱”ガラス製のパネルに変更可能だ。
コンパクトなボディに現時点で最も性能の高いCPUとGPUを搭載するだけあって、Tsai氏はボディ内部の冷却機構、特にエアフローについて特に説明を加えている。
Trident Xではボディ内部をチェンバー構造として、CPUとGPU(グラフィックスカード)、そのほかのシステムパーツ(システムメモリやストレージ、チップセットなど)のそれぞれを別個のチェンバーに収容し、独立したエアフローを用意することで冷却効果を高めるようにしている。いずれのチェンバーもボディ側面から外気を取り込み、背面(GPUとCPU)、天面(GPU)、底面(CPUとその他システムパーツ)からそれぞれ内部で発生した熱を排出する。
ボディ内部にはケースファンを搭載する余地はないものの、CPUクーラーとGPUクーラー、そして電源ユニットのファンによって強力なエアフローを発生させる。MSIでは、Trident Xの冷却機構によってCPUもGPUもその性能をフルに発揮できると主張する。MSIが確認したデータによるとTrident Xで動作するCPUの温度は最大で85度、GPUは75度であったという。
なお、グラフィックスカードはMSIの市販製品を組み込んでいるが、CPUクーラーユニットに関してはTrident X専用に開発したとTsai氏は説明している。なお、マザーボードの裏面には伝熱パッドが貼ってあり、これをサイドパネルと接触させることでサイドパネルをヒートシンクとして機能させている。
Trident Xでは内部パーツへのアクセスが容易なことも訴求ポイントとなっている。省スペースデスクトップPCは往々にして内部へのアクセスが困難でパーツ増設や換装の作業がやり難い。しかし、Trident Xでは、ボディ左右のサイドパネルを取り外すとグラフィックスカードとSSD(左側面サイドパネルから)、2.5インチストレージドライブベイにシステムメモリスロット、CPU(右側面サイドパネルから)にそれぞれアクセスして増設、換装作業ができるとしている。
ただ、実機を見た限りではシステムメモリスロットの前面にCPUファンのヒートシンクが被っているので、システムメモリにアクセスするにはCPUクーラーユニットの取り外しが必要だろう。
Trident Xのシステム構成では、CPUがCore i9-9900KとCore i7-9700Kが選択できる。また、グラフィックスカードでは「MSI GeForce RTX 2080 Ti Ventus」「MSI GeForce RTX 2080 Ventus」「MSI GeForce RTX 2070 Armor」が搭載できる。電源ユニットも650ワットモデルのほかに450ワット構成も用意している。
「Optix MAG321CQR」は、32型の屈曲パネル搭載ゲーミングディスプレイで解像度は2560×1440ドット、リフレッシュレートは144Hz、描画反応速度は1ms。パネルはVA駆動方式を採用している。Tusai氏の説明では、駆動方式の影響でコントラストがはっきりとしているVAパネルは、GeForce RTX 20シリーズがサポートした(そして、そのGPUを搭載しているゲーミングPCとの組み合わせで)レイトレーシングによる描画によって、グラフィックスにおける明部の描画処理においてもオブジェクトが明確に視認できるといったメリットを訴求している。
「高額ゲーミングと屈曲」に強いMSIをアピール
MSI台湾本社のChannel MarketingでSenior Managerを務めるFrancis Yang氏は、ゲーミングデスクトップPCと屈曲パネル搭載ゲーミングディスプレイの市場動向について説明した。
Yang氏の説明によると、グローバル市場でデスクトップPCの出荷台数は減少し続けており、この傾向は2018年以降も継続するという予想がある一方で、ゲーミングデスクトップPCの売上金額は成長しており、2018年第一四半期においては前年同四半期比較で42.2%という高い成長率を示している(ただし2018年第二四半期は全四半期実績と比べて減少した)。
2018年第一四半期におけるPCベンダーごとの個人向け出荷台数で、MSIは他のPCベンダーの出荷台数構成でほとんどが700ドル未満のモデルで占めている中、MSIはほぼ1000ドル以上の高価格帯モデルで構成しており、Yang氏は高価格帯=ゲーミングデスクトップPCがMSIの強みと訴求する。
MSIにおけるゲーミングデスクトップPCは2014年のNightbladeシリーズから始まり、2016年には奇抜なボディデザインを採用した「Aegis」シリーズが登場し、コンパクトなボディに3室のチェンバーを備えて静音冷却機構「Silent Storm Cooling」の採用やSLI構成を実現した「Aegis Ti」をリリースする。さらに2017年にはゲーム専用機を意識したTridentシリーズと屈曲パネルを搭載したゲーミングディスプレイ「Optix G27C」が登場する。
MSIでは2018年を「True Gaming Heavily Arms」と位置づけ、Trident Xと投入したとしている。Trident Xの登場でMSIのゲーミングデスクトップPCラインアップは、2999ドル以上の価格帯でミドルタワーの「Infinite X」とスモールフォームファクタ(SFF)のTrident X、1299~1999ドルの価格帯でミドルタワーの「Infinite A」とSFFの「Trident A」「Trident 3」、999ドル以下の価格帯でミドルタワーの「Infinite」とSFFの「Trident 3」という構成になる。
ゲーミングディスプレイ(リフレッシュレート100Hzのモデルが対象)市場では、2016年から2018年にかけて約60%成長したのに加えて、屈曲パネル搭載ゲーミングディスプレイに限っては115%と高い成長を示しているという。また、ゲーミングディスプレイ出荷台数におけるフラットパネルモデルと屈曲パネルモデル比率のメーカー別データでは、多くのディスプレイメーカーがフラットパネルモデル多数なのに対して、MSIはそのほとんどが屈曲パネルモデルであることも特徴として訴求している(他に屈曲パネルが多数なのはSamsungと中国のHKC、フィリップス)。
月産160万枚+100万枚の深セン工場を見る
今回の製品説明会は深センにあるMSIの生産拠点で実施している。そのため、説明会終了後はマザーボードやグラフィックスカード、そして、デスクトップPCの製造ラインを見学することができた。
MSIは中国に生産拠点を2カ所設けている。1つは深センでもう1つは蘇州の東にある昆山だ。深セン工場は2001年3月から稼動を始め、敷地面積20万平方メートル、昆山工場は同じく29万平方メートルと崑山工場が広いが、工場として対応している規格は深セン工場が幅広い。工場関係者によると、深セン工場敷地内は既に建屋で一杯なためこれ以上拡張する余裕はないが、新しい土地を既に購入済みでそちらに製造用建屋を建築することは可能だという。
深セン工場は製造棟をA、B、C、Dと4棟あり、そのうちA棟にマザーボード製造ラインを13基にグラフィックスカード製造ラインを4基備える。1カ月当たりの生産能力はマザーボード160万枚、グラフィックスカード100万枚に達する。また、D棟には基板製造ラインを4基の他、ロボット関連製造ラインを2基備える。ロボット関連の生産能力は1カ月当たり5万5000台だ。また、D棟には検査工程で使用する機材や測定室もある。
今回はA棟にあるマザーボードとグラフィックスカード、そして、Trident Xの製造ライン、そして、D棟にある検査室を見学できた。マザーボードもグラフィックスカードも製造ラインの構成と組み立て過程の流れはほぼ共通する。基板に配線しチップやスイッチ類を実装し各工程で検査を実施しパッケージに生成物を収めて輸送用段ボール箱に梱包する。この作業を一直線に配置した製造機械と人員によって流していく。
ただ、グラフィックスカードは裏面にも細かい配線や部材の実装が必要なので実装工程を表面と裏面の2回実施する。検査工程では基板をカメラで認識し異常がないか自動で識別する。こちらも後工程で大物パーツや全体の検査工程では人間の手と目で作業する。
D棟の検査用機材では急激な温度変化に対する耐久力をチェックするサーマルショックや輸送中や車両使用で発生する連続した振動に対する耐久力をチェックする振動発生装置、そして、顕微鏡を使った目視検査による配線検査室などを公開した。