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えっ!PCの電源で音が変わる?小岩井ことりさんにガチでブラインドテストしてもらった!!

~Seasonic FOCUS-PXはオーディオ、音楽制作に効くのか~ text by 藤山哲人

聞けっ! 電源でPCの音が変わるのか、あの方に試してもらったぞ!

PC電源の違いによる音の聞き比べというマニアック過ぎる検証に、なんと声優にして音楽クリエイター、そしてヘッドホンマニアの小岩井ことりさんが降臨!

 普段はPC内蔵電源の静音性や電圧の安定性、またノイズの多さなど数値的なデータを取って電源のよしあしを解説している筆者。その結果はインプレスの「DOS/V POWER REPORT」誌上に多数連載してきた。さて、実機測定した上で“出力する電力に乗るノイズが少ないのが、“オーディオやAV用途によい電源”などとよく書いているが、それって実際の音だとどれくらいの効果があるの?と思った方もいらっしゃるのではないだろうか。ここで筆者が音を聞いてウンチクをたれても説得力に欠けるのは確か。そこでスペシャルゲストにお越しいただき、「PCの電源による音質の違い」を検証していただくことにした。

 そこで、アニメ「のんのんびより」の宮内れんげ役、小岩井ことりさんが特別参加! にゃんぱす~♪ テレビアニメ第3期の製作発表が2019年の5月だったからそろそろ放送されてもおかしくないころだ。

 さて実は小岩井ことりさんこと、ことりん。ただの声優さんじゃない! マジかっ! 小さい頃からPCをたしなみ、MIDIを操りDTMに超詳しいだけでなく、自ら作詞・作曲もする音楽家でもあるのだ。スゲー!

 「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」では「天空橋 朋花」役としても有名。そんな自身の演じる朋花様のキャラクターソングを作詞・作曲、そして製作し、自ら歌ってしまう「完パケ納品できる唯一無二の声優」。自分以外にも楽曲や詞を提供する、かわいい「秋元康」か「つんく」といったところだ。

 そんな「超耳がイイ」ことりんは、以前にも「声優・クリエイター、小岩井ことりが高機能ゲーミングチェアでDTMしてみたら……」でAKIBA PC Hotline!にお招きしたが、今回のテーマはコレ!

 電源がスゲー! と、やっぱ音もスゲー! ショボイとそれなり!? 筆者も含めた全国1千万のファンども! いくぞ!!

【マジレス】ノイズの少ない電源は原音に忠実な音を再生する!

 今回はマジ厳密にテストするということで、編集部も腹をくくった様子。なんと! 失敗したらヤバいこと確実なのに、スペックはまったく同じだが電源だけを変えたマシン2台を用意して、ことりんにブラインドテストしてもらうというもの!

 なにがマズイって、もし不正解ならまずメーカーのSeasonicのメンツが立たない。それどころかPSUの連載で「出力に激しいノイズが乗っているから音楽には向かない」なんてエラそーに書いている俺と雑誌の面目が丸つぶれというわけだ。

電源以外まったく同じパーツ構成の自作PCを用意した。作業中の取り違えを防ぐためにケースだけは同じ製品の色違いモデルとしている。マザーボードは、ASUSTeKのROG MAXIMUS XI HERO(WI-FI)。実売40,000円クラスということで、サウンド回路もかなり力が入っている。電源の違いも敏感に音質に反映してくれるか? なお、向かって左側の黒いマシンを「堕天使ルシファー」、右側の白いマシンを「天使ガブリエル」と筆者が勝手に命名

 そんな悪魔のような編集部が用意したマシンは、左の堕天使ルシファーをイメージした黒いマシンと、右の天使ガブリエルをイメージした白いマシン。スペックは次のとおりだ。

【検証環境(2台共通)】
CPUIntel Penium Gold G5400(3.7GHz)
マザーボードASUSTeK ROG MAXIMUS XI HERO(WI-FI)(Intel Z390)
メモリDDR4-2666メモリ 8GB×2(PC4-21300 DDR4 SDRAM 8GB×2)
SSDMicron Crucial MX500 CT500MX500SSD1/JP(Serial ATA 3.0、500GB)
PCケースThermaltake Versa H26(ATX)
CPUクーラーCPU付属クーラー(トップフロー)
OSWindows 10 Pro 64bit版

 そしてどちらかのマシンには、先日レビューしたPlatinum認証なのに低ノイズで今後の鉄板となりそうなSeasonicの「FOCUS-PX-750」(市場価格26,000円前後)が入っている。そしてもう一方には、80PLUS Gold認証のごく一般的な電源(市場価格9,000円前後)が入っている。

【Seasonic FOCUS-PX-750のスペック】
規格ATX
定格出力750W
ファン12cm角
80PLUS認証Platinum
ケーブルフルプラグイン
Seasonicの最新製品。効率重視の80PLUS Platinum電源ながら低ノイズという期待の製品。詳しいレビューはこちら
【比較対象の電源ユニットのスペック】
規格ATX
定格出力750W
ファン14cm角
80PLUS認証Gold
ケーブルフルプラグイン
80PLUS Gold認証のスタンダードな仕様の電源。この価格でフルプラグインと、使い勝手はなかなか優秀

 それでは早速行ってみましょう! 最初のお題はこちら!!

電源の違いはオンボードサウンド機能の音に影響するの?

 まずはマザーボードに直接ヘッドホンを接続して視聴。使ったのはMeze Audioの「99 Classics WALNUT GOLD」(実売価格35,000円前後)というヘッドホンだ。微動だにせず耳に意識を向けることりん。しばらく白マシン黒マシンを聞き比べて、納得したようだ。

電源だけ異なる2台のPCを用意して同じヘッドホンをつなぎ換えて音に違いがあるか聞き比べてもらった。使用したヘッドホンはことりん愛用のMeze Audioの「99 Classics WALNUT GOLD」

 筆者も聞き比べてみるけど「よく分からねー!」。ノイジーな電源であれば、「無音のときのホワイトノイズが大きいはず!」と決めてかかり、音がない部分を中心に聞いていたが、さっぱりだ! ヤベー! 俺のPSU解説ライター本日で終了!?

 ジャッジの結果は!?

早速試聴開始!ことりんはテスト前は分かりますかね……という感じで、スタッフ一同緊張に包まれたが、数曲聞き比べて何か感じた様子!

ことりん: 「黒マシンは音がなめらかで高音域の伸びが違います。白は音の粒1個1個がぶつかってくる迫力がある感じがしますね。高音がない分中低音が来るのでソレが迫力になっているみたいです。白の音が好みという方もいらっしゃるかもしれませんが、いわゆる高級オーディオだと、なめらか系のほうが多いですよね。黒マシンはそのなめらか系の方向性だと思います。正解(より高級で音がよいと思われるFOCUS-PXを搭載しているの)は黒です!」

俺: 「ボリューム最大でホワイトノイズを効いてみたけど、どちらも無音で分からないっす。ただ白いマシンのほうが、聞きやすい感じがしたので白!」

 正解は!?

 ことりんのが指摘した黒マシンが正解! テストに立ち会ったオーディオ好きの編集部員も、ことりんと同じように高音域のクリアさや、高音域の伸びが違うというのだ。

 少ないサンプルだが耳のイイ人の臨床結果から「低ノイズ電源で音楽を聞くと高音域がよく出てなめらかになる」という結果が得られた。

「黒マシンのほうがオーディオ的には音がいい、とビシッと指摘することりん。自分とは反対の答えだったことに驚きを隠せないぜっ!(左) でも、やはりというか当然というか、ことりちゃんがよい音だと答えた黒マシンにはSeasonicのFOCUS-PXが搭載されていた(右)

 やさしい女神ことりんは、間違えた俺をこうフォローしてくれた。

 「ホント失礼なこと言っちゃってごめんなさい! 人間、歳を重ねると、どうしても高音域のほうから耳の感度が鈍くなってしまうんです。モスキートノイズが聞こえなくなることが有名です。だから、高音域に差が出る今回の実験が聞き取れないと言うのも納得です。逆によく聞こえる中音域は、ノイズの多い白い電源のほうがダイナミックで聞きやすかったので、それを“音質がよい”と感じてしまったのかもしれませんね。音には“質”もありますが、“好み”もあるので難しいんです。あと、2台のマシンの音質差がどれくらい大きいのかあえて表現すると、水の味の違いに近いレベルです。ミネラルウオーターと水道水って、コーラとオレンジジュースほどの違いはありませんが、確かに違いますよね。」

 ことりさん! 天使! 俺のダメ耳のフォローまでしてくれて、涙が出たよ!

ことりん提案のマニアック検証に突入! USB DACだとどうなっちゃうの!?

 本来はここで実験終了のはずだったけど、ことりんからこんな提案が。

 「PCのオンボードサウンド回路は、電源ユニットによって音に違いが出ることは分かりました。せっかくのチャンスなのでUSB DACの場合も聞いてみたいです!私、このためにバッテリで駆動する製品を持ってきたんですよ!」

ことりちゃんがこの日のためにと持参したChord のUSB DAC、「Hugo 2」。電池駆動はモバイル環境向けというだけでなく、PCのUSB電源の影響を避けるという意味もあるようだ

 といって取り出してきたのが、Chord Electronicsの「Hugo 2」。マジか! スゲーマニアックじゃん! USB DACへの給電方式にはいくつかあって、USBポートから給電されるタイプならPCの電源の影響をマザーボードのサウンド回路と同じくらいに受けるかもしれない。しかし、ACアダプタや電池駆動といったPCから独立した電源を使うタイプではどうなのか? USBの信号はPC電源の影響下にあるが、デジタル信号なのでそこまで大きな違いが出るのか……。編集部員も「この組み合わせは違いが分からなくても気にしないでくださいネ」ってフォローに入ってるし。そこをあえてチェックすることりんって、さすがアーティスト! その声をよく拝聴するのだ!

 というワケで急遽、こんな実験に!

バッテリで動くUSB DACでもPCの電源のノイズで音質がかわるのか?

 結果は、以下のとおり。

ことりん: 「わー! これ結構違うかも! 低ノイズの黒はボーカルの伸びの範囲が長いんです。でも白は範囲が短いですよ。低ノイズだと音が減衰する時間が長くてなめらかなんですよ。リバーブの余韻を聞き比べると違いがよく分かります」

俺: 「今度はホワイトノイズじゃなくて、曲を一生懸命聴きました(笑い)。確かに違いはある! 違いはあるけど、どっちがよい音質なのかは、俺の感覚では表現できません。黒マシンに低ノイズの電源が入っていると知ってるから、黒のほうがいいんだよね!? って程度」

 こちらもさきほどの編集部員が聞いたところ、やはりことりんと同じことを指摘していた。ちょっと聞いて“あ、分かるわー”という感じだったので,慣れている人達には分かる世界のようである。

 ともあれ、PC電源からの電力を受け取って動くオンボードサウンド回路でも、乾電池で駆動するUSB DACでも、PC内部にある電源ユニットによって音が変化することが臨床的に実証された! ただ、その原因についてオーディオ業界の門外漢である筆者が語ることは避けておきたい。おそらく音声のアナログ信号の波形をオシロスコープで調べても分からないだろう。業務用のスペクトラムアナライザにかけて、ようやく高音の出かたの違いなどがわずかに可視化できる程度ではないだろうか? 今後追求したいおもしろいテーマを見付けた。

話題のバイノーラル(ASMR)の臨場感もまったく違う!

ことりんが“これも気になる”といって取り出したのは、このイヤホン。S'NEXTの「final E500」というバイノーラル録音コンテンツの再生に特化したもの。直販価格で2,020円とかなり安い。正直言ってこんなに安い機器で差が出るのか?

 石鹸を削る音や耳かきの音、同人業界では添い寝やサキュバスのささやき音声など、頭の形をした特殊なダミーヘッドマイクを使って録音した、バイノーラル録音やASMRなどが盛り上がりを見せている。筆者も同人のバイノーラルは大好きで、聞きながら寝たりすることもある! もちろんサキュバス系なっ!

 イマドキのゲーマーならなら、TPSやFPSなどのゲームで敵の位置を素早く判断するには、視覚情報だけでなく、銃声や足音などの音声情報も頼りにしているだろう。ガチで勝ちにこだわるなら、イコライザーで銃声の周波数帯を持ち上げてヘッドホンで耳を澄ましたりしているかもしれない。つまり敵の位置を察するには、どの方向から音が聞こえるか? が勝敗を握ると言ってもよいだろう。

 そこで次のお題はコレ!

音の立体感はPC内部の電源のノイズで異なるか?

 いきなり結果から。これはことりんも俺もまったく同じ判定結果!ノイズの少ない電源を積んでいる黒マシンの圧勝だ!

 ことりんいわく「藤山さんは、音源定位の耳はスゴクいいと思います! 音の方向や立体感は、年齢による衰えなどがないので、一瞬で聞き分けられたんですね!」と。まぁね! 俺「ゴーストリコン ワイルドランズ」で南米の麻薬組織と戦ってたことあるんで(笑い)。

 視聴したのは、ことりんオリジナルソングで、頭の回りをグルグル回りながら歌うというものだが、聞こえ方がまったく違うのだ。音源は先と同じバッテリで駆動するUSB DACを使った。

  • 普通の80PLUS Gold認証電源(=白マシンに搭載):
    頭蓋骨の内側でことりんがグルグル回って歌っている
  • Seasonic FOCUS-PX(=黒マシンに搭載):
    自分の頭から20~30cm離れたところを、ことりんがぐるぐる

ってな感じでまったく違う! これビックリ!

ああっ、耳元でことりんがささやくこの臨場感……。頭蓋の中で再生されるといかにもイヤホンで聴いている気がしてしまうが、耳元再生だともはや別世界の感覚なのだ

 そしてことりんは、こう補足する。

 「ノイズの少ない黒マシンは、音楽のときと同じで高周波成分がしっかり出ているんです(=音声信号がノイズに埋もれない)。だから音声に含まれる“シュー”や“シィー”という高い音が再生できて、ソレがだんだん小さくなります。ボールを遠くに投げたように、高音がだんだん小さくなっていくところまで再生しきれている感じです。だから広い空間を再現できるんだと思います」

 だからバイノーラルやASMRを聞くなら、極力ノイズの少ない電源にするとよい。電源を交換するだけで、より臨場感を増してゾクゾクする音になるはずだ。さらに同人のサキュバスや添い寝CDは、隣に人がいるような錯覚を覚えるハズ。爆萌え!

 FPSやTPSのゲームなら、ノイズを少ない電源でプレイすると、自分の頭から離れた場所に聞こえるので、方向を見きわめやすいだろう。たとえば自分の頭を太陽だとすると、ノイズの多い電源だと水星の軌道辺りから音が聞こえる感じ。しかしノイズの少ない電源だとより遠い火星の辺りから音が聞こえる感じがするので、より高い精度で敵の方位が分かるというわけ。

 この違いはぜひゲーマーのみなさんに試してもらいたい!

小岩井ことりさんが実証済み! 音にこだわるならよい電源を導入するのだっ!

ピュアオーディオ、AV、DTM、ゲーム、PCの“音”にこだわるなら電源にもこだわるべしと、いうことがことりさんの体当たりテストから分かった。筆者の測定結果も参考にしてほしい

 筆者が電源ユニットの連載を執筆している「DOS/V POWER REPORT」では、散々偉そうに「この電源はノイズが多いからAV PCには向かない」などのレビューを繰り返してきた。しかしここで音のプロである小岩井ことりさんをお招きして、いろいろな実験を行ない、実際に視聴して聞き比べてもらったが、PCの電源によって再生される音質に違いがあることについてのウラが取れた。いわばことりさんに電源ライターとしての首をつないでもらう結果となった(笑い)。

 ここで分かったポイントは次の三つ。

  • PCオーディオで原音に忠実な再生を求めるなら、電源ユニットにもこだわれ! Seasonic FOCUS-PXなら効果アリ
  • たとえバッテリ駆動のUSB DACでもPCの電源ユニットの影響を受ける! 内蔵サウンド回路より影響が大きいことも
  • バイノーラルやASMR、FPSやTPSをより楽しむなら良質の電源を強く推奨

 最後にことりんは、こう〆てくれた。

 「音楽制作をする際には、作曲・編曲して、ミックスダウンをスタジオさんに任せる場合などもあるので、できるだけ標準的な機材などを用いるようにしてます。今回、聞き比べをしてみて、こんなにも電源によって音が変るものなんだ! と驚きました。なるべく多くの音をとらえて聞きたいという場合は、低ノイズのSeasonicのFOCUS-PXシリーズがいいなと感じました。高音域までしっかり再生でき、なめらかで音の情報量も多い。自分のPC用に欲しくなりました。電源としてはちょっと高い25,000円とお聞きしましたが、2万円台ですよ。イヤホンとかヘッドホンとか何十万円もするものがあるので、ソレに比べたら電源だけでこれだけ音が違うとなれば、コストパフォーマンスは高いです。もし音質面を意識しないで電源を選んでいないとすればスゴくもったいないなと、今回の実験でよく分かりました!」

[制作協力:株式会社オウルテック]