特集、その他
Ryzen 9 7950Xは88Wでも5950Xを凌駕、Ecoモードで一気に低発熱/低消費電力に
いじりがいのある新世代Ryzen、「Ryzen Master」で簡単にチューニング text by 瀬文茶
2022年11月7日 00:00
9月末に発売されたRyzen 7000シリーズの最上位モデル「Ryzen 9 7950X」を購入してみました。TDPやPPTの引き上げによって増加した消費電力や発熱、それに伴うCPU温度が注目されがちなCPUですが、上限が最初から高く解放されているのであれば、逆に我々ユーザーの手によって下げる余地も広いと捉えることもできます。
そこで今回は、AMD公式ユーティリティ「Ryzen Master」に用意されたEcoモードを使って、電力リミットを絞ることでRyzen 9 7950Xのパフォーマンスや消費電力、そして発熱がどのように変化するのかを簡単にテストしてみました。
Ryzen 7000シリーズ最上位の「Ryzen 9 7950X」新世代Zen 4アーキテクチャの16コア32スレッドCPU
まずは、Ryzen 9 7950XというCPUのスペックを改めて確認しておきましょう。
CPUコアのアーキテクチャをZen 4、製造プロセスを5nmにそれぞれ刷新し、新CPUソケットのSocket AM5まで採用したAMDの新世代CPUがRyzen 7000シリーズで、その最上位モデルとして発売された16コア32スレッドCPUがRyzen 9 7950Xです。
前世代の最上位モデルであるRyzen 9 5950Xと比較したものが以下の表です。Socket AM5では電源回りが強化されたので、TDPが105Wから170W、電力リミットのPPTも142Wから230Wに増加しています。
PPTを約88Wに設定して低消費電力で使用できるRyzen MasterのEcoモード
AMDはRyzenシリーズ向けのユーティリティツールとして「Ryzen Master」を配布しています。
Ryzen MasterはCPUやメモリのオーバークロック用のツールなのですが、その中にはオーバークロックとは真逆の機能とも言える、消費電力や発熱の削減が目的の「Ecoモード」が用意されています。このEcoモードは、電力リミットをCPUの標準値よりも絞ることでピーク電力と発熱を低減する機能です。当然ですが、その代償としてCPU性能も低下します。
Ryzen 9 7950XでEcoモードを有効にしてみたところ、電力リミットのPPTが230Wから87.8Wに設定されたほか、電流リミットのTDCが160Aから75A、同じく電流リミットのEDCが225Aから150Aへと引き下げられました。
Ecoモードを有効化することで、Ryzen 9 7950XのPPTとTDCは半分以下にまで大胆にカットされたわけですが、この厳しい電力/電流リミット設定でRyzen 9 7950Xがどの程度の性能を発揮できるのかチェックしてみましょう。
テストを行う環境は以下の通りで、Ryzen 9 7950Xの比較用として前世代の最上位CPUであるRyzen 9 5950Xを搭載したAMD X570環境を用意しました。
Ecoモードの効果をCINEBENCH R23でチェックPPT=88W制限でもRyzen 9 5950Xを凌駕するRyzen 9 7950X
まずは、各テスト環境で3DCGレンダリング性能を計測するCINEBENCH R23のMulti CoreとSingle Coreを実行してみました。
Multi Coreでは、標準設定(PPT=230W)のRyzen 9 7950Xが「37,987」というスコアを記録しているのに対し、Ecoモード時のスコアは標準設定を21%下回る「30,021」まで大きく低下しています。とはいえ、そのスコアは前世代最上位のRyzen 9 5950Xが記録した「25,005」を約20%も上回っています。
一方、Single Coreについては、Ryzen 9 7950Xが標準設定とEcoモードの両方で「2,040」程度で同等のスコアを記録しており、Ecoモードを適用してもシングルコア性能が変化していないことが確認できます。これはRyzen 9 5950Xが記録した「1,625」を25%ほど上回る結果でもあり、Ecoモードを適用した状態であっても、Ryzen 9 7950XはRyzen 9 5950Xをマルチスレッドとシングルスレッドの両面で大きく上回っています。
高負荷時の電力効率は1.6倍に向上CINEBENCH R23「Multi Core」実行中の温度や消費電力を確認
CINEBENCH R23のMulti Coreを実行中に、モニタリングソフトやワットチェッカーで計測したCPUの温度や消費電力をグラフにまとめてみました。
標準設定のRyzen 9 7950Xは、CPU温度が平均92.0℃で最大93.4℃となっており、ギリギリで温度リミットの95℃を下回る状態でしたが、Ecoモードを適用した場合は平均46.8℃の最大55.4℃まで大幅に低下しています。この時の平均CPUクロックは、標準状態のRyzen 9 7950Xが5.08GHzで、Ecoモード適用時が4.00GHzでした。
電力リミットの基準値でありCPU消費電力でもあるPPTのセンサー値は、標準状態のRyzen 9 7950Xが平均212.1Wなのに対して、Ecoモードでは平均87.4Wまで大きく低下しています。Ryzen 9 5950Xは平均122.6Wなので、それと比べてもEcoモード適用時のRyzen 9 7950Xは35Wほど低いCPU消費電力で動作しています。
システム全体の消費電力にもCPU消費電力の差は反映されており、Ecoモードを適用したRyzen 9 7950Xが記録した平均151.8Wは、標準状態の平均312.4Wの半分以下で、Ryzen 9 5950Xの平均191.7Wより約40Wも低くなっています。
ちなみに、標準設定のRyzen 9 7950XやRyzen 9 5950Xは、温度リミットにも電力リミットにも達していませんが、これはCPU電流値であるTDCやEDCがリミット値に達してスロットリングが作動しているためです。
システム全体の平均消費電力でCINEBENCH R23のMulti Coreスコアを割ることで求めた「1Wあたりのスコア」で、各環境の電力効率を比較してみました。
標準状態のRyzen 9 7950Xは「121.6」で、Ryzen 9 5950Xの「130.4」を下回っていますが、Ecoモード適用時は「197.8」で傑出しており、その電力効率は標準状態の1.6倍以上、Ryzen 9 5950Xの1.5倍以上にまで上昇しています。
CPUには動作クロックが高くなるほど必要電圧が高くなる特性があり、限界に近い高クロック動作になるほど電力効率が悪化してしまいます。標準状態のRyzen 9 7950Xは性能優先で5GHz以上の高クロック動作となっていますが、これが電力リミットによるスロットリングで約4GHzまで低下した結果、電力効率が大きく改善したというわけです。
3DMark「CPU Profile」テストでスレッド数毎のパフォーマンスをチェック
最後に、3DMarkのCPUテスト「CPU Profile」を実行した結果を紹介します。CPU Profileは、処理に使用するCPUのスレッド数を変更しながらパフォーマンスを計測するテストで、CINEBENCH R23のMulti CoreとSingle Coreの中間の負荷がCPUに生じたさいのCPU性能を知る手がかりになります。
ベンチマークスコアをみてみると、標準設定のRyzen 9 7950XがMaxスレッドや16スレッドで抜きんでたスコアを記録している一方、8スレッドあたりからはEcoモード適用時との差が縮まり、4スレッド以下では同等になっている様子がみられます。
標準設定のRyzen 9 7950Xを基準に指数化したのが以下のグラフですが、Maxスレッドや16スレッドでは標準設定の77~82%の性能しか発揮できていないEcoモード適用時のRyzen 9 7950Xが、8スレッドでは約93%の性能を発揮し、4スレッド以下では同等のパフォーマンスを発揮していることがわかります。
この結果は、Ecoモードが電力や電流のリミット値を引き下げているだけだからこそ生じる現象です。これら引き下げられたリミット値に達すれば、スロットリングが作動してクロックや電圧の引き下げが発生してCPUの性能は低下しますが、逆に電力や電流のリミット値に達しなければ、標準動作時と同じようにブースト動作が維持されます。
多くのCPUコアがフル稼働するような高負荷時の最大電力をカットしつつ、ゲームなど中程度のCPU負荷が生じる場面でのパフォーマンスは高く保てるというのがEcoモードの面白いところです。
CPUの性能を好きなときに縛ったり開放できたるEcoモード自分の都合のいい設定でCPUを利用できるのは自作PCならではの魅力
Ryzen 9 7950Xがブースト動作によって発揮するマルチスレッド性能は素晴らしいものですが、その代償として生じる消費電力と発熱は大きなものです。
この消費電力と発熱に対応できる環境を用意して、最大限にその性能を引き出そうとするのも自作PCユーザーの腕の見せ所ではありますが、今回試したEcoモードのように電力リミットをチューニングして自分にとって都合の良いCPUとして活用するのもまた、自作PCならではの使い方であると思います。
せっかくの高性能CPUを絞って使うなんてもったいないというご意見もあるとは思いますが、普段は静粛性と電力効率に優れた状態で使いつつ、必要な時にはファンスピードや電力リミットを開放して驚異的な性能を発揮するというのは、なんだか心の奥底の何かがくすぐられるような運用なのではないでしょうか。