トピック

薄型ゲーミングノートにはマグネシウム合金ボディが最適!高性能/軽量化で攻めるMSIにメリットを聞く

COMPUTEX会場で本社プロダクトマネージャーにインタビュー text by 日沼諭史

COMPUTEX TAIPEI 2023にてMSIの担当者にインタビューを行った

 MSIはCOMPUTEX TAIPEI 2023(以下COMPUTEX 2023)で多数の新型ノートPCを発表したが、薄型のハイパフォーマンスモデルを中心にいくつかの機種ではボディにマグネシウム合金が採用されている。新規発表されたモデルとすでに販売されているモデルを合わせると、Stealth 14 Studio、Stealth 16 Studio、Prestige 13 Evo、Prestige 16、Stealth 16 Mercedes-AMG Motorsportの計5シリーズがマグネシウムボディになっており、メーカーとして力を入れていることがうかがえる。

 ノートPCはプラスチックやアルミニウムをボディ素材に用いるのが標準的だが、マグネシウム合金を選んだのはなぜだろう。高性能化で発熱や消費電力アップが著しい昨今のノートPCにおいて、どんな意味合いをもつのか、COMPUTEX 2023の現地会場でMSI本社のプロダクトマネージャーと日本のマーケティングマネージャーに話をうかがった。

Micro-Star International NB Product Planning Dept.-III Product Manager Winni Wang氏
エムエスアイコンピュータージャパン株式会社 ノートPCマーケティング部 チャネルマーケティング課 課長 阿部史典氏

高性能なゲーミングノートをより持ち運びやすく、マグネシウム合金筐体採用で薄型化バリエーションも豊かなMSIの薄型ノート

――はじめに、マグネシウム合金を採用した機種それぞれのターゲットユーザーを教えてください。

[MSI] Stealth 14 StudioとStealth 16 Studioは、MSIのゲーミングノートPCの中でも少し特殊な位置付けなのですが、モデル名にStudioとついていることからわかる通り、NVIDIA Studio認証を取得した製品になります。社内的にはクリエイター向けも意識していますので、クリエイティブ・ゲーミングノートPCという立ち位置のモデルになります。

 StealthシリーズはStealth GSシリーズという以前から薄型・軽量モデルとして展開しているものがあり、その系譜を受け継いだ機種ですので、同じように薄型・軽量で、かつパワフルなディスクリートGPU搭載ノートPCとしつつ、ゲーマーだけでなくクリエイターにも向いたスタイリッシュなデザインを狙っています。

クリエイター用途もカバーする薄型ゲーミングノート「Stealth 14 Studio」
WQXGA(2,560×1,600ドット)/240Hzの16インチ液晶を採用する「Stealth 16 Studio」

COMPUTEX 2023に合わせ発表された「Stealth 16 Mercedes-AMG Motorsport」
現在のStealthシリーズはマグネシウム合金筐体を採用する点が特徴

 Prestigeシリーズはビジネス向けですが、なかでもPrestige 13 EvoはMSIのノートPC史上最軽量の約990gとなっています。この機種は日本ユーザーからのフィードバックを多く取り入れて、薄型・軽量にするだけでなく、長時間のバッテリー駆動や日本語に最適化したキーボードを搭載しました。生体認証、指紋認証、顔認証、TPM 2.0といったセキュリティ面も充実していますので、日本ユーザー向けのハイスペックなビジネスノートPCという位置付けです。

 また、今回のCOMPUTEX 2023で初展示した新筐体のPrestige 16 Studio/Evoは、マグネシウム合金筐体だから実現できた製品で、dGPU搭載モデルでは最大でGeForce RTX 4060 Laptop GPUまで搭載可能かつ16インチサイズで1.5kgと、大型かつ軽量/薄型なモデルになっています。大画面/高性能モデルは重くて持ち運べなかったというユーザーには是非手に取ってみてもらいたいモデルです。

キー配列なども日本人が扱いやすいものに改良された990gの軽量ビジネスノート「Prestige 13 Evo」、写真は英語配列モデルだが、日本語配列モデルは日本のユーザーの意見を取り入れたレイアウトになっている
16インチでGeForce RTX 4060 Laptop GPU搭載で1.5kgの軽量高性能モデル「Prestige 16 Studio/Evo」

 COMPUTEX 2023に合わせ発表会も行ったStealth 16 Mercedes-AMG Motorsportですが、ベースモデルであるStealth 16 Studioがゲーミングの中でもハイグレードな製品ということもあり、高性能であることはもちろん、そのうえで「LUXURY GAMING EXPERIENCE」というコンセプトで単なるゲーミングノートPCに止まらず、見た目の高級感やスタイリッシュさにもこだわりたい方におすすめの製品として開発しています。

「Stealth 16 Mercedes-AMG Motorsport」は性能はもちろん、所有感や高級感も重視したモデル
「LUXURY GAMING EXPERIENCE」をコンセプトに開発されている

――Stealth 16 Mercedes-AMG Motorsportとベースモデルの金額差はどれぐらいになりそうですか。

[MSI] 実のところ、そこまでの価格差にはならないと思います。今は調整中ですが、Stealth 16 Studioの上位グレードはメモリを64GB搭載していますが、こうした部分の容量を抑えるなどして、最終的な価格はあまり差が出ないようにしたいと考えています。もちろんご要望の声が多ければメモリを64GB搭載モデルも検討していきます。

――Stealthシリーズはゲーミングであると同時に、クリエイター向けの印象も強いモデルとなっていますが、MSIでは、クリエイター向けとして何がポイントになると考えていますか。

Thunderbolt 4を搭載する点もクリエイティブ用途向けではポイント

[MSI] 世界的にも、以前からMSIのゲーミングノートPCシリーズがクリエイターの方にも需要があるというフィードバックを多くいただいていました。それを反映する形で生まれたのがStealthシリーズです。

 ノートPCをクリエイティブな用途で使うことを考えたときには、性能が高いことは大前提として、可搬性に優れていることも重要です。そういった観点から、クリエイター向けでは薄型かつ軽量であることがポイントの1つになると考えています。

 また機能面では、拡張性を高めるThunderbolt 4を採用していることもクリエイター向けとしてはポイントになる部分だと思いますし、デザイナーやクリエイターの方のなかにはデザインにこだわる方も多くいらっしゃいますので、筐体のデザイン面も大事です。Stealthシリーズだけでなく、CreatorシリーズのノートPCもデザインにはこだわっています。

――先ほどのお話にあったStealth 16 Mercedes-AMG Motorsportの「LUXURY GAMING EXPERIENCE」というコンセプトですが、具体的にラグジュアリーなゲーミング体験というのはどういうものを意識しているのでしょうか。

[MSI] 単純なところで言うと、まずは外観。筐体デザインがこれまでにないシックな見た目になっていたり、電源ボタンに「START ENGINE」と書かれていて、まるでレーシングカーのようなイメージになっていたりする。そういった見た目のこだわり、雰囲気の部分ですね。

 ゲーミングという意味では、4K以上の解像度をもつ色鮮やかな有機ELディスプレイを採用していますので、FPS系よりは原神、エルデンリング、ファイナルファンタジーシリーズなど、高画質なゲームをプレーしていただく際により美麗な映像表現ができます。クリエイティブの分野で言えば動画・写真編集も同様ですが、そういった映像美を堪能するのに最適な製品である、というところも「LUXURY GAMING EXPERIENCE」の狙いになります。

電源ボタンの刻印など、細かい部分にもこだわってデザインしている
底面の滑り止めのゴムも「Stealth 16 Mercedes-AMG Motorsport」独自のデザインとなっている

ディスプレイにUHD+(3,840×2,400)の16インチ有機ELパネルを採用
付属品も特別なデザインの物が付属している

PCを高性能化させつつも重量/サイズの増加は最小に抑えられるマグネシウム合金筐体

――それらの機種の素材にマグネシウム合金を選んだ理由を教えてください。

[MSI] CPUやGPU、SSDなど昨今のパフォーマンスが向上しているPCでは、熱問題とうまく付き合っていく必要があります。その中でMSIは従来のゲーミングノートPCで培った技術や、ビデオカードおよびマザーボード製品におけるフィードバックを活かし、Cooler Boost 5のような冷却システムを設計してきました。

 しかし、冷却システムを高性能にすれば、その分ノートPC自体の重量増や筐体サイズアップなどの課題が出てきます。そこで着目したのが筐体素材の見直しでした。

Stealth 16 Mercedes-AMG Motorsportに搭載されている冷却システム「Cooler Boost 5」、2つのファンと5つのヒートパイプから構成されている

[MSI] ボディにマグネシウム合金を採用した理由としては、軽量さと耐久性、量産時のコスト、さらには安定供給できるかどうか。そういった要素をトータルで考えた時に、マグネシウム合金がマッチしていると考えたためです。カーボンファイバーなど他の軽量素材ももちろん検討しましたが、我々の会社として、特にゲーミングPCにおいて一番最適だと考えたのはマグネシウム合金でした。

 カーボンファイバーも素材としては有力な選択肢になりますが、ゲーミングノートの形状にした時はマグネシウム合金の方が適していたという経緯があります。狙った効果が得られるかはもちろん、部材コストや供給面などさまざまな要因も考慮したうえで、総合的に判断してマグネシウム合金を採用したということになります。

――マグネシウム合金を採用することの一番のメリットは何なのでしょうか。

総合的に見て、性能を高めつつ薄型/計量を実現するにはマグネシウム合金を使用するのが最適だという

[MSI] 一番は軽さで、次に頑丈なことですね。仮にアルミニウム合金で筐体を作った場合、耐久性を維持しようとしたときにはマグネシウム合金ほどには薄く軽くはできません。アルミニウム合金で頑丈にしようとするとある程度厚みを持たせる必要があり、重くなるのは仕方がありません。今のところ薄さと軽さを追求するのであれば、やはりマグネシウム合金が最適になります。そして、プラスチックより放熱性が高い面もマグネシウム合金を含め金属筐体のアドバンテージと言えます。

 たとえばStealth 16シリーズと同等性能の冷却システムをもつアルミニウムボディのStealth 15シリーズが約2.1kg、厚みが19.9mmです。しかし、Stealth 16の方がインチサイズは大きいにも関わらず約1.99kg(Stealth 16 Mercedes-AMG Motorsportは約1.88kg)と軽くなっていて、厚みも最薄部で19.95mmに抑えられています。同様の冷却性能をもち、強度を保ちながらも軽量・薄型化できるのは、他の素材と比べたときのマグネシウム合金の大きなメリットですね。

――マグネシウム合金を使うところで、これまでと比べて難しかったところは何でしょう。

[MSI] 一番難しかったのは価格を抑えることです。マグネシウムはどうしても金属素材のなかでは高価になる傾向があります。Stealth 16 StudioやPrestige 13 Evoなどでは価格面に少し反映されてしまい、心苦しい限りです。一方でノートPCなどの設計ノウハウはあるので、逆にデザインや開発・設計面などで困難だったことはあまりありません。

――最新CPU/GPU搭載の薄くて頑丈なゲーミングノートPCにおいては、現在はマグネシウム合金が最適と言えるのでしょうか。

以前国内の発表会で展示されていたウルトラハイエンドモデルの「Titan GT77 HX」、冷却性重視で大型筐体のため、こうしたモデルにはマグネシウム合金ではない最適な素材が選ばれるという

[MSI] 軽量・薄型の製品を開発するのであれば、マグネシウム合金が今のところベストだと考えています。ただ、そのあたりは実際に使用する人の捉え方次第のところもあります。たとえばハイエンドゲーミングノートPCのTitan GTシリーズはマグネシウム合金を使っていません。

 なぜかというと、Titan GTシリーズはとにかくパフォーマンス特化のモデルで、本体の薄さや重量という部分よりも、ハイエンドパーツの性能がしっかりと発揮されるのか、そのための冷却性能は十分なのかといった部分が重視されるためです。

 マグネシウム合金を使う価値が大きいのは薄さや軽さが重視されるケースです。パフォーマンスに加えて軽さも求めているユーザーには、マグネシウム合金筐体のモデルは最適ということになります。

薄型・軽量ゲーミングノートで攻めるMSI、軽くて高性能なモデルを拡充ユーザーの声をフィードバックした日本向けの改良も継続

――今後、マグネシウム合金を使ったモデルは増えていくのでしょうか。

COMPUTEX 2023の会場ではこれから発売されるモデルを中心に多数のゲーミングノートが展示されていた

[MSI] 増えていくと思います。今回のCOMPUTEX 2023で初展示した新筐体のPrestige 16もマグネシウム合金を採用し、16インチながら約1.5kgという軽さを達成しています。製品によって開発コンセプトが違いますので、必ずしも全製品に採用するということではありませんが、薄型・軽量モデルをお求めのお客様の声も大事にしつつ開発を進めていければと思っています。

――日本向けにマグネシウム合金ボディのモデルを多く導入していく可能性もあったりしますか。

[MSI] もちろんあると思います。今回で言えば日本ユーザー向けに開発したPrestige 13 Evoがその代表例と言えますし、Stealthシリーズでも15インチのモデルより今回のStealth 14 Studioの方がサイズ的には日本では人気があるので、こうした日本ユーザー向けの薄型・軽量タイプのノートPCでは今後もマグネシウム合金を採用していくことは大いに考えられます。

――最後に日本のユーザーに向けてメッセージをいただければ。

[MSI] 当社の製品のなかには、Prestige 13 Evoのように、日本のユーザーの皆様の声をいただいて、それを積極的に反映させて製品に落とし込んでいたりするモデルもあります。今後も忌憚のないご意見・ご要望をいただければ、それをもとにグローバル本社にフィードバックして新製品開発に活かしていきます。

 たとえば、日本のユーザー様にとって使いにくいキーボードレイアウトになっていたところを改善するなど、地道な取り組みもさせていただいていますし、日本ならではの使い方に合うようにハードウェアの内部構成やディスプレイパネルを変えることもできます。今後ともぜひMSI製品にご期待いただければと思います。