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AI・クリエイター・コラボ、最高性能+αの経験をユーザーに届けるASUSの取り組みを聞いてきた

台湾のCOMPUTEX会場で上級役職の二人にインタビュー text by 石川ひさよし

 COMPUTEXのリアル開催は4年ぶりで、その間社会情勢やPCトレンドにも変化があった。普段COMPUTEXに合わせてインタビューを行う際は直近の新製品について特徴や技術をうかがうのだが、久しぶりの開催かつ期間が空いたこともあり、その間メーカーはどのようなジャンルに注力して活動していたのか、ASUSの取り組み関してのインタビューを行った。

 COMPUTEX TAIPEI 2023開催に合わせ話をうかがったのはお2人。Senior Vice Preident Co-Head,Open Platform and AIoT Business GroupsのJackie Hsu氏と、General Manager,Gaming Gear and Accessory Business Unit Vice Chairman, ROG CommitteeのKris Huang氏。

 1990年代や2000年代なら、ASUSはPC DIYメーカーという色が濃かったが、今は総合メーカーとしてさまざまな分野の製品を取り扱っている。若い世代にASUSの印象を聞けば、スマートフォンメーカーやノートPCメーカーという答えが帰ってくることもあるだろう。このように、時代に合わせて取り扱い製品を拡大してきたASUSだが、次の一手は何を考えているのだろうか。新分野はもちろん、PC DIY関連の新たな取り組みに関しても聞いてみた。

AIに力を入れるASUS、AI+IoTの「AIoT」開発に投資自作PCでもAI技術を使った「AI Over Clocking」を提供


ASUSのJackie Hsu氏。
ASUSはAI関連製品も多数開発している。

――AIというトレンドについてどのようにお考えでしょうか。また、どのような取り組みを行なっていますか。

[Jackie Hsu氏]我々から見て、AIは3つのカテゴリレベルに分かれています。1つ目はAIによる生産性の向上。2つ目はAIを製品の機能として活用するもの。3つ目はAIそのものでChatGPTなどがこれに該当します。

 AIの危険性も叫ばれていますが、ここで一つの例えを挙げましょう。まず、ボートは水に浮かぶものです。しかしその水が時にボートを転覆させることもあります。なにごとにもポジティブとネガティブの両側面があるのです。テクノロジーも同様です。我々はそのポジティブな側面を信じてています。AIを効果的に利用すれば、その3つのカテゴリのゴールに到達することができると考えています。

 さらに我々はこの3つのカテゴリ以外の製品も考えています。とくに今注力しているのがAIoT分野です。市場規模の可能性という視点で見ると、PCは現在3億500万ユニット、スマートフォンが14億ユニット、IoTは現在500億(ビリオン)ユニットに到達する可能性があると予想しています。IoTのAI化、AIoTは大きなチャレンジです。膨大なIoT機器からのデータはすべてを人手で消化するのは不可能です。IoTには必ずAIが必要だとASUSは信じています。

 AIoTを語る上で本当に大きな挑戦と言えるのはIoTを支えるAI技術のほうです。まだAIの市場規模は大きくありませんが、企業がAIに投資しないことには市場が発展しません。だからASUSはAIに投資する覚悟を決めたのです。ASUSでは現在、300名のAIエンジニアを雇用しています。


AI関連は手に取れる製品はもちろん、製造や医療、スマートシティなど幅広いジャンルにASUSに注力している。

――AIoTではどのような取り組みを行なっていますか。

[Jackie Hsu氏]ASUSが現在取り組んでいるAIoTは「3+1」です。1つはスマートマニュファクチャリング(製造)、2つ目がスマートヘルスケア、3つ目がスマートリテール(小売業)、これに加えてスマートシティ(都市発展のプロジェクト)。この3+1の取り組みに関して言えば、先の3つのレベルを達成しています。

――AIを用いた実例のようなものはありますか。また、AI開発を行ないたいユーザー向けにオススメの製品はありますか。

[Jackie Hsu氏]社内ではいくつかAIを用いたプロセスやアプリケーションを用いて業務の効率化を行なっていま。弊社の入館管理の顔認証などもそうです。ただ、もっとユーザーの身近なところで、お使いのマザーボードの機能として搭載されている「AI Over Clocking」もAIの一つです。

 AI開発向けのハードウェアとしては、たとえばTinkerシリーズがあります。トラディショナルなPCとは異なり、機械学習アクセラレータを搭載し、推論などAIアプリケーション開発を行なうことに特化したコンパクトなシングルボードコンピューターです。


自作ユーザーが触れている部分では「AI Over Clocking」がAIを活用した技術になる。
AI開発向けボードの「ASUS Tinker Board Series」。




“欲しい物を作る”経験ができるのも自作PCの良さ、クリエイター向けの「ProArt」は今後さらに強化

――少しPC DIY市場についてご意見をお聞かせください。若い世代がPC DIYに興味を持ってもらうにはどのようなことができるでしょうか。

[Jackie Hsu氏]私が理想とする、こんなPC DIYを親子でしてみては? というのをお話しましょう。

 今現在は、子供がおもちゃをねだれば、それを買ってあげたりお金をあげたりするのではないでしょうか。でも私が子供の頃はまず木や竹を渡されて、それをもとに一緒におもちゃを「作った」ものです。これがPC DIYでできたらどうでしょう。PCが欲しいとねだられた時、「一緒に作ろうよ」となるような。

 まずはPCショップに連れて行ってパーツを選ぶところから。「これがCPUだよ」、「これがメモリだよ」……と。組み立てでは「CPUのピンに気をつけろ!」など。こうして組み上げて実際に電源ボタンを押して点灯、動作した時の感動はその子にとって一生記憶に残るのではないでしょうか。そして性能不足を感じるようになったらそれをアップグレードしていく。これこそがPC DIYの魅力ではないでしょうか。

 COVIDによるステイホームの最中、我々はグローバルでPC DIYキャンペーンを行ないました。社員が自身でPCを組みそれをSNSで宣伝するもので、「PC DIYは簡単ですよ」というメッセージであるとともに、作ったPCをGive Away(プレゼント)としてチャリティするものでもありました。Ice Cube Challengeというのが昔流行りましたが、PC DIY ChallengeはそのPCの DIY版みたいなものです。ASUSはこれからもPC DIYに貢献する取り組みを続けていきたいと考えています。


COMPUTEXの会場ではクリエイター向けの「ProArt」シリーズ関連製品が多数展示されていた。
ProArtシリーズの液晶タブレット、ワコム製品との互換性があるモデルになっている。


ハードウェアキャリブレーション用のセンサーも搭載したクリエイター向け液晶。フードをつけた状態でもキャリブレーションが行える構造になっている。
ProArtシリーズのパーツで構築したデモPCも展示されていた。

――ASUSのサブブランドとして、比較的最近のものにProArtがあります。ProArtについて、クリエイターのニーズについてお聞かせください。

[Jackie Hsu氏]ProArtはASUSのサブブランドとして設立しました。ディスプレイからスタートしたProArtですが、コンテンツ制作市場が成長分野であるため、ほかの製品分野にもProArtを拡大していく決定を下しました。デスクトップPCやビデオカードやマザーボード、さらにはルータやマウス……さらに多くのジャンルに製品を展開していく予定です。

 クリエイターも自分のニーズに合わせてパーツを購入しています。ASUSもこうしたニーズに合わせて製品をリリースしていきます。

 ProArtの何が特別なのかという点ですが、クリエイターたちは自分のインスピレーションを得るために静かな制作環境を望んでいます。ビデオカードならより静かなファンにしなければニーズに合致しません。そのため、ゲーミング向けのビデオカードをそのまま適用するというわけにはいかなかったわけです。ゲーミングとクリエイター、異なる2つの用途にはそれぞれの製品を投入していきます。


コラボで新たな価値と経験を提供、Aim Labのノウハウや日本のカルチャーにASUSの技術を融合最高性能+αをユーザーへ届けるASUS ROG


ASUSのKris Huang氏。
COMPUTEXで発表された「ROG STRIX Scope II 96 Wireless」、カスタマイズ性が高くROG NX Snowキースイッチが採用された最新モデル。

――ASUS製品としては比較的参入が最近のeスポーツ向け、ゲーミングデバイスについてお聞きします。ROGのゲーミングデバイスの特徴とはどのようなところにありますか。

[Kris Huang氏]「エンドユーザーにフォーカスする」のがROGチームの製品開発思想です。もちろん競合他社を分析しますが、あくまでコンシューマーのニーズ、トレンドを大切に製品開発を行なっています。「ROG Aceシリーズ」についてお話しましょう。今回のCOMPUTEXにおいて我々は、96%キーボード「ROG STRIX Scope II 96 Wireless」を発表しました。この製品はROG Aceシリーズの主力として、既にリリースしているマウスやマウスパッドと合わせてeスポーツコレクションとして展開します。

 ROG Aceシリーズでは「Aim Lab」とのコラボレーションを行ないました。Aim LabはFPSゲームのエイムを練習するためのゲームで、開発チームのメンバーにはeスポーツコーチや元プレイヤーなどがいます。Aim Labチームの持つ経験と、ROGチームの技術を融合する試みでした。

 ROGチームの精神として性能には妥協しませんでした。50g以下の重量をマウス表面に穴を開けることなく実現したうえで、市場でもっとも精度の高い製品を目指して開発しました。中でもその最大の特徴と言えるのが「Aim Lab Setting Optimizer」というソフトウェアです。Aim Lab Setting Optimizerを実行するだけで、dpi調整などユーザーにとって最適なコンディションを適用することができます。

 ゲーミングキーボードに話を戻しましょう。ROGではさまざまなゲーミングコミュニティ、エンスージアストと交わり、学んでいます。スイッチやキーキャップの素材、レイアウトはもちろん、キーキャップの形や大きさも100%~60%まで。ROGのゲーミングキーボードはほかに先駆けてさまざまなイノベーションを実現してきました。有機ELパネルを搭載したり、ゲーミングに無線接続のキーボードを投入したり……つまりゲーマーのインサイトを見つけて、専門家と組み、それを技術で実現してきのです。一部はけっこうクレイジーなアイデアもあったと思いますけどね。


Aim Labとのコラボレーションモデルの発表会は国内でも行われた。
Aim Labコラボレーションモデルはマウスとマウスパッドが発売されている。

――ROG Aceシリーズの日本での発表は、eスポーツイベント内で行なわれました。日本のeスポーツ市場についてどのような見解をお持ちでしょうか。

[Kris Huang氏]私が日本のeスポーツ市場にはじめて注目したのは2017年のことで、当時の市場規模は260万ドルでした。そして2018年にはこの数値が拡大し350万ドルへ、直近の2022年では700万ドルになりました。

 日本のゲーム市場はほかのアジア諸国、たとえば韓国や中国などと比較するとまだ市場価値は小さいですが、それには3つの要因があると思います。まず日本では法律的にギャンブルが規制されています。次にこれはほかのアジア諸国でも同じですが、親が子供にあまりゲームをさせたくないという考えがあると思います。三つ目は日本がそもそもPCゲームよりもコンソールゲームの大きな市場をかかえていたというのが挙げられます。ただ、日本のeスポーツはまだこれからという見方ですが、間違いなく発展していくものと考えています。世界から見たら、日本はゲーム天国ですよ(笑)。環境が恵まれています。

 eスポーツにはPC、コンソール、そしてモバイルがあります。日本市場においては、まずコンソールベースのeスポーツはこれからのトレンドになると考えています。また、モバイル(スマートフォン)ベースのeスポーツも、日本市場で重視すべきジャンルだと見ています。

 ROGでは現在、コンシューマー向けのeスポーツ関連デバイスの製品ラインナップを拡大しています。6月23日には、PCおよび次世代Xbox向けのコントローラとして「ROG Raikiri」(PlayStationの認証取得も目指しているとのこと)をリリースします。そしてeスポーツ向けの新たなヘッドセットも今後投入を予定しています。以前販売した「ROG Cetra True Wireless」は発売直後、日本のAmazonなどでもかなりよい売れ行きを得られました。これは日本市場にこうしたeスポーツ向けデバイスのニーズがある裏付けと言えるでしょう。


新型ゲームコントローラの「ROG Raikiri」。
ワイヤレスイヤホンの「ROG Cetra True Wireless」は日本市場でも好意的にユーザーに受け入れられたという。




製品を通しての“経験と価値”を提供するコラボレーションモデル、ガンダム・エヴァに続くモデルも検討

――ここ数年、ASUSではエヴァンゲリオンやガンダムとのコラボレーションモデルを展開しました。こうしたコラボレーションはどのように生まれたのでしょうか。

[Kris Huang氏]ASUSの社員、そしてROGチームにも日本カルチャーやゲームのファンがいます。これは我々の製品名でもなんとなくお分かりになるのではないでしょうか。製品名に日本語を使ったものがけっこうあります。また、日本カルチャーやゲームのファンは世界のASUS、ROG製品ユーザーにもいるわけです。そうした背景から、日本のカルチャーと我々の製品が融合できたらいいなということをずっと考えていました。これがコラボレーションをはじめたきっかけです。

 こうしたコラボレーション商品を開発する際、その商品のコレクション性(価値)をとても重視しました。「エヴァンゲリオン・コレクション」の製品開発にあたっては委員会も立ち上げました。繰り返し会議を設け、エヴァンゲリオンの中でたとえば何が作品をイメージさせる中心となるデザインなのかを話し合ってきました。単純にメインキャラクターをフィーチャするのではどこでも作れます。作品の背景も含め理解した上で製品を開発しています。ロンギヌスの槍やATフィールドのようにね。


エヴァンゲリオンコラボレーションモデル発表会時の様子。
インタビュー当日、Kris Huang氏はエヴァのTシャツを着用してた。ROGチーム内にも日本のカルチャーが好きなスタッフがおり、より作品の内容に踏み込んだレベルでの製品開発が行われていると言う。

――こうしたコラボレーションは成功したとお考えでしょうか。また、今後も継続されるおつもりですか。

[Kris Huang氏]エヴァンゲリオン・コレクションでは、9ヶ月の期間、多くの人材を割いて開発しましたが、その目的はエンドユーザーにとって自分が好きな作品のデザインが入っていて、さらにその製品が最高のパフォーマンスを生み出せるという点です。コラボレーションモデルはビッグマネーを生むようなものではなく、ユーザーにとっての価値や体験なのです。限定製品は注目度も大きいですから、(アニメファンという)新たなユーザーを獲得するというのはあると思います。しかし、それを目的としてコラボレーションするというわけではありません。

 今後もコラボレーションモデルを投入する可能性はあります。まだコレといったようにはっきりと申し上げることはできませんが、日本カルチャーにも世界のゲームスタジオにも魅力的なコンテンツがありますから、常にアンテナを張っています。


トレンドに合わせた新技術/新製品を提供するASUS、今後も新コンセプトのモデルを投入

 今回のインタビューではメーカーが目指すものや方向性など、取り組みの面での話を中心にお聞きした。AIやクリエイター、ゲーミングなど、ニーズを抑えつつASUSが持つ技術をどうトレンドに合わせていくのか、コラボレーションにより最高性能というだけでなくユーザーにより良い経験と価値を得てもらうためにどのように製品開発を行っているのかなど、ASUSが注力していることはわかってもらえたのではないだろうか。

 また、インタビューでは深掘りできなかったが、COMPUTEX会場ではケーブル接続が必要な端子を全て基板裏面側に搭載したマザーボードなども展示されていた。同コンセプトの取り組みは他メーカーでも行われているが、ASUSはビデオカード側の電源接続用コネクタもマザーボードの裏面側に移動させる仕組みを採用しており、よりコンセプトを推し進めたものになっていた。こうした部分はASUSらしさを感じる部分であり魅力と言える。今後ASUSから投入される新しい技術や新製品にも期待したい。

接続端子類が背面側にあるマザーボードのコンセプトモデル。
電源やUSBなどケーブルを接続する端子は全て基板の背面側に搭載。
前面コネクタレスのビデオカード。
マザーボードの裏側にビデオカードの電源接続コネクタを移動させるための専用端子。
前面コネクタレスのコンセプトモデルのデモPCも展示されていた。