トピック

Stable Diffusionはクラスを超える爆速!静⾳性・堅牢性重視のASUS「ProArt」にRTX 4060 Ti 16GB搭載カードが登場

クリエイティブワークや生成AIを強く意識、サイズ的な扱いやすさも良好 text by 芹澤 正芳

 ASUSが展開しているクリエイティブユーザー向けのブランド「ProArt」。高いスペックと色の精度を持つディスプレイやノートPC、充実のインタフェースを備えるマザーボードなどをラインナップしているが、2023年夏からビデオカードも加わった。既存の性能追求の「STRIX」や耐久性重視の「TUF」などのゲーミング向けとはひと味違う製品になっている。今回新たに、ビデオメモリ16GB版のRTX 4060 Ti搭載製品が登場。クリエイティブ向けらしい大容量ビデオメモリがどこまで活きるのか。さっそくチェックしていきたい。

ASUSの「ProArt GeForce RTX 4060 Ti OC edition 16GB GDDR6」。実売価格は9万3,000円前後

ProArt GeForce RTX 4060 Ti OC edition 16GB GDDR6の各部チェック

 今回ラインナップに加わったのは、「ProArt GeForce RTX 4060 Ti OC edition 16GB GDDR6」だ。搭載GPUのRTX 4060 TiはGDDR6 8GB版が主流だが、クリエイティブ向けらしくビデオ編集やAIの画像生成などで強さを発揮する16GB版を採用しているのが大きなポイント。CUDAコアは4,352基、メモリバス幅は128bit、カード電力は165Wだ。ブーストクロックの定格は2,535MHzだが、本製品は2,655MHzまで向上させたファクトリーOCモデル。GPU管理アプリの「GPU Tweak III」を使ってOCモードに設定することで、2,685MHzまでアップ可能となっている。

NVIDIA最新世代のRTX 40シリーズでミドルレンジに位置する「GeForce RTX 4060 Ti」を採用。ビデオメモリはGDDR6が16GBと大容量だ
GPU-Zでの情報。ビデオメモリは16GB、ブーストクロックが2,655MHzなのが分かる
カード電力(Power Limit)は、定格通りの165Wだった
GPU Tweak IIIでOCモードにするとブーストクロックを2,685MHzまで向上できる

 ゲーミング向けカードとは異なり、ド派手なLEDのような装飾はない、“プロの作業を妨げない”シックなデザイン。冷却性、長寿命、高信頼、そして導入のしやすさを重視した設計になっているのが大きな特徴だ。大型カードでは3スロット厚以上も珍しくない中、取り回しのしやすい2.5スロット厚相当と比較的コンパクトな作り。カード長も30cmなので、microATXなど小型のPCケースにも組み込みやすく、導入環境をあまり選ばない。

高さがなく、拡張スロットの上方向にほとんどはみ出さない点も設置しやすさにつながっている。補助電源にケーブルを挿しやすいのもメリット
3連ファン搭載としてそれほど長くないので、多くのPCケースとは前面との間に余裕ができる。簡易水冷クーラー搭載時などに干渉しにくい

 コンパクトとはいっても冷却性能はオミットされていない。従来よりも風を送り込む力を高めているというAxial-techファンを3基搭載し、効率よく熱を逃がすヒートパイプを備えたヒートシンクの効果と合わせ、高い冷却力を実現しているのも見逃せないところだ。

外周部を連結したAxial-techファンを3基搭載。従来設計の最大2倍長寿命というデュアルボールファンベアリングを採用。カード長は30cmだ
製品は、左から、ファン&外装ケース、ヒートシンク、基板、バックプレートで構成されている。短い基板に対して強力な冷却システムを採用しているのがよく分かる
3本のヒートシンクを備える大型ヒートシンクを採用。シックな雰囲気も演出してくれるステルスブラック仕上げ。正面から見るとヒートシンク内全体をヒートシンクが貫いているのが分かる
基板はヒートシンクよりも短いコンパクトな作り。7フェーズの電源回路を備える
剛性を高めるバックプレート。16GBモデルは基板裏面にもビデオメモリがあり、バックプレートとの接触面には熱伝導シートが貼られていた。後部がカットされており、ヒートシンクの熱を逃がしやすくなっている

 基板上には冷却を重視する「Performance Mode(Pモード)」と静音性を重視する「Quiet Mode(Qモード)」の切り替えスイッチを備える。ASUSのラボでの実験データによると、Performance Modeでの動作音は40dB。これでも十分静かなレベルだが、Quiet Modeに切り替えると、わずか3℃の温度上昇で35dBに低下し、ほとんどファンの音が気にならないレベルまで静音性を高められる。

 GPU温度が50℃以下のときはすべてのファンが停止する準ファンレス駆動にも対応しており、PCでの作業時に“PCが出すノイズに集中を乱されたくない”という人にもオススメだ。

基板の上部にPerformance ModeとQuiet Modeの切り替えスイッチを用意
ASUSによる本機動作時のカード単体の消費電力(TGP)、GPU温度、動作音の計測結果。Performance Modeでも優れた静音性だが、Quiet Modeでは、わずかな温度上昇で動作音をぐっと下げられる
補助電源は従来からの8ピン×1と使いやすい。基板が短いためコネクタ位置は中央近くになる。推奨電源は650W以上だ
ディスプレイ出力はDisplayPort 1.4a×3、HDMI 2.1a×1とスタンダード

画像処理で強さを発揮する16GBの大容量ビデオメモリ

 ここからはベンチマークに移ろう。クリエイター向けなので、NVIDIA Studioドライバー(536.99)を使用し、クリエイティブ系のアプリ中心にテストする。ブーストクロックはデフォルトの2,655MHzで実行した。比較対象として、8GB版のRTX 4060 Tiとなる「NVIDIA GeForce RTX 4060 Ti Founders Edition」。旧世代から「NVIDIA GeForce RTX 3060 Ti Founders Edition」と「NVIDIA GeForce RTX 2060 Super Founders Edition」を用意した。テスト環境は以下のとおりだ。

【検証環境】
CPUIntel Core i9-13900K(24コア32スレッド)
マザーボードInte Z790 搭載マザーボード
メモリDDR5-5600 32GB(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2)
システムSSDM.2 NVMe SSD 2TB(PCI Express 4.0 x4)
CPUクーラー簡易水冷クーラー(36cmクラス)
電源1,000W(80PLUS Gold)
OSWindows 11 Pro(22H2)

 まずは、定番ベンチマークとしてPCの基本性能を測定する「PCMark 10」と3D性能を測定する「3DMark」から実行する。

PCMark 10の計測結果
3DMarkの計測結果

 どちらもビデオメモリ容量が効くベンチマークではないため、8GB版RTX 4060 Tiとの差はほとんどなかった。ASUS独自のOCカードとNVIDIAのFEという差はあるものの、ビデオメモリ量以外の基本仕様は同一なので順当な結果と言ってよいだろう。

 旧世代との比較では、PCMark 10の写真や動画の編集、CGレンダリングなどクリエイティブ系の処理を行なうDigital Contents Creaitionが大きく伸びているのがポイントだろう。3DMarkではすべてのスコアが上回っており、ゲーム用途ではとくに世代差は大きくなる。クリエイティブ用途、ゲーミングともに、RTX 2060系からの乗り換えは、性能面だけ見ても極めて効果は高い。

 次は、実際にAdobeのPhotoshopとLightroom Classicを使ってさまざまな処理を実行する「Procyon Photo Editing Benchmark」を見てみる。

Procyon Phote Editing Benchmarkの計測結果

 8GB版に対してはPhotoshopの処理がメインのImage Retouchingで大きな差を付けた。旧世代に対しては、Lightroom Classicの処理がメインのBatch Processingが強い。Image Retouchingで旧世代が善戦しているのはメモリバス幅の広さに起因している可能性がある。また、総合Scoreは本機が今回テストしたビデオカードでトップに。画像処理は“最新世代”かつ“ビデオメモリ16GB”であることに意義があると言ってよさそうだ。

 次はGPUによるCGレンダリング速度を測定する「Blender Benchmark」を試す。Blenderはオープンソースの3DCG製作ソフトで、とくにアニメーション分野で採用例が多い。

Blender Benchmarkの計測結果

 3種類のCGレンダリングを行なうが、ビデオメモリ量はあまり影響しないようで8GB版との差は誤差レベルと言える。ただ、旧世代からは大きくスコアを伸ばしており、GPUを使ったCG制作なら最新世代を選ぶほうが快適度は高い。

 ゲーム制作に必要な機能を統合したゲームエンジンして有名な「Unreal Engine」も実行してみよう。ここでは無料サンプルの一つで映画「Matrix」の都市を再現した「City」の一定コースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で計測した。

Unreal Engine 5―City Sampleのフレームレート計測結果

 巨大な都市を再現するのに大量のビデオメモリを必要とするため、16GB版のRTX 4060 Tiが圧倒的に優秀なフレームレートを出した。“ゲーム制作”という大きなプロジェクトの中の一部を切り出したものではあるが、非常に優秀な成績を残した。旧世代GPUでは最小フレームレートが低く、ガクガクとして動きになる場面があるなど、ビデオメモリ不足に加えて基本的なGPU性能も足りない印象だった。実際の現場で使うのであれば、最新世代のGPUへの乗り換え、かつビデオメモリも多めが吉と言えそうだ。

 続いて、AI処理性能も見てみよう。まずは、Stability AIが2023年7月27日に公開した画像生成AIモデル「Stable Diffusion XL 1.0(SDXL 1.0)」を実行する。ここではStable Diffusion web UIを使用し、Sampling Methodに「DPM++ SDE Karass」を選択、「Base」モデルで生成を実行した。起動パラメータには「--xformers --no-half-vae」を追加している。シード値は固定し、512×512ドット、768×768ドットと2種類の解像度で画像を出力する時間を測定した。

Stable Diffusion XL 1.0の計測結果

 SDXLの処理には、16GBのビデオメモリ量が強烈に効いてくる。8GB版のRTX 4060 Tiより512×512ドットで10分の1以下、768×768ドットでは20分の1以下の処理時間で画像を出力できている。SDXL 1.0を使うなら、今回テストした環境では16GB版RTX 4060 Ti一択だ。AIによる画像生成や画像処理技術はもの凄い速度で進化しており、クリエイティブ用途でビデオメモリ量が活きる場面は今後増えるのではないだろうか。

 ただし、AI処理なら何でもビデオメモリが効くとは限らないことは覚えておきたい。次は「Procyon AI Inference Benchmark for Windows」を試そう。MobileNet V3、Inception V4、YOLO V3、DeepLab V3、Real-ESRGAN、ResNet 50と複数の推論エンジンを使ってAIの総合的なパフォーマンスを測定できる。ここでは、Windows MLとNVIDIA TensorRTでテストした。

Procyon AI Inference Benchmark for Windowsの計測結果

 旧世代に比べるとスコアを伸ばし、AI処理に強くなっているが、8GB版とは誤差レベル。このベンチマークに含まれる推論エンジンではビデオメモリ量は効かないのが分かる。

これからクリエイティブワークをはじめたい人注目「Adobe Creative Cloud」の3か月ライセンスが付属

 クリエイティブワークに向いた仕様を備えた本機だが、クリエイティブワークに欠かせないアプリ群である「Adobe Creative Cloud」の3か月ライセンスが付属しているのも大きな注目点だ。Adobeは、フォトレタッチのPhotoshop、動画編集のPremiere Pro、イラスト制作のIllustratorなど多彩なアプリをサブスクリプションで提供しているが、「Adobe Creative Cloud」はそれらをフルに使えるライセンス。Adobe Firefly生成AIテクノロジーの利用ポイントが含まれるなど、さまざまなサービスも利用できる。

「Adobe Creative Cloud」が3か月無料で利用できる

 Adobe Creative Cloudは、月々プランで月額10,280円、年間プランの月々払いで月額6,480円となっている。これが3か月無料で利用できるので、すでに利用している人はもちろん、これからクリエイティブな作業に挑戦してみたい人、Adobeのアプリを試してみたい人にもうれしい特典だろう。オマケと呼ぶには豪華すぎる内容だ

ゲーミングブランドとは異なるルックスやこだわりで作られた製品

 AI画像生成のStable Diffusion XL 1.0やゲーム開発環境のUnreal Engineなど、ビデオメモリの容量的負荷が高い用途では16GBの効果が強い。今後は生成型AIの技術を応用した機能が増えていくと見られ、ビデオメモリ容量の大きいGPUの需要は高まるだろう。

 一方で、求めやすいミドルレンジのGPU搭載カードはビデオメモリが少ない傾向にあって、コストとパフォーマンスのバランスが悩ましい。GPUの処理を頻繁に用いるクリエイティブアプリにビデオメモリ容量の多さがどんな時にでも効果的、とまではいかないものの、このジャンルにおけるGPUの重要性は高まる一方なので、最適化が進んでいくとさらに状況が進展する可能性はある。そんな先も見据えると、10万円以下で大容量ビデオメモリのカードを求める人にとって16GB版のRTX 4060 Ti、とくに静音性やルックスにも優れた本機は、コダワリ派の人ならぜひ注目してみたい一枚と言えそうだ。