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ASUS「ProArt」にビデオカード登場!クリエイターの上質ツールとしてのRTX 4070 Tiカードとは?

“光らない”シックなデザインはクリエイター以外も注目! text by 芹澤 正芳

 ASUSはゲーマー向けの“ROG”、耐久性を重視した“TUF”などさまざまなブランドを展開している。その中でクリエイター向けと位置付けられているのが“ProArt”シリーズだ。すでにノートPC、ディスプレイ、マザーボードを発売しているが、そこにビデオカードが加わった。GPUにはNVIDIA最新世代のGeForce RTX 40シリーズを採用。今回はRTX 4070 Tiを搭載する「ProArt GeForce RTX 4070 Ti OC edition 12GB GDDR6X」を紹介する。

クリエイティブユーザーに向けたスマート&シンプルな“ProArt”

 “ProArt”シリーズは、クリエイティブアプリが問題なく動作することを保証するISV認証を取得した高性能ノートPCの「ProArt Studiobook」、広色域でプロの現場で重要視される色の再現精度の高いモニタの「ProArt Display」、堅牢な設計に加えてビデオカードの映像をType-C出力できる機能を持ちモバイルモニタや液晶タブレットと接続しやすいマザーボードをラインナップ。プロのクリエイターが求める機能や性能を、スマートでシンプルなデザインでまとめているのが大きな特徴と言える。

ダイヤル操作を可能にする物理コントローラの「ASUS Dial」搭載モデルも用意するノートPCの「ProArt Studiobook」(写真はProArt Studiobook 16 OLED)
色域の広さと色の再現精度にこだわったモニタの「ProArt Display」(写真はProArt Display PA32UCX-P)

 このProArtに加わったのがビデオカードだ。クリエイティブ系アプリではGPUの支援で一部処理を高速化できることが多く、Windowsベースの本格的な動画編集環境では必須といえる存在となっているだけに、登場は自然な流れと言ってよいだろう。

ASUSのクリエイター向けビデオカード「ProArt GeForce RTX 4070 Ti OC edition 12GB GDDR6X」。実売価格は146,000円前後

 その第1弾として登場したのがGPUにGeForce RTX 4080を搭載する「ProArt GeForce RTX 4080 OC Edition 16GB GDDR6X」とGeForce RTX 4070 Tiを搭載する「ProArt GeForce RTX 4070 Ti OC edition 12GB GDDR6X」だ。どちらも外観は同じで、前者はPCショップ「ドスパラ」の専売モデルとなっている。今回は幅広く流通している後者のレビューをお届けする。

 ProArt GeForce RTX 4070 Ti OC edition 12GB GDDR6Xに搭載されるGeForce RTX 4070 Tiは、CUDAコアは7,680基、メモリはGDDR6X 12GB、メモリバス幅は192bit、カード電力は285Wだ。ブーストクロックの定格は2,610MHzだが、本製品は2,730MHzまで向上させたファクトリーOCモデルとなっている。さらに、GPU管理アプリの「GPU Tweak III」を使ってOCモードに設定することで、2,760MHzまでアップが可能だ。

GPU-Zでの表示。ブーストクロックは2,730MHzと定格よりも120MHz高い。ビデオメモリはGDDR6Xが12GBだ
Power Limit(カード電力)は定格どおりの285Wに設定されていた
GPU Tweak IIIでブーストクロックを2,760MHzまで向上可能

 デザインはほかのProArtシリーズと同じく、シンプルでムダのない“高級な道具”と言った雰囲気だ。LEDといった装飾もなく、落ち着いたデザインが好みのゲーマーやPC自作ファンにもオススメと言える。カード長は30cmで厚さは2.5スロット相当だ。3連ファンは、外周部を結合させて風を送り込みやすくした独自の「Axial-techファン」を採用。ヒートパイプを備える大型のヒートシンクを組み合わせ、高い冷却性能を実現している。ヒートシンクがブラックに塗装されているのがポイント。同じProArtのマザーボードと組み合わせたとき、統一されたデザインとなる。

3連ファンでカード長30cmの大型冷却システムを搭載。ブレードを外周部を結合させたAxial-techファンを採用している
剛性を高めるバックプレートも搭載。基板はヒートシンクより短く、熱が背面側からも抜けやすくなっている
補助電源は12VHPWR×1だ。コネクタはそれほど奥まった箇所にないのでケーブルは挿しやすい
ディスプレイ出力はDisplayPort 1.4a×3、HDMI 2.1a×1とスタンダード。カードを支えるサポートステイも標準で付属

高いクリエイティブ性能を持ちデュアルエンコードも可能

 ここからはベンチマークに移ろう。クリエイター向けなので、NVIDIA Studioドライバー(528.49)を使用し、クリエイティブ系のアプリ中心にテストする。ブーストクロックはデフォルトの2,730MHzで実行した。比較対象として、前世代からGeForce RTX 3070(微OCモデル)を用意した。テスト環境は以下のとおり。

マザーボードは同じProArtシリーズの「ProArt Z790-CREATOR WIFI」を使用。放熱性を重視した堅牢な設計とType-C映像出力を備えているのが特徴
CPUはIntelのCore i9-13900K。Pコア×8、Eコア×16を搭載し、クリエイティブ用途にも強さを発揮。ROG RYUJIN III 360のような強力なクーラーが必須
【検証環境】
CPUIntel Core i9-13900K(24コア32スレッド)
マザーボードASUS ProArt Z790-CREATOR WIFI(Intel Z790)
メモリDDR5-5600 32GB(PC5-44800 DDR5 SDRAM16GB×2)
システムSSDM.2 NVMe SSD 2TB(PCI Express 4.0 x4)
CPUクーラーASUS ROG RYUJIN III 360(簡易水冷、36cmクラス)
電源ASUS TUF Gaming 1200W Gold(1,200W、80PLUS Gold)
OSWindows 11 Pro(22H2)
3DMarkの計測結果

 定番3Dベンチマークの「3DMark」からチェックしよう。スコアはRTX 4070 Tiとして順当なものだ。RTX 3070に対して約1.26倍から約1.69倍のスコア。レイトレーシング関連の処理が絡むPort RoyalとSpeed Wayではとくにスコア差が大きい。アーキテクチャの進化を感じさせる部分だ。

Procyon Photo Editing Benchmarkの計測結果

 続いて、PhotoshopとLightroom Classicを実際に動作させてさまざまな処理を行なう「Procyon Photo Editing Benchmark」を試そう。CPU、GPU、ストレージの連係力がスコアに影響を与えるベンチマークだけに、ビデオカードの交換だけでも差が出る。Lightroom Classicで処理を行なう「Batch Processing」では、RTX 4070 TiはBatch Processingで約1.3倍もスコアが高くなった。その一方で、Photoshopを使うImage RetouchingではRTX 3070が若干上。原因ははっきりしないが、GPUの性能差よりもアプリやドライバの最適化に差があるのかもしれない。

Procyon Video Editing Benchmarkの計測結果

 動画編集における性能も見てみよう。Premiere Proを実際に動作させる「Procyon Video Editing Benchmark」で計測した。エンコードが中心のベンチマークなので、CPU性能がスコアに与える影響が一番大きいが、GPUによるエフェクト処理も入るためビデオカードの違いでもスコアは変わる。RTX 4070 Tiのほうが約7%スコアが上だった。

Procyon AI Inference Benchmarkの計測結果

 次は、GPUを使ってさまざまなAI処理を行ないスコア化する「Procyon AI Inference Benchmark」だ。Windows上で機械学習を行なうためのAPIである「Windows ML」とNVIDIAの機械学習を高速に実行するためにSDKである「TensorRT」の両方で試した。RTX 3070よりも約1.5倍のスコア差となっており、昨今重要視されるAI処理に対する性能も最新世代のGPUのほうが優秀なのが分かる。

DaVinci Resolve STUDIO 18 4Kエンコードの計測結果

 もう一つ、NVENCによる動画エンコード性能をチェックしてみたい。RTX 4070 Tiは第8世代のNVENCを2基搭載し、それを同時に利用して処理速度を高めるデュアルエンコードが可能だからだ。デュアルエンコードに対応する「DaVinci Resolve STUDIO 18」でApple ProResの4K素材を使ったプロジェクト(約2分)をそれぞれH.265、AV1に変換する速度を測定した。品質:80Mbps/Rate Control:固定ビットレート/Preset:速度優先の設定でエンコードを実行している。

 H.265はNVENCを1基しか備えていないRTX 3070が33秒かかるのに対して、RTX 4070 Tiは半分以下の14秒で処理を完了。デュアルエンコードの強さが分かる。また、RTX 4070 TiのNVENCはAV1のエンコードに対応するが、RTX 3070は非対応。動画編集する人にとっては、この差は大きいのではないだろうか。

GPU温度およびGPUクロックの推移

 GPU温度およびGPUクロックの推移もチェックする。サイバーパンク2077を10分間プレイした際の推移をモニタリングアプリの「HWiNFO Pro」で追った。GPUクロックは「GPU Clock」、GPU温度は「GPU Temperature」の値だ。バラック状態で動作させている。室温は24℃だ。温度は最大でも68.7℃で常に70℃以下で動作と3連ファンの大型クーラーは優秀と言える。クロックは最初は2,760MHz、温度が高くなると2,745Hzでの動作になった。NVIDIA Studio ドライバーを使っているためか、ゲームプレイ中のRTX 4070 Tiのクロックとしてはそれほど高いわけではないが、非常に安定していた。

ゲーミングPCとは違う“プロ好みの質実剛健”を追求

 最後に、今回テストに使用したパーツ類を実働環境としてセットアップした例を紹介する。パーツ構成は先ほどの検証環境に加え、PCケースにFractal Design「North」をチョイス。さらにクリエイターなら必須の高性能なディスプレイとして、ProArtブランドより「ProArt Display PA32UCG」を組み合わせてみた。

組み込んだマシン内部。メッシュのサイドパネルは撮影のため外してある
32型の4K液晶ディスプレイ「ProArt Display PA32UCG」。ミニLED採用のハイクオリティモデルだ

 ProArtのビデオカード、マザーボードは華美な発光機能のないシックなデザインが魅力。今回はメッシュサイドパネルのPCケースを用意したが、近年流行のガラスパネル採用の製品にはない、落ち着いた雰囲気がProArtのコンセプトにも向いている。フロントパネルも木製パーツも“クリエイターの仕事場”の程よいアクセントになりそうだ。

 組み合わせたディスプレイ、ProArt Display PA32UCGのクオリティも圧巻。ミニLEDバックライトを採用した表現力豊かな液晶パネルが特徴のハイエンド機で、豊富な入力端子やハードウェアキャリブレーション対応などの機能も豊富で、プロの写真/映像クリエイターにも最適。最強のクリエイティブ環境を作るなら、ディスプレイにもこだわりたい。

 最近のハイエンドPCは、“ゲーミング”に注力した製品が多いが、パワフルな環境が必要なのは、ゲーマーだけではない。パワフルさを主張して目立つPCより、高い性能と信頼性が機能美として現れた高品質なツール、そんなPCを求める方は、ProArtシリーズとこのコンセプトに合うパーツを組み合わせた構成を検討してみるといいだろう。