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インテル Core i9 プロセッサー 14900Kを電力リミット・チューニングでおいしく使う!最新CPUで“最高性能”も“エコ”も狙え!!

35W~無制限まで、電力リミット毎の変化をチェックしてみた text by 坂本はじめ

 最大6GHz動作を実現したインテル Core i9 プロセッサー 14900Kをはじめ、Raptor Lake-S Refreshことインテル Core デスクトップ・プロセッサー (第14世代)は、製造プロセスのブラッシュアップなどによって従来よりも高いCPUクロックを実現している。

 今回は、価格もこなれて10万円割れで入手可能となった最上位のインテル Core i9 プロセッサー 14900Kを用意。従来よりも優れた特性のCPUであることが期待できるRaptor Lake-S Refreshに対して「電力リミット・チューニング」を行い、消費電力や発熱、電力効率がどのように変化するのか確かめてみた。

Raptor Lake-S Refreshの最上位CPU「インテル Core i9 プロセッサー 14900K」

 インテル Core i9 プロセッサー 14900Kは、2023年10月にRaptor Lake-S Refreshこと「インテル Core デスクトップ・プロセッサー (第14世代)」の最上位モデルとして発売されたCPU。8基のP-coreと16基のE-coreを備える24コア/32スレッドCPUで、Intel 7プロセスで製造されている。

8P-core+16E-core/32スレッドCPUの「インテル Core i9 プロセッサー 14900K」
CPU-Z実行画面。CPUクロックは最大6GHzに達する

 CPUの消費電力指標について、インテル Core i9 プロセッサー 14900Kでは「PBP=125W/MTP=253W」とされているのだが、インテル公式の電力プロファイルである「Extreme Power Delivery Profile」では電力リミットの上限を常時253Wとしているほか、電力リミットをデフォルトで無制限に開放しているマザーボードも存在している。

 常に253Wや無制限の電力消費を許されたインテル Core i9 プロセッサー 14900Kは、CPUコアをより高いクロックにブーストすることで強力なマルチスレッド性能を発揮できる。ただ、その代償として生じる消費電力と発熱もまた大きなものであり、CPUの特性上高クロック動作は電力効率も悪くなりがちだ。

マザーボードによっては電力リミット(PL1/PL2)がデフォルトで無制限(Unlimited)に設定されることもある

 今回紹介する「電力リミット・チューニング」とは、CPU標準の保護機能である「スロットリング動作」を利用するもの。CPUには温度、電力、クロックなど複数のパラメータにリミット値が設けられており、動作中のCPUがいずれかのリミット値に到達すると、電圧やクロックを低減してCPUを保護するスロットリング動作が作動する。

 通常、スロットリング動作は各種リミット値の範囲内でCPUが最大の性能を発揮できるように動作を調整する。電力リミット・チューニングでユーザーが設定するのは電力リミット値のみで、CPUの電圧やクロックは電力リミット値に基づいてスロットリング動作が最適化する。CPU標準の保護機能であるスロットリング動作を活用するため、電力リミットをCPUやマザーボードの上限を超えた値に設定しない限り、基本的に安定性を損なわない。手軽かつ安全なのがこのチューニングの魅力でもある。

 インテル Core i9 プロセッサー 14900Kの場合、時間無制限の「PL1」と時間制限付きの「PL2」という2種類の電力リミットが存在しており、電力リミット・チューニングではこれらの数値を任意の値に設定する。PL1とPL2の設定はマザーボードのUEFI(BIOS)から設定できるほか、インテル公式ツールの「インテル エクストリーム・チューニング・ユーティリティー(インテル XTU)」からも行える。

 なお、電力リミット・チューニングの可否についてはマザーボードの仕様に依存する。ほとんどの自作PC向けLGA1700対応マザーボードは電力リミット・チューニングが可能だが、電力リミットを設定することができない例外が存在する可能性には注意したい。

電力リミットをUEFI(BIOS)から設定できる。GIGABYTE製のマザーボードではPL1=Package Power Limit1、PL2=Package Power Limit2となっている
電力リミットはインテル XTUでも設定可能。設定項目の名称はPL1=Turbo Boost Power Max、PL2=Turbo Boost Short Power Max

Cinebench 2024で電力リミット・チューニングの効果をチェック電力リミットを35W~無制限に設定

 ここからは、実際にインテル Core i9 プロセッサー 14900Kに対して電力リミット・チューニングを行って、その効果を確認していく。

 今回インテル Core i9 プロセッサー 14900K対して設定する電力リミットは、「無制限」、「253W」、「200W」、「150W」、「125W」、「65W」、「35W」の7つ。いずれも、PL1とPL2に同じ数値を入力することにより、常に設定した電力リミット値でスロットリングが作動するようにしている。また、温度リミット(TjMax)は標準の100℃、電流リミット(IccMax)は無制限に設定した。

 テストでは各電力リミット設定で、ベンチマークテスト「Cinebench 2024」のMulti Coreテストを実行。ベンチマークスコアとテスト中のモニタリングデータを比較することで、電力リミット・チューニングの効果を確認する。

Cinebench 2024 (v2024.1.0)

 テストに用いる機材は以下の通り。マザーボードは電力リミット・チューニング対応の「GIGABYTE Z790 AORUS ELITE AX (rev. 1.0)」で、CPUクーラーには360mmオールインワン水冷「ADATA XPG LEVANTE 360 ARGB」をファンスピード最大で使用する。テスト時の室温は約25℃。

ベンチマークスコア

 まずは、電力リミット設定ごとのベンチマークスコアから確認してみよう。

 Cinebench 2024のMulti Coreスコアは、電力リミット無制限の「2,140」が順当にトップとなっており、以下電力リミット値が小さくなるほどスコアも低下している。ただ、253Wや200W設定のスコアが無制限のスコアに近いものとなっているなど、電力リミット値とスコアの低下が比例している訳ではない様子も伺える。

電力リミット無制限。スコアは「2,140」
電力リミット253W。スコアは「2,131」
電力リミット200W。スコアは「2,059」
電力リミット150W。スコアは「1,925」
電力リミット125W。スコアは「1,842」
電力リミット65W。スコアは「1,419」
電力リミット35W。スコアは「983」

CPU消費電力

 ベンチマークテスト実行中のCPU消費電力を計測した結果が以下のグラフだ。

 CPU消費電力は電力リミットが制限する対象のパラメータであるため、253W設定以下では平均消費電力がリミット値とほぼ等しい値となっている。電力リミットが正しく動作していることの証左だ。

 一方で、電力リミットが無制限のインテル Core i9 プロセッサー 14900Kは平均311.1W、最大339.5Wの電力を消費している。また、推移グラフではテスト開始直後に340W近い電力を消費したあと、徐々に消費電力が低下している様子が伺える。これは後ほど説明するが、電力ではなく温度リミットによるスロットリングの影響だ。

システム消費電力

 次のグラフは、ワットチェッカーを用いて計測したシステム全体の消費電力だ。

 もっとも大きな電力を消費したのは、電力リミット無制限の平均506.9W、最大560.7W。以下は電力リミット値が小さくなるほど消費電力は低くなっている。

 至極順当な結果ではあるのだが、最大の無制限と最小の35W設定の間には4倍以上もの消費電力差が生じており、電力リミット・チューニングがインテル Core i9 プロセッサー 14900Kの消費電力、ひいてはシステム全体の消費電力を大きく変化させていることを実感させられる。

CPU温度

 ベンチマーク実行中のCPU温度(CPU Package温度)をまとめたものが以下のグラフ。

 もっとも温度の高い電力リミット無制限は平均98.3℃、最大105℃を記録しており、推移グラフからは断続的に温度リミットの100℃に達してサーマルスロットリングが作動していたことが伺える。253W設定も瞬間的に最大101℃を記録しているが、平均温度が85.4℃であることや推移グラフからも分かるように、大部分は温度リミット未満のCPU温度で動作していた。

 200W以下の設定ではサーマルスロットリングは作動しておらず、電力リミット値が低いほどCPU温度も低くなっている。CPUの消費電力は発熱量と等しいと言えるので、消費電力を削減すれば熱も減り、結果としてより冷却しやすくなるという訳だ。

CPUクロック

 ベンチマーク実行中のCPUクロックを、P-coreとE-coreでそれぞれまとめたものが以下のグラフ。

 インテル Core i9 プロセッサー 14900Kがスロットリングの影響を受けずに最大ブーストで動作した場合「P-core=5,700MHz、E-core=4,400MHz」となるのだが、電力リミット無制限時はサーマルスロットリング、253W以下の設定では電力リミットスロットリングによって動作クロックが低下している。

 電力リミット値が低くなるほどCPUクロックも低くなるが、253Wや200WではP-core=5,000MHz以上、E-core=4,000MHz以上という高クロック動作を維持しており、この高い動作クロックが電力リミット無制限時に近いベンチマークスコアを記録できた理由だろう。

電力リミット値で大きく変わるインテル Core i9 プロセッサー 14900Kの「ワットパフォーマンス」

 Cinebench 2024のベンチマークスコアを、システムの平均消費電力で割ることによって求めた「ワットパフォーマンス」が以下のグラフである。

 数値が高いほどワットパフォーマンス(電力効率)が高いことを意味するこのグラフで、もっとも高い値を記録したのが65W設定の「8.92」で、2番手は35W設定の「8.09」だった。3番手の125W設定以下、電力リミット値が高くなるにつれてワットパフォーマンスは低下している。

 高クロック動作になるほど高電圧が必要となるため電力効率が悪化するという一般的なCPUの特性通りの結果ではあるのだが、注目したいのは電力リミット無制限時と比較的近い性能を発揮していた253Wや200W設定でも、ワットパフォーマンスは大きく向上しているという部分だ。

 65Wまでリミット値を絞ると流石に性能の低下も大きいが、200~253Wやあたりにチューニングすれば、性能を大きく損なうことなく電力効率を改善することができそうだ。

リミット値に達しなければ性能は変化せず3DMark「CPU Profile」でスレッド数ごとの性能をチェック

 最後に、電力リミット・チューニングの特性をより理解しやすいベンチマークテストとして、3DMark「CPU Profile」の結果を紹介しよう。

 3DMark「CPU Profile」は、CPUが備える全コア/全スレッドを使用する「Max Threads」のほか、使用するスレッド数を16、8、4、2、1と絞った時のパフォーマンスを計測するテストであり、CPUの全開動作から中~軽負荷時の性能を知ることができる。

3DMark「CPU Profile」

 これを電力リミット値ごとに実行した結果が以下のグラフだ。

 全コア/全スレッドを利用するMax Threadsの結果はCinebench 2024のMulti Coreと同じような差がついているのだが、使用するスレッド数が減少するごとに電力リミット無制限と253W以下のスコア差が縮まっていき、4 Threadsの時点で電力リミット無制限から125W設置までのスコアが横並びとなっている。

 これは、電力リミット・チューニングが効果を発揮するのが「CPUの消費電力が電力リミット値に達した時のみ」であることを示す結果だ。CPUコアの稼働率が低下すればCPUの消費電力も減少し、消費電力が電力リミットを下回れば性能に影響は生じないという訳だ。

手軽にCPUの特性をガラリと変える「電力リミット・チューニング」

 電力リミット・チューニングは、リミット値を任意の値に変更するだけという手軽さでありながら、インテル Core i9 プロセッサー 14900Kの性能や発熱などの特性をガラリと変える大きな効果を発揮した。

 性能を追求するユーザーにとっては、電力リミット無制限のインテル Core i9 プロセッサー 14900Kを強力なCPUクーラーで冷却して最大限の性能を引き出すべきと考えるかもしれないが、電力リミット・チューニングによって自分の都合にCPUの性能を合わせるというのも自作PCならではの楽しみ方だ。

 インテル Core i9 プロセッサー 14900Kは電力リミット・チューニングに対する反応の良いCPUであり、Raptor Lake-S Refreshの他のCPUにも同じような特性を期待できる。性能と電力効率のバランスを探るもよし、超低消費電力CPU化してファンレスや小型筐体で運用するもよし、設定により挙動の変化がしっかりと見えてくるのは、触っていて楽しいCPUと言えるだろう。電力リミット・チューニングを駆使すれば、用途や利用シーンに合わせより良い性能を発揮できる。

 Raptor Lake-S Refreshは登場時から価格もこなれつつあり、インテル Core i9 プロセッサー 14900Kであれば国内正規品が安値店で9万5千円前後で入手できる。今回は電力リミット・チューニングの例を取り上げて紹介したが、ほかにもCPUを使って楽しめることはたくさんある。インテル Core i9 プロセッサー 14900Kを使い、「自分のベスト」を探求する自作PCならではの楽しみを堪能してみてはいかがだろうか。

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