トピック

外付けSSDを買う前に知っておきたい、本当の速さや動作温度など選び方のポイント

スペックの値だけでは見えてこない外付けSSDのアレコレ text by 坂本はじめ


筐体の素材で動作温度がかなり違う外付けSSD表面素材がサーマルスロットリングに影響、金属素材と樹脂素材は双方にメリットあり

 外付けSSDの筐体には、金属素材を使用しているものと樹脂素材で表面を覆っている製品が存在しており、この表面素材がSSDの動作温度や熱保護機能(サーマルスロットリング)の作動に影響する。

 直感的には、金属製の筐体を採用している方が放熱性に優れていて良いように感じるところだが、実のところそう単純な話ではない。外付けSSDは手が触れる可能性のある機器であるため、動作中の筐体表面温度は低温やけどを避けられる温度に抑える必要があるのだが、国際的な安全規格(ISO 13732-1など)ではその温度を金属なら「51℃」、樹脂なら「60℃」と規定している。金属と樹脂で基準温度が異なるのは、熱伝導性の低い樹脂の方が人体への影響を抑えられるためだ。

 このような事情があるため、外付けSSDのサーマルスロットリングはSSDのパーツを熱から保護するためだけでなく、筐体の表面温度が上昇しすぎないことを目的としても作動する必要がある。実際にどのような違いがあるのか、SSDとしての基本スペックがほぼ同等でありながら筐体素材が異なる「T7」と「T7 Shield」を使って確認してみよう。

金属筐体を採用する「T7」(左)と、表面を樹脂素材で覆った「T7 Shield」(右)。

 まずは、HWiNFO64 Proを使ってサーマルスロットリングの作動温度を確認してみたところ、金属筐体を採用するT7が「54℃」に設定されているのに対し、表面を樹脂で覆っているT7 Shieldは「75℃」に設定されていた。

 SSDとしての基本スペックは同等に近いにも関わらず、サーマルスロットリングの作動温度が20℃以上も違うのは、筐体表面温度への影響を考慮してのことだろう。

金属筐体を採用するT7のサーマルスロットリング作動温度は「54℃」。
筐体表面を樹脂で覆っているT7 Shieldのサーマルスロットリング作動温度は「75℃」。

 続いて、PCに接続した両SSDでBlackmagic Designの「Disk Speed Test」を20分間連続実行。モニタリングソフトでSSDのハードウェア内部温度の推移を計測したほか、サーモグラフィで20分経過時点の筐体表面温度を測定した。テスト時の室温は約25℃。

 サーモグラフィで測定した筐体表面の最高温度は、金属筐体のT7が「43.5℃」で、樹脂で覆われたT7 Shieldは「41.9℃」だった。筐体表面温度的にはT7の方が高い数値となっているが、モニタリングソフトで測定した内部温度(SSD温度)はT7が「最高49℃」、T7 Shield「最高54℃」となっており、逆にT7の方が低い温度となっている。これは、金属筐体を採用するT7の方が内部の熱を効率よく筐体外に放熱できていることを示す結果だ。

 なお、かなり長時間にわたって高負荷を掛け続けてみたものの、どちらのSSDでもモニタリングデータを見る限りサーマルスロットリングの作動は確認されておらず、表面温度も十分低く抑えられている。両製品ともにしっかりした熱設計が行われているためだろう。

T7の筐体表面温度は「43.5℃」
T7 Shieldの筐体表面温度は「41.9℃」

 通常の高負荷テストではサーマルスロットリングの作動を確認できなかったので、動作中のSSDを布で包むことで意図的に放熱性を悪化させた過酷条件で、先ほどと同様の負荷テストを実行してみた。負荷内容も計測方法も先のテストと同条件だが、サーモグラフィ画像は20分経過後に布を取り払って撮影している。

動作中のSSDを布で包んで放熱性を悪化させた過酷条件で負荷テストを実施した。当然だが、このような使い方はすべきではない。

 サーモグラフィで計測した表面温度はT7が「51.6℃」で、T7 Shieldは「54.7℃」。計測温度の正確性については多少の誤差があることを考慮する必要はあるが、T7が金属筐体の安全規格で定められる上限の51℃付近に達している一方、T7 Shieldについてはこの過酷条件でも60℃を下回った。

 T7のモニタリングデータを確認してみると、テスト開始後10分程度でSSD温度が54℃に達してサーマルスロットリングが作動し、転送速度がリード350MB/s、ライト250MB/s程度に低下。それでも温度は低下せず、16分が経過したあたりで最高温度の56℃に達したことで、より強力なサーマルスロットリングが作動してリード・ライトともに50MB/s前後まで大きく低下した。

 一方、T7 Shieldはサーマルスロットリングが作動することなく20分が経過しており、最終的にはSSD温度は最高64℃に達している。

T7の筐体表面温度は「51.6℃」
T7 Shieldの筐体表面温度は「54.7℃」

 どちらも現行のUSB 3.2 Gen 2対応SSDでありながら、素材の違いによってサーマルスロットリングの閾値が異なり、それにより挙動に違いが生じた

 確かに金属筐体は熱伝導率に優れるため通常使用では内部温度を低くできるものの、安全規格に準拠するためには筐体表面温度の制限が厳しいため、結果的には筐体を樹脂素材で覆ったT7 Shieldの方が熱的に過酷な条件に強いという結果となった。カメラで長時間動画の撮影を行うといったユーザーは、こうした動作温度の特性も知ったうえで外付けSSDを選んだ方が良いだろう。

 この結果はきちんとした熱設計を採用し、表面温度の上昇を考慮した熱保護機能を備えるT7とT7 Shieldだからこそ確認できた結果ではあるが、外付けSSDにおいては必ずしも「金属製筐体の採用=熱に強い」というわけでも無いことを覚えておきたい。


小型軽量化と放熱性はトレードオフ、小さい外付けSSDを選ぶ際に気にしたいポイント

 外付けSSDには、さまざまな本体サイズと重量の製品が販売されており、最近ではスティック型の高速SSDも販売されている。

 持ち運びを考慮すると出来る限り小型軽量な製品を選びたいところではあるのだが、SSDの筐体サイズが小さくなると放熱性が悪化してしまうため、最大性能やピーク性能を維持できる時間が制限される場合がある。外付けSSDの性能と小型軽量化の間にはトレードオフが存在するということだ。

 どのようなバランスで製品を設計するのかはSSDメーカー次第だ。Samsungの場合、現行モデルで最薄かつ最軽量のT7であっても、通常使用ではそう簡単にサーマルスロットリングが生じないところを見ると、無理に小型化するよりも性能を重視した設計をしているように見える。

T9の筐体サイズは88×60×14mmで、重量は122g。4TBモデルの実測重量は119gだった。
T7 Shieldの筐体サイズは88×59×13mmで、重量は98g。2TBモデルの実測重量は94gだった。
T7の筐体サイズは85×57×8mmで、重量は72g。1TBモデルの実測重量は62gだった。放熱性の高い金属筐体には薄型軽量化しやすいメリットもあるようだ。
T5 EVOの筐体サイズは40×95×17mmで、重量は102g。8TBモデルの実測重量は98gだった。

 とはいえ、Samsungの外付けSSDは最重量のT9でも122gであり、筐体サイズ自体も特別大きいわけではないので、携帯性も悪くない。

 外付けSSDにどこまで小型軽量化を求めるのかはユーザー次第だが、性能と小型軽量化がトレードオフであることを考慮したうえで、必要な性能が得られる製品を選びたい。


HDDの置き換えも可能な8TBの外付けSSDも登場

 かつてのSSDは、HDDに比べ記憶容量が小さいことがデメリットとされていたが、2024年現在ではテラバイト級の容量を実現したSSDが主流となっており、SSDは小容量という認識は過去のものとなった。

 Samsungの外付けSSDについても、全ての製品に4TBの大容量モデルがラインナップされており、T5 EVOに至っては8TBの超大容量モデルが用意されている。これだけの大容量があれば、外付けHDDが担ってきたデータ保存用やバックアップ用途でも十分に通用するだろう。

8TBの外付けSSDはまだまだ高価なので気軽に購入できるものではないが、近い将来一般的になる可能性は高いので、HDDの置き換えを検討しているユーザーは価格動向をチェックしてもらいたい。

最大8TBの超大容量を実現するSamsung T5 EVOは、HDDよりも小型軽量でありながらUSBバスパワーで駆動する。


外付けSSDの耐久性はどう判断するべき?購入後の摩耗具合はSamsung Magicianで確認可能

 SSDの耐久性を判断する要素としては、製品保証期間とTBW(総書き込みバイト数)がよく知られている。

 これらはSSDが故障した際に製品保証が提供されるか否かの基準となるもので、製品保証期間が経過するか、書き込み容量がTBW値に達するまでは製品保証を受けることができる。あくまで製品保証上の期間と耐久値ではあるが、これらが長く大きいほどSSDとしての耐久性も高いことが期待できる。

 しかし、外付けSSDの多くが製品保証期間を定めている一方、TBWの値については公開されていない製品が多く、書き込み耐久性については未知数な製品が多い。Samsungの外付けSSDについても、今回紹介している4製品はいずれもTBW値は公開されていない。

 そうなると、寿命に関して外付けSSDは製品保証期間からおおまかな耐用年数を推し測ることしか出来ない。信頼のおけるメーカーの製品であれば、SSDに使用できるグレードのNANDが選別されて使用されるので、技術の世代や部材に極端な違いが無ければ、内蔵型SSDも外付けSSDも書き換え耐久性は近しいものになると推測できるものの、あくまで推測の域を出ない話だ。分解して確認しなければ同グレードのNANDや部材が使われているかの判断はできないので、信頼性の高い外付けSSDを選びたい時にはもどかしい部分でもある。

耐久性に関する詳細なスペックの情報があったり、NANDが目視確認できたりするM.2 SSDに比べると、外付けSSDの寿命はスペックシートから読み取るのが難しい。

 なお、Samsungの外付けSSDであれば、ユーティリティソフトのSamsung Magicianを使うことで現在の書き込み済み容量を確認できるほか、SMART情報に基づいて予備領域の残存率を確認することができる。

 SSDは書き換え寿命を迎えて書き換え不能となった記憶素子を代替するための予備の記憶領域を備えており、摩耗が進むと予備記憶領域が徐々に使用されていく。予備領域がゼロになってしまうと不具合が生じた記憶素子を代替できなくなるため、SSDは書き換え寿命を迎えて使用不能となる。つまり、予備領域の残存率とは書き換え耐久性を示す指標であり、Samsung Magicianではこれが10%を切ると警告が表示されるようになっている。

 購入して運用中の外付けSSDに関しては、製品保証期間と予備領域の残存率を参考に買い替え時期を判断すると良いだろう。

Samsung Magicianでは、SMART情報を確認することで外付けSSDが備える予備領域の残存率を確認できる。
予備領域の残存率が10%を切ると警告が表示されるよう設定されていた。ここまで使い込んだなら買い替えるべきだろう。


偽装品も流通している外付けSSD、通販で購入する際は要注意信頼のおけるメーカーの製品を信頼のおけるショップで購入すべき

 残念なことに、市場には容量や速度を偽った偽装SSDが出回っている。特に、外付けSSDは偽装が容易なこともあってか、有名メーカーのSSDと誤認させるような写真や情報を掲載した通販サイトで偽装品が販売されている。

 過去には、一目で偽装品と判断できる超大容量を謳う偽装SSDが出回っていることもあったが、最近では有名メーカー製品よりやや安い価格と現実的なスペックを謳って販売されている偽装品も多い。

左が偽物で、右が本物のSSD。市場にはスペックを偽った偽装品が出回っており、実物を見ると一目瞭然なことも多いが、大手メーカーの製品に似せた形状の偽装品も存在する。

 このような偽装品に引っ掛からないためには、信頼のおけるメーカーの製品を選ぶこと、正規代理店が取り扱っている製品を選ぶこと、信頼のおけるショップで購入することが重要だ。

 大規模なショッピングサイトでは、サイト運営者と出品者が異なる場合も少なくない。外付けSSDの購入に通販を利用するのであれば、誰が販売しているどこの製品なのか、購入前にしっかり確認するよう意識しておきたい。


自分の用途に合った性能を持っているのか、外付けSSDを選ぶときはポイントを調べてから購入しよう

 外付けSSDは速度や容量といったSSDの基本的なスペックだけでなく、利用可能なセキュリティ機能や、筐体の設計や素材によって変わってくる耐熱性、耐衝撃性、防塵防滴性能など、製品選びで検討すべき要素が多い。

 すべての面を気にしなければならないわけではなく、ある使い方では重要なポイントとなる部分が、別の用途では特に考慮しなくてもいい要素になることもあり、自分の使い方で重要になる部分を把握してからSSD選びを始めれば、購入した後に失敗することもかなり減らせるはずだ。

 市場に存在する外付けSSDは性能も価格も多種多様。今回紹介した知識や情報を参考にしながら、自分の使い方にあった外付けSSDを探し出してもらいたい。