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外付けSSDを買う前に知っておきたい、本当の速さや動作温度など選び方のポイント

スペックの値だけでは見えてこない外付けSSDのアレコレ text by 坂本はじめ

 NANDフラッシュメモリやUSBなどインターフェイスの進化に伴って様々な製品が開発されてきた「外付けSSD」。市場では多種多様な仕様の外付けSSDが販売されており、ニーズに合わせたモデルを選ぶことができる。

 選択肢が増えること自体は良いことではあるが、種類が多すぎるが故にどれを選べば良いのか迷ってしまうユーザーも少なくないだろう。

 今回は、外付けSSDの製品選びで失敗しないためにも知っておきたい知識や情報をまとめて紹介する。様々なテストも行っているので、いまどきの外付けSSD事情をぜひチェックしてもらいたい。


主要な容量と速度の外付けSSDを用意して様々な項目をチェックテストに使用するSSDの仕様を確認

 外付けSSDは多くのメーカーが複数の製品を展開しており、今回例として取り上げるSSD大手のSamsungも現行で4つの製品シリーズをラインナップしている。

 Samsungが販売中の外付けSSDは、USB 3.2 Gen 2x2(20Gbps)を採用する最速の「T9」、防塵防滴性能を有するタフな筐体設計が特徴でUSB 3.2 Gen 2(10Gbps)対応の「T7 Shield」、金属製筐体の採用で薄型軽量かつ高性能を実現するUSB 3.2 Gen 2(10Gbps)対応の「T7」、USB 3.2 Gen 1(5Gbps)対応で最大8TBを実現する大容量特化モデル「T5 EVO」。いずれも異なる特性を備えた外付けSSDであり、今回は各製品から1モデルずつを用意した。

Samsungの外付けSSD製品。左からT9、T7 Shield、T7、T5 EVO。

 以下、今回使用するSamsungの外付けSSDについて、特徴とベンチマーク結果を簡単に紹介しよう。

 T9は、記事作成時点でSamsungが販売している外付けSSDの最上位モデル。20Gbps対応のUSB 3.2 Gen 2x2をインターフェイスに採用しており、リード・ライトともに最大2,000MB/sの速度を実現する。容量ラインナップは1TB/2TB/4TBの3モデルで、今回のテストでは4TBモデルを使用する。

USB 3.2 Gen 2x2対応の最速モデル「T9」。
T9(4TB)のCrystalDiskMark実行結果。

 T7 Shieldは、耐衝撃性とIP65相当の防塵防滴性能を備えたタフな筐体設計が特徴のUSB 3.2 Gen 2(10Gbps)対応SSD。最大速度はリードが1,050MB/s、ライトが1,000MB/sで、容量ラインナップは1TB/2TB/4TBの3モデル。今回は2TBモデルを使用する。

防塵防滴性と耐衝撃性に優れたタフなSSD「T7 Shield」。
T7 Shield(2TB)のCrystalDiskMark実行結果。

 T7は、金属製のスタイリッシュな筐体を採用したUSB 3.2 Gen 2(10Gbps)対応SSD。最大速度はリードが1,050MB/s、ライトが1,000MB/sで、容量ラインナップは1TB/2TB/4TBの3モデル。今回は1TBモデルを使用する。

金属筐体の採用で薄型軽量かつ高速な「T7」。
T7(1TB)のCrystalDiskMark実行結果。

 T5 EVOは、最大8TBを実現する大容量特化の外付けSSD。インターフェイスは5Gbps対応のUSB 3.2 Gen 1で、最大速度はリード・ライトともに460MB/s。容量ラインナップは2TB/4TB/8TBの3モデルで、今回は8TBモデルを使用する。

最大8TBを実現する大容量特化の「T5 EVO」。
T5 EVO(8TB)のCrystalDiskMark実行結果。


現行のUSBがどうなっているのか、規格と最高速度を再確認

 現在販売されている外付けSSDの大半はインターフェイスに「USB」を採用しているのだが、USB規格は世代によって最大転送速度が異なる。まずは、外付けSSDが採用しているUSB規格と、その規格がどのようなものなのかを理解することが重要だ。

現行のUSBインターフェイスは様々なバリエーションが存在する。

 2024年現在、外付けSSDに採用されることの多いUSB規格は「USB 3.2 Gen 2x2」、「USB 3.2 Gen 2」、「USB 3.2 Gen 1」の3種類で、先進的な「USB4」を採用する製品も普及しつつある。これら4つのUSB規格に旧来のUSB 2.0規格を加えて、帯域幅と実行速度をまとめたものが以下の表だ。

 なお、この表ではUSB 3.2世代の規格については、同一速度を実現する「USB 3.1」および「USB 3.0」の規格名も併記している。これがUSB 3.x世代のスペック表記を難解にしているのだが、ここで併記している規格名、例えば5Gbpsを実現する「USB 3.2 Gen 1」と「USB 3.1 Gen 1」と「USB 3.0」は同じものと考えて差し支えない。

 外付けSSDの速度を十分に発揮するためには、接続するPC側のUSBポートが外付けSSDと同じUSB規格に対応している必要がある。

 USB規格には原則として下位互換性があるため異なるUSB規格同士でも接続自体は可能なのだが、PC側USBポートの対応規格が外付けSSDの対応規格より低速な場合、PC側USBポートの対応規格が上限速度となってしまうため、外付けSSDは最大性能を発揮することができない。また、例外的にUSB4はUSB 3.2 Gen 2x2との下位互換を必須要件としていない。USB4ポートの仕様によっては、USB 3.2 Gen 2x2対応SSDを接続した際、シングルレーン動作のUSB 3.2 Gen2での接続となる場合もある。

 USB4世代とUSB 3.2 Gen 2x2の関係性を含めると難解になるが、最大性能を発揮するにはPC側のUSBポートが外付けSSDと同じUSB規格に対応している必要があることと、外付けSSDとPC側USBポートの対応速度が異なる場合は原則として遅い方が上限速度となることを覚えておきたい。

 Samsungの外付けSSDの場合、現行モデルではUSB 3.2 Gen 2x2対応のT9が最速モデルとなっているが、過去にはインターフェイスに40Gbps対応のThunderbolt 3を採用した「X5」を販売していた実績がある。遠くない将来、より高速なUSB4に対応した外付けSSDが登場することにも期待したいところだ。

 USB4に関しては、ごく一部のメーカーから対応品が流通し出した状況で、普及はこれから。前述のUSB 3.2 Gen 2x2との下位互換性のほか、規格としては上位互換であるThunderbolt 4との互換性や最大速度などに課題があるものの、40Gbps接続を活用できれば外付けSSDの最大速度は大きく向上する。外付けSSDに可能な限りの高速性を求めるなら、USB4対応製品の情報に注目だ。USB4に関しては前回テストを行っているので、気になる人はぜひ確認してもらいたい。

現行のSamsung製SSDの最速モデルはUSB 3.2 Gen 2x2対応のT9。


本当に高性能なSSDは速度が落ちにくいカタログスペックだけでは分からないSSDの書き込み性能

 外付けSSDの製品スペックには、読み書き性能を示す「最大リード速度」と「最大ライト速度」を掲載している製品が多いのだが、これはあくまでSSDのピーク性能で常に維持できる速度ではない。特に書き込み性能に関しては、公表されている部分のスペックが同じ外付けSSD同士であっても、実測してみると大きな差がつくことも珍しくないのが実情だ。

 昨今のSSDが記憶媒体に採用するNANDフラッシュメモリは、記憶容量を増やすためにTLCやQLCと呼ばれる多値記録を採用しているのだが、これは容量を大きくできる反面、書き込み性能が低下するというデメリットを伴う。その対策としてほとんどのSSDで用いられているのが「SLCキャッシュ」で、記憶領域の一部を多値記録なしで高速書き込み可能なキャッシュとして利用する技術だ。

 SLCキャッシュはあくまでキャッシュであるため、キャッシュとして確保した記憶容量を使い切れば書き込み速度の低下は免れないが、性能重視で設計されたSSDではキャッシュをできる限り多く確保するチューニングや、キャッシュ切れ後でも高速に書き込める高性能なNANDフラッシュメモリを採用するなどして、なるべく書き込み性能を維持できるように設計されている。性能の良いSSDは速度が落ちにくい特性を持っている。

 実際にこのあたりの作りこみが書き込み性能にどのように影響するのか、USB 3.2 Gen 2(10Gbps)対応のSamsung T7と、比較的に安価に販売されている一般的なポータブルSSDを使って検証してみた。

USB 3.2 Gen 2(10Gbps)対応のSamsung T7と比較用ポータブルSSDで書き込み性能を検証。

 書き込み性能を検証する前に、まずはSamsung T7と比較用ポータブルSSDのCrystalDiskMarkの実行結果を確認しておこう。

 両製品ともインターフェイスに10Gbps対応のUSB 3.2 Gen 2を採用した容量1TBの外付けSSDであり、CrystalDiskMarkのリード・ライト性能はどちらもおおよそ1,000MB/s程度となっている。この結果だけみれば、両SSDのパフォーマンスはほぼ同等であるように見える。

Samsung T7(1TB)のCrystalDiskMark実行結果。
比較用ポータブルSSD(1TB)のCrystalDiskMark実行結果。

 CrystalDiskMarkでは互角に見えた2つのSSDだが、PCの内蔵SSDから約123GBの動画ファイルを転送した際の転送時間と転送速度を計測してみると、Samsung T7が「3分58秒(558.1MB/s)」で転送を完了したのに対し、比較用ポータブルSSDは「4分57秒(446.2MB/s)」と1分近い差がついた。

 転送時間で約1分の差がついた理由は、データ転送量に対する書き込み速度の推移をグラフにすると見えてくる。

 Samsung T7は書き込み開始から45GB近くを転送するまで700MB/s弱の速度を維持し、速度が低下したあとも500MB/s前後の速度を最後まで維持している。一方、比較用ポータブルSSDは書き込み開始後5GB程度を転送した時点で速度低下が生じ、その後は440MB/s前後の速度で推移している。

 ピーク性能では拮抗している2つのSSDだが、Samsung T7がSLCキャッシュの確保量が明らかに多いことに加え、キャッシュ切れ後の書き込み性能でも勝っていた結果、実際のデータ転送時間で約1分近い差をつけたというわけだ。

 SSDのSLCキャッシュ確保量やキャッシュ切れ後の速度はスペックから読み取れないうえ、SSDの容量の大きさや残りの空き容量、動作状況などによっても変わってくるため購入前に判断するのは難しい。とはいえ、このように実際の転送速度に大いに影響するものなので、大容量データを扱う機会が多いと想定される用途で使うなら、外付けSSDのレビューを参照するなどして把握しておきたいところだ。

 ちなみに、Samsungの外付けSSD最速モデルにして記憶容量も大きいSamsung T9の4TBモデルで同じテストを行うと、SLCキャッシュ切れとみられる速度低下を起こすことなく約123GBの転送を完了することができる。

 Samsung T9の転送時間はわずか1分48秒で、平均書き込み速度は約1,232MB/sに達している。Samsung T7と比べても2分以上早い時間で転送を完了してみせたSamsung T9のパフォーマンスは、USB 3.2 Gen 2x2に対応する最速モデルのメリットをはっきりと示すものだ。容量が大きいモデルはSLCキャッシュ容量も多く確保されている傾向があり、USBインターフェイスの高速さ×SLCキャッシュ容量の大きさによる効果がわかりやすい例といえる。