トピック

まだ無くならない模造品SDカード、本物のSDカードと比べて真贋を判断する術を知ろう

被害に遭わないためのSDカード選び text by 坂本はじめ

 AKIBA PC Hotlline!でもたびたび取り上げている模造品のSDカード。メーカーや通販サイトも対策を進めてはいるものの、残念なことに2024年現在もネット上では模造品SDカードが販売され続けているのが現状だ。

 今回はSamsungのmicroSDカードを例に、どのような模造品が流通しているのかを紹介する。被害に遭わないためにも模造品SDカードの現状を把握し、自己防衛の役に立ててもらえれば幸いだ。

模造品microSDカードの実態、本物と外観から見分けることは可能?

 今回紹介する模造品microSDカードは、フラッシュメモリ大手であるSamsung製microSDカードの模造品だ。

 本体の外観は「microSD EVO Plus」と「microSD PRO Plus」を模倣しており、「2TB」という記憶容量が表記されている。模造品はカード本体のデザインやカラーもかなり本物に似せており、相当詳しい人でないと、本物と見比べなければ気づかないレベルだ。

 また、観察眼が鋭い人は気づいたかもしれないが、よく見るとメーカー名の表記が「SAMSUNG」ではなく、「SA“N”SU“M”G」になっている。使われているフォントが同じタイプなので、漫然と見ていると見落としてしまう。

 なお、2TBのmicroSDカードはシリーズを問わずSamsungからは発売されていない。製品ラインアップまで知っているレベルのユーザーであれば、容量2TBの表記を見た瞬間に模造品だとわかるだろうが、久々にmicroSDカードを購入するといったユーザーであれば、容量表記で正規品ではないと気付くことは難しい。

模造品のmicroSDカード。SamsungのmicroSD EVO PlusとmicroSD PRO Plusを模したデザインになっており、2TBの記憶容量をうたっている。なお、2TBのmicroSDカードはSamsungからは発売されていない。
左側が本物のSamsung製microSDカード、右側が模造品。かなり似せて作られていることが分かる。

 厄介なことに、この模造品には奇麗な製品パッケージまで用意されている。Samsung製品を模倣している点を除けば、店頭に陳列されていてもさほど違和感のない品質で、正常な製品として見えてしまうのは悪質。

 なお、本物とはパッケージのデザインが全く異なっており、付属品のSDカード変換アダプタも全くの別物だ。正規の製品を知っていれば一瞬で模造品だとわかるが、知らなければわからないレベルで作られてしまっている。

模造品はご丁寧にも製品パッケージに納められている。パッケージにはそれっぽいロゴや文言が並んでいる。
裏面も作りこまれており、Samsungの正規品パッケージのデザインを知っていなければ違和感を感じないかもしれない。
本物のSamsung microSD PRO Plus(写真左側)と製品パッケージの比較。パッケージのデザインは全くの別もので、付属のSDカード変換アダプタも本物とは色からして全く異なっている。

 見た目だけで判断するのが難しいのは模造品を見てもらった通りだ。詳しくなければ見分けられないというのが2024年の現在の状況と言える。

 見た目から真贋を判断する方法としては、まずはメーカーのサイトを確認し、デザインに差異がないかを確かめてほしい。合わせて、製品の容量ラインアップも確認してもらいたい。模造品は容量を偽り大容量品として販売されているものが多いので、メーカーのサイトに記載がない容量のモデルはその時点で模造品だと判断できる。

 また、なるべくパッケージのデザインも購入前には可能な限り確認してもらいたい。パッケージデザインはメーカーや販売代理店で紹介されていることが多い。Samsung製のmicroSDカードであれば、販売代理店のITGマーケティングのサイトに正規品パッケージのデザインが紹介されている。

 これらの方法はどのメーカーであっても取れる対策なので、特に大容量なmicroSDカードを購入する際はメーカーや国内販売代理店のサイトを確認してから判断して、被害を未然に防ごう。

本物のSamsung製microSDカードの製品仕様。microSD EVO PlusとmicroSD PRO Plusの最大容量は1TBであり、模造品のうたう2TBモデルはまだ存在していない。メーカーサイトで容量ラインアップを確認するのも模造品を避ける術になる。
Samsung製のmicroSDカードは、国内販売代理店のITGマーケティングのサイトに製品パッケージも紹介されている。購入前に正規品のパッケージデザインも確認すると、より模造品を避けやすくなる。

Samsung製microSDカードの真贋はユーティリティソフトで確実に判別可能購入した後には必ず確認を

 模造品は大容量品をありえないような低価格で販売することも多い。

 今回の模造品も本物に存在しない大容量をうたっているため、購入前の時点で真贋を用意に判断できるのだが、512GBや1TBのモデルを微妙に割安な価格に設定し、より巧妙に本物っぽさを演出して販売された場合は本物と誤認して購入してしまう可能性もある。

 Samsungは購入したmicroSDカードが正規品か否かを判別する方法として、自社のユーティリティソフト「Magician」にメモリカードおよびUSBメモリ製品の真贋判定機能が行える認識機能を実装している。

 microSDカードがSamsungの正規品であれば、Magician上ではカードの製品名や識別番号とともに正規品であることが表示される。逆に、模造品ではドライブ名や識別番号は表示されないため、正規品ではないことが確認できる。

Magicianで正規品のmicroSD PRO Plusを認識した場合。ドライブ名や識別番号とともに「正規」と表示されている。
Magicianで模造品を認識した場合。ドライブ名はSD Card Readerとしか表示されず、正規であることの表示はされない。模造品で表示されるシリアル番号やファームウェアのバージョンは架空のものと思われる。

 なお、ユーティリティソフト「Magician」には、Samsung製のストレージの状態を確認する機能もある。製品が正常に動作しているのか、速度を計測してパフォーマンスが発揮されているのかといったことが確認できるので、Samsung製のストレージを利用しているユーザーは活用してほしい。

ユーティリティソフト「Magician」からは、同社のSSDやmicroSDの状態やパフォーマンスが確認できる。

性能が違いすぎる正規品microSDカードと模造品microSDカードベンチマークで速度を比較してみた

 今回の模造品はカード本体にU3、V30、A2など、正規品と同等のスピードクラスが表記されている。模造品である以上これらの表記に信憑性は無いが、実際のところどの程度の性能を発揮するのかCrystalDiskMarkで確かめてみよう。

 なお、このテストでは「UHS-I DDR200」に対応するSamsung製のSDカードリーダーと、正規品のmicroSD PRO Plusに付属するSDカード変換アダプタを使用している。

UHS-I DDR200対応のSamsung製カードリーダーでテストを行う。
正規のmicroSD PRO Plusに付属するSDカード変換アダプタを利用する。

 まず、模造品の最大速度はいずれもリード23MB/s前後、ライト18MB/s前後で、本体に表記されているU3やV30の最低保証速度である30MB/sを当たり前のように下回っている。外見を模倣した物だけあって、性能も当然表記とは異なるといったところか。

microSD EVO Plusの模造品。
microSD PRO Plusの模造品。

 一方、Samsungの正規品はというと、microSD EVO Plusがリード最大168MB/s、ライト最大128MB/sを記録。上位のmicroSD PRO Plusもリード最大182MB/s、ライト最大150MB/sとなっており、カタログスペックと同等以上の速度を記録した。

 この速度を引き出すには「UHS-I DDR200」対応のカードリーダーが必須ではあるが、その転送速度は模造品とは比べものにならないほど高速。この速度を期待して模造品を購入してしまった時のダメージがどれほど大きいかを感じられるだろう。

正規品のSamsung microSD EVO Plus (1TB)。
正規品のSamsung microSD PRO Plus (1TB)。

2TBをうたう模造品SDカード、実際の記憶容量はどれくらい?チェックツールで本当の容量を確認

 模造品SDカードは正規品には存在しない2TBの記憶容量をうたっており、Windowsなどでも記憶容量は約2TBと認識されるわけなのだが、これが本当の記憶容量なわけがない。

 そこで、ストレージが認識通りの記憶容量を備えているのかをチェックできる「H2testw」を使って、模造品の記憶容量を確かめた結果が以下のスクリーンショットだ。

模造品microSD EVO Plusの結果。データが保存できたのは7.7GBのみだった。
模造品microSD PRO Plusの結果。こちらもデータが保存できたのは7.7GBのみ。

 この手の模造品には実容量64GBのSDカードが使われていることが多いので、microSD EVO Plusの模造品に対しては64,000MBの領域に書き込みテストを行った。実際にデータを記録できたのは7.7GBだけで、54.7GBのデータは失われていた。

 これを踏まえ、模造品microSD PRO Plusに対して10,000MBの領域に書き込みテストを行ったところ、こちらもやはり7.7GBまでのデータしか保存することはできなかった。つまり、今回の模造品は2TBの容量をうたいながら、実態としては8GBの記憶容量しかないというわけだ。

デジタルカメラでも中途半端に使えてしまう模造品microSDカード一定以上使用すると破損ファイルだらけなるので、真贋の判別は使用前にしっかりと

 速度も容量も嘘だらけの模造品microSDカード。PC以外の機器に搭載するとどのように動作するのかを確かめるため、ミラーレス一眼カメラのEOS R10にSDカード変換アダプタを介して搭載してみた。

模造品microSDカードをミラーレス一眼に搭載してテスト。

 結果として、模造品microSDカードはデジタルカメラでも2TBの容量を持つSDカードとして認識され、写真や動画の撮影はもちろん、カードのフォーマットも可能だった。

 もちろん、カードの読み書き速度が遅いため動画撮影は速度不足で早々に録画が停止してしまうが、遅いSDカードなりに撮影できてしまうのが困ったものだ。

模造品SDカードの容量は2TBと認識され、フォーマットも実行可能だった。
カード性能が連射性能や録画時間に影響するものの、写真や動画の撮影は可能だった。
動画はカードの書き込み速度不足で録画停止に陥りやすい。

 さらに問題なのが、模造品SDカードの実容量である7.7GBを超えて撮影を継続した場合の挙動だ。

 事前にSDカードに対して7.7GBをわずかに超過する程度のデータを保存しておくと、容量を超過して保存した写真データは破損して読み取り不可能になっているのだが、この状態でも撮影は継続できてしまう。

 模造品microSDカードは実容量を超過して実際に書き込まれていないにも関わらずデータを受け付け続けるので、気が付いた時には破損したファイルだらけになっている。なまじ動いてしまう分だけ悪質であるとさえ言える挙動だ。

今回の模造品では、7.7GBを超えて記録したデータは破損して読み取り不能になる。
実容量を超過した状態で連続撮影した場合、カメラのキャッシュ上にある写真は保存されているかのように見える。
カメラの電源を一旦オフにしてから再起動すると、模造品microSDカード上には読み取れない破損ファイルだらけになってしまう。

 しっかりと撮影したつもりがデータとして残っていないのは事故といえる。場合によっては取り返しのつかない事態となることもありえる。模造品を購入しないことはもちろんだが、使用前にはかならず正常なmicroSDカードなのか、模造品ではないのかを確認し、それから使い始めてほしい。

悲しいことになかなか無くならない模造品SDカード正規品を見分ける術を身につけよう

 今回紹介した模造品SDカードは購入前でもであることを判別できるものだが、より巧妙な方法でユーザーを騙そうとする業者も存在する。特に、実物を見て取引できるわけではない通販で真贋を判別するのは難しい。

 信頼のおけるメーカーの製品を信頼のおける販売店で購入するのが基本ではあるが、購入したmicroSDカードが正規品か否かを見分ける術を身につけておくことも重要だ。模造品と気づかないままカメラなどで使用して撮影データが損なわれるようなことがあれば、その損失はSDカードの値段を遥かに超えるものにもなりかねない。

 メーカーや販売店も模造品の流通に対策を講じてはいるが、人を騙して利益を得ようとする悪辣な業者が存在する限り模造品のリスクも存在し続ける。業腹だが、SDカードを購入するさいは模造品の存在を念頭においた製品選びに努めたい。