【 2009年5月2日号 】
PC自作再入門!!:イマドキの自作PCはこんなに面白い
後編:HD動画編集もどんとこい!! なパワフルクアッドコアPCを作る
Text by 橋本 新義
 自作再入門企画の後編は、高性能PCの自作例を紹介しよう。

 こうした性格のPCはともすれば地味になりがちなのだが、実はここ数年のパーツ価格の低下により、驚くほどパワフルな仕様にできる。とくに2009年はCPUの価格下落が急速に進んだことで、高性能PCにおいてはクアッドコアCPUの搭載が当たり前になりつつあるのだ。

 今回は、ヘビーユーザー向けPCとして人気の高いPCパーツを使いつつ、とくに2009年に大きく注目されるであろう「HD動画編集」を意識した構成例を紹介したい。

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イマドキの人気パーツを組み合わせると
自然と超高性能PCができる!?

 後編となる今回は、構成に奇をてらわない(ある意味でスタンダードな)高性能なPCがテーマだ。前編で紹介した「超小型室内モバイルPC」が個性の強かった構成であるのに比べると、コンセプト的にははっきり言って地味ではある。

 しかし、実は地味なのはコンセプトのみ。というのも、人気パーツを組み合わせて作ったこのPC、その外観や性能は、ある意味でかなり先鋭的だからだ。

 ここ2〜3年加速しているPCパーツ価格の値下がりにより、自作PCユーザーに人気のある(=コストパフォーマンスの高い価格帯の)パーツを組み合わせると、ほとんどハイエンドと言える性能のPCができるためだ。

 コンセプト的にはスタンダードでも、性能は並み居るPCを寄せ付けないほどのものができてしまう――これがイマドキの自作PCの凄いところでもあるのだ。




 
気がつけばデジカメのおまけ!?
ハイビジョン動画撮影が身近に


本文では紹介しなかったが、実はHD対応ビデオカメラも、旧機種であれば5〜6万円台で入手でき、店頭ではHD対応機が主力となっている。知らない間に非常に身近になっているのだ(写真はキヤノンの「iVIS HF100」)
 さて、こうしたイマドキの高性能PCと2〜3年前のそれを比較したときに、多くのユーザーにとって一番大きな違いとなりそうなのがCPUだ。

 2〜3年前は、デュアルコアCPUがスタンダードになりつつあった時期だが、現在は早くもクアッドコアCPUがスタンダードになりつつある状態である。ともすれば、パワー過剰ともなりがちなクアッドコアCPUだが、最近はそうしたCPUパワーを活かすべく、ソフトウェア側の対応も(じわじわとではあるが)進んでいる。

 とくにこれから大きく注目できるのが、HD(ハイビジョン)ビデオの編集だ。HDビデオ編集は、最近までビデオカメラが高価だった(10万円前後の製品が主力)ことから敷居が高かったのだが、この春からそうした状況が大きく変わろうとしているからだ。

 その原因は、デジカメのHD動画対応が一気に進行している点にある。

 2008年8月にニコンの一眼レフ「D90」が初搭載してから対応機種が大きく増加し、2009年春モデルではコンパクトデジカメの主力機種に飛び火。キヤノンやソニー、パナソニック、カシオといった大手メーカーの実売価格3万円台以上のモデルの多くにHD動画撮影機能(1,280×720ピクセル)が搭載されることとなった。つまり、「3万円台のデジカメを購入すると、おまけでHD動画撮影機能が付いてくる」といった状況なのである。

 こうした動きが見えてきたところで自作PCを作るのであれば、少しでも興味のあるユーザーは、いますぐ手がけるかはともかくとしても、準備はしておきたいもの(また家族持ちの方は、家族がデジカメで撮影動画の編集をお願いされる……という機会が多くなるのではないだろうか)。

 ということで、今回はスタンダードという範疇を出ることはないものの、HD動画の編集を意識したシステムを作成することにした。



 
パーツ選びは
CPUとPCケースがポイント

 こうしたコンセプトを実現するための条件として、今回は以下の3点を考えた。

(1)イマドキの自作PCのスタンダードらしく、現在単体で人気の高いPCパーツを組み合わせること
(2)HDビデオ編集を意識しつつも、最新ゲームタイトルまで対応できるほどの汎用性を持たせること
(3)高性能PCと言ってもむやみに高価なパーツを使うのではなく、高いコストパフォーマンスを実現すること

 こうした条件から、パーツは以下の製品を選んでみた。

●CPU

AMD Phenom II X4 940 Black Edition (実売価格 21,000円前後)

 CPUはコストパフォーマンスに優れたクアッドコアということで、AMDの上位CPUを選択。といっても実売価格は2万円近いので、価格的にはスタンダードクラスなのである。

 前世代のAMD製クアッドコアCPUであるPhenom(?)は対抗となるIntel製CPUに比べると消費電力が高い点などから若干扱いが難しく、オススメ度は決して高いものではなかったが、Phenom IIとなってそうした点がほぼ解消。3GHzという高い動作クロックでありながら、消費電力や発熱といった扱いやすさの点にも配慮された、優秀な製品だ。

 また、型番末尾のBlack Editionとは、オーバークロックを試してみたいユーザーに向けた、内部クロックの倍率上限を撤廃した特別仕様のCPUであることを示す。自己責任となるが、簡単な操作でのオーバークロックが狙える。


●マザーボード
GIGABYTE GA-MA790GP-UD4H (実売価格 17,000円前後)

 マザーボードには、Phenom II用として店頭での人気が高いGIGABYTEのこの製品を選んだ。

 最近のGIGABYTE製マザーボードは搭載される部品の耐久製の強化(=信頼性向上)に熱心だが、この製品でもそうしたノウハウが十分に取り入れられている。

 また、チップセットはグラフィックス機能を内蔵するAMD 790GX+SB750と呼ばれるコンビを搭載するが、今回は内蔵のグラフィックス機能は使用せず、別途単体のビデオカード(グラフィックスボード)を使う。もったいないように思えるが、実はPhenom II用マザーボードとしては、グラフィックス機能を搭載しない製品と比較してもそんなに値段が変わらないのだ。

●ビデオカード

Leadtek WinFast PX9600 S-FANPIPE (実売価格 10,000円前後)

 ビデオカードには、現在人気の高いNVIDIA GeForce 9600 GTを搭載した製品を選択。

 人気の高い1万円前後の価格帯でありながら、最新ゲームも十分プレイできるだけの3Dグラフィックス速度を備える、バランスのよさが特徴だ。また、各種のHD動画に対応した動画再生支援機能を備えており、Blu-ray Discや地上デジタル放送の再生時でもCPUに負荷を掛けることがない。

●メインメモリ

CFD Elixir W2U800CQ-2GL5J (実売価格 4,000円前後)

 メインメモリは、前編「超小型室内モバイルPC」と同じくこの製品を使用。

 PC2-6400(DDR2-800)タイプの4GBセット品(2GB×2枚)だ。クアッドコアCPUは複数のあプリケーションを同時に実行しても遅くなりにくい(4つのコアに処理が振り分けられる)ため、メモリを多く搭載して多数のアプリケーションを同時実行する使い方がお勧めだ。現在のようにメモリが安価な状況では、クアッドコアCPUと4GBメモリはほぼセットと考えてもよいぐらいである。

●HDD

Seagate Barracuda 7200.12 ST31000528AS [×2台] (実売価格 9,000円前後[1台])

 HDDは、1TB/回転数7,200rpmタイプの製品では最高速となるBarracuda 7200.12を搭載。

 1プラッタあたり500GBという最新世代の部品を搭載しているため、速度だけでなく低消費電力・低発熱も実現している。

 さらに今回はこれをRAID 0(2台のHDDを並列動作させること)を併用することで、快適な動作環境を狙う。

 なお、Seagate社は前世代モデルであるBarracuda 7200.11ではファームウェアの改修が話題となったが、本製品は問題の対象外である。

●光学ドライブ

LG電子 GGW-H20N (実売価格 18,000円前後)

 HD動画編集を意識すると、やはり光学ドライブは、Blu-ray Disc対応製品が欲しい。

 ということで、Blu-ray Discのライティングにも対応したこの製品を選んだ現時点ではスタンダードPCとしては若干贅沢な印象もあるが、安価なショップでは16,000円台で入手できることもあり、価格的にはスタンダードPCクラスを大きくかけ離れるものではなくなりつつある。

 また、DVD再生時などの動作音が静かという、隠れたメリットも備えている。

●PCケース

Antec Nine Hunderd Two (実売価格 20,000円前後)

 PCケースには、現在最も人気の高い本製品を選んだ。

 もともとはPCゲームのヘビーユーザーをターゲットとしており、そうしたユーザーの好みから、オーディオ機器的な無骨さを感じさせるデザインとなっている。

 構造的には、フロントパネル全面に配置された細かな穴や、天面の20cmファンをはじめとする4個のファンなどで、内部のPCパーツに対して十分なエアフロー(空気の流れ)を与えることを主眼とした設計になっている。見かけとはうらはらに、ファンの回転数を低回転時に設定しておくと、非常に動作音が静かな点もポイント。冷却性能と静音性を簡単に両立できるPCケースでもある。

●電源

SeaSonic SS-700HM (実売価格 22,000円前後)

 PCの動作に大きく関わる電源ユニットには、2006年8月の発売からロングセラーを続けるこの製品を使用。

 内部に使われている部品の品質や、2つの吸気ファンによる静音性と冷却性能のバランスの良さ、出力の安定性に定評がある。

 実使用時のACーDC変換効率が80%以上であることを証明する80 PLUS認証も受けているため、消費電力も比較的低い。

 700Wの出力を備えた製品としてはかなり高価であり、スタンダードPCクラスとしては若干贅沢な印象もあるものの、「鉄板」と呼ぶにふさわしいほどの人気がある。


 これらのパーツの合計での想定実売での合計価格は、128,000円前後といったところ(ただしOSは含まず)。高性能なPCとしてはちょっと贅沢な印象もあるが、性能からするとコストパフォーマンスは悪くないというところだ。



 
組み立てはケースのレイアウトがポイント
Vistaインストール時には若干のポイントも


Nine Hunderd Twoの内部に主要パーツを装着した状態。電源が最下段になるなど、従来一般的だったレイアウトとは異なった配置となる
 組み立て作業については、自作PC経験者であれば(前編のMini-ITXとは違い)あまり苦労するところはないだろう。ただし重要なポイントとしては、「ケースのマニュアルをよく読んでおくこと」が挙げられる。

 その理由は、今回使用したNine Hunderd Twoは、電源ユニットを最下段に配置するなど、数年前のPCケースとは若干レイアウトの常識が変わっている点があるからだ。これはNine Hunderd Twoだけでなく、最新のPCケースでは共通した問題。とにかく、イマドキの自作PCでは、ケースのマニュアルを読むのは最大のポイントとなっているのだ。

 また、Nine Hunderd Twoの場合、フロントパネルは全面がドライブベイとなっているため、どこにドライブを配置したらよいのか迷うが、光学ドライブは最上段に、HDDは冷却ファンからの風が当たる位置に搭載するのが基本となる。ただしこれはあくまでも基本なので、要は使いやすい位置に合わせて変えてしまってよい。こうしたケースの自由度の高さは、2〜3年前とはひと味違った、イマドキの自作PCならではの要素と言える。存分に組み立てと活用の楽しみを味わっていただきたい。



Windows Vistaのインストール時に表示される「CD/DVDのドライバがない」旨のメッセージ。CD/DVDドライブとRAIDドライバは連想しにくいだけに、意外とやっかいな落とし穴だ
 なお、今回使用したマザーボードのチップセット(サウスブリッジ)であるSB750は、以下の条件下でWindows Vistaをインストールする際、ちょっとしたポイントがある。

(1)RAIDを有効にした状態であること
(2)光学ドライブがSerial ATA接続であること

 この条件でWindows VistaをDVDから起動すると、なんと途中でDVDドライブを見失ってしまう(認識できない状態となる)のだ(写真参照)。これは、Windows VistaのDVDにSB750のRAIDドライバが収録されておらず、さらに光学ドライブがRAIDコントローラの制御下に入るためだ。

 こうなってしまった場合、USB接続の光学ドライブを用意してマザーボード付属のDVDからドライバをインストールするか、別のPCでRAIDコントローラのドライバをUSBメモリなどにコピーしてインストールするハメになってしまう。



この「OnChip SATA Port4/5 Type」設定を「IDE」に設定すれば、RAID有効時でも光学ドライブが問題なく認識されるようになる
 ただし、実は光学ドライブの接続ポートとBIOS設定でこれを回避する手段があるのだ。それは、光学ドライブを「SATA2_4(または5)」に接続し、BIOSセットアップで「Integrated Peripherals」→「OnChip SATA Port4/5 Type」という設定を「IDE」に設定すること。

 これはSATA端子の5、6番ポートのみをIDEとして認識させる(=RAIDコントローラの制御下に置かない)設定なので、これを有効にしておけば、インストール時にRAIDドライバが必要になった際でも、Serial ATAの光学ドライブを見失うことはない。

 Windowsインストール時に慌てないように、できればこの設定は覚えておくとよいだろう。




 
完成したPCの実力は
さすがの高性能


エクスペリエンスインデックスはご覧の通りオール5.9。非常に気分のいい画面である。
 さて、完成した高性能クアッドコアPCの実力はどのようなものだろうか?

 まずは、Windows Vista Ultimate SP1でのエクスペリエンスインデックスを測定してみたが、こちらは文句なしのオール「5.9」となった。このクラスならではの実力と言える。



 また、Futuremark社の総合ベンチマークソフト「PCMark05」と3Dベンチマークソフト「3DMark06」の総合スコアをそれぞれ測定してみたが、なんと両者とも「11,000」「11,122」と、11,000をオーバーしている。これは文句なく非常に高いレベルだ。

 さらにRAID 0で高速化を図ったHDDの転送速度を、ひよひよ氏作の「CrystalDiskMark 2.2」で測定してみたが、シーケンシャルリード速度は197.9MB/sと、低価格SSDを凌ぐ値を叩き出した。実際の操作感も非常に軽快で、RAID 0にしただけの効果は十分にある(データのバックアップには注意が必要だが)。



PCMark05の総合スコアはなんと「11,000」。文句なしに高性能PCと言えるレベルだ。

3DMark06の総合スコアはなんと「11,122」。最新ゲームでも十分対応できるレベルだ。

CrystalDiskMark 2.2のスコアはご覧の通り。スコアとしては「低価格SSDの結果」と言ってもあまり違和感のないレベルだ。


Super LoiloScope。独特の操作形態で、気軽に・楽しくビデオ編集ができる、注目のソフトだ。
 こうした結果に気分をよくして、HDビデオ編集もテストしてみた。

 今回は、NVIDIAのCUDAに対応したLoilo社の「Super LoiloScope」を使ってHDビデオの編集を実行してみたところ、CPUとGPUが両方とも強力なこともあり、多数のファイルの繋ぎ合わせ編集やエフェクトも非常に快適。気軽なビデオ編集が可能であった。



PIX-DT090-PE0はダブルチューナー搭載の高機能チューナー。接続スロットが(イマドキの自作PCでは空きの多い)PCI Express x1仕様なので便利だ。
 また今回はピクセラの地上/BS/110度CSデジタル放送対応チューナー「PIX-DT090-PE0」(実売価格:24,000円前後)を組み合わせての地上デジタル放送の視聴と録画も実行してみたが、こちらも(当然ではあるが)非常に快適。HD動画を軽快に扱うPCという意味では、かなりの完成度ではないだろうか。


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 前編の「超小型室内モバイルPC」に続いて、こちらもイマドキの自作PCの面白さと、使う際の快適さを感じられる完成度となったと自負している。

 ご興味があれば、こちらもぜひとも自作PCプランのベースなどにしてほしい。

 
 

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※特記無き価格データは税込み価格(税率=5%)です。