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「長持ちするHDD選び」から「徐々に進行するHDDの病」まで、データ復旧のプロにHDDの神髄を聞いてきた
高信頼HDDとしてプロが「WD Red」を業務に採用する理由も text by 石井英男
2017年9月21日 07:01
プラッタの障害「磁性体剥離」、徐々に進行するHDDの病?
――プラッタの障害として磁性体剥離という話が出てきましたが、どのような症状なのでしょうか?
[浦口氏]プラッタに塗布された磁性体が剥がれ内部でデブリ化し、プラッタのみならずヘッドなども破壊されていく症状です。いくつかサンプルを用意したので見てもらいたいのですが、プラッタの中心に見られる模様のようになっているところが磁性体剥離が起きている部分です。
――これはHDDを落としたとか、発生する原因などはあるのでしょうか
[浦口氏]物理的なダメージが原因になる場合もありますが、なぜ発生するのかわからないケースもあります。不良セクタが原因となるケースもあり、読みにくくなった場合にひたすらアクセスを繰り返してこうなってしまう場合もありますね。
磁性体剥離が起きると、剥がれた磁性体の粉がデブリとなり密閉された空間内で滞留します。そうすると、すごく微細な高さで浮いているヘッドの下に粉が入って、ヘッドとプラッタがそのデブリによって摺り合わされます。進行度合いにもよりますが、磁性体剥離が起きていない一見綺麗で問題が無いように見える部分も、ヘッドとプラッタの接触により傷だらけになっていることも多く、HDDとしては機能を保てていないことが多々あります。
――磁性体剥離は一気に進行するものなのでしょうか、だんだんと悪化していくものなのでしょうか
[浦口氏]初期は光にかざすとうっすら線のようなものが見える状態からはじまり、そこから徐々に進行していきます。磁性体が剥がれた部分が突起となり、そこにヘッドが接触してだんだんと剥離する範囲が広がっていく感じになりますね。
早い場合は1年も経たないうちに完全にダメになってしまう場合もありますし、かなり長い年月をかけてゆっくり進行していく場合もあります。落下などのダメージを受けたHDDなどは磁性体剥離が発生しやすい印象があります。ヘリウム封入以外のHDDは空気が出入りするため空気穴の部分にフィルターがついていますが、磁性体剥離が起きたHDDはこの部分の汚れが目立ち、最終的には真っ黒に汚れます。
――磁性体剥離が発生したHDDは内部を清掃してデブリを取り除けば、正常な部分のデータは取り出せるのでしょうか
[浦口氏]HDDが通電して最初に読み込むファームウェアの部分に磁性体剥離が起きた場合はもう終わりですね。HDD自身がヘッドが何本あって、プラッタが何枚あってという情報そのものがなくなってしまうので、HDDとしてもシステムが起動できない感じになります。
また、デブリとなった磁性体を完全に除去するのは非常に難しく、細かい部分に入り込んでしまうと対処しようが無い場合もあります。
――フロリナートなど電気を通さない液体で洗浄すれば問題ないように素人考えでは思うのですが、難しいのでしょうか
[浦口氏]洗っても良いのですが、ウォータースポットが水垢みたいな感じで残ってしまうとデータが読み出せなくなるので、乾かすのが難しいという問題もあります。
実は3.11の東日本大震災のときに、津波でさらわれて海水に晒されたHDDを洗浄して復旧を試みたことがあります。最初はいけるかと思ったのですが、プラッタ表面にある保護膜が洗浄によって剥がれてしまうと致命的な状態になります。また、洗浄に使用した薬品を綺麗に取り除くのが難しく、ウォータースポットが水垢みたいな感じで残ってしまうとデータが読み出せなくなるので、乾かすのも非常に難しかったりします。
また、超音波洗浄なども検討しましたが、記録されている磁気情報が超音波でダメージを受けてしますので、HDDを洗浄するのはなかなか困難ですね。
――磁性体剥離が発生した場合はデータの復旧は諦めた方がよいのでしょうか
[浦口氏]もちろんある程度データが復旧可能なケースもありますが、症状的にやってみないとわからない場合が多いのも難しさに拍車をかけています。実際にどれだけのデータが復元可能なのかチェックするだけでもかなりの費用がかかりますし、コストをかけても全くデータが復元できない可能性もあります。成功の可否にかかわらず復旧費用をいただけるのであれば商業的には良いのですが、それではお客様が困りますしね。