特集、その他

10GbEとSSDでNASが10倍高速に、オールSSD NASで次世代の快適さを先取り!

触ると欲しくなる実行速度、大容量SSDと10GbEで最速NAS環境を構築 text by 坂本はじめ

10GbE環境でオールSSD NASを構築。
環境を整えれば通常のNASの10倍近い速度を引き出せる

 長らく自作PCのネットワーク機能は1Gbps対応の「Gigabit LAN」が標準となっていたが、いよいよ10Gbpsに対応した次世代の「10GbE (10 Gigabit Ethernet)」が一般ユーザー向けに普及する気配を見せている。

 これで何が一番変わるのかというと、NASの扱い方だ。NASはインターフェイス速度の問題もあり、データのバックアップ・倉庫用というイメージが強い。ただし、10GbE環境が普及すれば、6Gbps SATAをも大きく上回る10Gbps(1,250MB/sec)の帯域を利用できるので、NASを倉庫では無く、メインストレージとして利用する時代が来るかもしれない。

 そこで、今回はSSDを使用してNASを構築し、10GbEのパフォーマンスがどれほど優れているのかを紹介する。近い将来に現実的な選択肢となるものなので、ネットワーク環境やストレージ環境をリプレースする予定のあるユーザーは是非参考にしてもらいたい。

10GbEの性能を出し切るNASを構築するためのパーツとは1TB SSD×SSD用NASで最速環境を構築

 10GbEの性能を最大限引き出すため、今回はSSDでNASを構築する。

 以前であれば、SSDでNASを構築するのは環境が整っていなかったり、コスト面での問題などから現実的では無かったが、現在はSSD用に開発されたRAID機能も存在し、1TBクラスのSSDもだいぶ安価になってきている。10GbEと同じく、SSD NASも普及が現実的になりつつあるタイミングだ。

 また、10GbEの環境を構築するには、NASやSSDと合わせ、ネットワークハブや10GbE対応のLANケーブル、PC用のLANカードなども必要になる。今回どうのような機材を使用して環境を構築したのか、まずは個々のパーツから紹介しよう。

SSD用RAID機能も備える高性能NAS「Synology FlashStation FS1018」

SSD NAS「Synology FlashStation FS1018」、2.5インチSATA SSDを12台搭載できる。

 まず、NASにはSSD向けに設計された「Synology FlashStation FS1018」を用意した。12台の2.5インチSATA SSDを搭載でき、SSD向けにSynologyが開発したRAID機能の「RAID F1」をサポートするハイスペックモデルだ。

 CPUにPentium D1508(ベース2.2GHz/デュアルコア)、メモリに8GBのDDR4 SO-DIMM(ECC対応)を搭載。10GbEカードやキャッシュ用のSSD増設カードなどを搭載できるPCI Express 3.0 x8レーンの拡張スロットを備えている。

 なお、FS1018が標準で備える4系統のLANポートはGigabit LANまでのサポートとなので、今回は拡張スロットにIntelの10GbEカード「X550-T2」を搭載し、10GbEに対応させた。制限などもあるので、対応カードはバリデーションリストを確認してもらいたい。

 10GbEをフル活用するNASを選ぶなら、SSD用のRAIDをサポートしているのと、10GbEに標準対応または拡張可能かの2点を見ておけば長く使えるだろう。

ディスクトレイはツールフリーで2.5インチSSDの固定が可能。
4系統のLANポートはGigabit LANに対応。10GbEに対応するには拡張カードが必要になる。
Intel X550-T2は、SynologyによってFS1018での動作が確認されている10GbEカード。
Intel X550-T2を搭載することで、FS1018は10GbE対応のSSD NASとなる。

NASにも使える3D NAND/5年保障の1TB SSD「Crucial CT1000MX500SSD1」

 NASに搭載するSATA SSDには、Crucial MX500シリーズの1TBモデル「CT1000MX500SSD1」を4台用意した。

 Micron製3D TLC NANDを採用するCT1000MX500SSD1の総書き込みバイト数(TBW)は360TBに達しており、NAS用途でも長期にわたっての利用が期待できる耐久性を備えている。また国内代理店版は保証期間が5年間と長いのも特徴だ。

Crucial MX500の1TBモデル「CT1000MX500SSD1」。耐久性の高いMicron製3D TLC NANDフラッシュを採用した2.5インチSATA SSDだ。
CrystalDiskMarkの実行結果。6Gbps SATA対応SSDとしては最上級のアクセス性能を持っている。

10GbEカードとLANケーブルは手軽に入手可能、ネットワークハブは徐々に選択肢が増加中

 他の機材として、PC側を10GbEに対応させるLANカードに「玄人志向 GbEX-PCIE」。各機器間を接続するLANケーブルには、10GbEをサポートするカテゴリー7対応の「エレコム LD-TWS」を用意した。

 10GbEカードは安価な物は1万2千円前後から入手可能になっており、自作PCユーザーであれば手の出しやすい価格帯にまで落ちてきている。今後、10GbEの機能をオンボード搭載するマザーボードも増えていくだろう。

 カテゴリー7対応のケーブルも安価に入手できるようになり、下位カテゴリーのモデルとの価格差は無くなりつつある。

玄人志向 GbEX-PCIE。PCI Express 2.0 x4接続の10GbE対応LANカード。
エレコムのLD-TWSシリーズ。10GbEに完全対応するカテゴリー7準拠のLANケーブル。

 NASとPC間を中継するスイッチングハブには、エレコムの10GbE対応ハブ「EHB-UT2A04F」を用意した。4ポートの10GBASE-T対応LANポートを備えた法人向けの製品だ。

 全ポート10GbE対応のスイッチングハブはまだまだ高価だが、EHB-UT2A04Fは4万円台で購入可能と現在販売されている製品としてはかなりコストパフォーマンスが高い。

エレコム「EHB-UT2A04F」。4ポートの10GBASE-Tをサポートするスイッチングハブ。
放熱性の高いメタル製筐体に冷却ファンを搭載しており、0~50℃の環境下での動作が可能。

 なお、今回の環境を構築するのに必要な金額だが、NASが22万円前後、SSDが13万円前後(4台合計)、10GbEカードが5万8千円前後(Intel/玄人志向の2枚合計)、LANケーブルが5千円前後(2本合計)、スイッチングハブが4万8千円前後で、合計金額は46万円前後だ。

 NASを16万円前後で購入できるRAID F1対応モデル「DS3018xs」にしたり、10GbEカードを動作確認がとれている最安クラスのものにしたりすることで、費用を8万円前後抑えることが出来るが、今すぐに構築するというのであれば、最低でも38万円前後は見ておく必要がある。

 現状ではまだ高価と言えるが、価格さえ手頃になれば簡単に環境が構築できる状況は揃っている。RAID F1に対応するミドルクラスのNASが登場したり、10GbEカードやスイッチングハブなどがもう一段階値下がりするようであれば、一気に普及し出すだろう。

10GbEの性能を最大に発揮、SSD NASが実現する近未来のストレージ環境

 それでは性能の検証に入ろう。まずは10GbE環境の最大性能から見ていきたい。

 今回構築した10GbE NAS環境のピーク性能をみるため、4台のSSDでRAID 0ボリュームを構築し、PC側でCrystalDiskMarkを実行してNASとPC間の転送レートを測定した。

RAID 0ボリュームのCrystalDiskMarkの実行結果(Jumbo Frame有効時)。

 結果は1,236MB/sで10GbEの理論値に近い速度を引き出すことができた。感覚としては高速なNVMe SSDとSATA SSDの中間といったところだろう。

 なお、速度を引き出すには若干のこつが必要だ。単にRAID 0ボリュームを構築しただけでは、シーケンシャルアクセス時の転送レートは1GB/sec前後で頭打ちとなる。

 そこで、NASとPC側の双方でJumbo Frameを有効化してCPUのボトルネックを緩和したところ、シーケンシャルアクセス時の転送レートは1.2GB/secまで上昇し、10GbE規格の帯域幅をほぼ使い切る転送レートを達成した。

FS1018ではネットワークインターフェースからJumbo Frameの設定を行う。今回はMTU値を9,000に設定した。
PCでのJumbo Frameの設定はLANカードのプロパティから行う。こちらは9014に設定した。
Jumbo Frameを使用しないとCPUのボトルネックが生じ、転送レートは1GB/secあたりで頭打ちとなった。

 なお、本体側の1Gbps LANに接続した状態でも速度を計測してみたが、シーケンシャルは約118MB/sとなった。シーケンシャルの速度だけでなく、ランダムアクセスの速度も発揮できていないことがわかる。SSDでNASを構築するなら10GbE環境は必須だ。

こちらは今回のRAID 0環境を1Gbps接続でテストした結果。シーケンシャルの速度だけでなく、ランダムアクセスにも注目してもらいたい。1Gbps環境ではSSDの性能が全く引き出せていないことがわかる。

SSDをNASで安全に使うための「RAID F1」耐障害性を優先した運用でも1GB/s超の環境を構築可能

 続いて、FS1018がSSD向けのRAIDレベルとして用意している「RAID F1」利用時のパフォーマンスをチェックする。

 NASで耐障害性を高める場合、HDDであればRAID 5/6、RAID 10といったRAIDレベルで運用しているユーザーが多いと思われる。これらはSSDでも利用できるものの、HDDの特性に合わせたもので、SSDを考慮して作られたものではない。こうした理由から、耐障害性でみるとSSDはHDDに比べ信頼性の面で不利となっていたが、これを解消するのがSynologyのRAID F1だ。

 HDDはプラッタやヘッドなどの故障により障害が発生するが、SSDは主に書き込み寿命が尽きることでの障害が主となる。RAIDで堅牢性を高める場合は、SSDの特性を考慮した方法が必要だ。

Synologyのサイトで公開されているRAID F1の技術解説(pdfファイル)。RAIDボリューム内で最古参のドライブに対して、余分なデータ書き込みを実行し、意図的に書き換え寿命を消費する。均等にデータを書き込み続けた結果として、複数のSSDが同時に故障してしまうリスクを回避するのが目的だ。

 RAID F1は、RAID 5をベースにしたSynology独自のSSD向けRAIDレベルで、3台以上のドライブを用いてパリティの分散記録によるデータ保護を提供するのはRAID 5と同等だが、データ書き込み時に1台のSSDにのみ余分にデータの書き込みを実行し、意図的にデータ書き込み量の不均衡を生じさせる。

 RAIDによるデータ保護は、「同時故障」の発生確率の低さを利用したものだ。書き換え寿命以外での故障発生率の低いSSDに対して均等にデータを書き込み続けると、RAIDアレイを組んだSSDが同時に書き換え寿命に達してしまうリスクが高い。この書き換え寿命に由来するSSDの同時故障のリスクへの対策がRAID F1という訳だ。

 さて、4台のSSDで構築したRAID F1のパフォーマンスだが、シーケンシャルリードで約1,230MB/sec、同ライトは約750MB/secという結果だった。

4台のSSDで構築したRAID F1ボリュームのCrystalDiskMark実行結果。

 RAID 0構成には及ばないが、SSD単体利用時よりもシーケンシャルアクセス性能は向上しており、6Gbps SATAなどでPCに直結した単体HDDを大きく上回るディスク性能を実現している。

 信頼性重視でSSD NASを使用する場合はRAID F1での運用になると思うが、これだけ速度が出ていればRAID 0でなくても十分と言えるだろう。

 このように、NASでSSDを安全かつ高速に利用する環境は整ったと言える状況になっており、後は10GbE対応機器とSSDがより入手しやすい価格になることを待つのみだ。

ゲームをNASにインストールする時代がくるかも?様々な用途で快適なSSD NAS

 冒頭でも触れたように、これまでのNASは1Gbpsという転送レートの限界値から「データの保管庫」としての役割が大きかったが、内蔵ストレージと遜色ない転送レートが得られる10GbE時代のNASなら、より広い用途に活用できそうだ。

 例えば、動画や写真の編集作業時は内蔵ストレージにソースファイルを置くのが基本で、NASは編集後のファイルを保管するために用いられていたが、10GbE接続のNASなら最初からNAS上にファイルを置いておけばいい。

写真編集を行う際、直接NAS上のファイルを編集してもストレスが無い時代が来るだろう。
コンシューマー用途であれば、NAS上の4K動画をリニア編集しても問題ない環境が構築できる。

 また、ゲームのインストールフォルダを10GbE NAS上に置くというのも悪くない選択となるかもしれない。10GbE接続のSSD NASの性能は内蔵HDDを大きく超えているので、ゲーム自体の通信回線を別系統で用意すれば、複数のPCを所有するユーザーはゲーム用ストレージを集約できる可能性がある。

 試しにファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークをNAS側に入れてテストしてみたが、ローディングタイムは6Gbps SSDに遜色ないものとなっていたので、現時点でも実用可能だ。また、SteamもNAS上にあるフォルダをインストールフォルダに指定できるので、NASをメインストレージに使用できる環境自体は整っている。

ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークのローディングタイムでは、10GbE接続のRAID F1ボリュームがPC直結のHDDを大きく上回り、6Gbps SATA接続のSSDに迫るタイムを記録した。
ネットワークドライブとしてNASを指定すれば、SteamなどのインストールフォルダにNASを指定することもできる。

夢で無くなる日も近い?10GbEで変わるストレージ環境

 10GbEが実現する転送帯域は、データの保管庫に過ぎなかったNASの可能性を大きく広げ、これまでは1Gbpsの壁ゆえに注目度の低かった「SSD NAS」の価値を大きく高めるものだ。

 実際に使用してみると、NASは遅いといったイメージが一気に払拭され、SSDに初めて触れたときのような快感が味わえる。NASを使用していて遅いと感じているユーザーは、実際にデータ転送を行った瞬間にかなり欲しいと思うはずだ。

 10GbE環境の構築はまだまだ高コストではあるが、TB級SSDの容量単価の低下や、RAID F1のようなNAS側のSSDへの対応など、10GbEの速度を最大限活用できる環境は整いつつある。

 現時点ではコスト的に「夢の環境」といえる10GbE接続のSSD NASだが、これは近い将来に多くの自作PCユーザーが利用するようになる「実現する夢」なのだ。

[制作協力:Crucial]