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「今だからこそ Kaveri」 日本AMDに聞く、Kaveri&Mantle最新事情

Mantle対応ゲームは増加中、開発チームも来日 text by 石川ひさよし

「初のMantle対応ゲーム」として話題になったバトルフィールド4。現在は他のゲームも含めて対応ゲームが増えている。
 なお、高パフォーマンスPCが必要なゲームとして知られているバトルフィールド4だが、A10-7850K単体でも、DDR3-2400メモリを使えば意外と遊べる。詳細はこちら
なお、バトルフィールド4については、「Radeonと組み合わせることで、Intel製CPU + NVIDIA製GPUの組み合わせよりも安く、高性能なマシンが実現できるのがポイント」(AMD)という。AMDによる最新ベンチマーク結果などは後編にて。

 「Kaveri」こと7000シリーズAPUが登場して3ヶ月が経過した。最初の製品「A10-7850K」は、パフォーマンス面で従来製品を大きく上回った事に加え、APUの目指すゴール「HSA」をサポートする初めてもプロセッサとしてもAMDにとって重要な製品と言える。

 また、ほぼ同時に話題となったのが新しいグラフィックAPIである「Mantle」も、初の対応ゲームタイトル「バトルフィールド 4」により、各所でレビューされている。DirectX版に対し、より高いフレームレートでゲームが楽しめるのはRadeon系GPUの魅力となっている。

 さて、そんなAMDのKaveriとMantle、しばらく新たな情報というのが出てこなかったところだが、今回、最新の情報をお聞きする機会を得た。Kaveriの真の魅力とは、Mantleの次の展開は、そうしたところをAMDの森本竜英氏にズバリ伺った。

 なお、今回のインタビューは、都合により前後編の2回構成。後編は近日の公開を予定している。

 まずは、KaveriとMantleの最新情報をお伝えする「前編」をお届けしよう。

「我々の設計思想は正しかった」APU思想のゴールに近づくKaveri

日本AMD コンシューマー事業部 マーケティングマネージャー 森本竜英氏……というより「紳士」の渾名のほうが通りが良いかも?

――華々しく登場したKaveriですが、その後の反響はいかがでしょうか

[森本氏]もちろん! Kaveriの売れ行きは好調ですね。やはりパフォーマンスを評価いただけたのと、HSAやGPGPUを活かせる環境としても認知されてきたというのが大きいです。

 ただ、今回こうした機会を設けたように、継続して情報を発信、アップデートができていないというのが課題でして、今後はこうした点をちゃんとしていきます。

 たとえば、今回「日本でどのような行動をしてきたのか」がお話できる状況になってきました。こうした情報も、今後は積極的にアピールしていきたいと考えています。


発売直後は品薄だったA10-7850K。「想像以上に売れたため」(AMD)だとか

――Kaveriと言えば、当初A10-7850Kの流通量がニーズに対してかなり足りていなかったようですが

[森本氏]現在は大丈夫です。これは市場ニーズを正しく読み取れなかったとしか言いようがありません。我々の思った以上にA10-7850Kが高評価いただけたことに尽きます。

――一方でKabiniのAthlon、Sempronも登場しました。使い分けとしてはどのようなところをポイントにすれば良いでしょうか

[森本氏]KabiniはサブPCやオフィス用途、インターネットやメールといった非ゲーム用途に適しています。そしてこうした用途においては特にコストパフォーマンスに優れていますのでここに注目していただきたいですね。

――Kaveriはどのような使われ方が多いのでしょうか

[森本氏]コンシューマ分野に関しては、やはりグラフィックス性能を評価いただいていますね。統合GPUで組むという方も多いですから。

――Kaveriのグラフィックス性能と言えばメモリのパフォーマンスに大きく左右されますが、実際、どのようなメモリをオススメしていますか

[森本氏]もちろん、できるだけ速いメモリをオススメします。A10-7850KならDDR3-2400を組み合わせていただくのがベストです。

――ちょうどIntelからHaswell Refreshが登場しましたが、Kaveriの競合製品はどのあたりになるのでしょうか

[森本氏]KaveriがターゲットとしているのはCore i5やCore i3になります。一方でCore i7を選ぶユーザーはビデオカードも搭載する方が多く、我々のRadeonビデオカードにとってはお客様になります(笑)。Core i7は「お友達」、Core i5やCore i3に対しては「より高いグラフィックス性能」と「GPGPUが利用できる点」がアドバンテージであり、もちろん弊社の製品のほうが優れている、と自負しています。

――GPUが活用されるようになると、PC構成におけるCPUとGPUのパフォーマンスバランスも変わってくると思うのですがいかがでしょうか

[森本氏]GPU統合CPUに関して言えば、CPUとGPUのダイに占める比率がIntelも40%に迫ってきており、我々のAPUにおける比率に近づいてきています。その点では、我々の考え方が正しかったと言えるでしょう。メモリをCPUからもGPUからも参照できるHSAのように、常に我々がさらに一歩業界をリードしています。

 GPGPUの普及によって、CPUからGPUへオフロードできる処理は増えてきています。パワーバジェットを考えた時、低消費電力なCPUと高性能なGPUという組み合わせがベストと言えるのではないでしょうか。ダイあたりの電力効率はCPUよりもGPUの方が優れています。そこでMantleが有効なのです。

 Mantleで重要なのはローレベルでハードウェアを制御できる点です。ここの重要性はiPhoneとiOSを例にあげるのが良いでしょう。見方によっては、iPhoneはとても高性能とは言えないCPUで、きっちりキビキビとグラフィックを動かしています。

「これから全てのゲームタイトルがMantle対応してきますよ!」Mantleの開発チームも来日、日本のゲーム会社を訪問……

ThiefもMantle対応。AMDによると66%高速化したという
バトルフィールド ハードライン
ドラゴンクエストXとのキャンペーンも予定しているという
来日したチームMantleの面々

――次に、Mantleに関する最新動向を教えていただけますか

[森本氏]まず、スクウェア・エニックスよりThiefの日本語版が6月12日に発売されました。こちらのタイトルはMantleおよびTrueAudioをサポートしています。

 また、バトルフィールドシリーズの最新作「バトルフィールド ハードライン」をはじめとしたFrostbite 3エンジン採用ゲームや、シヴィライゼーションシリーズの最新作「Sid Meier’s Civilization:Beyond Earth」など、続々とMantle対応ゲームが増えていく予定です。

 ゲーム向けAPIとしてはDirectX 12も発表されましたが、AMDはDirectX 12の策定にも積極的に関わっており、たとえて言えば「DirectX 12のベースはMantle」とも言えるぐらいです。「Mantle用のコードが何もせずにDirectX 12で動く」というわけではありませんが、今、Mantleで開発を進めておけば、DirectX 12への移行もスムーズにできますので、自然とMantle対応のゲームが増えていくでしょう。

 また、海外だけでなく、日本国内のゲームデベロッパについてもサポートを強化しており、ちょうど(インタビュー日の)明日から、Mantleの開発陣が日本のゲームデベロッパとミーティングするために来日します。これまでの海外タイトルだけでなく、今後は日本のタイトルでもご利用可能になれるかと思います。

 日本のゲームタイトルでは現在でも多くがDirectX 9ベースで開発されています。これをなんとかしなければならないということで、次世代ゲームエンジン開発に向けた話し合いがもたれる予定です。

――そういえば、「ドラゴンクエストXとAMDのキャンペーン」という話を4月に匂わされていましたが?

[森本氏] あぁ、あれですね(笑。少々時間が空いてしまいましたが、ドラゴンクエストXとの協業については、技術協力による最適化と、製品へのバンドルの両面で行う予定です。

 具体的にどの製品を対象とするのかや、最適化の効果などは、告知時期が来たらお話できると思いますので、是非ご期待いただければと思います。

DX10、DX11の時と比較した対応ゲームの増加具合。「DX11よりもAPIの普及が早い」(AMD)とのこと
MantleからDX12への移植作業は比較的楽なのだという

組み込みや産業向けにもKaveri、Mantle、FirePro! 意外とあそこでもここでも使われているAMD製品

AMDの業務向けビデオカードであるFireProシリーズ。多画面対応の製品が多い

――ゲーム以外でもKaveri、Mantleにはメリットがあるとのことですが

[森本氏]それは組み込み向けや産業向けの話になります。我々は現在この分野に注力しておりまして、AMD社内でも、人員が増やされている部署になります。

  もっとも、MantleやGPGPU、OpenCLではローレベルでのGPU APIへのアクセスを許すという性質上、NDA契約を結んで情報を提供する形になりまして、逆にそうしたお客様の情報というのもなかなか表に出すことができません。ただ、最近こうした“ちょっと言えないところ”での採用が増えています。

――せっかくの機会ですので、FireProを含めてそうした採用例を可能な範囲で教えていただけませんか

[森本氏]FireProビデオカードに関しては、デジタルサイネージや医療、映像分野でも採用されています。順にご説明しますと、デジタルサイネージではEyefinityによる多画面出力のサポートと、ディスプレイ間の同期技術が注目されていまして、世界的に有名なサイネージメーカーや、日本科学未来館のGeo・Cosmos(地球型の、様々な情報を表示できる展示)にAMD製品が採用されています。

 医療分野では3画面モニタが標準的ということもありますし、例えばレントゲン写真などの表示では「8ビットグレースケール」という規格が用いられるのですが、それをきっちりとモニタに出力できるという点でFireProが採用されています(※1)。EIZOのメディカルモニターの対応グラフィックスボードとしてFireProが挙げられているのが良い例かと思います。

※1 液晶ディスプレイの明るさはリニアに増加しないため、8ビットグレースケールを「想定どおりの明るさ」で表示するためには、ビデオカードは8ビット以上のデータを扱う必要がある。

――最後に、読者に向けてひと言いただけますか

[森本氏]Mantle、HSAなど対応アプリは今後ますます増えていきますのでご期待ください。また、近々に新しい製品を発表する予定ですので、こちらにもご期待下さい。AMDのAPUを今後もよろしくお願いいたします。

(7/1更新)森本氏のコメントを一部修正しました。
(7/6更新)後編の更新予定を修正しました。


<後編(近日公開予定)に続く>

石川 ひさよし