特集、その他
「究極PC」を自作したら、もの凄い構成になった件
VGAだけで1,000W、40レーンフル実装、M.2 SSD×2枚で2.2GB/s……
水冷3系統、電源2台で2,700W級? text by 石川ひさよし
(2014/10/31 11:45)
Haswell-Eが登場し、久しぶりにエンスージアスト向けプラットフォームが更新、にわかに賑わってきた。
とはいうものの、LGA1150 Haswellでもパフォーマンスは十分高い今、「やっぱ高いよねえ」と様子見の人も結構いるはずだ。しかし、せっかく自由にくめるPC自作、「高い」だけで可能性を諦めてしまうのはもったいない。
せっかくHaswell-Eが出たわけで、ここは一つそのスペックを活かした「現代の究極PC」を作ってみようじゃないか、というのが今回の趣旨。
幸い(?)、今年の春には「究極」という名にふさわしいモンスタービデオカード「Radeon R9 295X2」が登場、SSDもPCI Express Gen2 x4のM.2製品が出てきている。これらを組み合わせると、なんとHaswell-EのCPUから出る40レーンのPCI Express Gen3を全て使い切ることができる、というわけだ。
特に、ビデオカードに32レーン使えるのは注目点。一般的なコンシューマ向けプラットフォームでマルチGPUを組む場合、16レーンを8レーン×2本に分割するか、スイッチングチップを使うことになるが、Haswell-EならCPUのPCI Expressをそのまま16レーン×2で使うことが出来るのだ。
もちろん、やろうと思えば3-wayマルチGPUも可能だが、単純な3-wayマルチGPUを組むのなら、デュアルGPUカードを2-way化、4GPUにするのが「究極」だろう。「危険なビデオカード」とまでAMDがアピールするGPU、Radeon R9 295X2なら水冷×2系統というオマケもつく。
そして残りの8レーンだが、これはストレージに利用した。M.2 SSDのRAID構成だ。Intel X99マザーボードの多くがCPU直結のM.2スロットを備えるが、一部製品では、それを2スロット利用できる。つまり、4レーン接続のM.2 SSDで8レーンが埋まる! ……ということで、こちらも用意した。なお、いちおう現在のM.2 SSDは「Gen2 4レーン」が最高で、CPUの「Gen3 4レーン」を使い切ることはできないが、ただでさえ高速なPCI ExpressのM.2 SSDを2系統、というのはなかなか魅力的な構成だろう。
ほかにも、コレを使うならコレを組み合わせなきゃ夢がないとか、ああだこうだと構成を練っているうちに、気がついたらエライことになっていた。価格はもちろん、梱包サイズも……
では、今回用意したパーツの詳細を紹介していこう。
これが「究極パーツ」だ!
最高性能×4GPU、Radeon頂点の「Radeon R9 295X2」
まず「究極中の究極」ということで用意したのが、Radeon R9 295X2ビデオカード×2枚。
ただでさえRadeon R9 290Xより高クロックな上、それをデュアルで搭載するRadeon R9 295X2。今回のPCはそれを2枚も搭載するわけだ。それに、シングルGPUの3-way構成では3GPU止まりだが、デュアルGPUの2-way構成なら4GPUを構成可能。つまり、Radeon R9 295X2の2-way CrossFireなら、理論上、Radeon R9 290Xの3-way CrossFireを凌駕できるわけで、Radeonを搭載したシステムとしては最上級と言ってよいだろう。ちなみに、Radeon R9 295X2のその他のスペックは、基本的にはRadeon R9 290Xと同等で、それが2基搭載されていることになる。
なお、今回借用したのはリファレンスデザインのものだ。
ビデオカードだけで1,000W!
Radeon R9 295X2は、消費電力もなかなか凄い。1枚だけでもRadeon R9 290Xの2倍=500W、つまり、2枚で1,000Wだ。ワイルドだろう~?(笑
補助電源コネクタも1枚あたり8ピン×2基が必要となるため、2枚合わせて8ピン×4基。CPUその他のシステムを加えれば、ピーク時1,200Wを超えるのは間違いない。電源は最大出力1,200W超というのが必須条件になるだろう。これは日本のコンセント事情にも挑戦状を叩きつけることとなる。
水冷ラジエータは合わせて3基
こんな具合に凄まじい消費電力のビデオカードなので、冷却も普通ではない。
Radeon R9 295X2の冷却は、カード中央の1基のファンに加え、12cm角サイズのラジエータを組み合わせた簡易水冷が採用されている。つまり、これを2基搭載する場合、12cm角ラジエータを最低2基搭載できるケースが必要となる。
今回はここまできたらCPUクーラーも水冷にしたいよね、ということで合計3面の12cm角ラジエータを搭載することになった。
おまけ:梱包もムダにデカい(笑
加えてこのカード、1枚ずつアタッシュケースに収められている。仕事柄、ハイエンドビデオカードをテストする機会は多いが、ケースのサイズとしては最大級だ。しかも2枚。最初に届いたのがこのビデオカードだったのだが、ちょっとだけこの企画を受けたことを後悔した。
後続のパーツもハイエンド製品のため、大型パーツがガンガン届くわけで、アパート住まいのライターには無茶な企画である。
もちろんCPUも最上位、「Core i7-5960X Extreme Edition」
次はCPU。Core i7-5000シリーズは、上位2モデルは40レーン仕様だが、最下位のCore i7-5820Kのみ28レーンに抑えられている。
Core i7-5930Kでも40レーン仕様で構わないのだが、せっかくなのでCore i7-5960X Extreme Edition を取り寄せた。8コア/16スレッドは、コンシューマ向けのx86CPUとしては最大数となる。コアクロックはやや低めの3GHzでTurbo Boostでは最大3.5GHzまで上昇する。
40レーンをフルに使えるASUS「X99-DELUXE」
これに組み合わせるマザーボードはASUS X99-DELUXEだ。LGA2011v3ソケットを挟んで左右に計8本のDDR4 DIMMスロットが並び、PCI Expressスロットは5本がx16スロット、1本がGen2のx4スロットとなる。
x16スロットは、Gen3の16-×-16-×-×や16-×-16-×-8、8-8-×-8-×といった具合で柔軟に分割可能で、今回使うのは16-×-16-×-8のさらに変則的な使用方法となる。ASUSの担当者に伺ったところ、5番目のx16スロット(8レーン)にM.2ライザーカードを搭載した場合、ここが4レーンとなり、オンボード側のM.2スロットの4レーンと合わせてCPU直結の8レーンを4レーン×2本に分割する仕組みという。
つまり、ビデオカードを16レーン2本=32レーンで使っても、ストレージで4レーン2本=8レーンを使える計算だ。
SSDはGen2 4レーンのM.2 SSD、Samsung 「XP941」×2枚
続いてM.2 SSD。
Gen2 4レーン接続のM.2 SSDと言えばSamsung「XP941」シリーズだ。今回は、128GBモデルの「MZHPU128HCGM」を2枚用意した。
このMZHPU128HCGM、せっかく2枚あるのだから、RAID 0で使ってみることにした。今回は用いた手法は、DドライブのデータディスクとしてWindows標準のソフトウェアRAIDを利用するものだ。
起動用のCドライブにはAMDのRadeon SSD 240GBモデルを使用した。
メモリは「まだ」32GB、DDR4で合計8枚
DDR4メモリは合計32GBを搭載した。
入手の都合でADATAのDDR4-2133メモリ4GB×4枚と、AvexirのDDR4-2400メモリ4GB×4枚(DDR4-2133モードで使用)を組み合わせ、4GB×8枚の32GBを実現した。8GB×8枚の64GBを実現したかったところだが、DDR4メモリはDDR3メモリと比べまだ確保が難しかったりする。次回の夢PC企画への課題としよう。
電源はEnermaxの1,350W品×2個用意、連動動作なら最大2,700W?
(11/2 11:38更新)記事初出時、
電源の製品名と容量に誤りがありました。
お詫びして訂正します。
さて、最後に電源。これは悩みモノだ。
なにしろTDPで見ても、CPUが140W、GPUは500W×2個だから、これだけでも1,140Wとなり、システムを加えれば1,200Wを超えること間違いない。
当初1,500W級のCorsair AX1500i(国内の100Vコンセントで利用する場合は最大1,300Wとされる)を利用、消費電力を計測したところ、実際に1,200Wを超えていた。こうなると、電源1個で賄うのは困難だ。
そこで、用意したのが1,350W級のEnermax Platimax EPM1350EWT×2台。1台はマザーボードとR9 295X2 のセカンダリへ、1台はR9 295X2 のプライマリ側へと接続した。
組んでみたら、これがまた「超」じゃじゃ馬(笑
では、この「究極PC」のパフォーマンスを見てみたい………ところだが、なにせ全てが規格外。安定して動かすだけでもかなりの試行錯誤を要した(苦笑
先に説明した電源もそのひとつだし、500W級GPU×2基を並べて搭載する際の排熱処理や、そもそものシステム安定性など、いろいろな調整が必要だった。
まず、排熱処理に関しては、今回はバラック状態でテストしたので、マザーボード上のファン用4ピンコネクタにそれぞれファンを繋ぎ、ラジエータだけでなくビデオカードにも直接風をあてることでなんとか克服。
次のシステムに関しては、まず、Intel X99チップセットのマザーボードの場合、当初のBIOSバージョンでは、どうやらRadeon R9 295X2のCrossFire構成との間に相性が出るようだ。CrossFire自体は有効のようだが、ゲームやベンチマークの途中で突然電源が落ち、再起動がかかるようなことが多発した。これについては、BIOS更新で改善、更新後は安定性が大きく増した。
とはいえ、この「究極のじゃじゃ馬」、そこまで安定してテストが行えたわけではない。いくつか設定を見直すことで徐々に安定しだしたので、その過程を紹介しておこう。
まず、4Kディスプレイでのゲーム検証中、稀に「何かを読み込んでいるような引っ掛かり」があった。例えば最高70fps程度出ていたところに、突然5fps未満になるような状況だ。フルHD環境ではこうした症状はまったく出ない上、4K解像度でゲームをしようとすると、その起動時のリード時間がフルHDに比べてかなり長引く。今回テストした、Battlefield 4やThiefといったタイトルでは読み込み時間が倍近く違った。
こうした理由から、メインメモリを4GB×4枚の16GBから4GB×8枚の32GBとしてみた。これで多少の改善があるように感じたが、依然として引っかかりは起きた。そこで、次にWindowsのページングファイルを作らない設定にしたところ、こちらも多少の改善があったように感じた。メインメモリに比べて遅いSSDに何らかの書き込みが発生した場合、そこがボトルネックとなることが考えられる。この2つを試みて、かなり改善したものの、完全とは言えないようで、メインメモリからSSDストレージに至るデータの転送経路をさらに強化したり、あるいは冷却を強化する必要があるかもしれない。
また、パフォーマンスについても、当初は「それほど…?」というレベル。テスト開始時は、安定を目指してWHQL版の最新Radeonドライバを充てていたが、「パフォーマンス」という点では、最新β版の方がよいようだ。これによりパフォーマンスが大きく向上、「確かにDual GPUカードを2枚、CrossFireにした」と言えるフレームレートが出るようになった。
ここまでが、今回のシステム構築に関する筆者のメモだ。スコアは取れる状態になったが、結局どれが効果的だったのかと言うと、おそらく複合的なものであり、なおそれは完全に解決したわけではない。
AMDがRadeon R9 295X2に対して「非常に危険」と表現したという話もあるが、「それを2本搭載する」ということは、非常にものすごい性能になる反面、「とんでもなく危険」とも言えそうだ。ただ、次々と襲ってくる壁に対し、ふてくされつつも同時に「だったら乗り越えてやろう」というチャレンジ精神も触発されていた……のだろうと思う。
というわけでベンチ結果!
というわけで、ベンチマーク結果を紹介しよう。なお、Radeon R9 295X2のシングルでの数値はPC Watchのレビューを参照のこと。
3DMark:2万の大台突破!
まずは3DMark。
FireStrikeの結果は、20,294 3DMarksだ。ついに2万の大台を超えることができた。CrossFireが効いていることは間違いないスコアと言える。ほかにも、Sky Diverは36,434 3DMarks、Cloud Gateは38,874 3DMarks、そしてIce Stormは144,854 3DMarksとなった。
なお、Fire Strikeのインパクトと比べると、Fire Strike以外のスコアはそこまでインパクトが無い。それは、単純に、今回の構成と比べて負荷が小さいためと思われる。Ice Stormとなると既に現行のハイエンドGPUではスコアが飽和してしまっているのだが、今回の構成ではそれがより上位のテストにも及んでいるのではないだろうか。
また、少々見づらいが、スコアの右にあるグラフのうち、青い線がGPU温度、緑の線がCPU温度を示している。3DMarkは比較的GPU寄りのテストであり、市販のゲームと比べてもCPU使用率が低い傾向にある。それを反映してか、CPU温度は50℃以下で推移する。一方のGPU温度は、50℃を超えている。今回の構成ではGPUが4基もあるので、どのGPUの温度を示しているのかというのは不明だが、4基でそこまで条件が異なるわけではないだろう。
GPUの冷却は重要で、高効率な水冷を用いているとはいえ、ベンチマーク中はラジエータやビデオカードのフレーム部が、かなり熱くなる。その上で、現在のGPUには、高温になるとクロックを下げ、保護する仕組みが備わっている。つまり、熱すぎると正しいスコアにはならない。とくにバラック状態での検証では、「ケースファン」に相当するエアフローを与えてやることが重要だ。今回は、前面ファンと側面ファンを想定したレイアウトで、ファンを追加し計測した。
PCMark:Homeが4,050、Creativeが5,600
続いてはPCMark。こちらはHomeが4,050ポイント、Creativeが5,618ポイント、Workが4,489ポイントとなった。
ゲームでは?
さて、ゲームパフォーマンスのひとつ目、としてテストしたのがBattlefield 4。
検証には4K(3,840×2,160ドット)ディスプレイを用い、最高画質でテストをしてみた。グラフィックスAPIは、当然、「Mantle」だ。
その結果は平均84.339fps、最大109.890fps。
先述した「ひっかかり」時は8.495fpsと大きく下がるため、平均値も大きく下がってしまったが、この問題を改善し、そう極端な数字でなくなれば平均値はさらに上がるだろう。実際、ひっかかる部分以外は、かなりスムーズな描画と言える。
なお、引っかかりは4Kのみで、WQHDやフルHDでは100fpsを超える。120Hz超に対応したゲーミングディスプレイや3Dディスプレイでも、快適に楽しめるだろう。
次にThief。
これもMantle版を、4K解像度で最高画質のVeryHighに設定して計測した。
平均フレームレートは50.8fps、最大は72.8fps、そして最小は1.3fps。やはりBattlefield 4と同じ傾向で、わずかな引っ掛かりの部分を除けば、極めてスムーズに描画されている。そもそも30fpsあれば十分なタイトルだけに、余裕の性能と言える。ちなみに、今回は検証していないが、ThiefはMantleだけでなく、True Audioにも対応している。つまり、Radeon R9 295X2のCrossFireのパフォーマンスを引き出すことができるタイトルでもある。
このPCをぶん回せばこれからの冬も暖房要らず!
というわけで、「究極」をテーマにPCを自作してみた。
「完成したか?」というと微妙なところだが、今年の「究極PC」を目指すパーツのチョイスと試行錯誤の参考にはなったと思う。
Radeon R9 295X2の価格は当初20万円近かったが、今なら秋葉原価格で10万円台半ばまで下がってきた。もちろん高価なGPUだが、Dual GPUカードとして見れば、ライバルのGeForce GTX TITAN Zがまだ20万円超であることと比べれば安い。そして最小限のスロットでパフォーマンスを引き上げることができるところはやはり魅力だ。
今回は、4Kディスプレイを組み合わせる前提で2基のRadeon R9 295X2を動かした。しかし、4K未満のフルHD~WQHDディスプレイでのゲームパフォーマンスに関しては、Radeon R9 295X2なら1本だけで十分にまかなえる。「ビデオカード1枚前提」で考えるのならばダンゼン組みやすくなるしコストも抑えられる。そして極端な例を挙げれば、Micro ATXやMini-ITXのようにより小さなプラットフォームにDual GPUカードを詰め込んでみるのも面白い。
それにしても、検証を終えて思い返すのは、ずいぶん部屋が暑かったことだ。結局、9月の残暑から10月の外がやや肌寒くなった季節まで検証が長引いたが、稼働中は9月なら冷房必須、10月は暖房要らずだった。それはそうだ、「1,200W超級」という暖房機並みのPCがベンチマークで唸りを上げているのだし。まあ、そうしたおバカでデンジャラスなPCもなかなか楽しい。この後の電気代が怖いけど(笑