パワレポ連動企画
Ryzen Threadripper 1950XはPCゲームに向いているのか?その実力を探る
X399搭載のMSI製マザー『X399 GAMING PRO CARBON AC』の使い勝手もレポート text by 加藤勝明
2017年10月10日 00:00
今年に入ってCPUの急激なメニーコア化が進んでいる。言うまでもなくAMDが3月に放った「Ryzen 7」がその発端だが、その上位版である「Ryzen Threadripper」はもっと強烈だ。そこで、今回はRyzen Threadripperのパフォーマンスや対応マザーボードの実力を探ってみることにする。
.メニーコアPC自作を牽引する「Ryzen Threadripper」とはどんなCPUか?
2017年9月時点で発売されているモデルは3モデル(下表)だが、最上位の「Ryzen Threadripper 1950X(以降TR-1950Xと表記)」は16コア32スレッドという強烈なスペックであるにもかかわらず、Intelの「Core i9-7920X」(12コア24スレッド)より安い13万円台半ばで流通している。
Ryzen Threadripper 1950X | Ryzen Threadripper 1920X | Ryzen Threadripper 1900X | Ryzen 7 1800X | |
コア / スレッド | 16 / 32 | 12 / 24 | 8 / 16 | 8 / 16 |
ベースクロック | 3.4GHz | 3.5GHz | 3.8GHz | 3.6GHz |
ブースト最大クロック(4コア) | 4GHz | 4GHz | 4GHz | 4GHz |
XFR時最大クロック | 4.2GHz(4コア) | 4.2GHz(4コア) | 4.2GHz(4コア) | 4.1GHz(2コア) |
L3キャッシュ | 32MB | 32MB | 16MB | 16MB |
対応メモリー | 4ch DDR4-2666 | 4ch DDR4-2666 | 4ch DDR4-2666 | 2ch DDR4-2666 |
対応ソケット | SocketTR4 | SocketTR4 | SocketTR4 | Socket AM4 |
TDP | 180W | 180W | 180W | 95W |
PCIeレーン数 | 64レーン | 64レーン | 64レーン | 24レーン |
Ryzen ThreadripperのCPUパッケージはこれまで出現したどのコンシューマ向けCPUよりも巨大だ。巨大なヒートスプレッダの下には4基のダイ(1基あたり8コア16スレッド)が埋め込まれており、Ryzen Threadripperではそのうち2基のダイを利用する(ダイを全部使うのは同社の「EPYC」にほかならない)。このダイはInfinity Fablicで接続されており、Ryzen Threadripperのコストパフォーマンスの源泉となっているのだ。
メモリコントローラは2基のダイそれぞれに接続されており、CPU全体で4チャンネルのDDR4メモリを扱えるようになっているが、メモリの速度上限はRyzenと共通である。すなわちシングルランクのメモリモジュールを2枚(CPU全体では2枚+2枚)接続した場合はDDR4-2666、4枚(同様にCPU全体で4枚+4枚)ならDDR4-2133までとなる。なお、この上限は使用するメモリモジュールの耐性や組み合わせなどでも上下する点に注意しよう。
2基のダイそれぞれにメモリコントローラが1基ずつ接続されていることで、Ryzen Threadripperでは2種類のメモリアクセスモードを切り換えられるようになっている。一つはDistributedあるいはUMAモードと呼ばれるもので、すべてのコアはメモリコントローラを区別することなく自由にアクセスできる半面、遠い側のメモリにアクセスする場合はレイテンシが犠牲になる。具体的には近いメモリは78ナノ秒なのに対し、遠いほうは133ナノ秒と遅くなるのだ。
もう一つはLocalあるいはNUMAモードで、コアと同じダイに接続されたメモリしかアクセスできないというもの。メモリのレイテンシが遅くなることを防げるので一見するとLocalモードのほうが優れているように思えるが、一方で、反対側のダイに置かれたデータを必要とする場合はさらに速度的なペナルティがかかる。どちらのモードが最適なのかは扱うデータと処理の内容によっても異なるため、ベストの設定はユーザーが試行錯誤する必要があるだろう。
このメモリアクセスモードはUEFI設定でも切り換えられるが、AMD公式のOCツール「Ryzen Master」上で随時変更することができる。実はこのRyzen MasterこそがRyzen Threadripper使いこなしのカギを握っているのだ。
Ryzen Masterのウィンドウ下部には「Creator Mode」、「Game Mode」というタブが並んでおり、タブを選択して画面右上に出現する「Apply」ボタンをクリックすることで切り換わる(要再起動)。Creatorモードはデフォルト設定と同一で、CPUのコアが全部利用でき、さらにメモリもDistributedモードで動作する。
ただ、一部のソフト(設計の古いゲームなど)では、コア数が多いと起動しない、あるいは不具合を起こす場合もある。その場合に活躍するのがGameモードだ。Creatorモードに戻すまで(あるいは“Cores Disabled”を0 Coresにするまで)コア数は半分になり、メモリもLocalモードになる。16コア32スレッドのTR-1950XでGame Modeを有効にすれば8コア16スレッド。Ryzen 7 1800Xと同じスペックになるのだ。無効化されたコアは当然システムからも見えなくなるが、メモリ搭載量が半減することはない。
.足回りに優れたX399プラットフォーム
Ryzen Threadripperが現状のIntel製CPUに比べ圧倒的に優れているのはCPUコア単価だけではない。CPUに直結されるPCI Expressバスのレーン数がどのモデルでも64レーンと非常に多いのだ。うち4レーンはチップセットとの接続に使われるため実質60レーンだが、それでもCore Xシリーズの28レーンや40レーンに比べると圧倒的に太い。マルチGPU環境を利用しつつ、M.2 NVMe SSDや拡張カード類も幅広く利用したい人向けのCPUであると言えるだろう。
このRyzen Threadripperに対応するチップセットは「X399」、ソケットは「SocketTR4」となる。CPUのソケットが巨大なのでATXマザーであってもパーツ実装面積に大きな制約が生じる。そのためメーカーの設計の腕が問われる。
また、X399マザーは搭載可能なCPUのTDPが180Wと非常に高いため、CPUに電力を供給する8ピンのEPS12Vコネクタを2基、あるいはEPS12V+ATX12V(8+6ピン)構成にしているものが主流となる。EPS12V 1基だけでも動作するが、OC時に動作が不安定になる可能性もある。
Ryzen Threadripperを動かすだけなら600W程度の電源ユニットでも大丈夫だが、Ryzen Threadripper購入時にEPS12Vを2系統出せる電源ユニット(必然的に800W以上に絞られる)も購入しておくべきだろう。
CPUクーラーに関しても少々注意が必要だ。SocketTR4は占有面積が大きいため、既存の空冷クーラーはごく一部の例外を除き使えない。だが簡易水冷ユニットについてはCPUにアタッチメントが同梱されており、これを利用すれば既存のLGA115xや2011用の製品が接続できる。アタッチメントが利用可能な簡易水冷ユニットはOEM元がAsetekであり、水枕の形状が歯車型であることが条件だが、これも多くの簡易水冷ユニットが該当する。SocketTR4対応の空冷クーラーも皆無ではないが、CPUソケット周辺の物理的空間に余裕のないマザーが多いため、簡易水冷ユニットのほうがあらゆる意味で無難だ。
ただし、アタッチメントを利用して簡易水冷ユニットを利用する場合、水枕が冷やせる範囲はCPU中央のきわめて限られた領域に限定される。Ryzen ThreadripperのOCを考えているなら、各社から発売されているRyzen Threadripperをフルカバーできる水枕を備えたCPUクーラーを選ぶべきだろう。
.Ryzen Threadripperのパフォーマンスは?
ではRyzen Threadripperはいかほどのパフォーマンスを発揮するのか?さまざまなベンチマークを通じて検証していきたい。今回準備した検証環境は以下のとおりとなる。また比較対象にRyzen 7 1800Xを準備し、TR-1950XのGame Mode(グラフ中は“TR-1950X Gaming”と表記)とどの程度違うのかも検証する。
Ryzen系のCPUを使う場合はWindows標準の電源プラン“バランス”ではなくAMDがリリースした“Ryzen Balanced”を使うことがよいとされている。検証時点でのRyzen Threadripper用チップセットドライバにはこのプランが組み込まれていなかったが、検証に使用したマザー(後ほど詳しく紹介する)のドライバCDに収録されていた“AMDPPMSettings.exe”を使うことでRyzen Balanced環境を構築している。
【検証環境】
CPU:AMD Ryzen Threadripper 1950X(3.4GHz、最大4GHz)、AMD Ryzen 7 1800X(3.6GHz、最大4GHz)
マザーボード:MSI X399 GAMING PRO CARBON AC(AMD X399)、AMD X370搭載マザーボード
メモリ:Corsair CMU16GX4M2A2666C16R(DDR4-2666 8GB×2)
ビデオカード:GeForce GTX 1080 Founders Edition
ストレージ:Crucial CT525MX300SSD1(Serial ATA SSD、525GB)
電源ユニット:SilverStone SF850F-PT(850W、80PLUS Platinum)
OS:Windows 10 Pro 64bit版(Creators Uptade)
電力計:ラトックシステム REX-BTWATTCH1
Ryzen ThreadripperのようなメニーコアCPUの処理性能を活かしやすいのはCGレンダリングだ。まずは「CINEMA 4D」をベースにしたベンチマーク「CINEBENCH R15」のスコアを比較する。
マルチコアテストのスコアの差を見れば16コア32スレッドのTR-1950Xの凄さは一目瞭然だ。マルチスレッド処理が有効なソフトであれば、TR-1950Xは現時点でコストパフォーマンス最強のCPUと言ってよいだろう。TR-1950XのGameモードとRyzen 7 1800Xのスコアがほぼ同じな点についても注目しておきたい。
だが、Ryzen 7の延長線上にあるTR-1950Xも、シングルスレッドスコアは160前後とやや低め。Ryzen 7 1800Xとの比較でも大きな差は無い。
CINEBENCH R15はあまりにも定番ベンチ過ぎてベンチ対策が施されているのでは……と考える人のために「V-Ray Benchmark」も実施した。テストはCPUとCUDAによるCGレンダリング時間を計測できるが、今回はCPUの処理時間のみを比較する。
ここでの結果もCINEBENCH R15とほぼ同じ。ただこちらは処理時間のグラフなのでグラフの帯が短いほうが優れたCPUということになる。CGクリエイターがレンダリング速度を短縮したいなら、Ryzen Threadripperは非常に効果的な選択肢と言えるだろう。
次は総合ベンチマーク「PCMark 10」で比較する。一番多くの項目をテストする“Exteneded”テストを実施した。総合スコアだけではどの作業で差が付いたか分かりにくいので、各テスト項目のスコアも比較してみよう。
まず総合スコアではTR-1950XよりもRyzen 7 1800Xのスコアが高い。TR-1950XをGameモードにしてもスコア差はほとんど縮まらなかった。この差はどこで付いたのかを調べたのが2番目のグラフだ。まずRyzen 7 1800Xはライトユースを意識した“Essentials”テストおよびビジネスユースを意識した“Productivity”テストでよい結果を収めている。どうやらこのテストではメモリのレイテンシが重要なようで、TR-1950XのGameモードもこれに続く。ただアプリの起動速度を計測する“App Start-up”テストのみ、Ryzen 7が抜きん出ており、どうやらこれがスコア差に直結しているようだ。
一方処理の重い“Digital Contents Creation”テストはTR-1950Xがトップに立つケースが比較的多かったが、3DCGレンダリング処理も加えた“Rendering and Visualization”テストでは、CINEBENCH R15ほどのインパクトのある結果は出せていない。この辺りがPCMark 10でRyzen Threadripperのスコアが伸びない理由ではなかろうか。
続いてはクリエイティブ系処理の中でもメニーコアCPUが得意とする動画エンコード処理の性能を比較したい。まずはAdobeの「Premiere Pro CC 2017」で編集した4K動画(再生時間約3分)を「Media Encoder CC 2017」で4K H.264動画にエンコードして書き出す時間を計測する。bitレートは10MbpsのVBRで、1パスと2パス処理それぞれの場合もチェックした。
マルチスレッド処理が効くソフトであるため、傾向的にはV-Ray Benchmarkに近いものになった。Ryzen 7 1800Xの2倍近い価格のTR-1950Xにしても短縮できるのは1、2分という点は普通のユーザーには少々厳しいかもしれないが、再生時間が長い作品になればもっと時間差は開く。待ち時間を1秒でも短縮したいクリエイターにとってはRyzen Threadripperは効果的なCPUと言えるだろう。
続いては「TMPGEnc Video Mastering Works 6」を使用した。ここでは再生時間3分のAVCHD動画をMP4形式に書き出す時間を計測した。コーデックはx264(H.264)およびx265(H.265)を利用し、どちらも25Mbpsの2パスVBRでエンコードしている(それ以外のパラメータはデフォルトのまま)。
このテストでもTR-1950X(Creatorモード)がダントツに速く、Ryzen 7 1800Xに対し約4分(H.264時)早くフィニッシュしている。TR-1950XのGameモードだとRyzen 7 1800Xよりも若干遅い値が出ているが、1800Xの方がベースクロックが200MHz高いこと、さらにGameモードとセットになっているメモリのLocalモードとこのソフトの相性が悪いことが原因として考えられる。
そろそろゲーミング性能の性能比較に入ろう。まずは定番「3DMark」を使用するが、“Fire Strike”および“Time Spy”を使用した。ビデオカードはGeForce GTX 1080 Founders Editionなのでそこそこよいスコアが期待できるが、CPUの処理性能がどこまで影響するかが見ものだ。
これらのベンチはCPUを利用した物理演算処理がスコアに加算されるため、論理コア数の多いTR-1950Xは圧倒的に有利だ。Fire StrikeではGraphicsスコアは大差ないものの、CPUで物理演算を実施するPhysicsとCombinedでTR-1950Xが大差を付けている。TR-1950XのGameモードがRyzen 7 1800Xと大差ないことも確認できた。DirectX 12ベースのテストであるTime Spyでも同様の傾向が確認できた。
ここからは実ゲームベースでのベンチに入る。まずは定番「Overwatch」のフレームレートを「Fraps」で比較した。画質はGPUがボトルネックになりにくく、CPUの差が出やすいよう“高”とし、レンダー・スケールも100%に固定。マップ“King's Row”におけるBotマッチプレイ時にテストを実施した。また、解像度はフルHD/WQHD/4Kの3通りとした。
3DMarkの結果とは異なり、このゲームではベースクロックのやや高いRyzen 7 1800Xが全体に良い結果を収めた。フルHDだと最低fpsが120fpsを超えてしまうので気付きにくいが、4KになるとCPUのチョイスが60fpsキープが可能・不可能のラインにまたがってくる。ただTR-1950XでもGameモードにすれば、メモリレイテンシの改善により比較的Ryzen 7 1800Xに近い状態でプレイできるようだ。
続いてはDirectX 12専用ゲームである「Gears of War 4」で試す。画質は“高”とし、ゲーム内のベンチマーク機能を利用して計測した。
グラフ中“Avg”とあるのは画面表示の平均フレームレート、“Avg(CPU)”は描画処理時におけるCPU側処理の平均フレームレート、“Min 5%”とは画面表示のフレームレートの最低値から5%上の点(95パーセンタイル点)を示す。
このゲームでもRyzen 7 1800Xがトップに立っているが、Overwatchほどの差は付いておらず、TR-1950Xのデフォルト(Creatorモード)でもかなりいい勝負をしている。解像度が高くなるほどAvg(CPU)の値が伸びるのは、GPUがボトルネックになる分、CPUが遊んでいる(無意味な処理を繰り返す)ことを示している。
最後にDirectX 11ベースながら、メニーコアCPUでもまんべんなく負荷をかけてくれるゲームとして「Watch Dogs 2」を試してみる。画質は“高”とし、フィールド上の一定のコースを移動した際のフレームレートを「Fraps」で測定した。
Overwatchで辛酸を舐めたTR-1950Xだったが、Watch Dogs 2のフルHDではついにRyzen 7 1800Xを上回る結果を見せた。Ryzen Threadripperだからゲームに向かないのではなく、ゲームの作りそのものがメニーコアCPUに向いているか否かがポイントなのだ。解像度がWQHD以上になるとRyzen 7 1800Xに追い付かれてしまうが、これはグラフィックス処理が重く、GTX 1080では処理が追い付かなくなってくるためだと推測できる。
最後に消費電力も比較してみたい。高性能なことはよいことだが、ワットパフォーマンスが悪ければ評価されにくいのも確かだ。ここではシステム起動10分後を“アイドル時”、「OCCT Perestroika v4.5.1」の“CPU Linpack”テスト(64bit、AVX、全論理コア使用)を30分かけたときのピーク値を“高負荷時”としている。
今回Ryzen 7 1800X用に準備したX370マザーに比べ、TR-1950X用に準備したMSI製マザーは装備も豪華でデバイス数も多い。そのためアイドル時の消費電力はかなり高くなっている。そして論理コア32基を全力で回すのだから、高負荷時の消費電力が高いのも当たり前だ(ただそれでも300Wを超えていない点は評価できる)。だがGameモードにするとアイドル時はほぼ一緒(マザーは変化しないため)だが、コア数が半分になるため高負荷時の消費電力はRyzen 7 1800Xに近くなる点がおもしろい。
以上でRyzen Threadripperのベンチマークは終了だが、マザー選びに悩んでいる人も多いことだろう。そこで今回テストに使用したMSI製マザー『X399 GAMING PRO CARBON AC』のレビューもお届けしたい。
.Ryzen Threadripper自作に最適なMSI『X399 GAMING PRO CARBON AC』
Ryzen Threadripperのマルチスレッド性能は非常に高いが、その性能をフルに引き出すには確かな品質のマザーが欠かせない。CPUだけで13万円強のエンスージアスト向けCPUなので、マザーも気合いを入れて選びたい。
そこで今回はRyzen Threadripperマシンの自作にピッタリなMSI製X399搭載マザー『X399 GAMING PRO CARBON AC』を紹介しよう。
X399 GAMING PRO CARBON ACでまず目に入るのはカーボン素材風のテクスチャをあしらったヒートシンクやIOシールドだが、とりわけCPU脇の電源部のヒートシンクが大きいことに気が付く。OC時の安定性を確保するためには電源回路の多フェーズ化は避けられないが、ソケットの巨大なX399マザーでは電源部を小さくまとめる必要があり、回路の冷却が重要になる。このX399 GAMING PRO CARBON ACでは電源部に背の高いヒートシンクを採用しているため、あえて大型空冷クーラーを使う場合は干渉に十分注意する必要があるだろう。
このヒートシンクの下には10フェーズ分の回路が実装されている。8フェーズのマザーがX399マザーの主力であることを考えると、この追加の2フェーズはMSIの意地を感じさせる(さらにメモリスロット側にも3フェーズ実装されている)。基板に実装されている部品も“DARK CAPコンデンサ”や“TITANIUM CHOKE IIコイル”など、同社の“Military Class 6”基準を満たす高品質なものであることは言うまでもない。
CPU周辺にはDDR4-3600にも対応するDDR4メモリスロットが8本、拡張スロットはPCI Express 3.0 x16が4本、同2.0 x1が2本。基板上の多くがなんらかのスロットで埋まっていると言って差し支えない。各スロットはSteel Armorで覆われており、ノイズ耐性や剛性が強化されている。Ryzen ThreadripperはどのモデルであってもCPU側のレーン数は64であるため、一番下のスロットまで見た目どおりのスペックを発揮してくれるのは非常に頼もしい。1本目のx16スロットの脇にはPCI Express用の6ピン電源コネクタも設置されており、複数のビデオカード装着時における電力不足を補うようになっている。
前述のとおりX399 GAMING PRO CARBON ACにはPCI Express 2.0 x1スロットが2本あるが、これに装着するためのIEEE802.11a/b/g/n/ac+Blueooth 4.2両対応の無線カードが同梱される。最大通信速度は867Mbpsだが、有線LANの引き回しが難しい場所にも設置できるようになるため、レイアウトの自由度が上がる点は評価したい。
X399 GAMING PRO CARBON ACはストレージまわりも強力だ。Serial ATA 3.0ポートを8基、PCI Express 3.0 x4接続のM.2スロット(Serial ATAにも対応)3基を装備するため、柔軟なストレージ構成に対応できる。とくに読み書き性能を重視したいなら3本のM.2スロットにM.2 NVMe SSDを接続し、RAID 0運用するのもよいだろう。
特筆すべきはM.2スロットのすべてに「M.2 Shield」と呼ばれるカバーが付いていること。現状のM.2 NVMe SSDは高い読み書き性能のトレードオフとして、読み書き処理時に高温になりやすく、巨大なファイルを扱うとサーマルスロットリングがかかって性能が落ちるものが多い。M.2 Shieldは単なるカバーではなく、裏面に熱伝導シートが付いているためカバー全体がヒートスプレッダとして働く。別途M.2用ヒートシンクを購入せずともよいばかりでなく、装着時に全体の色調を壊さないというメリットもあるのだ。
では実際にどの程度M.2 ShieldがSSDの冷却に効くのかテストしてみよう。今回はIntel製の「SSD 600p」の512GB版(SSDPEKKW512G7X1)をD:ドライブとして追加し、容量47GBのフォルダをC:ドライブからコピーした際の温度(最大値)を比較する。比較対象としてSSD 600pをM.2 Shieldなしで装着した状態、および長尾製作所製のM.2 SSD用ヒートシンク「SS-M2S-HS02」を装着した状態(グラフでは“ヒートシンク付き”と表記)で計測した。M.2スロットは22110モジュールに対応した中央のスロットを使用している。また、温度計測は「HWiNFO64」の“Drive Temperature”から取得した。
今回テストに使用した2番目のM.2スロットはM.2 Shield自体が大きいことも手伝い、市販のM.2 SSD用ヒートシンクよりも温度上昇がしにくい設計であることが分かった。もっと大型(高さのある)のM.2 SSD用ヒートシンクとの比較ではもう少し接戦になる可能性はあるが、追加コストゼロかつデザインの統一感を保ったまま冷却力を高められる点は大いに評価したいところだ。
ちなみに、各構成でのコピー時間は以下のとおりとなる。M.2 ShieldでしっかりとSSDの温度を下げられるので、コピー時間も裸の状態より格段に短くなっている。熱によるSSDへのダメージを心配するなら、ぜひとも活用すべきだろう。
X399 GAMING PRO CARBON ACはオーバークロック機能もしっかりと盛り込まれている。UEFI設定やWindows上で動作するツール「Command Center」、あるいは前述の「Ryzen Master」を使う方法があるが、基板上に実装されているツマミ「Game Boost」も利用できる。電源投入時のポジション(Stageと呼ぶ)に応じ自動的にOCがかかるというものだ。Game BoostのStageは八つあり、デフォルト位置は定格、時計回りに回すごとにクロックは上がっていく。Stageごとのクロックのきざみは搭載するCPUにより異なるが、OCの成功・失敗はCPUのOC耐性やCPUクーラーの性能などに影響されるのは言うまでもない。
この機能に関しても実際にテストしてみた。Stage 1~10では1ポジションのきざみが0.05GHzと非常に小さいので、デフォルトの0に対して4(3.85GHz)と8(3.95GHz)の2段階でどの程度性能が伸びるか試した。OC時の発熱に対抗するため、Stage 4と8はCPUクーラーのファン回転速度を100%固定に設定している。これは標準のままではCPU温度(Tctl)が100℃に簡単に到達してしまい、性能が伸びなかったためだ。
テストは「CINEBENCH R15」および「TMPGEnc Video Mastering Works 6」で行なう。テストの諸条件は前掲のとおりだ。
テストが比較的短時間で終了するCINEBENCH R15では、Stageを上げるほどにスコアが順調に伸びているが、負荷が長時間継続するTMPGEncでは、効果がないどころかむしろ遅くなる傾向すら見られた。今回検証に使用した簡易水冷ユニットはTR-1950Xの中心部分しかカバーできていないため、明らかに冷却が間に合っていないようだ。本機でGame Boostを使いこなしたければRyzen Threadripperのヒートスプレッダの全域をカバーするSocketTR4用のクーラーを導入すべきだろう。ただこのような状態であったが、ツマミの設定以外何もしないでOCができるのは非常にお手軽と言える。
最近のマザーは“魅せる”ことも重要な要素だ。X399 GAMING PRO CARBON ACでもチップセットのカバーやIOシールドが光るのに加え、マザーの裏側(Serial ATA付近)にもUnderglow LEDが組み込まれている。さらにマザー上にはスタンダードなLEDテープ(5050、12V入力)を装着するピンヘッダに加え、WS2812BなどのアドレッサブルなLEDを使ったLEDテープ(5050、5V入力)用のピンヘッダも備える。LED制御はMSI独自ツールである「Mystic Light」を使う点は、同社の最近のマザーと一緒だ。
.まとめ:コスパのよいメニーコアPCが欲しいならRyzen Threadripperと『X399 GAMING PRO CARBON AC』の組み合わせがオススメ
長くなったが、Ryzen Threadripperの特徴や凄さ、そしてX399 GAMING PRO CARBON ACの魅力が伝わったのではなかろうか。価格改定が入って海外との不自然な“自作為替格差”が解消されたとはいえ、Ryzen Threadripperで組むにはそれなりの出費を強いられる。ビギナーにもオススメとは決して言えないが、コスパのよいメニーコアPCが欲しい人、とくに動画編集やCG作成といったクリエイティブ系処理が中心の人、さらにゲーマーの中でも動画配信や動画編集まで1台のPCで完結させたい人にとっては、Ryzen Threadripperは非常に魅力的なCPUと言えるだろう。
今回テストに使用したX399 GAMING PRO CARBON ACも決して安価なマザーではないが、M.2 ShieldやGame Boostといった即戦力になる装備や、多彩なLED対応など今の自作トレンドをしっかり採り入れつつ、MSIならではの安心感を味わえる良質なマザーであると言える。これからRyzen Threadripperで1台組むことを考えているなら、ぜひX399 GAMING PRO CARBON ACを選んでみてはどうだろうか。
[制作協力:MSI]