プロダクトレビュー・ショーケース
64GBメモリで27BのAIも画像生成も。RTX Spark搭載のASUS「ProArt P16(H7607)」の実用性を試す
エージェントPC時代の先駆けとなるArm+Blackwellの最新SoC搭載機 text by 芹澤 正芳
2026年10月16日 21:00
普段のWindows作業をこなしながら、必要なときには大きなAIモデルも手元で動かす。NVIDIAの新プラットフォーム「RTX Spark」が目指す使い方を、ASUSの16型ノートPC「ProArt P16(H7607)」で試してみた。今回の構成は20コアCPUと6,144基のCUDAコアを備えるRTX Spark N1Xに、64GBのユニファイドメモリを組み合わせたものだ。
プラットフォームの仕組みやEditor's Dayでの発表内容はこちらの記事で紹介した。今回はノートPCとしての使い勝手に軸を置き、Officeでの仕事、27BのローカルLLM、画像生成、ゲームを確認する。
16型の薄型ボディに、CPUとRTX GPU、64GBメモリをまとめる
まずは今回使った本機の構成を整理しておこう。RTX Sparkは、ArmベースのGrace CPUとBlackwell世代のRTX GPUを統合したSoCだ。CPUとGPUが同じ物理メモリを共有するため、従来の「システムメモリは64GBあるが、GPUのビデオメモリは8GBや16GB」という構成とは、AIモデルを扱うときの条件が異なる。
ProArt P16(H7607)には複数の仕様があるが、今回の評価機は上位の20コアCPU/6,144 CUDAコア版N1Xを搭載。メモリはLPDDR5X 64GB、ストレージは1TBのPCI Express 4.0接続NVMe SSDで、ディスプレイは2,880×1,800ドットの16型OLEDだ。OSはArm版Windows 11 Proとなる。
16型の作業領域を持つノートPCとして、実測1,760gという重さに収まっている。今回の評価機は英語配列のキーボードを採用する海外仕様で、国内向けモデルを評価するものではない。
Arm対応アプリが増え、普段のWindows作業を続けやすくなった
RTX Sparkは新しいSoCだが、使うOSはWindows 11だ。Armネイティブ版のアプリに加え、従来のx86/x64アプリもWindowsのエミュレーション機能「Prism」を通じて実行できる。WordやExcel、Photoshop、Chrome、Slack、Discord、Spotifyなど、定番アプリのArmネイティブ版が増えており、RTX Spark搭載機も同じWindowsアプリのエコシステムを使えることは、日常のPCを置き換える上で大きい。
もちろん、専用ドライバを必要とする周辺機器や特殊なアプリまで、すべてが動くわけではない。Prismが変換するのはアプリのCPUコードで、カーネルドライバはArm64対応が必要だ。では、本機で仕事用アプリを動かしたときの性能はどうか。実際のWord、Excel、PowerPoint、Outlookを使う「UL Procyon Office Productivity」で、AC接続時とバッテリー駆動時を比較した。Windowsの電源モードは両方とも「最適なパフォーマンス」、ProArt Creator Hubは「Performance mode」に設定している。今回のテストはすべてこの設定で実行した。
総合スコアはAC接続時で6,840、バッテリー駆動時でも6,528。電源を抜いたときの低下は約4.6%にとどまった。PowerPointでは約7.9%の差があるものの、WordとExcelは4%前後、Outlookはほぼ同じだ。少なくとも今回のOffice処理では、バッテリー駆動で大きく性能が落ちることはなかった。なお、このスコアは一般的な高性能ノートPCと比べても良好な水準と言える。
CPUレンダリング性能を測るCinebenchも実行した。
さすが20コア20スレッドのCPUらしく、ノートPCとしては高いマルチスレッド性能を示した。シングルスレッドのスコアも高く、シンプルにCPUパワーだけを見てもハイエンドノートPCと言えるだけの実力を持つ。
27BのLLMは、短い質問なら最初の回答まで約0.4秒
ここからは、64GBメモリが必要なローカルAIを試す。LLMには270億パラメーターの「Qwen3.8-27B」を選び、llama.cppのWindows Arm64/CUDA版で実行した。Q4系とQ8_0の量子化モデルを比較する。
量子化は、モデル内の数値を少ないビット数で表現して、必要なメモリを減らす手法だ。一般にQ4はQ8より省メモリだが、表現精度とのトレードオフではある。ただ、Q8を選べばQ4よりも精度は上がるものの、必ずしも正確に答えられるようになるわけではない。使うモデルや量子化方式、質問によって違いが生じる。今回は回答品質の網羅的な比較ではなく、動作の可否と待ち時間に着目してテストした。
設定したコンテキスト長は65,536トークン。DFlashによる投機的デコードを有効にし、回答前の長い思考処理を行うThinkingは無効にした。投機的デコードは、小さな補助モデルが先の出力を予測し、本体モデルが検証することで生成を高速化する仕組みだ。そのため、以下の生成速度は本体モデル単独の性能ではなく、DFlashを組み合わせた実用構成の結果となる。
短い質問では、「Armネイティブアプリ」、「x64エミュレーション」、「周辺機器ドライバ」の違いを日本語で説明させた。長文では、架空の商品データ500件、51,116文字、入力22,070トークンを与え、指定した3商品の価格、メモリ容量、重量を取り出させている。プロンプトのキャッシュは無効にし、各条件2回実行したうちの2回目を掲載した。モデルの起動・読み込み時間は含まない。
| モデル/GPU専用 メモリ設定 | 入力 | 最初の 回答表示 | 回答完了 | サーバー報告の 生成速度 |
| Q4/30.5GB | 短文 | 0.35秒 | 4.87秒 | 20.57 tokens/s |
| Q8_0/30.5GB | 短文 | 0.48秒 | 7.56秒 | 13.57 tokens/s |
| Q8_0/40GB | 短文 | 0.45秒 | 7.54秒 | 13.54 tokens/s |
| Q4/30.5GB | 長文 | 29.63秒 | 30.59秒 | 58.35 tokens/s |
| Q8_0/30.5GB | 長文 | 31.05秒 | 32.67秒 | 46.79 tokens/s |
| Q8_0/40GB | 長文 | 29.81秒 | 31.39秒 | 47.98 tokens/s |
短い質問なら、Q4は約0.35秒、Q8_0でも約0.45~0.48秒で最初の回答が見え始めた。27Bという規模のモデルを、ノートPC上で対話に使える応答性だ。回答完了までの時間は、モデルの計算速度と実際に書いた文章の両方を反映している。
一方、約5.1万文字を読ませた場合は、回答が見え始めるまで約30秒かかる。入力を読む処理と、その後に文章を生成する処理は別なので、短文の応答性だけで大量の資料を扱う際の待ち時間は判断できない。長文の結果で生成速度が高くても、全体の待ち時間の大半は入力処理だ。取り出した値は、価格11,554円、メモリ64GB、重量1,499gの3項目とも正しかった。今回の用途なら、まず応答の軽いQ4を使い、必要に応じて別の精度やモデルを選ぶという使い方が考えられる。
GPUメモリは30.5GBを超えて使用可能設定を増やしても速さはほぼ同じ
64GBのメリットが分かりやすかったのは、Q8_0モデルを動かしたときのメモリ使用状況だ。NVIDIA AppでGPUへの専用メモリ割り当てをデフォルトの30.5GBにした状態では、タスクマネージャーのGPU全体の使用量は36.0GB。内訳は専用GPUメモリ30.3GB、共有GPUメモリ5.7GBだった。割り当てを40GBへ変更すると、専用33.9GB、共有2.1GBとなり、合計は同じ36.0GB。GPU向けに確保する領域を増やした分、使用先の内訳が変わったことが分かる。
NVIDIAの開発者資料によれば、RTX SparkのGPUメモリには“専用領域”と“共有領域”があり、CUDAのGPU向け割り当ては専用領域を使い切ると共有領域へ移る。共有側はページの扱いなどが異なり、性能に影響する場合があるものの、一般的なディスクリートGPUでGPU外のメモリへ退避する場合と同じ仕組みだと考えるべきではない。
今回の実測では、40GBへ増やしても短文の回答完了は7.56秒から7.54秒で、ほぼ変わらなかった。長文では32.67秒から31.39秒へ約3.9%短縮したが、測定回数が少なく、再起動前後の状態なども影響するため、割り当て変更だけの効果とは断定できない。少なくとも、メモリを増やしただけで生成速度が大幅に伸びる結果ではなかった。
その一方で、Q8_0と補助モデルを含む構成を起動し、約36GBを使うほどのGPU処理を、このノートPCで継続できたことには大きな意味がある。8GBや16GBのビデオメモリでは収まりにくい規模の処理に、CUDAを使って取り組めるためだ。64GBの価値は、軽いアプリが一律に速くなることより、こうしたメモリを多く使うモデルや入力条件を選べる点にある。
FLUX.2 Devの画像生成は約40秒NVFP4構成で待ち時間を短縮
画像生成にはComfy Desktopの「Performance Tests」を使い、FLUX.2 DevのFP8構成とNVFP4構成を測定した。どちらも1,024×1,024ドット、20ステップ、SamplerはEuler、FluxGuidanceは4、バッチサイズは1。Turbo LoRAは無効で、GPU専用メモリの割り当ては40GBとしている。
FP8構成は拡散モデルに「flux2_dev_fp8mixed.safetensors」、テキストエンコーダーに「mistral_3_small_flux2_fp8.safetensors」を使用。NVFP4構成では、それぞれ「flux2-dev-nvfp4-mixed.safetensors」、「mistral_3_small_flux2_fp4_mixed.safetensors」へ変更した。VAEは共通のBF16版だ。NVFP4構成もすべてのデータが4bitという意味ではなく、一部に高精度の値を保持する混合精度のモデルを使っている。
| FLUX.2 Dev | FP8構成 | NVFP4構成 |
| 平均生成時間 | 53.37秒 | 40.29秒 |
| 中央値 | 53.44秒 | 40.25秒 |
| 最短~最長 | 53.13~53.58秒 | 40.16~40.47秒 |
| 測定回数/失敗 | 5回/0回 | 5回/0回 |
今回の構成では、NVFP4側が約24.5%短時間で生成を終えた。作例は「ビンテージの衣装」、「ストリートフォト」、「ブルータリズム建築」、「パステルカラー」などを指定した同じプロンプトで生成したものだ。どちらも、コンクリートの建物や衣装の細部を描いた1,024×1,024ドットの画像を出力できている。1枚約40秒なら、文章で指定を変えながら、生成と確認を繰り返す使い方ができそうだ。
27BのLLMと同様、生成AIの処理を“日常的に使用するWindows環境の中で”進められることがポイントと言えるだろう。大きなモデルを動かすための別のPCや作業環境に移ることなく、生成した素材をそのまま編集作業へ持ち込める。モデルや必要なソフトを準備した後、今回のようなローカル生成では画像ごとにクラウドAPIを呼ぶ必要もない。
身近な制作アプリへの組み込みも進んでいる。今回用意したPhotoshopベータ版では、削除ツールの生成AI処理先に「クラウド」と「デバイス」を選べる。デバイス側でAI処理を実行できるようになれば、飛行機での移動中などネット環境のない場所でも作業を続けることが可能だ。これもRTX Sparkの大きな強みと言える。
WQHDのゲームも動く。DLSSとフレーム生成を含む結果として見る
ここからは実ゲームを試そう。「サイバーパンク2077」と「マーベル・ライバルズ」を用意した。どちらも解像度はWQHDで、サイバーパンク2077は画質「レイトレーシング:低」を基準に、DLSS Super Resolutionを「バランス」、DLSS Multi Frame Generationを「3X」に設定。「マーベル・ライバルズ」はWindows on Arm向けArm64ECベータ版を使用し、画質は「高」、DLSSは「バランス」、フレーム生成は3Xとした。それぞれゲーム内のベンチマーク機能を利用してフレームレートを測定している。
「サイバーパンク2077」はPrism経由のx64アプリ、「マーベル・ライバルズ」はArmネイティブ版が用意されるタイトルと、実行方式は異なるがどちらも十分快適にプレイできるだけのフレームレートが出ている。中画質なら多くのゲームをWQHD解像度でプレイが可能だろう。
高負荷時のファン音は大きいが、キーボードは熱くなりにくい
実機の扱いやすさも見ておこう。16型の画面は16:10の縦に広い構成で、キーボードにはテンキーを設けず、左右に余裕を持たせている。大きなタッチパッドも備え、クリエイター向けらしく落ち着いた外観だ。
端子も充実している。左側面にはHDMI出力、USB4を2基、ヘッドセット端子。右側面にはSDカードスロット、USB 3.2 Gen 2、USB4を用意する。Type-C、Type-Aの両形状を揃えているので多くの周辺機器を接続しやすいのがポイントだ。
高負荷時のファン音は、ゲーミングノートPCを思わせる大きさで、静かな環境では存在感がある。一方、負荷が続いてもキーボード部分はわずかに温かくなる程度だった。しっかりした冷却力を確保し、手が触れる部分が極端に熱くなるということはない。AI処理の待ち時間に文章を書くような場面でも、発熱が作業の妨げにはなりにくそうだ。
いつものWindows環境に、大容量ローカルAIを持ち込める1台
今回のProArt P16(H7607)で感じたのは、RTX Spark搭載ノートPCが、Officeなどの日常作業と大きなローカルAIモデルを同じWindows環境にまとめられることの意義だ。Officeの性能は一般的な高性能ノートPCと比べても良好で、27BのLLMは短い質問なら最初の回答まで0.4秒前後。Q8_0を含む構成ではGPU全体で約36GBを使う状態を確認でき、FLUX.2 DevのNVFP4構成でも画像を1枚約40秒で生成できた。
本機は「Windowsで普段の仕事を続けながら、GPUメモリの制約を受けやすいAI処理にも取り組む」という使い方を、実際に試せるところまで来ている。大容量メモリとCUDAを持ち歩けることに、RTX Spark搭載ノートPCならではの価値を感じた。



















