VIDEO CARD LABORATORY
Radeon環境のフレームレートを激増させる「AFMF」を深掘りする~後編:レイテンシーに着目する。ハマれば効果は絶大!そのメリットとデメリットを徹底検証
【VIDEO CARD LABORATORY 新装第1回“後編”】 text by 加藤 勝明
2024年5月1日 09:05
Radeonの価値を一気に高めた「AFMF」こと「AMD Fluid Motion Frames」。4月現在のAFMFを深堀する本稿の前編パートでは、主に“ゲームのフレームレート向上における効果”を細かくチェックしてみた。ゲームや使用GPUによっては数倍ものフレームレート向上を実現しており、“直近2世代のRadeonで幅広く動作”、“ゲーム側の対応は不要”というAFMFの特徴がハッタリではないことがお判りいただけたと思う。
AFMFはこれまでプレイをあきらめる、あるいは画質を大幅に落とさざるを得ないRadeonでも、最新重量級ゲームを高画質設定で楽しめるようになる素晴らしい技術だ。しかしAFMFは完全無欠の技術ではない。ここからは“AFMF最大の弱点”について検証していく。
とはいえAFMFには大きな弱点もある
AFMFの弱点とは、生成されるフレームは2フレーム分の情報が必要になるため、AFMF OFFのときよりも画面表示により時間が必要になるということだ。つまりゲーム画面上の情報を見てプレイヤーが何か操作をしたとき、それが画面に反映されるタイミングがより遅くなる。いわゆる“入力遅延”、もう少し専門的な用語を使えば“E-E(End-to-End)システムレイテンシー”の増大である。
AFMFをONにすると同時にAnti-LagもONになるが、これはAFMFによる遅延を少しでも抑えるためのものだ。この遅延に関してはDLSS FGでも同様であり、DLSS FG対応ゲームの場合“Reflex”と呼ばれる遅延短縮機能が同時にONになる。
そこでここからは、NVIDIAのE-Eシステムレイテンシー計測ツール「LDAT 2」を利用し、AFMFの有無によりどの程度E-Eシステムレイテンシーが変化するのかを検証してゆく。E-Eシステムレイテンシーが問題になるのは競技性の高い(eスポーツ成分の高い)ゲームであるため、本稿では「Apex Legends」を使用した。使用するGPUはRX 6600 XTのみ(GPUが非力なほうがE-Eシステムレイテンシーの差異が出やすい)とし、ASUSの360Hz対応ゲーミング液晶「ROG Swift PG25QNR」と組み合わせた。
CPU | AMD Ryzen 7 7800X3D(8コア16スレッド) |
マザーボード | ASUS ROG STRIX X670E-F GAMING WIFI (AMD X670E、BIOS 1905) |
メモリ | Micron Crucial Pro CP2K16G56C46U5 DDR5-5600 32GB(PC5-44800 DDR5 SDRAM16GB×2) |
ビデオカード | ASRock AMD Radeon RX 6600 XT Phantom Gaming D 8GB OC |
SSD | Micron Crucial T700 2TB [M.2(PCI Express 5.0 x4)、2TB] |
CPUクーラー | NZXT Kraken Elite 360(簡易水冷、36cmクラス) |
電源ユニット | Super Flower LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK (1000W、80PLUS Platinum) |
OS | Windows 11 Pro(23H2) |
計測方法はシンプルで、射撃訓練場において手に入る武器のうち、LMG“スピットファイア”を1発ずつ射撃し、マウスクリックから画面にマズルフラッシュが出るまでの時間を計測する、というもの。ただ10発程度では誤差か変動か判別が付かないため、スピットファイアの35発入りマガジン17個を打ち切る、つまり525発射撃した際のE-Eシステムレイテンシーを計測した。
Apex LegendsはDirectX 12モードで起動し、画質は最高設定および最低設定(ただしアンチエイリアスはTAAで統一)とし、それぞれAFMFのON/OFFした状態で計測した。つまり合計2,100発の射撃結果からE-Eシステムレイテンシーの傾向を見いだそう、というわけである。
まずは各条件525発の射撃で得られたE-Eシステムレイテンシーが、どのような感じで分布しているのかチェックしよう。以下のグラフは横軸が射撃回数(右へいくほど増)、縦軸がE-Eシステムレイテンシー(上へいくほど増)となる。
上のグラフが示す事実は実にシンプルだ。画質を上げるとE-Eレイテンシーはより長くなるが、AFMFを有効にするとさらにE-Eシステムレイテンシーが増大する。また、時間経過(横軸)とE-Eシステムレイテンシーはあまり関係なく、常にバラ付いていることも分かる。
先の散布図のデータを箱ひげ図にまとめると、E-Eシステムレイテンシーの変化がよく分かる。RX 6600 XT環境では最高画質かつAFMF OFFの状態では平均21.28msのE-Eシステムレイテンシーだったものが、最高画質かつAFMFをONにすると平均36.07msとなる。その差は約15msだが、これは60fps換算で約1フレームの遅延がAFMFにより発生するということだ。
AFMFを利用することによりE-Eシステムレイテンシーが増大するだけでなく、ばらつきもより大きくなる。画質を下げれば山の位置も全体に左に寄るが、RX 6600 XT環境では最低画質+AFMF ON時のE-Eシステムレイテンシーは最高画質+AFMF OFF時のそれを下回ることはできない。AFMF ONの場合のE-Eシステムレイテンシーは最低画質にすることでかなり緩和できるが、それでもベストケースで25ms、平均では28.8msの遅延が発生する。
これがどの程度大きいかと論じる前に、今回のテスト条件におけるフレームレートを見てみよう。射撃訓練場において一定の行動をとった際のフレームレートは以下のとおりだ。
もともと軽いゲームであるためAFMFを使わなくても割と高いフレームレートが得られるが、AFMFを利用することでフレームレートはほぼ倍になる(この検証ではRadeon Super Resolution/RSRを使っていない)。
超高リフレッシュレートの液晶を持っているならAFMFを利用してフレームレートを上げた方が良いと思うかもしれないが、平均460fpsの時点でフレームタイムは約2.16ms(最低fps基準だと約5ms)。最低画質+AFMFオン時のE-Eシステムレイテンシーが平均28.8msなので、この時間内に平均で5〜15フレーム程度の遅れを出しながらゲームをしていることになる(CPUフレームタイムを考慮しないざっくりとした計算だが)。
一方最低画質+AFMF OFF時のGPUフレームタイムは平均fpsでいえば3.42ms、最低fpsなら4.78msとなり、こちらの場合4〜5フレーム程度に収まる。この遅れるフレーム量はゲームやPCスペックでも変わる可能性があるが、AFMFをONにした際の違和感を感じるなら、この遅延を感じ取っていることになる。
AFMFはゲームを快適にするスパイスとして利用すべき?
以上でAFMFの検証は終了とする。前半ではAFMFとFSR 2の併用によりRX 6000シリーズでも十分戦えるようになると示した一方で、後半ではAFMFによりE-Eシステムレイテンシーが無視できないほど大きくなることを示した。AFMFは競技性の高いゲーム、あるいはゲームシステムにおける時間的猶予が少ないゲーム(いわゆる“音ゲー”の類)には、AFMFは向かない、と言ってよいだろう。
しかしその一方で、フレームレートが無料で向上するという点においては、AFMFが今のRadeon(RX 6000シリーズ以降に限られるものの)を輝かせているというのは過言ではないだろう。E-Eシステムレイテンシーが足かせにならない状況であればどんどんAFMFを利用して損はない。自分がどんなゲームと、どう向かいあいたいのかしだいだ。
しかし本稿では、RX 6600 XTよりもパワーのあるRadeonを使った場合については検証できていない。もっと強力なRX 7700 XTやRX 7900 XTを使った場合、AFMF使用時のE-Eシステムレイテンシー増大はどの程度緩和されるのだろうか――これに関しては後進の検証に委ねたい。