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「最も困難だったのは超薄型クーラー開発」、MSIに聞く新型GeForce RTX 20搭載ノートのポイント
薄くなってもクーラー性能は25%アップ、音声操作も研究中 MSI CESレポートその2 text by 長浜和也
2019年1月22日 06:05
MSIは、2019 International CES(以下、CES 2019)の開催に合わせてゲーミングノートPC全ラインアップで新モデルを発表したのは既に別記事で紹介した通り。
その新製品で大きな特徴の1つとなるのがモバイル向け「GeForce RTX 20」シリーズの採用だ。しかし、NVIDIAがCES 2019に合わせて発表したこの新世代GPUを搭載したゲーミングノートPCは、HPやDELL(Alienware)など競合するメーカーも時同じくして発表している。ゲーミングノートPCに限らず新世代のCPUやGPUで差別化を図るのが難しい。
このような状況において、MSIはどのようにして競合製品との違いを出そうとしているのか。CES 2019のMSIブースでノートPCビジネスを取りまとめるNB Marketing事業部でSenior Product Marketing Managerを務めるAlex Lin氏に話を聞いた。
――2019 International CESに合わせて発表した新しいゲーミングノートPCのラインアップと訴求ポイントをご紹介ください。
[Alex Lin氏]MSIが投入した新しいノートPCのラインアップは、最上位モデルとしてGT75を、エンスーゲーマーを意識したモデルとしてGS75 StealthにGS63 Stealth、GE75、GE63を用意しました。さらに、パフォーマンスを重視するユーザーのためにGL63、GF75をそろえています。
ゲーミングノートPCとは別に、クリエーターユーザーを想定したモデルとしてP65、PS63、およびPS42があります。 PS63は、狭額縁ベゼル、高い処理能力、薄型で軽量なボディ、強力な冷却システム、そして、長時間バッテリー駆動時間を備え、ディスカバリーチャンネルとコラボレーとした新しいデザインを取り入れたモデルです。
――今回発表した新製品の開発で、最も困難だったブレイクスルーはなんでしたか。また、どのようにしてその課題を解決しましたか。
[Alex Lin氏]今回の開発でも最も困難なブレイクスルーは、強力な冷却システムを組み込みながらも、従来モデルから大幅に薄くし、かつ、堅牢なボディを実現することでした。
GS75 Stealthでは、7本のヒートパイプと薄いファンを3基も備えたクーラーユニット「Cooler Boost TRINITY+」を新たに開発して従来モデルと比べて60%に厚さを抑えたボディを可能にしました。
――Cooler Boost TRINITY+について、詳しく説明していただけますか?
[Alex Lin氏]まず、クーラーユニットを薄くするために冷却ファンの羽を厚さ0.2ミリと薄くしました。ただ、ファンの羽が薄くなると回転に伴ってしなってしまいます。そのため、新しいプラスチック素材を採用して強度を確保しています。
ファンの改善以上に効果があったのはヒートパイプの本数を従来から増やしたことです。7本のヒートパイプを組み込んだおかげで、GeForce RTX 20シリーズの最上位モデルとなるGeForce RTX 2080と第8世代Coreシリーズでモバイル向けハイエンドCPUを搭載しても発熱で処理能力が低下しない十分な冷却効率を実現しています。MSIの検証では従来の冷却システムと比べて冷却効率が25%向上したことを確認しています。
――最新鋭ゲーミングノートPCのデザインにおいて、最も重要な技術的要素とは何でしょうか。
[Alex Lin氏]高い処理能力を有するゲーミングノートPCでも「薄くて軽い」ことが重要になっています。加えて、全ての新しいモデルで狭額縁ベゼルと長時間のバッテリー駆動時間も実現できるようにしています。
ただし、薄く軽くすることが重要な条件となっても高い処理能力は確保しなければなりません。MSIの全てのノートPCでは搭載するCPUとGPUが高い処理能力を発揮できるように、強力な冷却機構を備えることを重視しています。
さらに、クリエーター向けモデルでは、ディスプレイの表示画質も重要です。そのため、PS63 Mordenでは72%NTSCをカバーできるIPS駆動方式の液晶パネルを採用しました。
このように、時代が求める「薄くて軽い」ボディを実現しながらも、最新の技術をフルに活用することで高い処理能力と高い表示品質を備えたノートPCを可能にすることが、ゲーミングノートPCのデザインにおいて最も重要な技術的要素といえるでしょう。
――ゲーミングノートPCに搭載できるディスプレイサイズの上限はどの程度と想像していますか? 同様に解像度の上限はどこまでいけるものでしょうか?
[Alex Lin氏]MSIのGT80とGT83は、ディスプレイのサイズと解像度の上限を市場でテストするための製品でもありました。その反響はMSIが想像していた規模以上でした。
結果から見るとパワーゲーマーほど18型ディスプレイを搭載するゲーミングノートPCは選択しないというものでした。彼らはSLI構成による高い描画処理能力と4K映像3画面出力、そして、RGBイルミネーションを備えたフルサイズメカニカルキーボードの搭載を評価する一方で、先ほども述べたように、18型というディスプレイサイズと本体に内蔵できるストレージデバイスの数が少ないことを購入しない理由としてあげています。
この結果から、MSIとしてはゲーミングノートPCといえど、18型ディスプレイを搭載したモデルがユーザーの支持を得ることは難しく、表示品質の高いパネルを採用した14~17.3型ディスプレイにフォーカスすべきと考えています。
――ゲーミングノートPCに曲面ディスプレイを搭載する可能性はありますか?
[Alex Lin氏]MSIではゲーミングノートPCに曲線ディスプレイを実装する予定はありません。これはユーザーが17型以下のディスプレイサイズではフラットディスプレイを好むためと、先ほども述べたように18型ディスプレイを搭載したゲーミングノートPCは購入を避けるなど、曲面ディスプレイのメリットがある大型ディスプレイは市場が求めていないことなどが理由です。
MSIでは曲面パネルが有効になるディスプレイサイズについて研究を進めており、24~43型で適しているという知見を得ています。MSIはリリースしている曲面ディスプレイのラインアップは、この結果を反映したものとなっているのです。
――現在のゲーミングノートPCのデザインでは、イルミネーションを大幅に取り入れる方向と、できるだけシンプルな方向の両方向に分かれています。それぞれのデザインについて、MSIはどのように評価していますか? 今後、MSIのラインアップがどちらかに集約していく可能性はありますか?
[Alex Lin氏]MSIでは、ゲーマーやパワーユーザーがMSIゲーミングノートPCを購入する理由の1つとしてイルミネーション機能が大きく影響したと考えています。
ただし、2017年から2018年にかけて、オフィスやビジネスで使うパワーユーザーはシンプルなボディデザインとシンプルなライトのノートPCを好むことに改めて気がつきました。
MSIがGS65、GF63、PS42、P65、GS75、PS63をラインアップに用意した理由はここにあります。一方で、イルミネーションを重視するユーザーのためにGEシリーズも継続しています。イルミネーションを重視したモデルとシンプルデザインのモデルは競合しません。ユーザーごとに異なるスタイルとして市場は分かれているのです。
――拡張ボックスによるグラフィックスアクセラレーションアーキテクチャについては、継続していく方針ですか?
[Alex Lin氏]このカテゴリーの製品について、現在計画はありません。GeForce GTX 10シリーズではモバイル向けGPUの処理能力がデスクトップPC向けGPUに近づいており、この傾向はGeForce RTX 20シリーズと同じ、もしくは、さらに近づいていると考えられるのがその理由です。
あえて外付けユニットにデスクトップPC向けGPUを搭載したグラフィックスカードを増設しなくても、ほぼ同じ性能がノートPCで出せるようになっているのです。
――CES 2019のMSIブースにAlexaを組み込んだゲーミングノートPCのコンセプトモデルが展示してありました。ゲーミングノートPCにとって音声認識機能やコンパニオン機能は有効なのでしょうか。
[Alex Lin氏]現時点において言うと、AlexaをゲーミングノートPCで使うのは難しいと思います。そもそもゲームをする環境においてはユーザーの音声以外のサウンドが多すぎるので、認識そのものが困難です。それに加えて、クラウドと連携して機能するAlexaの構成上、ゲームのコンパニオンとして使うには反応速度が遅すぎます。
――MSIのゲーミングノートPCは競合製品と比べて高いシェアを確保するなど、MSIの製品ラインアップでも高い成果を上げています。競合メーカーの製品と比べたMSIゲーミングノートPCのアドバンテージはなんでしょうか。
[Alex Lin氏]ゲーミングPCが競合製品と比べて優れた製品となるべく、数多くの要素を重視しています。強力な冷却機構にDYNAUIOと連携して開発したスピーカーシステムの実装は早い段階から取り組んできました。
続いて、SteelSeriesチームの協力を得てゲーミングキーボードの機能を強化し、独自のユーティリティとして「SteelSeries Engine」を生み出しました。
また、最上位クラスのゲーミングノートPCでは、72%以上のNTSC色域をカバーするIPS駆動方式ディスプレイを採用するとともに、色再現性を高めるソフトウェアとしてPortrait Displaysと提携して開発した「MSI True Color」を導入することで、正確な色の表示にも配慮しました。
入力デバイスでは、GT80がデスクトップPCと同等のフルサイズメカニカルキーボードとして、Cherry MXキーボードを備えたフルサイズのメカニカルキーボードを採用しています。
ソフトウェアの側面としては、利用場面においてモードを切り替えて処理能力を調整できるユーティリティ「MSI Dragon Center」を挙げることができます。2018年にはAndroid用ゲームをMSIのゲーミングノートPCで動作できる「MSI APP Player」も追加機能として利用できることが可能になりました。
このようなMSIのゲーミングノートPCに導入した独自技術でユーザー得るメリットが、競合製品に対するアドバンテージになると考えています。
――ありがとうございました。
[制作協力:MSI]