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静かで冷える最新世代ミドルレンジGPU“RTX 4060 Ti”が登場!MSI「GeForce RTX 4060 Ti GAMING X TRIO 8G」を試す

コンパクトな基板に3連ファンの大型クーラーを搭載 by 芹澤 正芳

 2023年5月24日22時に発売がスタートしたNVIDIAの最新GPU「GeForce RTX 4060 Ti」カード。搭載製品の価格は399ドルからとなっており、いわゆるミドルレンジのGPUとなる。同じく399ドルで発売された前世代の「GeForce RTX 3060 Ti」に置き換わる存在として注目されている。MSIの「GeForce RTX 4060 Ti GAMING X TRIO 8G」は、そのRTX 4060 Tiをいち早く搭載したファクトリーOCモデル。ミドルレンジとは思えない3連ファンの大型カードだけに冷却力も気になるところ。早速レビューをお届けしよう。

MSIのGeForce RTX 4060 Ti(8GB版)搭載カード「GeForce RTX 4060 Ti GAMING X TRIO 8G」。価格は79,800円(税込)

大型クーラーの冷却重視型RTX 4060 Tiカード

 MSIの「GeForce RTX 4060 Ti GAMING X TRIO 8G」は、GPUにRTX 4060 Tiを搭載するビデオカードだ。同社では性能追求型の“SUPRIM”、LEDを備えない質実剛健の“VENTUS”など多彩なビデオカードのシリーズを展開しているが、“GAMING TRIO”は高い性能とLEDによる演出の両方を備えるのが特徴だ。

GeForce RTX 4060 Ti。まずはビデオメモリ8GB版が発売となる

 まずは、RTX 4060 Tiのスペックに触れておこう。ブーストクロックの定格は2,535MHz、CUDAコアは4,352基、メモリはGDDR6 8GB、メモリバス幅は128bit、カード電力は160Wだ(2023年7月にはメモリ16GB版も登場予定)。一つ上位のRTX 4070はブーストクロック2,475MHz、CUDAコア5,888基、メモリGDDR6X 12GB、メモリバス幅192bit、カード電力200Wなので、スペックが抑えられた分、消費電力が下がり一段と扱いやすくなっているのがポイントと言える。NVIDIAでは、“フルHDで非常に高いフレームレートを出せるGPU”という位置付けだ。解像度が高くなるほどメモリバス幅の影響が大きくなるので、128bitでは高解像度でのプレイに向かないという判断なのだろう。

 今回入手した「GeForce RTX 4060 Ti GAMING X TRIO 8G」は、ブーストクロックが2,670MHzと定格よりも135MHzアップさせたファクトリーOCモデルだ。

GPU-Zでの表示。ブーストクロックは2,670MHzと定格よりも135MHz高い。ビデオメモリはGDDR 6が8GBだ
Power Limit(カード電力)は定格どおりの160Wに設定されていた

 カード長33.8cmにも達する大型冷却システムには、同社の「TRI FROZR 3」を採用。3連ファンには、ブレードを3枚ごとに外周部を結合させて気流を集中させる独自の「TORX FAN 5.0」を搭載している。GPUとの接触部には熱輸送に優れるニッケルメッキされた銅製のベースプレートを備え、そのプレートに密着しやすいように角形へと加工された「Core Pipe」と呼ばれるヒートパイプによってヒートシンク全体に効率よく熱を拡散する。ミドルレンジGPUとは思えない強力な冷却システムは心強いが、それだけにカードは長く、厚みは実質3スロット分となっているので、手持ちのPCケースに収まるかはしっかりと確認しておきたい。

 カード全体はかなり巨大だが基板はかなりコンパクトで、クーラーの半分程度のサイズしかない(実測約15.7cm)。カードを裏側から見てみると、バックプレートには空気の通り道となる大きな穴が開いており、巨大なヒートシンクが露出している。実際の動作時の温度は後程紹介するが、高負荷時でもGPU温度は60℃を下回り、MSIお得意の静音ファンで動作音も静か。余裕たっぷりのカードサイズだからこそ生まれる相乗効果と言ったところだろう。

カード長33.8cmに達する3連ファンの大型の冷却システムを採用
ブレードを3枚ごとに外周部を結合させたTORX FAN 5.0を搭載
基板の2倍以上ある大型のヒートシンクを採用
剛性を高めるバックプレートも搭載。後部は大きく開いており、ヒートシンクの熱を逃がしやすくしている
基板自体は実測で約15.7cmとコンパクト。8フェーズの電源回路を備えていた
補助電源は12VHPWRではなく、従来どおりの8ピン×1なので古い電源でも使いやすい
中央ファンの上下と天板にRGB LEDを内蔵している
LEDはMSI CenterアプリのMystic Lightでコントロール可能だ
ディスプレイ出力はDisplayPort 1.4a×3、HDMI 2.1a×1と標準的な構成だ
カードを支えるサポートステイも標準で付属している

性能はRTX 3070と同等で消費電力は70~80Wも少ない

 ここからはベンチマークに移ろう。比較対象として、1世代前のGeForce RTX 3070搭載カード(微OCモデル)を用意した。さらに、基本性能を見る3DMarkについては、力関係を見るためワンランク上のGeForce RTX 4070 Founders Editionと、2世代前のハイエンドGPUのGeForce RTX 2080の搭載カードを加えている。

 テスト環境は以下のとおり。テスト環境については、Resizable BARは有効にし、ドライバはレビュワー向けに配布されたGame Ready 531.93を使用。また、今回はNVIDIAのビデオカード単体の消費電力を正確に測定するキット「PCAT」(Power Capture Analysis Tool)も導入した。

【検証環境】
CPUIntel Core i9-13900K(24コア32スレッド)
マザーボードMSI MPG Z790 CARBON WIFI(Intel Z790)
メモリDDR5-5600 32GB(PC5-44800 DDR5 SDRAM16GB×2)
システムSSDM.2 NVMe SSD 2TB(PCI Express 4.0 x4)
CPUクーラー簡易水冷クーラー(36cmクラス)
電源1,000W(80PLUS Gold)
OSWindows 11 Pro(22H2)

 まずは定番3Dベンチマークの「3DMark」。Fire Strike、Time Spy、Port RoyalはRTX 3070と同等と言ってよいだろう。ただ、Fire Strike Ultra、Time Spy Extremeと負荷の高いテストではRTX 3070が上回る。RTX 4060 Tiの128bitというメモリバス幅の狭さが影響していると考えられる。それでも、2世代前のハイエンドであるRTX 2080を上回っているのは世代差と感じさせるところ。

3DMarkの計測結果

 続いて、人気FPSの「レインボーシックス シージ」と「Apex Legends」を試そう。レインボーシックス シージはゲーム内のベンチマーク機能を実行、Apex Legendsはトレーニングモードで一定コースを移動した際のフレームレートをそれぞれ「FrameView」で測定している。

レインボーシックス シージの計測結果
レインボーシックス シージのカード単体消費電力
Apex Legendsの計測結果
Apex Legendsのカード単体消費電力

 レインボーシックス シージはメモリバス幅の狭さが影響してか、解像度が高くなるほどRTX 3070が上回るが、Apex Legendsではどの解像度でもほぼ同等。フルHD向けのGPUとしているが、軽めのFPSなら4Kでも十分プレイできる性能があると言ってよいだろう。

 また、注目してほしいのはPCATで測定したカード単体の消費電力だ。Apex LegendsのフルHDで見ると、RTX 4060 TiはRTX 3070よりも81Wも少ない。RTX 40シリーズのワットパフォーマンスのよさがここでも光っている。

 続いて、2023年6月2日に発売を控え、RTX 4060 Tiで問題なくプレイできるか気になる人も多いであろう「ストリートファイター6 Demo」を試してみたい。CPU同士の対戦を実行した際のフレームレートを「FrameView」で測定している。

ストリートファイター6 Demoの計測結果
ストリートファイター6 Demoのカード単体消費電力

 ストリートファイター6は最大120fpsまで設定できるが、対戦時は最大60fpsまで。RTX 4060 Tiは4Kで平均59fpsと微妙に60fpsに届いていないが、プレイに問題はない。4Kまで最高画質設定で楽しめるパワーがあると言ってよいだろう。ちなみに、RTX 3070でもほぼ同じ結果だ。ただし、消費電力は圧倒的にRTX 4060 Tiのほうが低い。フルHDならわずか56.6Wだ。

 続いて、レイトレーシング性能はどうだろうか。2023年3月23日のアップデートでレイトレーシングへの対応が追加された「エルデンリング」で試そう。リムグレイブ周辺の一定コースを移動した際のフレームレートを「FrameView」で測定した。

エルデンリングの計測結果
エルデンリングのカード単体消費電力

 このゲームは最大60fpsまでしか出ない。このゲームに関してはRTX 4060 TiとRTX 3070はほぼ同じ。フルHDなら平均56fpsと十分快適にプレイできるフレームレートが出ているが、それ以上の解像度だとちょっと厳しいという結果だ。消費電力は最大60fpsのゲームということもあって、全体的に低めだ。

 ここからは、描画負荷軽減技術の「DLSS 3」に対応するゲームでテストしてみよう。DLSS 2までは低解像度でレンダリングした画面を実際の解像度までアップスケールするDLSS Super Resolutionだけだったが、DLSS 3ではそこにフレーム生成技術のDLSS Frame Generationを追加して、さらにフレームレートを向上できるようになったのが特徴。フレーム生成はGPU側で行なうため、CPUがボトルネックになった状況でもフレームレートを向上できるのが強みだ。なお、RTX 20/30シリーズはDLSS 2までの対応。DLSS 3が使えるのは今のところRTX 40シリーズだけだ。

 ここでは、「サイバーパンク2077」、「ホグワーツ・レガシー」、「Microsoft Flight Simulator」を用意した。サイバーパンク2077は画質設定を“レイトレーシング:ウルトラ”をベースにレイトレーシングライティング設定をもっとも高い「サイコ」にしてゲーム内のベンチマーク機能を実行したときのフレームレート、ホグワーツ・レガシーは寮内の一定コースを移動した際のフレームレート、Microsoft Flight Simulatorはアクティビティの着陸チャレンジから「シドニー」を選び、60秒フライトしたときのフレームレートをそれぞれ「FrameView」で測定している

サイバーパンク2077の計測結果
サイバーパンク2077のカード単体消費電力

 サイバーパンク2077は、DLSSを使わない場合はRTX 3070と同等だが、DLSSをパフォーマンス設定にした場合は、フレーム生成が使えるRTX 4060 Tiのほうがフレームレートが高くなる。DLSS 3の威力がよく分かる結果だ。

ホグワーツ・レガシーの計測結果
ホグワーツ・レガシーのカード単体消費電力

 ホグワーツ・レガシーは画質とレイトレーシングとも最高設定にするかなり描画負荷は高くなるが、DLSSをパフォーマンス設定にすればRTX 4060 Tiでも4Kで平均91fpsに到達と十分プレイできるフレームレートを出せる。RTX 3070はDLSS有効時のフルHDとWQHDのフレームレートが同じなのは、フルHDではCPUがボトルネックになってDLSSの効果が出ていないと考えられる。その一方でRTX 4060 TiはフルHDでもフレームレートが伸びているのはフレーム生成が効いているのだろう。しかし、4K解像度ではRTX 3070が上回る。DLSS 3の威力を持ってしても、メモリバス幅の狭さが影響してフレームレートが伸びていない。RTX 4060 Tiの限界が見え隠れする部分だ。

Microsoft Flight Simulatorの計測結果
Microsoft Flight Simulatorのカード単体消費電力

 Microsoft Flight SimulatorはCPUボトルネックが起こりやすいゲームだ。RTX 3070がDLSSを有効にしてもフレームレートがあまり伸びていないのはCPUボトルネックが原因。その一方で、CPUパワー不足でもフレームレートを伸ばせるフレーム生成が使えるRTX 4060 TiはフルHDとWQHDではDLSSを有効にすることでフレームレートが一気に伸びている。しかし、ホグワーツ・レガシーと同様に4Kではメモリバス幅の狭さが影響してか、RTX 3070よりもフレームレートは低くなった。

 4Kでは弱いところのあるRTX 4060 Tiだが、カード単体の消費電力を見るとどのゲームでもRTX 3070よりも圧倒的に低い。さらに、DLSSを使うことで描画負荷を軽減できるので消費電力はさらに下がる。RTX 40シリーズのワットパフォーマンスの高さはRTX 4060 Tiでも健在だ。ちなみに、サイバーパンク2077のDLSS無効時の4Kの消費電力が非常に低いのは、性能不足過ぎてまともに動作していないため。

高負荷時でも60℃以下の圧倒的冷却力

 次はシステム全体の消費電力を測定しよう。OS起動10分後をアイドル時、3DMark-Time Spy実行時の最大値とサイバーパンク2077実行時の最大値を測定した。電力計にはラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」を使用している。

システム全体の消費電力

 RTX 4060 Tiのカード電力は160W、RTX 3070は220Wなので、その差がシステム全体の消費電力にも現われていると言ってよいだろう。

 最後に、GPUクロック、GPU温度の推移を見よう。サイバーパンク2077を10分間プレイした際の推移をモニタリングアプリの「HWiNFO Pro」で追っている。GPUクロックは「GPU Clock」、GPU温度は「GPU Temperature」の値だ。バラック状態で動作させている。室温は23℃だ。

GPU温度と動作クロックの推移

 ブーストクロックは2,790MHz前後で推移と設定されているブーストクロックよりもかなり高いところで安定動作、温度は最大で59.3℃、57℃前後で推移とさすが大型クーラーと言える冷えっぷりだ。

フルHD~WQHDで先進の機能をフル活用できる待望のミドルレンジ

 ビデオカードを含むPCパーツの全体的な価格の上昇という難点はあるものの、“60番台”という多くの人にとって手を出しやすいミドルレンジのGPUでも最新のDLSSが利用できるようになったこと、RTX 3070に匹敵しRTX 20世代の上位モデルを上回る基本性能を持ちつつ省電力化が大きく進んだことなど、RTX 4060 Tiのメリットと実力は十分な仕上がりと言える。

 さらに、今回テストしたMSIのGeForce RTX 4060 Ti GAMING X TRIO 8Gは、上位GPU搭載モデルにも近い大型クーラーを搭載するが、消費電力が現行世代のハイエンドモデルや前世代・前々世代の格上モデルよりも低いこともあり、よく冷えつつも動作音は小さく、さらに高いブーストクロックを長時間安定して維持できるため、高い冷却性とゲームに集中しやすい静音性を求めている人にはピッタリだ。フルHDで高フレームレートを求める人がメインターゲットと言えるが、DLSS 3に対応したゲームならWQHD&高画質設定でも十分プレイできるパワーがある。DLSS 3の活用がさらに進んでいけば、それに伴って新たなミドルレンジGPUの定番になってくるのではないだろうか。

 なおMSIからは本機のほかにも、“GAMING”シリーズのデュアルファン仕様「GeForce RTX 4060 Ti GAMING X 8G」、よりコストパフォーマンスを重視した“VENTUS”シリーズのデュアルファン仕様「GeForce RTX 4060 Ti VENTUS 2X BLACK 8G OC」およびトリプルファン仕様「GeForce RTX 4060 Ti VENTUS 3X 8G OC」も発売する。なお、GeForce RTX 4060 Ti VENTUS 3X 8G OCについては、Amazon、Joshin Web、ツクモ、ドスパラ、ビックカメラでの店舗限定販売。

デュアルファン仕様の上位モデル「GeForce RTX 4060 Ti GAMING X 8G」。価格(税込)は74,800円

 GeForce RTX 4060 Ti GAMING X 8GはTORX FAN 5.0×2基搭載の“TWIN FROZR9”クーラー採用で最大ブーストクロックは2,640MHz。トリプルファンモデルと同様にRGB LEDによる発光機能を搭載する。VENTUSの2製品はTORX FAN 4.0を2基または3基搭載したクーラー採用で最大ブーストクロックはいずれも2,565MHz。

デュアルファン仕様の普及モデル「GeForce RTX 4060 Ti VENTUS 2X BLACK 8G OC」。価格(税込)は69,800円
特定店舗限定販売のトリプルファン仕様「GeForce RTX 4060 Ti VENTUS 3X 8G OC」。価格(税込)は74,800円

[制作協力:MSI]