特集、その他
「ハイエンドでも小型&アンテナ内蔵」、
Aterm開発者に聞く「11acルータでこだわりたいこと」
「他社には無理」、小型化技術と性能に圧倒的自信? text by 平澤 寿康
(2015/7/2 11:40)
無線LANルータは年々性能や機能が向上しているが、近年は海外メーカー製品も登場、メーカー間の競争もさらに激しくなっている。そうした中で、常に高い人気を誇っているのが、NECプラットフォームズが発売する無線LANルータ「Aterm」シリーズ。
そして、そのAtermシリーズの最新フラッグシップモデルであり、「1,733Mbps対応で最小サイズ」「初のMU-MIMO対応」をうたう「Aterm WG2600HP」が、5月22日より発売となった。
Aterm WG2600HPは、国内メーカー製無線LANルータとして初めて、11ac 4×4通信に対応し、最大1,733Mbpsの高速通信が可能となっている。また、ビームフォーミングやマルチユーザーMIMO(MU-MIMO)など、先進機能にも対応するなど、フラッグシップモデルらしい充実した機能が実現されている。
しかも、独自技術「μSRアンテナ」や「μEBG構造」に加えて、新たに実現された「新アンテナシステム」の採用で、4×4通信対応ながら従来モデル同様のコンパクトボディを継承するなど、競合製品とは一線を画す仕様が実現されている。
そこで、NECプラットフォームズで製品開発を担当している技術者の方々に、Aterm WG2600HPの特徴や開発秘話、製品へのこだわりなどをお伺いしてきた。
今回お話を伺ったのは、NECプラットフォームズで製品プロデュースを担当している、アクセスデバイス開発事業部 量販HGW事業グループ マネージャーの安藤利和氏、主に無線部の回路設計を担当している、アクセスデバイス開発事業部 HGW HW-PF開発グループ 主任の内山龍之氏、そして”ミスターアンテナ”ことアンテナのプロフェッショナルでアンテナ設計を担当している、アクセスデバイス開発事業部 HGW HW-PF開発グループ 主任の三浦健氏の3名だ。
1,733Mbps対応製品の投入は、なぜ「今」だったのか
――Atermシリーズ新製品として、1,733Mbps対応の「Aterm WG2600HP」が登場しましたが、なぜこのタイミングでの投入になったのでしょうか。
[安藤氏]より高機能、より高速な製品を他社に先駈けて市場に投入していくという目標がありまして、それに従って業界最速となる11ac 1,733Mbps対応製品を出していこうということでプロジェクトを進めてきました。結果、かなり苦労はしましたが、国内メーカー初という形で製品を投入できました。
――海外メーカー製品では、既に国内でも1,733Mbps対応製品が登場していますが、当初はそういった海外メーカー製品よりも先駈けて投入することを想定していたのでしょうか。
[安藤氏]当初の目指すところはそういう部分もありました。
ただ、弊社としてのこだわりの部分もあります。今回の製品は最上位モデルですので、リーズナブルというものではないのですが、ユーザー様が気軽に手を出せる金額で製品化する、ということも考えなければなりません。「ただ発売開始すればいい」というわけではありませんでしたので、今回は海外メーカーさんと同じタイミングは見送りました。
――現在、複数のメーカーから11ac 1,733Mbps対応製品が登場しています。ただ、PCやスマートフォンなどのクライアント機器では、1,733Mbps対応製品はありません。そういった状況下での1,733Mbps対応製品の投入に対する意味が、なかなかユーザーに伝わりにくいように思います。そういった部分はどのようにお考えでしょうか。
[安藤氏]確かに、開発を進める前にはそういう話もありました。実際、利用シーンはそう多くないかも知れません。ただ、既に4Kテレビなども普及し始めていますし、映像系では非常に大容量のデータを転送しなければならない場面が増えています。そういった場面で余裕を持たせるには、やはり転送速度が速い方が有利です。
また、Aterm WG2600HPでは「MU-MIMO」機能に対応しています。MU-MIMO対応デバイスでは、空いた帯域を別のデバイスが利用できるので、MU-MIMO対応デバイスが複数ある環境では、1,733Mbpsが無駄になることはありません。今後、スマートフォンでMU-MIMO機能に対応する製品が続々登場してくると思われますので、MU-MIMO対応という部分が今後は有利に働いていくと考えます。
また、距離が離れた場所での速度に余裕が生まれるというメリットもあります。
Aterm WG2600HPを2台用意して、1台を親機、もう1台を子機として使う場合、近距離では1,733Mbpsの速度をフルに引き出せますが、1階と3階の間で使う場合には、かなり速度が低下するでしょう。電波強度は法令で定められていますので変えられませんが、元々の速度に余裕があると、そういった場面でも速度が速くなります。
例えば、802.11nの場合でせいぜい1Mbps程度の速度しか得られないような場所でも、Aterm WG2600HPを利用すれば20Mbpsを超えるような速度が得られます。こういった部分も大きなメリットになるはずですし、より高速な製品は今後も期待されると思います。
「基板内蔵アンテナ」をさらに性能向上させる「追加のアンテナ」とは?
内蔵アンテナにこめられたもの
――Aterm WG2600HPでは、「新しいアンテナシステム」を採用しているということですが、どういった部分が従来から変わったのでしょうか。
[三浦氏]今回目指したものは、“安定した高速通信”というものでした。
従来、使用環境によってスループットが若干低下するという現象がありました。特に11ac環境でそういった現象が起こっていましたので、高速通信で使用するアンテナには、よりシビアな設計が必要と考えて採用したのが、今回の新アンテナシステムです。この新アンテナシステムは5GHz帯域に注力した設計となっています。
そして、その「安定した高速通信を実現するアンテナ」に求められるものを検討した結果、重要になってきたのがアンテナごとの”アイソレーション”です。
アイソレーションとは“分離”のことで、アンテナそれぞれがしっかり分離した状態になっていることを示します。アンテナ間のアイソレーションを確保する最も簡単な方法は、アンテナごとの距離を離すことです。しかし、それでは製品サイズが大きくなってしまいます。そこでまずは、アンテナ同士を直交させるよう、各々のアンテナを90度傾けて配置することにしました。
1本目のアンテナは基板の上辺、2本目のアンテナは基板左辺に搭載しました。そして3本目のアンテナとして、基板に垂直に挿した「ピンダイポールアンテナ」を新たに採用しています。これによって、3本のアンテナそれぞれが90度の角度に直交して、しっかりとアイソレーションが確保できました。
――“アイソレーションが確保できている”というのは、具体的にどういった状態のことを指すのですか。
[三浦氏]簡単に言うと、アンテナごとの信号をしっかり区別して取り出しやすい状態のことです。
空間では複数のアンテナの信号が混ざり合って飛んできますので、信号を受ける側では、それらを分離して処理する必要があります。そういった場合に、送信側のアンテナのアイソレーションが確保されていないと、どのアンテナから送信された信号かわかりにくい状態になってしまい、信号の分離処理が難しくなります。
しかし、「アイソレーションが確保されているアンテナ」から送信されている信号は、アンテナごとの信号を比較的簡単に見分けられるのです。そのため、信号の分離にかかる処理が軽減されますので、高速なスループットも得やすくなるのです。
ところで、今回は4本のアンテナを搭載する必要があります。3本のアンテナであれば、先ほどの状態で全てが直交するので、アイソレーションが確保できますが、4本目はどこに置いても他の3本と直交させることはできません。この部分の解決にかなり苦労しました。
――その4本目のアンテナはどのように実装したのですか。
[三浦氏]その解決策となったのが、今回新たに採用した「アイソレーションアンテナ」です。
アイソレーションアンテナは、2つのアンテナの間に配置することで、それぞれのアイソレーションを確保できるものとなっています。アイソレーションアンテナ自体は、アンテナとして利用している「μSRアンテナ」と全く同じものです。しかし、他のμSRアンテナと違って、回路としてはどこにも繋がっていません。
我々が採用しているμSRアンテナは回路部分は非常に小さいのですが、基板端部分にも電流が流れて、それが全体としてアンテナとして機能します。
ただ、μSRアンテナを横に並べて配置した場合に、基板端に双方の電流が流れて、一部が干渉してしまう場合があります。しかし、間にアイソレーションアンテナを置くと、そこで電流が遮断されるようになります。
もともとμSRアンテナは、特定周波数の電流を集める能力が高いという特徴があります。そのため、μSRアンテナと同じ性質のアイソレーションアンテナを置くことで、並べて配置したアンテナの電流を吸収し、そこから先にほとんど流れなくなります。
これによって、干渉が起きなくなり、アンテナのアイソレーションが確保できるというわけです。私の経験上、アイソレーションを確保するためのアンテナというものは、これまでなかったと思います。Aterm WG2600HPでは、直交を確保しているアンテナの間にもアイソレーションアンテナを配置し、アイソレーションを確保するようにしました。そのため、5GHz帯域だけで合計7本のアンテナを搭載していることになります。
――アイソレーションアンテナは、アイソレーションを確保するために用意されたものということで、いわゆる”アンテナ”とは働きが大きく異なるものと感じますが、なぜアンテナという名称になっているのでしょうか。
[三浦氏]そこは特にこだわりはないのですが、μSRアンテナと全く同じ形のものでしたので、アイソレーションアンテナと名付けました。ただ、使い方のイメージとしては、ノイズを低減する「μEBG構造」と同じようなものとなっています。
――アイソレーションアンテナがμSRアンテナの電流を吸収するということから、アンテナとしての性能を落とすことにつながるようにも感じますが。
[三浦氏]それぞれのμSRアンテナが十分な能力を発揮できるように、μSRアンテナとアイソレーションアンテナとに十分な間隔を開けて配置していますので、アイソレーションアンテナによってアンテナの性能が低下することはありません。
――では、μSRアンテナ自体は従来から変わっていないということでしょうか。
[三浦氏]はい、μSRアンテナは従来から変わっていません。新アンテナシステムでは、アイソレーションアンテナによって各アンテナのアイソレーションが確保できたことで、従来と比べて約20%のスループット向上を実現しています。
――ちなみに、アイソレーションアンテナのアイデアはどのように思いついて実現したのですか。
[三浦氏]2辺とピンダイポールアンテナを使った3アンテナの直交までは、自分の中で割と簡単にできたと思っています。しかし、アイソレーションアンテナのアイデアは、正直当初は全然思い浮かびません。アンテナ設計者のグループで集まってアイデア出しとかもやったのですが、いい案が出ませんでした。
半分あきらめムードもあったのですが、実は自宅で子供とお風呂に浸かっているときに、突然閃いたんです。最初は、μSRアンテナ自体が電流を集める能力が高いものなので、それをアンテナの間に置いたらどうなるんだろうと、ふと思っただけでした。そして、翌日出社して設計とシミュレーションを行ってみると、しっかりと効果が確認できたのです。それで、採用することになりました。
――その他に、アンテナの実装で苦労した部分はありますか。
[三浦氏]アンテナの数が増えたことと、内部の集積度が上がったことで、アンテナにデジタル回路からのノイズが飛び込んでくる割合が増えましたので、その対策に苦労しました。
対策としてはアンテナを外に出してしまうのが最も簡単なのですが、それは我々が目指すものとは異なります。ですので、部品の配置を見なおしたり、μEBGなどの我々が持っている独自技術やノウハウを駆使して、外部アンテナと同等以上のノイズ対策が施せました。
内蔵アンテナに絶大な自信、「他社はこのサイズを実現できない」
――他社の1,733Mbps対応製品は全て外付けアンテナを採用していますが、それについてはどうお考えでしょうか。
[安藤氏]アイソレーションを確保するという意味では、距離も取りやすいですし、外付けアンテナは非常に楽なんです。他社の製品の外付けアンテナは大きいですが、分解してみると、中の5GHz帯域のアンテナ部分はかなり小さいはずです。
おそらく、我々が今回採用したピンダイポールアンテナの長さとさほど変わらないでしょう。
内蔵アンテナは、どうしてもアイソレーションが確保しづらいので、実現は外付けアンテナよりはるかに難しいです。しかし我々は、ずっと内蔵アンテナにこだわってやってきていますので、蓄積された様々なノウハウがありますし、それをフル活用して実現しています。
[三浦氏]一番は、設計のしやすさから来ているものだと思います。ノイズ対策なども外付けにして本体を大きくした方がやりやすいでしょうし、設計も楽になると思います。
――そういう意味では、外付けアンテナを採用するのもメリットがあると言えそうですね。
[安藤氏]エンドユーザー様にはメリットは全くないと思います。
まず、外付けアンテナにすると、部品が増えることでコストがかかり、値段が高くなってしまいます。また、本体は大きくなりますので、置き場所の確保も難しくなります。その一方、製品開発は楽になると思います………少なくとも、私たちはそう思っています。
おそらく、他社はこのサイズでは内蔵アンテナが実現できないんだと思います。我々には、μSRアンテナやアイソレーションアンテナ、ノイズを低減するμEBG構造などがありますが、我々のこうしたアンテナ技術に追従できるものは現時点で他にないでしょう。
もし、他社が内蔵アンテナでやってきたとしても、我々は間違いなくそれよりも小型で実現できます。お金をかければできるかもしれませんが、一般ユーザーがお求めやすい価格帯の製品で採用する技術としては最高のものと考えています。
また、今後、アンテナが5×5、6×6と増えていき、より高速化する、といった動きがある場合、我々のアドバンテージがさらに増すことになると思っています。
――性能面でも内蔵アンテナで不利はないのでしょうか。
[安藤氏]それはありません。実際に計測した数字などが証明していますので、自信を持って言えます。Aterm WG2600HPでは、UDPで1,276Mbpsという速度が記録されていますが、これは業界最速です。
国内初のMU-MIMO対応について
――Aterm WG2600HPでは、国内初のMU-MIMO(マルチユーザーMIMO)機能に対応していますが、この機能を搭載することになったきっかけは何だったのでしょうか。
[安藤氏]無線LANチップのロードマップを見たり、様々なリサーチなどによって、今後MU-MIMO対応製品が増えていくと考えました。ですので、それを見据えて、このタイミングで対応させることにしました。
[内山氏]実際に、シャープさんのスマートフォンで、今年の夏モデルからMU-MIMOに対応した製品が登場しています。そういった意味で、ちょうどいいタイミングだったと思っています。
――MU-MIMOのメリットはどういった部分にあるとお考えでしょうか。
[内山氏]最近のご家庭では、スマートフォンやPC、タブレット、プリンターなど、非常に多くの製品が無線LANで繋がっています。
無線LANの通信は、一見すると同時に繋がってデータが流れているように感じますが、実際には時分割で通信が行われています。ですので、接続機器が多くなるほど機器ごとにデータの流れる時間が減って、速度が低下してしまいます。それに対してMU-MIMOでは複数の機器が同時に通信できますので、スループットが低下しないというメリットがあります。
例えば、従来までのシングルユーザーMIMO(SU-MIMO)の場合には、3台の機器が繋がっている場合には時分割で1台ずつ順番にデータを転送するので、子機側のスループットは1/3になってしまいます。しかし、Aterm WG2600HPでは、最大3台のMU-MIMO対応子機に対して同時に通信できる仕様となっていますので、SU-MIMOに比べてスループットが3倍向上します。
時分割の単位時間あたりに3台の子機に対して同時にデータを転送できますので、3台以上の子機が繋がっている場合でもSU-MIMO時に比べてスループットは3倍向上することになります。
――アンテナが4本あるので、感覚的には同時に4台の子機までデータを同時転送できるように感じますが。
[内山氏]MU-MIMOを利用する場合には、ビームフォーミングも同時に利用します。そして、4本あるアンテナのうち1本は、ビームフォーミングの制御用として利用します。ですので、アンテナは4本ありますが、同時に3台の子機まで同時に通信できるようになっています。
――子機側がアンテナ2本の2×2対応だった場合にはどうなりますか。
[内山氏]その場合には、2×2の子機1台と、1×1の子機1台が同時通信可能となります。3台同時というのは、1×1の子機が3台同時ということになります。つまり、MU-MIMOで同時通信できる組み合わせとしては、1×1対応子機が2台、1×1対応子機が3台、1×1対応子機1台と2×2対応子機1台、という3つのパターンとなります。
――MU-MIMOを実現するうえで苦労した部分はありますか。
[内山氏]送信する信号をどれだけ綺麗にするか、ということでMU-MIMOの性能が決まってきます。これには、無線特性の指標のようなものがあるのですが、それに合わせてチューニングするのにかなり苦労しました。この部分は、チップベンダと協力して、とことん突き詰めてチューニングしました。
――開発時期には、まだMU-MIMO対応子機が世の中に存在しなかったと思いますが、検証自体もかなり苦労したのではないですか。
[安藤氏]そこは、チップベンダと協力して、検証用の機材を使って行いました。また、開発中のAterm WG2600HPで、一方を子機に設定して検証するといったこともやりました。
――満足のいくスループットが出るまでには時間がかかりましたか。
[内山氏]そこも非常に苦労しました。スループットもそうですし、ターゲットとなる無線特性にたどり着くまでも、かなりの時間を要しました。
――現時点では、MU-MIMO対応の子機はほとんど普及していませんが、MU-MIMO非対応の子機を利用する場合でのメリットはありますか。
[内山氏]MU-MIMO自体は、子機側もMU-MIMOに対応していなければ同時通信は利用できません。ただ、複数使っている子機のうちいくつかがMU-MIMO対応に切り替わった場合には、MU-MIMO非対応子機にもメリットが出てきます。
例えば、家庭で6台の無線LAN子機を使っていて、そのうち3台をMU-MIMO対応子機に切り替えたとします。
すると、MU-MIMO対応の3台の子機は同時通信が可能となります。残りのMU-MIMO非対応子機は時分割での通信となりますが、6台全てが時分割で通信を行う場合に比べて、3台が同時通信できることで全体が利用するタイムスロットが減りますので、MU-MIMO非対応子機のスループットも向上することになります。そういう意味では、MU-MIMO対応子機が1台以下の場合にはメリットは出てきませんが、MU-MIMO対応子機が2台以上になればメリットが出てくることになります。
”熱対策”への対応に苦労
――1,733Mbps対応のAterm WG2600HPを開発する上で、苦労した部分はどういったところでしょうか。
[安藤氏]最も苦労した部分はアンテナですが、その次に苦労したのは熱ですね。高速化すればするほど消費電力も上がって、チップからの発熱が増えますので、その熱をどう逃がすか、という部分ですね。
――1,733Mbps対応に伴って、無線LANのチップや搭載CPUが強化されていると思いますが、従来の1300Mbps対応製品と比べて、どの程度発熱が増えているのでしょうか。
[安藤氏]定量的にどの程度増えたかというのは難しいですが、熱対策部品は従来の倍近くを搭載しています。だからといって、発熱が倍になっているというわけではないのですが、それぐらいの対策をしている、という感じですね。発熱対策を考えなければ、1300Mbps対応製品と同等のサイズも実現できたと思いますが、しっかりとした発熱対策を施したことで、ひとまわり大きくせざるを得ませんでした。
――本体サイズが大きくなったのは、アンテナ数が増えたことよりも、熱対策をしっかりと施したから、ということですね。
[安藤氏]アンテナの数が増えたことも、サイズが大きくなった理由の一つではありますが、熱対策という部分がやはり大きいですね。
――では、Aterm WG2600HPではどのような熱対策が施されているのでしょうか。
[安藤氏]まずは空気の対流です。本体を縦置き、横置きどちらで利用する場合でも、外気を取り込んで外に熱を出すという空気の流れができるように構造を分析して、本体の形状や基板サイズを決めました。また、放熱用のヒートシンクをどう置くか、という部分も分析しています。これによって、フルに稼働させた場合に、本体がまんべんなく熱くなるように熱を散らすとともに、空気の対流によってうまく放熱できるようになっています。
――基板の実装などでも苦労した部分はありますか。
[内山氏]Aterm WG2600HPはアンテナ4本で4×4対応となりますが、2.4GHz帯域と5GHz帯域それぞれに4本のアンテナが用意されますので、無線の回路としては合計で8回路が必要となります。それだけの無線回路を基板に搭載するとなると、かなりの実装面積が必要となってしまいます。ですので、小さな基板サイズに収まるように、無線の回路をどれだけ小さくしなければならないのか、という部分に苦労しました。通常ですと、1つの無線回路に対して1つのパワーアンプが必要になるのですが、今回は2つのパワーアンプを1つにまとめて小さくしたデバイスを採用して、実装面積を削減しています。
――無線回路は、それぞれが独立していないと相互が干渉して悪影響が出るのではないかという懸念もありますが、2つのパワーアンプを1つでまかなうというのは問題がなかったのでしょうか。
[内山氏]そこは大きな懸念で、実際にこのデバイスを使ってきちんとした性能が得られるのか心配しました。ただ、事前に検証した結果、問題ない性能が得られることがわかりましたので、今回はそれを採用しました。チューニングなどにもかなり苦労しましたが、十分満足のいく特性が出せたと思います。
――今回の製品でやり残したことなどはありますか。また、今後の意気込みを教えてください。
[安藤氏]開発者としては、上のものをどんどんやりたいです。ただ、やはり開発が趣味に走ってはいけないと思っています。市場の動向やお客様が何を求めているのかといったことを精査し、今後もいいものをどんどん出していこうと思っています。
――今回の製品は、ベストのタイミングで出せたとお思いでしょうか。
[安藤氏]はい、その通りです。価格、機能、ユーザー様の考え、それら全てが合致していることで、大いに話題になっているのだと思っています。
――本日はありがとうございました。