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HDDは用途で選ぶのが正解。高コスパ大容量モデル登場で大注目のSeagate「BarraCuda」、「IronWolf」の使いどころはココ!
大容量HDDを安全・確実に運用するためのポイントとは text by 石川 ひさよし
- 提供:
- Seagate
2025年6月18日 00:00
ますます高速化するNVMe SSDに対して、速度面では頭打ちになってきているHDDは近年やや地味なポジションになっている。しかし、2025年になると、少々状況が動き出す。Seagateから“個人ユーザーでも手が出しやすい価格”の16TBを超える製品が登場したのだ。個人で使用するPCだけでなく、NASの利用もさかんな昨今の状況を考えると、3万円台後半で16TBもの容量が得られるというインパクトは大きい。
とはいえ、“データを保管する場所”であるストレージは、安くて大容量ならそれでよい、というわけにはいかない。重要なデータを失うことにならないよう、安全・確実に、長期間利用できなければ意味がない。用途に合った仕様を備えたHDDを、正しい用途に利用することが非常に重要になるのだ。
一気に大容量化が進んだSeagateのHDDには、「BarraCuda」や「IronWolf」などの異なるシリーズが用意されているのだが、このシリーズの違いは、すなわち“用途”の違いを示している。今回はSeagate製HDDのシリーズを理解し、用途に合った最適なHDDを正しく選ぶことを改めて確認していきたい。
個人/クライアントPC向けにも24TBモデルが登場2025年に再び注目を集めるHDD
まずは、HDDの現在の立ち位置を確認しておこう。
HDDのメリットはなんと言っても、1ドライブの容量が大きく、容量あたりのコストが安いことが挙げられる。大量のデータを保管しておくストレージとして、容量8TBモデルを想定して比較をすると、HDDとSSDの価格差はおおむね5倍にもなる。速度面ではSSDに大きなアドバンテージがある現状においても、この容量に対する価格の安さは圧倒的なメリットだ。
さらにこの2025年には、コンシューマー向け/クライアントPC用のHDDである「BarraCuda」に16TB、20TB、24TBモデルが追加され、HDDの容量アドバンテージがさらに高まった。1台あたりの容量はボリュームゾーンの8TBモデルの倍以上、容量単価は8TBモデルと同水準かそれ以下と、効率のよさは大幅に上昇。大容量のバックアップに使う、分散したデータ用HDDを1台に集約する、など、活躍するシーンはさまざま。大容量データを管理する環境の強化、見直しに最適な製品と言える。
一方で、速度面ではSSDに軍配が上がるのはご存じのとおりで、しばらくの間状況に大きな動きはない。SSDの転送速度(シーケンシャルアクセス)はSATA時代で600MB/sに達し、PCI Express Gen5対応製品の登場により10GB/sを超え15GB/sに迫るまでに高速化した。一方のHDDは、現在でもシーケンシャルアクセスで200MB/s前後にとどまっており、ランダムアクセスはSSDとは比較にならない。
このほか、HDDの特徴として理解しておきたいのが「機械的な可動部品」があること。HDD内部には、ディスク(プラッタ)やスピンドルモーター、データを読み書きする磁気ヘッド、磁気ヘッドを動かすアームをはじめとする駆動パーツ群など、大小さまざまな可動部品で構成されている。半導体メモリにデータを記録するSSDとの大きな違いだ。非常に精密な可動部品なだけに、衝撃や振動に弱く、経年劣化の可能性もある。また、ほかのPCパーツと同様に、HDDも熱に強いわけではない。ほとんどの製品が“稼働温度域”が提示されており、これを逸脱して使用すれば故障のリスクが高まる。
衝撃や振動、熱への備えは“HDD製品ごとに決められた用途”とも密接に関わってくるため特に意識すべきポイントとなる。次項でさらに掘り下げていく。
なぜHDDを別用途に使うのが高リスクなのかスペック表から読み解こう
今回、HDDの“用途”や“選び方”を改めて見直そうと考えたきっかけは、前述した個人/クライアントPC用途向けのBarraCudaに16/20/24TBモデルが発売されたことだ。
最大で24TBという大容量HDDは初というわけではなく、NAS用途、エンタープライズ用途向けの製品では以前から存在していた。Seagateで言えば、IronWolf/IronWolf ProやExos、SkyHawk AIがこれにあたる。容量、信頼性ともに申し分ない製品だが、価格的にはややお高め。たとえば、IronWolf Proの24TBモデルだと9万円弱。BarraCuda 24TBモデルはこの半額に迫る5万円弱だ。
これだけの価格的なインパクトがあると、ユーザーが自由にHDDを組み込めるいわゆる“NASキット”に、新たに登場した16~24TBのBarraCudaを組み込んだら、激安で大容量のNASが作れるんじゃないか、と考える人が出てきても不思議ではない。実際、AKIBA PC Hotline!にニュースが掲載された際には、SNSでそのようなコメントが散見された。
しかし、これは避けるべき選択肢だ。BarraCudaはあくまでクライアントPC向けの製品であり、NASに組み込んで運用することを前提としていないからだ。これのリスクについてスペック表から読み解こう。
以降の表は、BarraCudaとIronWolfの系統のHDDの主要なスペックを、各製品のデータシートから抽出したものだ。各製品とも容量によって若干仕様が異なる点もあるが、ここではそれぞれ最大容量を載せている(参考として加えたBarraCuda 8TBを除く)。横並びにまとめてみると、それぞれの共通点、あるいは明確な違いが見えてくる。
最初は回転数やキャッシュといったパフォーマンス面と重量といったところを見たい。こうして見ると意外にも同じスペックというのが存在しない。回転数やキャッシュ容量が同じでも転送速度が異なり重量にも違いがある。
ただし、BarraCuda 24TBはスペック上では転送速度が最大190MB/sだが、手元の検証環境での実測値は256MB/sだった。このあたりはシステムごとの性能にも左右されるが、メーカー公称スペックに対して上下のブレもあると理解したい。
続いて設計や機能の仕様を見比べてみよう。
「ドライブ設計」という項目は、HDD内部にヘリウムを封入しているかどうかが記載される。BarraCudaのデータシートにはこの項目自体がないのだが、別資料によると16TB以上のモデルはヘリウム封入とのこと。一般的な空気より密度の低いヘリウムで満たすことで、摩擦・振動を抑えて消費電力を低減し、結果として高容量化の実現が可能になる。16TB以上の大容量HDDには欠かせない技術だ。
記録技術の項目にある「CMR(Conventional Magnetic Recording)」と「SMR(Shingled Magnetic Recording)」は、データの記録方式の違い。パフォーマンス面やNASでの利用時に影響があるとされているため、気にする人も少なくないだろう。一般的に、データの記録密度を上げやすく安価なのは比較的新しい記録方式であるSMR、NAS用途には従来型のCMRのほうが適しているとされているが、現在はCMRの採用が優勢。BarraCuda 24TB、IronWolf 16TB、IronWolf Pro 24TBはいずれもCMRだ。
ここまで仕様の違いはさほど見当たらなかったが、ようやく重要なポイントが出てくる。「RVセンサー」(回転振動センサー)の有無だ。RVセンサーはIronWolfおよびIronWolf Proに搭載される振動対策の機能だ。
プラッタという円盤(磁気ディスク)を超高速で回転させるHDDは、動作時に微細な振動が発生する。微細ではあってもこの振動はプラッタからデータを読み出すヘッドにも少なからず影響を及ぼす。
単体のHDDをPCケースのシャドウベイに固定して運用している分には、この程度の振動がHDDに悪影響を及ぼすことはほとんどないが、NASのように限られたスペースの筐体内にHDDを複数台搭載、環境によってはその台数がどんどん多くなっていくような場合には、振動の影響は無視しがたいものになる可能性がある。最悪の場合、振動によってヘッドが正しい読み書き位置からズレる(読み書きのエラー)、物理的にヘッドがプラッタに接触してしまう、といったことも生じかねない。このとき、NAS用HDDに搭載されているRVセンサーは、危険な振動を検知し、ファームウェアを介してヘッド位置の補正、転送速度を安定させたり障害を未然に防いだりしてくれる。複数台HDDの利用が前提となるRAIDを使用したNASを構築する際には、必須級の機能と言っていいだろう。
RVセンサーは基本的にNAS向けHDD(および監視カメラ向けやサーバー向け製品)で搭載される機能だが、要は「複数台のHDDを搭載するシステムで使う」製品で必要とされるものだ。つまり、たとえ個人向けのデスクトップPCでも、複数台のHDDを搭載してヘビーに使用する場合は「RVセンサーを搭載していたほうが安心」と言える。
ただ、16~24TBというBarraCudaの大容量モデルが現実的な価格で入手できる現状では、複数台のHDDを1台のPCに搭載して容量を稼ぐよりも、1台で大容量のHDDにまとめるのがコスト的には効率がよいだろう。また、バックアップやデータの保護を考慮するなら、1台のPCで完結しようとするよりも、NASやクラウドを活用したほうがより安心・確実だ。一方で、1台のPCに複数のHDDを搭載する必要性がある用途(巨大なデータを取り扱うクリエイター向けのハイパフォーマンスな環境など)では、RAID利用やHDDそのものの耐久性も考慮してIronWolf/IronWolf Proを採用するのもアリだろう。
また、この表には含まれていないが、高度な監視・診断機能である「IHM(IronWolf Health Management)」※が利用できるのもIronWolf/IronWolf Proの特徴。対応するNAS製品から利用できる機能で、デスクトップ向けのBarraCudaにはない特徴のひとつだ。
※IHMは対応NAS製品で利用可能
最後は“信頼性”に関する仕様のまとめだ。この項目は、「このシリーズには記載があるのにこっちのシリーズにはない」というものも若干出てくる。これは用途やユーザー層(個人or企業、小規模or大規模、など)の違いにより、評価の内容や目安が異なったりスペックとして重要視されるポイントが違っていたりするためだ。細かく難しい内容の項目も多いが、ここでは特に重要なところをチェックしていく。
まず、年間通電時間を見てみよう。BarraCudaは2,400時間/年(ウィークデー5日間×8時間プラスアルファ)、IronWolf/IronWolf Proは8,760時間/年(365日×24時間)と、決定的に違っている。ちなみに、年間の“アクセス時間”ではなく、年間の“通電時間”であることも誤解しないほうがよいだろう。
Seagateが定義する耐久性の指標のひとつ、作業負荷率制限(WRL、故障率が上昇する年間作業負荷の目安)も確認しておこう。まずBarraCudaは24TBモデルが年間120TBで、8TBは年間55TB。数字だけ見ると大きく伸びているのだが、HDDの容量自体も3倍に増えている点には注意が必要だ。
一方NAS向け製品を見てみると、IronWolfは年間180TB、IronWolf Proは実に年間550TBに達している。いずれもBarraCudaシリーズを大きく上回っており、年間通電時間を含めると、仕様上・設計上の耐久性に大きな違いがあることが伺える。
回復不能読み出しエラー率にも大きな差が見られ、BarraCudaは10E14(指数表記。10の14乗)あたり1回、IronWolf/IronWolf Proは10E15(同じく10の15乗)あたり1回とされている。ぱっと見分かりにくいが、100兆分の1、1,000兆分の1という非常に大きな違いだ。とはいえ、いずれにしても途方もない数字ではある。
保証の面にも重要なポイントが見られる。BarraCudaは2年、IronWolfが3年、IronWolf Proが5年と保証期間が違っているのだが、これに加えてIronWolfとIronWolf Proには、3年間の無料データ復旧サービス(成功率は95%に達するとのこと)も付属する。BarraCudaに比べると価格が高いIronWolf/IronWolf Proだが、この保証の手厚さが反映された価格と考えれば、妥当なもの(あるいはオトク)と言えるだろう。前述のとおり、安全性や耐久性に優れているわけだが、これでもいざということが起きてしまう可能性は完全にゼロではない。それでも、重要なデータが保管されているNASのHDDを低コストで取り戻せる可能性が高い、というのはNAS向けHDDの持つ大きなメリットだろう。
なお、Seagate限定保証の詳細もこの機会に一読して理解しておきたい。特に「保証対象となる条件」はしっかりと正しく把握しておくべきだ。限定保証は基本的にユーザー側に過失がある場合は適用されない。今回の例で言うと、そもそもHDDメーカーはデスクトップ向けHDDをNASに搭載することを想定していない。同様にNAS側もNAS向けHDDを使用することを大前提としているだろう。デスクトップ向けHDDにはIHMのような診断・監視機能もないため、総合的に考えると、やはりNASでの利用は避けるべきだ。
用途に最適化されたHDDを正しく選ぶことがデータを失うリスクを回避する第一歩
同じ24TBモデル同士で比較すると、BarraCudaとIronWolf Proは、外観はよく似ているし重量もほぼ同じで、単純な転送速度も短時間のベンチマークテストレベルではそこまで大差は付いていない。個人使用のデスクトップPCで使うのに比べると稼働時間が長く負荷も高いNASに組み込んでHDDを使用するなら、NAS向けにチューンされたファームウェアやRVセンサー、NAS用監視ツールなど、「NASを安全確実に使うための機能」がきっちり揃っていてしっかり使えることが重要になる。
正直なところ、個人ユーザーがHDDを購入し、そのHDDをどのように使うかを制限する術はないし、16~24TBのBarraCudaのコストパフォーマンスの高さは魅力的だ。しかし、大切なデータを安全かつ確実に保存するために、NASであったりRAIDであったりを運用するわけだから、万全の運用をしなくては導入の意味を失いかねない。にもかかわらず、コストだけを見てNASに不向きな仕様のHDDを使うようなことがあったら、それこそ本末転倒だ。
せっかくNASを導入するのであれば、正しくNAS用HDDを使用してリスクの最小化を図るべきで、NAS用HDDであればクライアントPC向けHDDよりも長期の保証、さらにデータ復旧サービスなどで安心感といったメリットも得られる。BarraCudaにはBarraCudaの、IronWolfにはIronWolfの役割が明確に設定されていることを改めて知っておいてほしい。