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もはや芸術作品?!MSIの「浮世絵ノートPC」は伝統工芸品と同じ技法を使ったこだわりの一台

(COMPUTEX AKIBA出張所 / MSI編)

MSIのブースで注目を集めていた「浮世絵ノートPC」

 PC/IT関連の見本市「COMPUTEX TAIPEI 2025」が、5月20日~5月23日の日程で、台湾・台北市にて開催された。

 MSIのブースには、PCパーツをはじめノートPCやゲーミングデバイスなどの最新製品が数多く並んでいたが、その中でも特に注目を集めていたのが、葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」を天板に印刷したノートPC「Prestige 13 AI+ Ukiyo-e Edition」。ただ浮世絵を印刷したものではなく、石川県で1946年に創業した山中漆器のメーカー「岡田や漆器」の職人が1点1点仕上げる芸術性の高いこだわりの一台。

 会場で岡田や漆器の代表取締役 岡田 禎介氏にインタビューする機会を得られたので、MSIと岡田や漆器がコラボレーションするきっかけや、PCに伝統工芸品と同じ技法を用いて印刷するこだわり、印刷にあたり困難だった部分などを聞いてみた。

COMPUTEXのMSIブースでは浮世絵をプリントしたノートPC以外にも多数の新製品が展示されていた

蒔絵の宜保を用い職人の手作業で1点ずつ作られるこだわりの“浮世絵”ノートPC耐久性を色の再現性を高めるために何十パターンもの塗料の組み合わせをテスト

――コラボレーションPCを制作することになったきっかけを教えてください。

[岡田氏]台湾で行われた日本の伝統工芸を紹介する展覧会に出展したことがあったのですが、その際にMSIの担当の方との出会いがあり、そこがスタートになります。弊社の製品を気に入っていただけて、コラボレーションの打診をいただきました。

株式会社 岡田や漆器 代表取締役 岡田 禎介氏
Prestige 13 AI+ Ukiyo-e Editionのほかにも、イベント展示用の特別なモデルも並べられていた

――今回展示されているPCがほぼ市販品になる完成系だと思うのですが、制作にはどれくらいの期間がかかったのでしょうか。また、葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」が選ばれた理由も教えてください。

[岡田氏]お話をいただいてから一年半くらいの時間をかけて制作しています。試行錯誤した面も多々あり、時間はかかりましたね。

デザインに関しては複数候補あったのですが、弊社で神奈川沖浪裏を題材にした製品があり、それをMSIの方が気に入っていただいたのと、浮世絵の中でも傑作なので、こちらからもお勧めしたことから今回のデザインに決まりました。海外でも評価が高い作品ですが、日本でも非常に人気の高い1枚ですよね。

――展示機を見るとかなり精巧に浮世絵が印刷されているように見えるのですが、どのような方法で印刷されているのでしょうか

[岡田氏]日本の伝統工芸品の技法をベースに、最終的に職人が手作業で仕上げています。1点1点職人が制作しているので、芸術品に近い感じだと思いますね。

ベース部分はシルクスクリーンを使い、その後漆塗りの漆器と同じく蒔絵の技法を使って仕上げています。塗料の盛り具合も位置や工程ごとに調整する必要があるのですが、機械では再現が難しく、職人が経験と感覚に基づいて行っています。厚みを持たせた方が良い部分や、スッと流した感じに薄くした方が良い部分など、職人の手の感覚が必要になってくる面もあり、この辺りはこだわって制作していますね。蒔絵は金箔紛を「蒔く」ことで文様や文字を表現する技法です。今回は大量生産するPCではありますが、伝統工芸品と同じく1点1点職人が金箔紛を蒔いて仕上げています。

ブースでは製作工程が動画で紹介されていた

文字などは金箔紛を蒔いて文様や文字を表現する蒔絵の技法がとられ、1点1点手作業で仕上げられている

――PCに印刷を施すにあたり、何か苦労した部分などはありますか。また、試作などもかなりの回数行われたのでしょうか。

[岡田氏]試作に関してはそれこそ何十回も行いました。PCの素材に対応できる塗料を探し、それらを用いて色の再現性を高めるなど、サンプルもかなりの数を制作しましたよ。塗料は温度をどの程度加えるかで色味が変わったりもするので、検証作業も膨大になり巻いた。

PCと伝統工芸品では利用シーンが大きく異なり、耐久性に対しての対策が一番苦労したと言えるかもしれません。ノートPCはカバンに入れて持ち運んだり、様々なものとこすれたり、圧力がかかったりすることもあります。伝統工芸品はそこまで過酷な環境で使用されることはありませんが、ノートPCは毎日使う生活必需品に近いものなので、ハードに使われることも想定しなくてはなりません。

印刷を施した後にクリアの保護層を塗布するのですが、クリア塗装をすることで色味が変わって見えてしまうので、クリア塗装をした際に元の浮世絵に近い色味になる塗料を探し直すといったことも多々ありました。また、塗料を変えると今度は力がかかった際にはがれやすくなることもあるので、耐久性の高い塗料で合うものを探したり、保護用のクリア塗料も種類によってノートPCのような用途に適したものと適していないものがあったり、色への影響が異なるので適したものを探したりと、何十パターンも組み合わせを試して強度と色の再現性がベストとなるパターンを探りました。このあたりの試行錯誤は本当に苦労しましたね。

会場には印刷の工程も紹介されていた

作業現場をイメージした展示スペースも

海外のユーザーはもちろん、日本のユーザーにも手に取ってもらいたい1台夏以降にMSI公式ストアで限定販売を予定

――日本の文化をアピールするといった面も強いモデルだと思いますが、どのようなユーザーにお勧めでしょうか

[岡田氏]葛飾北斎の絵は世界に通用するものなので、文化的な物を好む世界中のユーザーに届けたいですね。神奈川沖浪裏は、日本の紙幣デザインにも採用されており、日本人にとっても特別な物だと思います。そう言った面でも日本人のユーザーの方にも手にとってもらいたいですね。

日本の文化のアピールはもちろん、日常生活やビジネスシーンにもこういった芸術的なものを取り入れてもらうきっかけなったら嬉しいですね。

ベースモデルはCore Ultra 9 288Vを搭載する13.3インチのPrestige 13 AI+がベースになっている

天板は光の当たり具合で黒にも濃い藍色にも見える深みのある色合い、キーボードも光沢のある特殊なものになっていた

専用デザインのケースやマウス、マウスパッドなどが付属する

――製品の発売時期や販売方法などは決まっているのでしょうか。また、MSIとしてこの製品に込めたメッセージなどがあれば教えてください。

[MSI]製品が美しくかなり良い仕上がりとなったことを嬉しく思っています。発売は夏以降を予定しており、全世界で限定販売を計画しています。日本でもMSI公式ストアでの販売を検討しており、詳細が決まり次第続報をお届けします。

MSIは製品開発にこだわりをもっており、日本の職人精神の文化に共感できる部分が多々あります。アートや文化へもリスペクトの精神があり、製品にアートや文化的な要素を取り込んでいけたらとも考えており、今回浮世絵を題材に選んだのもそうした取り組みの一環になります。

MSIはただ製品を開発して販売しているのではなく、受け取るユーザーのことを考え、開発者がこだわりを持って取り組んでいます。そうしたことがこのモデルを通して少しでも多くの人に伝われば嬉しいですね。