あなたのPC大改造計画

女子高放送部に快適な動画編集用PCを!
快適環境で「目指せ全国!」(前編)

“女子高あるある”で決まるPC名? text by 加藤勝明

9回目の依頼者は物理と生物を教えておられるY先生。9年前から放送部の顧問をされているという。廊下で生徒さんとすれ違う際に交わす会話も非常にスマート。終始挙動不審になりがちだった取材陣とは対照的だった……。なお、予めお断りしておくが、当記事には女子高生の写真はないので念のため。

 「最新ゲームを楽しめるようにしたい」とか、「パーツの力不足が感じられた」とか、PCをパワーアップする理由は人それぞれだが、その「パワーアップしたいという気持ち」をASUSとAKIBA PC Hotline! 編集部がバックアップするのが「あなたのPC大改造計画」企画。

 だが、9回目の応募者はこれまでとはやや毛色が違う。もっと正確に言うなら応募者に“切実な”事情があるという。

あなたのPC大改造計画:記事一覧
第1回:「3万円で組んだスタイリッシュPC」は
「快適RAW現像+最新ゲームPC」になるか?
[前編後編]
第2回:「奥さんのストレス軽減用PC」は
ちゃんと安定して動くのか?
[前編後編]
第3回:TITAN XのSLIで最強ゲームPCに!
ただでさえハイスペックなPCを
「フル水冷」のモンスターマシンへ強化
[前編後編道のり編]
第4回:Skylake + Win 10なPCはこう作る!
7万円で強化する「多趣味人のためのPC」
[前編後編]
第5回:6年前のCore 2 Duoマシンを今風な快速マシンに大改造
[前編後編]
第6回:「マインクラフトの実況PC」を快適に!
現役高校生の悲願は3万円+αで達成できるか?
[前編後編]
第7回:「ドラクエXをAPUで快適に!
ゲーム機を超える快適さを目指せ!!
[前編後編]
第8回:勉強部屋でひっそりと使っていたPCを
ゲーミング&静音仕様に大改造!!
[前編後編]
第9回:女子高放送部に快適な動画編集用PCを!
快適環境で「目指せ全国!」

[前編後編]

 今回の応募者は神奈川県にあるとある女子高で教鞭を執られているY先生。

 Y先生が顧問をされている放送部で使っているPCがパワー不足で、部活動に支障が出ているという。

 放送部といえば「お昼の放送」や「体育祭のアナウンス」程度の認識しかない取材陣にとって、なぜPCパワーが部活動と結びつくのかさっぱり分からないが、Y先生の職場にお邪魔させて頂いた。

放送部とPCの関係とは?

放送部の部室。壁一面にPCとディスプレイが並ぶ、おもったよりIT濃度の高い部室だった

 ということで、取材にお伺いした取材陣だが、すでに下校時刻を過ぎていたため校内は人影もまばら。

 それでも構内の清浄な空気に肺を焼かれる気持ちで放送部の部室にお邪魔すると、そこにあったのは様々なPCたち。そのほとんどがY先生の自作したマシンだ。Y先生が自分用のPCを新しくすると、その一部がお下がりとして部室にやってくる。これに部費で周辺機器等を揃えて今の体制になったという。

 放送部でPC、それもスペック不足で困っているというシチュエーションが結びつかなかったが、ヒアリングを進める中で“コンテスト”というキーワードが出てきた。つまり高校の放送部がアナウンスや映像作品を出品し、その優劣を競う大会があり、その編集作業で使うPCのパワーアップが必須、ということらしい。

 実際、神奈川県では“神奈川県高等学校放送アンデパンダン大会”が毎年開催され、来年3月で既に通算50回を数える伝統的な大会となっている。さらに全国レベルでは“NHK杯全国放送コンテスト”も存在する。

部室の片隅には、かつての先輩たちが獲得したトロフィーが並んでいた。3年で人が完全に入れ替わる環境だけに、技術や文化継承に失敗するリスクも高いが、PCでそれを食い止める一助になれれば幸いだ

 もちろんY先生の放送部も出場しているのだが、結果はあまり芳しくない。

 十数年以上前はコンテストで多数の賞を勝ち取った伝統ある部だったが、部員数減少等で技術や設備がほぼ失われてしまい、現在の放送部はY先生がほぼゼロから立ち上げたものだという。

 放送部の今後の活動として、2016年3月の大会に出ることは確定しているが、提出作品を作るPCの性能が問題だ。課題の提出媒体は光学メディア限定になっており、実際Y先生の放送部でもPCを使って編集を行っている。だが現在の機材ではパワーが足りず、特に動画編集では「ちょっとワイプを乗せる」のもままならないという。

 限られた部活の活動時間を効率良く使わざるを得ない以上、時間のかかる処理は敬遠される……という悪循環が起こっているのだろう。

今回の依頼は神奈川県で行われる高校放送部のコンテストに出場する作品を作るためでもある。そのため編集アプリ等は旧環境のものをそのまま引き継ぐが、確かにパワーアップしたと感じられるものに仕上げなくては!
全国規模の放送コンテストである「NHK杯全国放送コンテスト」。入賞作品がストリーミングで観賞できるが、映像の入賞作ともなると単なるカット編集でなく、テロップの入れ方やトランジションの入れ方もかなり工夫している
放送部員が作成したドラマCD的なもののジャケット(残念ながら本編は見せて頂けなかった)
その他部室に飾ってあった掲示物など。映像作品を作る際の取材ノウハウ等から今風のイラストまでバラエティーに富んでいる
画面の隅にちょっと別の映像を乗せるだけでも、今の編集用PCにとっては大きな負荷である……とホワイトボードを使って説明するY先生

 つまり今回の話はこうだ……。

 とある女子高の放送部は部員数の減少や、世代の断絶で技術の継承が不完全であった。映像作品でコンテスト上位を狙いたくとも、Y先生のお古のPCでは効果的な演出をするのもひと苦労。

 他校に演出面で差をつけられる中、出会ったのがこの「あなたのPC大改造計画」だ。PCの強化で地力を増した放送部は新たな一歩を踏み出すことが出来るか?……我々改造請負側の責任もこれまでになく重い。

処理性能と安心感を重視する

 そろそろ本題に入ろう。

 現在放送部にあるPCの中で最も高性能なのはY先生が2010年に組んだPhenom X6 1055Tを搭載した6コアPCだ。今年放送部の機材に編入され、動画編集用として活用を始めたものの、性能不足で活用が進んでいない状態。

 早速どういった環境でどのような作品を作っているか見せてもらおうとしたが、現在このPCにはOS以外何も入っていないという。いまの部室へ移動する際の扱いが悪く、内蔵されていたHDDが故障してしまい、データが全て喪失した状態だった。

動画編集用のメインとして「使っていた」PC。OSは入っていたが、それ以外のデータは一切消えた状態
内部も見せて頂くと、故障した内蔵HDDは取り外されていた
旧動画編集用PCは環境構築がまだということなので実演不可。とりあえずエクスペリエンス・インデックスを見せて頂いた。CPUやストレージ速度は良い評価だが、搭載GPUの世代が古いためグラフィックスの評価が低め

【旧動画編集用PC】

■スペック
CPU:AMD Phenom X6 1055T(6C6T、2.8GHz)
マザー:ASUS M4A88TV-B EVO/USB3(AMD 880G+SB850)
メモリ:DDR3-1333 16GB(4GB×4)
グラフィック:AMD Radeon HD 5670
ストレージ:Intel SSDSA2MH080G2R5(SSD 80GB、SATA2.0)+Samsung HD154UI(HDD ※故障のため取り外し済み)
電源:ENERMAX EPG500AWT(500W、80PLUS Gold)
PCケース:Antec SIX HUNDRED SE

■主な用途
・動画編集

 このあたりからY先生の要望が次々と言葉となって出てくる。「Phenom X6ではパワー不足なのでもっとパワーのある6コアCPUに乗り換える」「OSやデータは全て耐久性の高いSSDに入れておきたい」というのが新PCに求める要素らしい。

 すでに3月のコンテストに向けて動き出している関係上、取材前よりY先生がある程度目星を付けたパーツ調達が始まっていた。我々の仕事はどれを変え、何を加えるかを考えることだ。

 なお、今回はこれまでの大改造企画とは異なり、費用は部の予算からPC用として160,000円計上されている。そのため今回は既存PCの改造では無く、新規に完成品PCを1台用意することとなっている。本企画の趣旨からはズレてしまったが、その点はご容赦頂きたい。

 取材時点での購入済みパーツは以下の通りとなる。

【購入済みパーツ】

■スペック
CPU:Intel Core i7-5820K(6C12T、3.3GHz、最大3.6GHz)
メモリ:Crucial CT4K8G4DFD8213(DDR4-2133 8GB×4)
ストレージ:SanDisk SDSSDXP480G-J25(SSD 480GB)
電源:CoolerMaster RS750-AMAAG1-JP(750W、80PLUS Gold)
PCケース:Antec NINEHUNDRED TWO V3

部室の片隅に積まれたパーツの一部

 Y先生自身のパーツ選びは確かだ。あとはX99マザーと適当なビデオカードを準備すればそれで1台組めるが、全体で160,000円という枠内ではシンプルなX99マザーと低価格ビデオカードが限界だろう。

 SSDは10年保証のSanDisk製SSD「Extreme Pro」が手配済みだった。PC移動時の扱いが荒かったせいでデータが消失したという経験から、高耐久なSSDを選びたいというY先生の心情は痛いほどよく分かるが、Extreme ProのTBW(Terabytes Written)は80TB以上と曖昧で、これは特別頑丈であることを保証する値ではない。少々無茶な使い方をしてもしっかりデータが保存されることを期待するなら、インテルの「SSD730」や「SSD750」といったデータセンター向けSSDのコンシューマー版がベストな解ではなかろうか? と提案した。

 しかしそれでもストレージがSSDだけ、というのは非常に危うい。この点についての懸念を伝えたところ、今回とは別の予算で部にバックアップ用のストレージを確保する予定ありとのことなのでひとまず安心だ。

部室にある“五十鈴”、“恭三郎”と名付けられたPC。どちらもコンテストに提出する課題の制作に使われている

 このほかにPCケースも静音と冷却力のバランスがとれた今どきのデザインのものを提案したのだが、Y先生はAntecの「NINEHUNDRED TWO-V3」を使いたいという。機能やデザインにこだわりがあるのだろうか?

[加藤]このNINEHUNDRED TWO V3にこだわるのは、安定動作のためにCPUの冷却力を重視したい、ということでしょうか?

[Y先生]それもありますが、今まで使っていたSIX HUNDRED SEと同様に青色LED付きファンが多数搭載されているからです。

[加藤]見た目重視、ということでしょうか?

[Y先生]そうではなく、青く光る→Blue Light→略してBL→同じBLだからBL先輩&後輩になるよね! という、いわゆる“女子高あるある”でございます。

 日本語のはずなのにそのロジックがちっとも理解できないのはなぜだろう? だが周囲のPCをよく観察すると、ケースに“恭三郎”や“五十鈴”といった名札が貼られていた。ああなるほど……。ならばとびきりのイケメンBL後輩を用意してやろうではないか!

恭三郎は“Pentium inside”ステッカーやデザインから分かる通り、古参自作erならノスタルジーを感じてしまうPCケースに入っていた。あまりに使い込みすぎて電源ボタンが壊れ、今では電源を入れるのに細い棒状の物体を差し入れて直接マイクロスイッチを押す必要があるそうだ
恭三郎にも部活動で使うアプリは一応インストールされていた。見せていただいたところ、動画編集には「Premiere Elements 7」、音声編集には「Audacity」や「RadioLine Free」等を使っているようだ。その他イラスト作成用等を含めると、多数のアプリがインストールされている感じだ

新PCのコンセプトが決まった!

 次回のコンテストまで時間がないこともあり、今回もヒアリングしたその場でパーツ構成の軌道修正を試み、最終的なコンセプトを詰めていった。

【今回の方針】

【目標】
■凝った動画編集作業にも負けないハイパワーな動画編集用PCを作る
■システムドライブには耐久性の高いSSDを使用する
■予算は160,000円

▼CPU&メモリ(購入済み)
すでに手配済みのCore i7-5820KとDDR4メモリはPhenom II X6からすると性能的に相当なジャンプアップとなるため、このまま利用する。どうせHaswell-Eへ移行するならCore i7-5930Kの方が物理コア数もクロックも上なので良さそうに思えるが、SSD等にも予算を割り振る必要があるため今回は見送った。

▼マザー
CPUに合わせマザーもX99ベースのものを選択することになるが、当初Y先生はX99のスタンダードなものを想定していた。しかしヒアリングを進めていくと、女子高とはいえハードの扱いは非常に苛烈。許される範囲の中で耐久性の高いものを調達する必要があるだろう。マザーが高耐久品ならばCPUを弱めにOCして常用してもらう、といった運用も検討できるのだ。

▼グラフィック
今回最も悩ましいのはビデオカードの選択だ。高度な動画編集アプリ(Premiere Pro CCなど)ではGPUの演算支援も得られるため、ある程度強力なビデオカードを入れるべきだが、現在の放送部の動画編集ではGPUを活用できるチャンスはない。ただこれまで使用していたHD 5670前提にしてしまうと、今後編集環境が進化した場合そこが弱点となってしまう。ハイエンドは予算的に無理なので、ミドルレンジGPUを搭載したビデオカードを選ぶことになる。

▼ストレージ
高耐久なSSDの定義はいろいろだが、やはりデータセンター向け製品を民生用に転用したIntel製SSD(SSD730またはSSD750)が安心感ではダントツではなかろうか。NVMeにして速度を重視するか、SATAで容量とコストパフォーマンスを重視するかの2通りの選択があるが、実に悩ましい問題だ。

 予算は160,000円と潤沢に用意されているが、キーになる既にパーツは決まっており、しかも単価が高いものが多い。ストレージ構成は超高速なNVMe SSD単発&別予算でHDD確保や、比較的安価なSATA SSDでHDDをミラーリング構成にする等複数の提案を行ったが、どれも一長一短がある。最終的に何を決断したかはぜひ後編を楽しみにして頂きたい。請うご期待だ。

後編はこちら

[制作協力:ASUS]

(加藤 勝明)