週刊3Dプリンタニュース

国土地理院「3D地図」の裏側は?
(3D-GAN 2014春のセミナーレポート・前編)

~オートデスクが3Dプリンタ市場に本格参入~

 今回の週刊3Dプリンタニュースは、4月25日に開催された「3D-GAN 2014春のセミナー」レポートの前編として、国土地理院が3月にオープンした日本全国の立体地形図を見ることができるサイト「地理院地図3D」の裏話と、オートデスク社が3Dプリンタ市場に本格参入したというニュースを取り上げたい。

国土地理院の担当者などが講演を実施

最初に3D-GAN理事長の相馬氏が挨拶と3D-GANの新サービス「3D-GAN OnlineShop」の概要を説明した
3D-GAN 2014春のセミナーのアジェンダ
最初に講演を行った、国土交通省国土地理院の高桑氏
新たに追加された地理院地図3Dの概要
地理院地図3Dのデモ。まず、2D地図をスクロールさせて3D化したい場所を選択する
3D地図はSTLファイル、VRMLファイル、WebGL用ファイルの3種類の形式でダウンロードできる
WebGL用ファイルを利用すれば、経路を自由に書き込んで、Webブラウザ上で見ることができる
地理院地図3Dが提供されるまでは、水平情報と高さ情報が別々に提供されており、地形を読み取りにくいといった不満があった
また、技術的背景として、WebGLをサポートするWebブラウザが登場しWebブラウザ上で3次元表示ができるようになったことや3Dプリンタの浸透、3Dプリント出力サービスの登場がある。こうした技術の進歩により、地理院地図3Dの構築が可能になった

 4月25日(金)に、一般社団法人「3Dデータを活用する会」(3D-GAN)主催の「3D-GAN 2014春のセミナー」が開催された。

 3D-GANは、業種を問わず「3Dデータを活用すること」を共通項として活動している非営利の業界団体であり、初心者のための3Dモデリング講座や親子ワークショップなど、さまざまな活動を行っている。セミナーは通常、冬と春に行われており、さまざまな方を講師として迎えているが、今回のセミナーでは、先日国土地理院から公開されたばかりの「地理院地図3D」の担当者や「3Dスペースコンフィギュレーター」などを販売している株式会社AHS代表取締役、経済産業省が行っている「新ものづくり研究会」の担当者らが講演を行ったほか、ショートプレゼンテーションも行われた。

 今回は前編として、国土交通省国土地理院空間情報部企画調査課の高桑紀之氏による講演の内容を紹介する。高桑氏の講演のタイトルは「日本全国、3Dプリンタで立体模型に」であり、タイトルからもわかるように、日本全国の立体地形図を見ることができるサイト「地理院地図3D」についての講演である。

 地理院地図3Dは、3月19日にオープンしたが、その公開初日だけで45,000件ものアクセスがあり、取材件数も10件以上、テレビのニュースでも放映されるなど、その反響は予想以上であったという。

 高桑氏はまず、国土地理院の主な役割は、「すべての測量の基礎となる情報を整備し提供する」ことと「電子地図の充実による地理空間情報の活用促進」であると説明し、後者の例として、「地図・空中写真閲覧サービス」や「地理院地図」の紹介およびデモを行った。どちらも無料でWebブラウザから利用できるサービスであり、GoogleMapやMapionなどとは違った、資料性・学術性の高い情報が得られることが特徴だ。

 これらの地図と別に、基盤地図情報と呼ばれる、全国の基盤的情報をベクトルデータとして無償で提供するサービスも行っているという。

 この基盤地図情報には、標高データも含まれている。こうしたサービスをさらに発展させたのが、先日スタートした「地理院地図3D」であり、日本全国の任意の場所をWebブラウザ上で3D表示し、自由に回転や拡大・縮小することができる。

 さらに、3DデータをSTLファイルやVRMLファイル、WebGL用ファイルといった3種類の形式でダウンロードすることができる。高桑氏は、STLファイルはパーソナル3Dプリンタの主流であるFDM方式のように、色を付けられない3Dプリンタ用データで、VRMLファイルは石膏粉末タイプのように、フルカラー出力が可能な3Dプリンタ用データである。さらに、WebGL用ファイルはWebブラウザ上で表示するためのファイルであり、テクスチャデータに書き込むことで、サイクリングやジョギングの経路などを表示させることも可能だと解説した。

 地理院地図3Dがスタートするまでは、水平情報と高さ情報が別々に提供されていたため、地形が読み取りにくく、立体的な表現を得るには専門的な知識がいるといったユーザーからの不満があったが、地理院地図3Dの提供によって、そうした不満は解消できたという。また高桑氏は、地理院地図3Dの構築にあたっては、WebGLをサポートするWebブラウザが登場しWebブラウザ上で3次元表示ができるようになったことや3Dプリンタの浸透、3Dプリント出力サービスの登場といった、技術の進歩も重要であると指摘した。地理院地図3Dでは、地形図と標高情報をそれぞれ別々のタイルとして扱い、Webブラウザ上で貼り付けて生成しているそうだ。

 高桑氏は最後に、地理院地図3Dで今後実現していきたいこととして、「コンテンツの拡充と重ね合わせ」「全球や太陽系といったシームレスな移動」「橋梁やダム、建築物といった社会資本も対象とする」という3点を挙げた。

地理院地図3Dサイトの公開時の様子について。公開初日だけで45,000件ものアクセスがあったとのこと
国土地理院の役割と組織について。一つ目の役割は「すべての測量の基礎となる情報を整備し提供する」ことである
二つ目の役割は「電子地図の充実による地理空間情報の活用促進」である
国土地理院が提供している電子地図サービス「地図・空中写真閲覧システム」のデモ。空中写真が提供されている場所にピンク色の丸印が付いている
空中写真は、撮影年月日や縮尺などのデータも一緒に表示される
「地理院地図」と呼ばれる電子地図サービスも提供している
「地理院地図」のデモ。地図の上にさまざまな情報を重ね合わせられることが特徴。この地図で赤い部分は、台風26号・27号の大雨による土砂流出場所である
地図を航空写真に差し替えることもできる
こちらは基盤地図情報。全国の基盤的情報をベクトルデータとして無償提供している
基準点から標高データを作り、基盤地図情報として提供している
地理院地図では、地図をタイルと呼ばれる正方形の領域に分けて、階層的に管理している
立体データは、地形図と標高から、Webブラウザ上で貼り付けて生成している
地理院地図3Dの今後について。コンテンツの拡充や重ね合わせ、全球や太陽系までといったシームレスな移動、さらには橋梁やダム、建築物といった社会資本を対象とすることも考えているという
講演のまとめ。国土地理院は、多くのデータを提供している。また、測量技術分野では3次元技術が必須である

オートデスクが3Dプリンタ市場に参入

オートデスク社から2014年下半期に発売予定の3Dプリンタ。低価格なパーソナル3DプリンタでよくあるFDM方式ではなく、紫外線硬化樹脂を使う光造形方式を採用しているようだ

 5月15日、オートデスク社が3Dプリンタ市場に参入することを発表した。

 オートデスク社といえば、AutoCADやInventorをはじめとするCADベンダーの大手として有名だが、最近は、無料で利用できる3Dアプリ「Autodesk 123D」ファミリーをリリースするなど、コンシューマーや学生などをターゲットにしたアプリケーションにも力を入れている。

 Autodesuk 123Dファミリーについては、過去に取り上げているので、そちらを見ていただきたいが(前編/中編/後編)、これらのアプリは、3Dプリンタとの親和性が高く、パーソナル3Dプリンタユーザーにも最適である。

 オートデスク社はこれまで本業であるソフトウェアから3Dプリンタ市場へアプローチしていたが、今回の発表はそれをさらに進め、ソフトウェアのみならず、3Dプリンタ自体の開発にも取り組むというものだ。

 オートデスク社は今回のリリースで、2014年下半期に3Dプリンティング向けオープンソフトウェアプラットフォーム「Spark」とSparkのリファレンスハードウェアとなる独自3Dプリンタを提供することを表明した。

 Sparkは、3Dモデルのプリントをより確実に行えるようにし、3Dモデルが実際にどのように出力されるかを簡単な操作で調整できるという。現時点では、独自3Dプリンタの価格や仕様などの詳細は明らかにされていないが、ニュースリリースで公開された写真を見ると、パーソナル3Dプリンタで一般的なFDM方式(熱溶解積層方式)ではなく、材料として紫外線硬化樹脂を利用する光造形方式を採用していると思われる。光造形方式にもいろいろな方式があるが、プラットフォームを下から上に引き上げていき、造形物は下に向かって積層されるタイプのようだ。

 価格も未定だが、米Autodesk社CEOのCarl Bass氏は、米ウォールストリートジャーナルのインタビューで「1000ドル未満の家庭向け市場をターゲットにしているのではなく、プロフェッショナルユーザーをターゲットにしており、価格は5000ドル程度になるだろう」とコメントしている。

(石井 英男)