2017年10月24日 08:05
日本オンラインゲーム協会の事務局長・川口洋司氏と、忍者増田氏の対談第2回。ソフトバンク時代にPlayStation版『MYST』のディレクターを務めていた川口氏。今回は川口氏が考える『MYST』の魅力と、宣伝活動時の笑える裏話について語っていただきました。
自分で推理して謎を解くのが『MYST』の魅力優しくアレンジするつもりはなかった
[忍者増田](以下、忍増):PlayStation版の『MYST』の制作が決まったとき、初めてゲームを作るプレッシャーなどはありましたか?
[川口洋司](以下、川口):まったくなかったですね。2誌の新雑誌の立ち上げなどやることがいっぱいあったんで、プレッシャーを感じる暇もなかった。『MYST』制作のおかげで、僕は『セガサターンマガジン』の編集長の業務に支障が出るようになり、編集長を副編集長に譲って、統括編集長になったりしました。それぐらい忙しかったんですよね。でも、『MYST』はある程度売れるだろうという公算はありました。
[忍増]:実際に、『MYST』は売れましたか?
[川口]:僕が思った以上に売れましたね。初回プレスの5万枚が完売するのにあまり時間がかからなかったと思います。驚きました。自分では、難解さに途中で投げ出したゲームですし(笑)。これが売れたおかげでその後ゲームバンクができるんですが。
[忍増]:難解ですよね(笑)。ただ、昔の理不尽なPCアドベンチャーに比べたら、必ずどこかにヒントがある。謎解きにすごく頭を使うから疲れるし、メモもしなきゃいけないから面倒くさいんですけど、その分、ちゃんと自分で推理して謎を解いたときの喜びがとても大きいんですよね。親切な一本道ゲームに慣れ切っていた当時の拙者の頭を、「アドベンチャーって本当はこうあるべきかもな」と戻してくれたというか。
[川口]:うん、『MYST』は難しいけど、伏線の張り方というか、謎解きに不合理がない。その伏線の張られ方を、自分で推理して解くというのが、このゲームの醍醐味だと思う。でも当時、どれだけ『MYST』をクリアーしたプレイヤーがいたのかな(笑)。自分で作っておいて申し訳ないけど、すごく興味がありますね。
[忍増]:それは確かに気になりますよね。攻略本や雑誌のヒントなしでクリアーした人って、どれだけいたんだろう? セガサターン版や3DO版と同じく、PlayStation版は原作に忠実な移植ですが、当時やっぱり、内容を優しくアレンジしようという考えはなかったんですか?
[川口]:内容を変えようというのはなかったですね。コンシューマーゲームらしくアレンジするのもやり方としてありますけど、それはやるつもりはありませんでした。『MYST』に関しては、いかにPC版の良さを再現できるかというのがコンセプトでした。まあ、納期が厳しかったこともあるんですが。
[忍増]:そうですよね。この難解な謎を解くのが『MYST』の醍醐味であるわけで。変な優しい誘導とかがあったら、それは『MYST』ではなくなってしまいますね(笑)。
[川口]:変にアレンジをして『MYST』の良さが消え、おまけに発売も遅れたらたまったもんじゃないですからね(笑)。
[忍増]:他に、川口さんが思う『MYST』の魅力はどんな部分でしょう?
[川口]:今言ったような、難解な謎を自分で推理して解くアドベンチャーゲームとしての喜びもあるんですけど、環境ゲームみたいな魅力もあると思っています。絵も綺麗で、この世界をぐるぐる周っているだけでも、なんか元が取れるというか……。この妙な世界観がいいんですよね。
[忍増]:わかります。拙者も、謎解きを置いといても、このゲームの不思議な世界観が好きでした。自然豊かな舞台なんですけど、人工物も点在している。でも、生きた人間が1人も出てこないという、半リアルで半幻想的な世界。
[川口]:それまでに多かったファンタジー的な世界観とも違う、日本のアドベンチャーのような東京などを舞台にした世界観とも違う、『MYST』の不思議な世界観は、PlayStationをいじるような年代にはウケるんじゃないかという下心はありました。ソフトバンクの社長に、PlayStationへの移植を引き受けたほうがいいと進言した理由の1つに、このゲームの今までにない世界観の魅力も確実にありましたね。
正体を明かさず、ライバル誌からの電話にシレッと応対ニュースリリースやイラストも川口氏が書いていた!
[川口]:当時は、『MYST』の宣伝も自分でやりました。自分の雑誌『ザ・プレイステーション』で出す広告も、アルバイトのライターに原稿書いてもらって作りましたし。で、他社のゲーム雑誌にもアピールしなきゃいけない。ライバル誌からソフトバンクに『MYST』に関する問い合わせの電話がくるんですけど、当然ながら僕に回されるわけですね。自分がライバル誌の編集長だなんて言えないので、正体を明かさずやりとりしていました(笑)。
[忍増]:ああ、電話で話すときは、顔も見えないですし……。
[川口]:そうです。電話では「川口です」としか名乗ってないですから。直接会うような取材の申し込みはなかったですしね。僕が自分で『MYST』のニュースリリースを作ってライバル誌に送っていたんです(笑)。今、当時のライバル誌の編集者とFacebook上で再会して、「あんとき広報は僕がやってたんだよ」と謝ったりしています(笑)。
[忍増]:その種明かしは痛快ですね(笑)。当時、「スタッフロールに川口さんの名前が出ていましたね」なんて言ってくる人はいなかったんですか?
[川口]:幸いにもいなかったですね。
[忍増]:こうして話を伺ってみると、当時『MYST』に関することは、川口さんがなんでもやっていたんですね。
[川口]:全部1人でやっていましたね。コストは開発の外注費ぐらいで(笑)。『ザ・プレイステーション』を作っていたとき、『サターンマガジン』の立ち上げもあり、編集者だけでなくライター、イラストレーター、カメラマンなど、とにかく人がいなかったので、本誌に掲載する『MYST』のマップのイラストも僕が描いていました(笑)。
[忍増]:えっ? イラストレーターさんに描き起こしてもらうマップのラフを描いていたんではなくて、川口さんが描いたイラストが直で載っていたということですか?
[川口]:そうです。僕の手描きですよ。自分で色をつけて、スクリーントーンも自分で貼って。
[忍増]:今では考えられないですね(笑)。
[川口]:当時でも異常でしたよ(笑)。
[忍増]:川口さんが描いたイラストが載っている、貴重な本誌をお持ちの方は大事にしてください!
次回はBeep編集長から見た当時のログインや、『MYST』制作での心残りについて語っていただきます。お楽しみに!
※次回掲載は10月31日(火)を予定しています。
また、川口氏は数ヶ月に一度、ゲーム業界の歴史を後世に残すことを目的としたトークライブを開催されています。10月27日(金)に『ゲームビジネスアーカイブ 第3回トークライブ メガドライブのセカンドパーティー編 コンパイル、ソニック、トレジャー』を開催予定ですので、興味がある方はこちらもどうぞ。
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『MYST』は今このプラットフォームで遊べる
『MYST』を今遊ぶには?(参考価格/価格は税込表記) | |
Macintosh版(中古品) | 1,980円前後 |
Windows版(並行輸入品) | 7,000円前後 |
セガサターン版(新品) | 1,800円前後 |
PlayStation版(新品) | 18,000円前後 |
3DO版(新品) | 6,800円前後 |
PSP版(新品) | 24,980円前後 |
iPhone/iPod touch版 | 600円 |
ゲームアーカイブス版 | 617円 |
※2017年9月調べ |
(C)Cyan, Inc. and SUNSOFT
増田厚(ペンネーム:忍者増田)
茨城県生まれ。漫画『ゲームセンターあらし』や『マイコン電児ラン』の影響を受け、中学2年生のときにパソコンをいじり始める。東京の大学入学と同時に、パソコンゲーム誌『ログイン』にバイトとして採用され、6年間在籍。忍者装束を着て誌面に出る編集者として認知度が高まる。その後、家庭用ゲーム雑誌『週刊ファミ通』に3年在籍したあと、フリーライターとなる。現在はおもに、雑誌やWeb、攻略本などでゲームのレビュー記事や攻略記事を執筆しつつ、ゲーム以外のライティングも。得意なゲームは、『ポケモン』、『ウィザードリィ』、『サカつく』など。