2017年10月31日 08:05
日本オンラインゲーム協会の事務局長・川口洋司氏と、忍者増田氏の対談もついに最終回。
ソフトバンク時代にPlayStation版『MYST』のディレクターを務めると同時に、複数のゲーム誌の編集長も兼任していた川口氏。今回はライバル誌『ログイン』と、『MYST』制作でのちょっとした後悔について語っていただきました。
『Beep』編集長は『ログイン』のファンだった?
[忍者増田](以下、忍増):インプレスさんには、『Beep』や『ログイン』の濃いファンもいらっしゃいます。そういう方から、当時の『Beep』編集長から見た、『ログイン』に対しての意見も聞いてほしいと言われているのですが(笑)。
[川口洋司](以下、川口):『ログイン』を作った、小島文隆さんも河野マタローさんも、僕はクリエイターとしてすごく好きで、良きライバルでしたね。あのころの『ログイン』は、すごくとんがっていました。若い人が読む雑誌としては、僕はそこがすごく大事だと思っています。『ログイン』は、とんがったところを「スタッフ」で出すという形をとったのかなと。増田くんもそうですけど、高橋ピョン太さんなど、面白い人材が豊富にいてうらやましかったですね。小島さんというカリスマのもとに、そういう人たちが集まって、とんがっているものを作ってきたというイメージがあります。
[忍増]:そこに拙者の名前があるのは恐れ多いです(笑)。確かに「敵わないな」という上司・先輩方がたくさんいましたね。突飛なこと、面白いことでは絶対に勝てないなと、実力差を思い知らされました。でも、『Beep』もとんがっていましたよね。
[川口]:僕も読者の心をつかむために、とんがっている部分がないとダメだと思って雑誌を作っていました。3代目編集長の私の時期の『Beep』は、創刊以来の赤字が膨らんでいて経費とスタッフ削減という状況があったんで、低コストで作るため企画から構成から、なんでも自分でやっていたのを思い出しますね。編集長だけど、『Beep』や『BEEP! メガドライブ』の初期などは結構イラストも原稿も描いていました(笑)。ソフトバンクがゲーム雑誌から撤退するかどうかの危機的な時期でしたから。
[忍増]:なるほど……。そこまで編集長1人のパーソナリティーが丸々反映されていたとは思いませんでした。
[川口]:ただ、それまでの『Beep』のイメージを崩さずに作ろうとは思っていたので、いろんな文化的、感性的な要素を散りばめてはいましたね。ちなみに『Beep』は、元々『POPEYE』を参考に作っているんです。だから縦書きなんですね。
[忍増]:川口さんは、当時のいろんなライターさんと、ずっと仲良くお付き合いしているイメージがあります。
[川口]:そうですね。ライターさんに限らずクリエイティブな人たちとは、昔からがっつり付き合うタイプですね。今でもいい関係でお付き合いさせていただいてるライターさんは多いです。
[忍増]:拙者もアスキーを辞めて、わりとすぐ川口さんと知り合って、仕事でもプライベートでも仲良くさせていただいて、現在にいたります。当時は拙者のほかにも、川口さんの周りには元アスキーのゲームライターってたくさんいましたよね。あとで、川口さんは『ログイン』のファンだったんだという噂を聞きました。
[川口]:そうそう、それはホント。ファンというか、よくこんなことをやるなぁと思って読んでいましたよ(笑)。で、僕は好きになると、その雑誌の編集者と友達になりたくなるタイプなんで、河野マタローさん、ほえほえ新井さん、高橋ピョン太さんなど、ずっと未だに仲がいいんですよ。
[忍増]:拙者が頭の上がらない当時の上司たちばかりですね(笑)。
こんな緑はイメージしていなかった!当時後悔していたミスを思い出す川口氏
[忍増]:PlayStation版『MYST』では、川口さんがとても後悔しているところがあるとか……?
[川口]:CDの盤面の色ですね。これは当時、非常に後悔しました。
[忍増]:この緑色がということですか? 拙者、1回目の原稿で「綺麗な緑」なんて書いてしまいましたが……。
[川口]:そう。自分が思っている緑色じゃなかったんです。自分では、『MYST』ならこんな明るいベタ緑ではなく、ブルーっぽい緑をイメージしていたんですよ。
[忍増]:あ、確かに『MYST』のイメージはそうですよね。エメラルドグリーンというか、もっとくすんだ緑。
[川口]:でしょう? 自分ではもっと淡い緑をイメージしていたんですけど、当時、プレス発注時に雑誌の編集でメチャメチャ忙しくて、色見本を見て、僕のイメージじゃない緑を指示してしまったんです。このミスも、誰にも言えずに自分でもずっと忘れていたのに、増田くんの今回の依頼で思い出してしまった(笑)。
[忍増]:思い出させてしまってすみません(笑)。でも、川口さんとこうして久しぶりにお仕事でご一緒できて、『MYST』や当時の雑誌についてのいろんな新事実も聞けて、とても嬉しく思います。
かつてのBeep編集長と、ログイン編集者。2人のお仕事での再会を、当時川口氏が周囲に内緒で作っていた『MYST』がつないだというのも、なんだか不思議で面白いですね。
※次回掲載はMr.Do!を予定しています。
注釈
- ログイン
かつてアスキー(現Gzブレイン)から刊行されていたPCゲーム誌。1982年、月刊アスキーの季刊別冊として誕生。1983年に月刊化、1988年に月2回刊に。2008年休刊。立ち位置としてはPCゲーム雑誌だが、それ以外にもバラエティーに富んだ記事が掲載されていた。読者投稿ページが栄えていたのも特徴で、増田氏は常連投稿者を経てログイン編集者となっている。 - 小島文隆
ログイン3代目編集長。酒豪として知られ、ログインをおふざけ路線に導いた愛すべき名物編集長といえば小島氏だ。一時期、ログイン、ファミ通、MSXマガジンという3誌の編集長を同時に務めた。1996年に株式会社アクセラを設立、代表取締役社長に就任。2015年逝去。 - 河野マタロー
本名、河野真太郎。ログイン4代目編集長。名物編集者の金盥鉄五郎氏とともに「ウマシカコンビ」のシカとして活躍。ソフトバンクモバイル在籍時には、モバイルメディアコンテンツ統括部長を務める。お笑いコンビ・ステファニーの「あや子」は河野氏の娘。 - 高橋ピョン太
本名、高橋義信。1980年頃からフリーのプログラマーとして活動、数々のPCゲームを世に送り出す。80~90年代に、ログインの編集に関わる。ログイン6代目編集長。トレードマークは長髪とアディダスのジャージ。自称、永遠の18歳。 - POPEYE
マガジンハウスから刊行中の、男性向けファッション情報誌。1976年に創刊。毎月10日発売。 - ほえほえ新井
本名、新井創士。ログイン5代目編集長。PS通信やファミ通ブロス、マジキューなどでも編集長を務める。その後はファミ通BOOKS編集部やファミ通コンテンツ企画部にも在籍。増田氏いわく、「ログイン時代、自分を一番イジってドキドキさせてくれた人」。
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『MYST』を今遊ぶには?(参考価格/価格は税込表記) | |
Macintosh版(中古品) | 1,980円前後 |
Windows版(並行輸入品) | 7,000円前後 |
セガサターン版(新品) | 1,800円前後 |
PlayStation版(新品) | 18,000円前後 |
3DO版(新品) | 6,800円前後 |
PSP版(新品) | 24,980円前後 |
iPhone/iPod touch版 | 600円 |
ゲームアーカイブス版 | 617円 |
※2017年9月調べ |
(C)Cyan, Inc. and SUNSOFT
増田厚(ペンネーム:忍者増田)
茨城県生まれ。漫画『ゲームセンターあらし』や『マイコン電児ラン』の影響を受け、中学2年生のときにパソコンをいじり始める。東京の大学入学と同時に、パソコンゲーム誌『ログイン』にバイトとして採用され、6年間在籍。忍者装束を着て誌面に出る編集者として認知度が高まる。その後、家庭用ゲーム雑誌『週刊ファミ通』に3年在籍したあと、フリーライターとなる。現在はおもに、雑誌やWeb、攻略本などでゲームのレビュー記事や攻略記事を執筆しつつ、ゲーム以外のライティングも。得意なゲームは、『ポケモン』、『ウィザードリィ』、『サカつく』など。