特集、その他

“暴れ馬”Core i9-11900Kの性能を存分に引き出せるMSI「MEG Z590 ACE」を徹底テスト!

第4のブースト機能“Adaptive Boost Technology”をより深く試してみた!! text by 加藤 勝明

ABTとABT251Wにどれだけの性能差が出るか?

 ではMEG Z590 ACEのパフォーマンスを検証しよう。今回検証に使用したパーツは以下のとおりとなる。UEFI BIOSの設定はXMPやResizable BARを有効にしたほかはファクトリーデフォルト設定としているが、ABTに関しては無効(w/o ABT)と、前述のABT 251WとABT(PL1実質無制限設定)の3通りで検証した。Core i9-11900Kのポテンシャルをどこまで引き出せるかに注目だ。

【検証環境】
CPUIntel Core i9-11900K(8コア16スレッド)
メモリG.Skill F4-3200C16D-32GTZRX
(PC4-25600 DDR4 SDRAM 8GB×2)×2
ビデオカードNVIDIA GeForce RTX 3080 Founders Edition
SSDSamsung SSD 980 PRO MZ-V8P1T0
[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB]
CPUクーラー28cmクラスラジエータ搭載簡易水冷
電源ユニットSuper Flower Leadex Platinum 2000W
(2,000W、80PLUS Platinum)
OSWindows 10 Pro 64bit版

意外な結果も出る“ABT 251W”設定でのテスト

 まず最初に「CINEBENCH R23」のスコア比べから始めよう。R23の初期設定に倣い、短期的なブーストによるスコア稼ぎが難しい「10分回した後のスコアを見る」スタイルで計測した。

「CINEBENCH R23」のスコア

 まずABT無効時に比べると、単にABTを有効にしただけでマルチスレッドでは7%スコアが伸びた。しかしABT 251W設定ではマルチスレッド性能が大きく減じられ、ABT無効時の8割程度にまで下がってしまう。ABT 251W設定にするとPL1/PL2の上限が251Wまで低下し、クロックが著しく低下するコアが出るためだ。

 しかしシングルスレッドテストに目を向けてみると、こちらはABT無効時が一番低く、ABT 251W、そしてABTという順でスコアが高くなる。ただ各条件下のスコア差は非常に小さく、ここに限っては誤差の範囲と言える(ABTはアクティブコアが5コア以上のときにフォーカスした機能ゆえ、シングルスレッドテストでABTが影響するとは考えにくい)。

 なかなか興味深いところなので、別のCGレンダリング系ベンチ「V-Ray 5 Benchmark」の最新版でも試してみた。レンダラー違い(CPU/CUDA/OptiX)で3種類のテストがあるが、今回はCPUの性能に注目するので“V-Ray”テストを実施した。

「V-Ray 5 Benchmark」の結果

 ここでもABT無効設定よりもABT 251W設定のほうがスコアが10%程度下がっている。CINEBENCH R23ほど劇的ではないが、CGレンダリングをする上ではABT 251W設定はほとんど効果がない設定と言えそうだ。

「PCMark 10」でもABTの効果を確認

 続いては総合ベンチマーク「PCMark 10」を使う。まずはゲーミング以外の性能を見る“Standard”テストの結果を見てみよう。

「PCMark 10」Standardテストのスコア

 まず総合スコア(Standard)を見ると、ABT設定時がもっとも高く、続いてABT 251W、ABT無効と続く。ABT 251WとABT無効時のスコアがほぼ同じなのでここだけ見ると誤差と言えそうだが、各テストグループ(Essentials/Productivity/DCC)のスコアに注目だ。

 EssentialsテストグループではABT 251W設定がABTと肩を並べ、ProductivityとDCC(Digital Content Creation)ではABT 251W設定がABT無効設定にやや負けている。DCCテストグループではCINEBENCH R23ほどのスコア低下は見られなかったものの、CPUのマルチスレッド性能を試される状況では、ABT 251W設定は弱いことが結果に表われている。

 次に、同じPCMark 10の“Application”テストも試してみよう。これはOffice 365の各アプリ(Word/Excel/PowerPoint)やEdgeを操って処理性能を計測するテストである。

「PCMark 10」Applicationテストのスコア

 このテストでは各条件におけるスコア差がきわめて小さいが、ABT無効よりはABT有効のほうが基本的にスコアが高いが、もっともスコアが伸びたのはABT 251W設定だった。全コアをフルで使うほどではないが、そこそこCPUパワーを使う状況においては、ABT 251Wはわずかだが全体のレスポンス向上に役立ちそうだ、ということが分かる。

Adobe系アプリでのパフォーマンスもチェックする

 ではクリエイティブ系アプリでのパフォーマンスも見てみよう。今回の検証はMEG Z590 ACEのABT実装の違いを見ることにフォーカスしているため、MSI Centerの“Creative”機能は一切使用していない(MSI Centerのない状況で計測)。

 まずは「Media Encoder 2021」を使って動画のエンコード時間を見てみよう。「Premiere Pro 2021」で編集した4K動画(再生時間約3分)をMedia Encoder 2021で4KのMP4形式の動画に出力したときの時間を比較する。コーデックはH.264およびH.265とし、ビットレートはVBR 50Mbps(1パス)とした。フレーム補間は“オプティカルフロー”を使用している。

「Media Encoder 2021」によるエンコード時間

 CINEBENCH R23のマルチスレッドテストの結果と同様に、ABT有効時の速度向上が著しい一方で、ABT 251W設定にすると無効時よりも遅くなることが確認できた。ただ計算負荷が軽いH.264ではABT無効時との処理時間差が短く、計算負荷の高いH.265では大差が付いている点に注目。エンコードのようなCPU負荷の高い作業でも、処理内容によってはABT 251W設定でもかなり実用的であることが分かる。

 続いては「Lightroom Classic」と「Photoshop 2021」の性能を見るが、これについてはPCMark 10/3DMarkのUL社が2020年末にリリースした「UL Procyon」を使用する。これもPCMark 10のApplicationテストと同様に、実際にLightroom ClassicとPhotoshop 2021を動かしてさまざまな処理におけるパフォーマンスを計測するというものだ。今回はUL Procyonの「Photo Editing Benchmark」を使用した。

 このテストはLightroom ClassicとPhotoshop 2021の両方を使う“Image Retouching”テストと、Lightroom Classicだけを使う“Batch Processing”テストの2本に分かれている。まずはPhoto Editing Benchmarkのスコアを比較しよう。

「UL Procyon」Photo Editing Benchmarkのスコア

 まず総合スコア(Photo Editing)はABT有効設定を筆頭にABT 251W、最後にABT無効設定と続く。これはImage Retouchingテストでも同じ傾向だが、より差が強調された形になっている。しかしBatch ProcessingはABT 251W設定のスコアがもっとも低くなった。これはCPUの使われ方が異なるためだが、ABT 251W設定は写真編集のようなシチュエーションで輝くことが示唆されている。

 では実際Image RetouchingとBatch Processingの各テストにおいて、どの程度の差が出たか見てみよう。次の二つのグラフはいずれも処理時間を示している。各テストでどのような処理を行なっているかはULのサポートサイト(https://support.benchmarks.ul.com/en/support/solutions/articles/44002117336)を参照されたい。

「UL Procyon」Image Retouchingテストにおける処理時間

 Lightroom Classicで軽くフィルタをかけ、それをPhotoshop 2021にエキスポートした後にレタッチ、レイヤーを統合して出力という一連の作業を行なうのがImage Retouchingテストだ。ここで注目したいのはイメージの書き出し(Save as)処理において、ABT 251W設定は不利な結果を出しているが、フィルタの適用(Adjust Filters/Adjust GPU Filters)においてはABT 251WはABTに次いで優秀(といってもコンマ秒程度の差だが)である。Save asの処理時間がここまで開く理由は不明だが、どの環境もPCI Express Gen4接続のM.2 SSDを利用しているため、単純にファイルの書き出し作業時はABT 251W設定よりもPower Limit無制限のABT設定のほうが有利である、ということは間違いないようだ。

「UL Procyon」Batch Processingテストにおける処理時間

 こちらはLightroom Classicで写真をまとめて現像する処理を行なうBatch Processingテストの結果だが、ここではプレビュー作成(Smart Preview)と顔認識(Face Detect)の処理時間においてABT 251W設定は大きなハンデをもらっている。それ以外のテストに関しては3種類の設定で決定的に大きな差は出ていない(Enhance detailsという例外もあるが……)。ここまでの結果からUL Procyonのスコアは環境ごとの性能差がやや誇張気味にスコアとして示される感があるが、ABT 251Wでもしっかり輝けるシーンがあることが分かっただろう。